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『クリスマスは居酒屋で打ち上げを! 〜葛城 縁〜 』
葛城 縁jb1826

 12月25日のクリスマス。教会でイエス=キリストの誕生劇を終えた劇団の団員達は、着替え終えると駅の近くにある居酒屋に移動した。
 それぞれ飲み物や食べ物を注文し、団長が乾杯の音頭を取った後、みんなは達成感に満ちた顔でしゃべり始める。
「ぷはーっ! クリスマスに飲むビールも美味しいわね! ところで縁、今日はありがとね。休んだ団員の代わりに、劇に出てもらっちゃって」
「う〜ん……。まあ教会に見に来てくれた人達が、喜んでくれたから良いけどね。でもね、陽花さん! 私に代役をやらせること、多くない? いきなり台本を渡してきて、舞台に出てって言われること、最近増えているよ。私は陽花さんと違って女優じゃないんだから、勘弁してね」
 劇団の団員である彩咲・陽花と、休んだ団員に代わって劇に出た葛城縁もまた、今日の話題で盛り上がっていた。
 二人はカウンター席に並んで座りながら、ビールジョッキを片手に持ち、料理を食べていく。今日はクリスマスということもあり、チキンとポテト、グラタンやピザ、ケーキなどがテーブルに所狭しと並べられる。
 口では文句を言いながらも、縁が食べるペースはかなり早い。
「まあまあ。今回、縁が出た劇も大好評で終わったんだから良かったじゃない。クリスマスに働く人になって、人々を喜ばせるっていうのも良いもんでしょ? だからホラ、改めて乾杯しよう?」
「むう……。何だか話をはぐらかされている気もするけど……乾杯」
 二人は改めてジョッキを合わせて、乾杯した。
 その後、すぐに縁は食事に戻るものの、陽花は店内を見回して思わず失笑してしまう。
「陽花さん、どうかしたの?」
「いやね、ウチの団員のほとんどが、この居酒屋に来たんだなぁって思って」
「でもこの居酒屋は前もって団長さん達が予約していたって陽花さん、言ってたよね? 来る人数が多いことは、分かっていたことじゃないの?」
「そうなんだけどねぇ」
 それでも陽花は意味ありげに笑い続ける。
 意味が分からずに不思議そうな顔つきになる縁を見て、ようやく陽花は思っていることを言った。
「私が思ったのは『せっかくのクリスマスなのに、ここに集まっている人が多いな〜』ってこと」
「……ああ、そういう意味ね」
 ようやく理解できた縁は、ふと遠い目をする。
 団員の中の数人は、劇を終えるとすぐに帰った。それはつまり、この後一緒に過ごす予定の人がいるということだ。相手は恋人か家族、友達かもしれない。
 けれどここに来ている団員達はそういう予定が無いので、それが悲しくもあり、また面白いとも陽花は意地悪く思っているらしい。
「でも陽花さん、それって私達のことも含まれているんじゃないの?」
「まあ、そうね。恋より仕事を優先した結果、ここにいるんだしねぇ」
「うっ……!」
 縁の胸に、何かがドスッと刺さる。
「けど昨日の24日のイヴにすでに過ごしていて、今日は劇団の為に空けていたって人もいるでしょうね」
「……でも私と陽花さんはその中には入らないよね」
「まあ昨日も一緒に夜遅くまでアルバイトしてたしね」
「うぐぅ……」
 再びドスドスッ!と、縁の胸に眼に見えない何かが突き刺さった。
 確かにイヴである昨日も、陽花と縁は日付が変わるギリギリまで働いていたのだ。
 この時期、彼氏・彼女、家族がいる人ほど休みたがる。店には働く人が足りなくなる上に、客は増えるので、時給を上げてアルバイトを募集するのだ。
 それに乗っかり、稼ぐのが陽花や縁のようなアルバイター達。けれど一緒に働く人の中には、人々が盛り上がっているクリスマスの時期に働くことを嘆く人もいた。
 陽花と縁はそのことを嘆くことはなかったが、流石に働いてばかりいるというのも少し寂しく感じていたのだ。
「いっいないもののことを思っても、しょうがないよ! 今は食べて飲んで、楽しもうよ!」
 軽く涙目になった縁は、勢い良く食べる。
 陽花もグイーッとビールを呷った後、居酒屋の店員におかわりを求めた。
 しかし若い女性店員はビールジョッキを片手で持ち上げる陽花を見て、眼を丸くする。だがすぐに我に返って空のジョッキを受け取り、ビールを注いで戻って来た。その後、キッチンに行った女性店員だが、チラチラとこちらを何度も見ている。
「……どうかしたのかな? もしかしてさっき教会でやった劇を見た人……ではないわね」
 劇を終えた後、団員達はすぐに片付けをして、教会を出た。それというのも劇が終わった後も、聖歌隊やハンドベルの公演があるからだ。
 この居酒屋は前もって団長が貸切の予約をしていたので、彼女が劇を見てからこっちに来たとは考えにくい。劇を終えてからまだ一時間も経っていない今なら、尚更だ。
「ん〜。でもあの人、明らかに私の顔を見て動揺してたわね。一体、どこで私の顔を……」
 考えながらふと、視線を上に向けた時だった。陽花の眼に、女性店員の反応の原因が映った。
「……なるほど。コレなら知っていても当然ね」
「陽花さん、さっきから独り言をブツブツ言ってるけど、何か気になっていることでもあるの?」
 縁は陽花が固まっているのを見て、首を傾げる。
「ねえ、縁。覚えてる? 今年の秋に、一緒にモデルの仕事をしたこと」
「冬物の洋服を着て、雑誌に載った仕事?」
「それもしたわね。でも別件よ」
「じゃあクリスマスディナーの宣伝パンフレットに載った仕事?」
「……私達、いろいろやってたわね。まあそれもハズレじゃないんだけど、クリスマス用のビールの宣伝ポスターの仕事よ。私はミニスカートの露出が激しい女の子用のサンタ服を着て、縁は茶色のモコモコしたビキニを着たヤツよ。縁はトナカイ役だったから、頭にトナカイの作り物の角をつけたフードをかぶって、丸くて真っ赤な鼻を付けたの。両手と足にも、ビキニと同じ茶色のモコモコした手袋とブーツを身に付けていたわね」
 陽花の説明を聞いていくうちに、縁は思い出した。
 そして思わず苦笑を浮かべながら、ビールを一口飲む。
「陽花さんったら、よく覚えているわね。私、あの時スッゴク恥ずかしかったんだよ。お給料が良かったから仕方なかったけど、あんなコスプレみたいな格好をさせられるとは思わなかったよね」
「う〜ん……。まあ、ね。お互い露出が激しくて、恥ずかしい思いをしたわね。私もサンタ帽をかぶって赤い手袋をつけて、赤いブーツを履いているけど、着ているのはセパレートのドレスだしね。スカートの長さは……まあギリギリってとこかな? 見えたらアウトだもんね」
「でも何でいきなり思い出したの? 私なんて早く忘れようと思って、今まで思い出さなかったのに」
「私もそうだったけどね。アレを見たら、思い出しちゃった」
 陽花は視線を上に向けたまま、指で示す。
「上に何が……って、きゃああっ!? なっ何であのポスターがここにっ!」
 縁の悲鳴を聞いて、団員達は一斉に二人を見る。しかし上の壁部分に貼られているポスターを見て、慌てて顔をそらした。
 ポスターには陽花が説明した通りの服装で、二人が満面の笑顔を浮かべながらビールがたっぷり入ったジョッキをそれぞれ持っている姿が映っていた。『クリスマスにもビールを☆』というキャッチフレーズと共に、某有名ビール会社の名前も載っている。
 耳や首まで真っ赤に染まった縁は慌てて俯き、頭を抱えた。
「ううっ……! まさか居酒屋で、あのポスターを見ることになるとは……」
「居酒屋だから、でしょう? 多分、今日まで貼っておくつもりだったんでしょうね」
 そこでようやく陽花は視線を動かし、女性店員を見る。彼女の視線は陽花と縁、そしてポスターを行ったり来たりしていた。
「あうぅ〜。どうして私はサンタさんの格好じゃなくて、トナカイになったのかな?」
「この衣装が衝撃的過ぎて忘れちゃった? 最初、私と縁は仕事の内容を聞いた時、普通にサンタクロースのコスプレとトナカイの着ぐるみだろうって予想していたじゃない。それで撮影場に行ったら『サンタとトナカイ、どっちをやりたい?』ってカメラマンに聞かれて、ジャンケンをしたのよね。それで私が勝って、サンタを選んだんだけど……まあ結果的にはどっちもどっちよね〜」
「サンタさんの方が大分マシだよ!」
 縁に涙目でキッ!と睨まれ、慌てて陽花は否定するように両手を振る。
「だっ大丈夫よ、縁。似合っているわ、可愛い。それにこういうイベントは悪ふざけの一つや二つ、あった方が人々を喜ばせるのよ? 明日になればはがしてもらえるだろうし、今は我慢してね?」
 そう言いながら陽花はショートケーキとフォークが載った皿を、縁の前に置く。
 すると縁はフォークを掴むと、グサッとケーキに突き刺した。そしてそのまま持ち上げ、一口でケーキを食べてしまう。
「こうなったらヤケ食いだよ! 眠たくなるまで食べて飲み続けるよー!」
 ――そして縁は空の皿の山ができるまで食べ続け、ジョッキもテーブルに置けなくなるほどビールを飲み続けた。
 団長は会計の時、飲み放題・食べ放題のコースにしていて良かったと、心から思ったとさ。


☆クリスマスは親友と過ごすもの?
「んんっ……。あれ? 陽花さん、打ち上げは?」
「起きたのね、縁。もうとっくに終わって、解散したわよ。私達も家に帰る途中」
 縁はぼ〜っとする頭を軽く振って、今の状況を理解しようとする。
 どうやら陽花に体を支えられながら、歩いているのは分かった。けれどいつから意識が朦朧としていたのか、そして打ち上げが終わった時のことなどは思い出せない。
「縁ったら自分で言った通り、眠くなるまで飲み食いをしてたのよ。でも途中でダウンしちゃって、ここまで連れてくるの大変だったんだから」
「ありゃ……、すっすみません」
 何とか一人で歩こうとするが、フラフラする体は自分でも制御ができなくなっていた。
「ううっ……、飲み過ぎちゃった。でも陽花さんは平気そうだね。結構お酒、飲んでいたはずなのに……」
「実家の神社は何か行事があるごとに、お酒が出るからね。縁よりは慣れているのよ」
 だが陽花の笑みは、いつもより明るく見える。
 ここ数日はアルバイトや劇団のことで多忙だったはずなのに疲労がほとんど見えないということは、陽花自身も少し浮かれているのかもしれないと、縁は思った。
「でも縁、今日もありがとね。無理に代役、やらせちゃって……。いきなり過ぎることは分かっているし、ほとんどお給料も出ない仕事だから、申し訳ないなとは思っているのよ」
 しかし急に、陽花の笑顔が曇る。どうやら縁に代役をやらせていることを、気にしていたらしい。
「……良いんだよ、陽花さん。何だかんだ言っても、私は陽花さんと一緒にいられて嬉しいし、劇に参加するのも楽しいと思っているから」
「ホント? じゃあ私と一緒に女優を……」
「それは遠慮するよ。私は保育士を目指しているからね」
「ちぇー。でも今後も代役を頼んでも良い?」
「ん〜。まあ将来の役に立ちそうだし、もうしばらくは付き合ってあげるよ」
「ふふっ、ありがとう」
 ピッタリとくっついて歩く二人は、冬の寒さなど気にならないほど暖かさを感じていた。


<終わり>


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1871/彩咲・陽花/女/大学部2年/バハムートテイマー】
【jb1826/葛城 縁/女/大学部2年/インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご依頼していただき、ありがとうございました(ぺこり)。
 お二人らしいクリスマスの過ごし方を、楽しくほのぼのと書かせていただきました。
 『☆』の部分から個人ストーリーになっていますので、お二人分を読んでいただければと思います。
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エリュシオン
2014年01月03日

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