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『正義の時代 』
藤田・あやこ7061)&リサ・アローペクス(8480)&瀬名・雫(NPCA003)


 自分の正義は皆の正義、という性格を少し直した方が良い。
 今まで何度もそう忠告されたし、リサ自身、そう思わないわけではない。自分が正しいと思ってやらかした事が、他の大勢にとっては迷惑にしかならなかった。そんな経験が、何度もある。
 今回も多分、皆が迷惑するだろう。特に藤田あやこ艦長は大迷惑を被るだろう。
「怒られるだろうなぁ、私……」
 上司であり伴侶でもある女性の怒り顔を思い浮かべ、リサ・アローペクスは苦笑した。
 同性婚である。あえて判別するならば、リサの方が夫という事になるのだろうか。
 妻を怒らせる事になろうとも、人助けはしなければならない。
 地球が、死の星と化しつつあるのだ。
 第456次世界大戦による大気汚染が、惑星全体を蝕んでいる。死の空気が、全世界を覆っている。
 このような事態をもたらしたのは愚かな為政者たちであって、地を這うように生きてきた民衆には何の罪もない。
 だからリサは、僅かに生き残った彼らを地下洞窟へと導き、その入口をバリアーで塞いだ。
 これで死の空気が洞窟内に入って来る事はない。が、酸素も入って来ない。持ち込めた食糧も僅かなものだ。
 酸欠や飢餓といった事態に陥る前に、何とかしなければならない。
 こういう時、何とかするために、辺境勤務TCとして地球にいるのだ。
 所属している艦隊は現在、宇宙空間に停泊中である。
 連絡を取り、この洞窟内の難民たちを救助してもらう。どう考えても、選択肢はそれしかない。
 問題は、艦隊司令官である藤田あやこ艦長を、どう説得するか。それに尽きる。
「あの、リサさん……」
 難民の少女が1人、おずおずと声をかけてきた。
「ん? あんたは確か……」
「語り部の、瀬名雫です。あの……あたしを、バリアーの外に出してくれませんか」
「何を言ってる、外は死の空気が吹きすさんでいるんだぞ」
「巻物を、村に置いて来ちゃったんです!」
 村の聖典とも言うべき巻物で、この難民たちにとっては宗教的な心の拠り所である。
 そんなものより命の方が大切だろう、という言葉をリサは呑み込んだ。雫の懸命な眼差しが、リサにそんな言葉を吐かせなかった。
「……わかった。私が、村へ取りに行くよ」
「え……で、でも死の空気が」
「私はTC、ちょっとした改造手術を受けているからね。放射能や有毒ガスの類にも、いくらかは耐えられるのさ」
 リサは軽く、雫の肩を叩いた。
「私が戻るまで、大人しく待っているんだよ。いくらか帰りが遅くなるかも知れないけど、捜しに出ようなんて思わないように……大丈夫、必ず戻って来るから」


 死の大気で荒廃した大地に、艦隊旗艦が降りて来ていた。
「一介の辺境勤務TCを、わざわざ迎えに来てくれたのかい」
「その勤務も、今日で終了だ。見ての通り、この時代の地球はもう保たない」
 艦長・藤田あやこが、冷然と告げた。
「最初に言っておくが、余計な事はするなよリサ・アローペクス。貴官の任務は、この時代で暗躍していたアシッドクランの駆逐であって人助けではない。未開人絶対不干渉の軍規、忘れてはいまいな?」
「忘れちゃいないさ。現地の未開人は、何が起こっても見殺しにする事……下手に関わって正義の味方面するなと、そうおっしゃるわけだ。御立派な決まり事だよ、まったく」
 リサは苦笑した。やはり、この艦長を説得するのは不可能だ。
 ならば説得などせず、騙すしかない。
「人助けはしない。けど、回収しておきたい史料が1つある。連中が、聖典と崇め奉ってる巻物さ……この時代の地球文明の、歴史が記されている。そういうものは、きっちり確保して博物館なり図書館なりに秘蔵しておくべきだろう?」
「……そうだな。滅びの時代の記録は、残しておかなければ」
「じゃ、電送機を使わせてもらうよ」


 電送機の使用許可さえ下りれば、こちらのものである。
「何やってんのよ、あんたはああッ!」
 当然、藤田あやこ艦長は激怒した。軍人口調をかなぐり捨て、私人に戻って怒り叫んでいる。
「全っ然、成長も進歩もしないのね! 自分が正しいって思い込みだけで! 後先考えず行動して!」
「後先の事を考えてる余裕なんか、あるわけないさ。だって地球が滅びたんだよ?」
 死の大気に包まれた地球を宇宙空間から見下ろす、艦隊旗艦。
 あの洞窟内にいた難民たちは今、1人残らず、その艦内にいる。
 リサが、電送機を使って無理矢理に艦内へと転移させたのだ。
「未開人不干渉の軍規! 堂々と破ってくれたわね!」
 あやこが、リサの胸ぐらを掴んだ。
「軍法会議ものよ……私でも、庇いきれないわよ! わかってんの!?」
「別に庇ってくれなくていい、禁固刑にでも銃殺にでもすればいいさ」
 伴侶である女性の目を、リサはまっすぐに見据えた。
「だけどね、私はあの地球で生活しながら勤務をしていた。あんたの言う未開人たちの世話に、なっていたんだよ。それなのに何か事が起こったら見殺しにする……どう思う? 私個人のこだわりじゃない、誇り高き藤田艦隊そのものの沽券に関わると思わないかい」
「沽券が、軍規違反の理由になるとでも!」
「未開人不干渉とは言うけれど。私のようなTCを現地に派遣し、滞在させる……私に言わせれば、その時点でもうすでに干渉だよ。なのに都合が悪くなったら不干渉ってのは、ちょいと違うんじゃないかねえ」
 あやこは黙り込んだ。リサは、言葉を続けた。
「それにね、あやこ。あの連中をもう1回、死の空気の中に放り込んで置き去りにする……そんな事したら、あんた絶対に後悔するよ。心に棘が刺さったまんま一生、辛い思いをするだろうねえ」
「何を……人の心、わかったような口!」
「わかるさ」
 とある人物の角膜が移植された両目で、リサはあやこを見つめた。
「あやこの事なら、大抵わかる。私の心の中で、あんたのあの人が教えてくれるもの」
「…………どうするつもりよ、一体」
 俯いたまま、あやこは呻いた。
「あの連中、ずっとこの艦内で養うつもり? そういう現実的な事も考えろって私、普段から言ってるわよね」
「もちろん考えてあるさ。私だって、自分の考え無しなところを何とかしようとは思ってるよ」
 リサは笑った。
「この艦には、エアリアルという便利なシステムがあるじゃないか」


「見よ! 汝らを楽園へと導く、偉大なる天使の姿を」
 聖者に扮したリサが、大天使を召喚したところである。
 神々しい姿が、光と共に翼を広げ、難民たちの眼前に降臨した。
 瀬名雫が、感極まって涙を流しながら、聖典の巻物を広げている。そして新たなる歴史の始まりを書き記している。「大天使アヤ、降臨の章」である。
 難民たちが、恭しく平伏した。
 彼らに向かって偉そうに片手を翳しながら、大天使アヤは、傍らの聖者に向かって小声を発した。
「……こんな猿芝居で、何をどうしろって言うのよ」
「猿芝居じゃない、神聖な宗教的儀式だよ。その間に、この連中の移住先を見つけてやればいいのさ」
 エアリアル機能によって現在、あの洞窟内の風景が、艦内に再現されている。この難民たちは、自分らがまだ洞窟の中にいると思っているはずであった。
「芝居の中でも現実でも、この連中を新天地へと導くのが、あんたの役目さ。藤田あやこ艦長……じゃなくて大天使アヤ様」
「新天地って、そんなもの簡単に見つかったら苦労はない……」
 その時、天変地異が起こった。大地が揺らぎ、電光が降り注いだ。
 難民たちには、そう感じられたはずだ。
 実際は、前々から不調であったエアリアル機能がいよいよ悪化し、立体映像にノイズが生じて機器類が漏電を起こしたのである。
 難民たちが、うろたえた。リサは叫んだ。
「落ち着け! これは吉兆である!」
「その通り! これぞ汝らの旅の幸運を示すブルマーの相!」
 あやこが、リサに合わせてくれた。己のスカートを捲り上げ、見事な下半身のラインと、それを彩る濃紺のブルマーを、難民らに見せつけている。
 合わせてくれているのではなく錯乱しているだけ、かも知れないとリサは思った。


 立体映像の綻びから、瀬名雫は艦内へと放り出されていた。
「こ……これは……?」
 生まれて初めて目の当たりにする、事象艇の艦内。
 雫は、呆然と立ち尽くすしかなかった。自分は今、夢を見ているのか。
 あるいは、今まで見ていたものが夢であったのか。
「……いつまでも、ごまかせるもんじゃあないよね。そりゃあ」
 声がした。
 リサ・アローペクスが、複雑な笑みを浮かべて佇んでいる。
「リサさん……これって、一体……」
「まあ要は私たちが、あんたらを騙してたってだけの話」
 リサは言った。
「他の連中は、うちの大天使様が何とかなだめて騙し仰せてくれてるけど……あんただけは騙しきれないんじゃないかって、私は思ってたよ」
「……1つだけ、教えて下さい。あたしたちは今、どこにいるんですか?」
「宇宙」
 包み隠さず、リサは答えた。
「何で宇宙に出なきゃいけなくなったのかは……わかる?」
「地球が……もう駄目、なんですね……」
 現実を認めながら、雫はよろめいた。壁にもたれなければ立っていられなくなった。
「それを、あんたらに知られたくなかった。新天地が見つかるまで、騙し通したかったよ」
「リサさん……あたし、どうすれば……」
 雫の声が、弱々しく震えた。
「みんなに、伝えるべきだと思いますか? 地球には、もう帰れないって……」
「ばれちゃった以上、私たちが言える事なんて何もないよ。パニック覚悟でみんなに話すか、お墓の中まで持って行くかは……あんたが決める事、だと思う」


 立体映像が完全に崩壊する寸前、旗艦は妖精王国に到着した。
 聖人リサと大天使アヤは、奇跡を起こすふりをして電送機を操作し、難民たちを地上へと転移させた。
「結局、ここへ連れて来るしかなかったわけだけど」
 あやこが、不満そうな声を発した。
「地球人を受け入れさせるために、私これから色々と根回ししなきゃならなくなったわ。政治は苦手なのに」
「藤田あやこに逆らえる者が今、妖精王国にいるとは思えない。大丈夫さ。それより」
「あの瀬名雫ちゃんね」
 あやこは軽く、溜め息をついた。
「記憶を改竄する、しかないと思うわ……他に、あの子の苦悩を取り除いてあげられる方法が思い浮かばない」
「私もさ。情けない限りだよ。正しいと思った事をやっても結局、ろくに人助けなんて出来ちゃいない」
「まあ今回、それなりの人助けは出来たと思うわ。あとは、あの子をどうするか」
「あの時代へ送ってあげては、どうかな」
 リサは提案した。
 1人の少女が、最も平和に暮らせる時代と場所。リサには、1つしか思い浮かばなかった。
「あの時代の地球、日本……東京へ」
 
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年01月03日

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