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『バカンスは仲の良い友達と温泉旅館に行こう! 〜神谷春樹編〜 』
神谷春樹jb7335

●三人で温泉旅館へ
 学園が冬休みに入り、大晦日を迎えた今日、ロキ、ドロレス・ヘイズ、神谷春樹の三人は、とある山奥にある老舗の旅館を目指して歩いている。
「んー……。スッゴイ雪だね……」
「ウフフ。でも温泉の湯気と匂いがステキね♪ こんな所に温泉旅館があるなんて、日本らしくて良いわ」
「雪の中にある温泉旅館は良いけれど、早く中に入らなきゃ俺達、雪だるまになるよ!」
 三人はブーツを履き、雪が降る中を歩いていた。見渡す限り雪景色が広がっており、雪は足首まで積もっている。
 雪が大量に静かに降る中でも、旅館の建物と温泉の湯気と匂いはハッキリと分かった。
 旅館に到着した三人を、中年の女将はあたたかく迎えてくれる。そして三人は広い一室に案内された。
「んー……、とりあえずお茶でも淹れるね……。女将さんが部屋に置いてある温泉まんじゅう、美味しいって言ってたし……」
 木のテーブルの上には箱入りの温泉まんじゅうとお茶のセットが置かれており、ロキは早速熱いお茶を三人分淹れる。
「ふう……、ロキさんが淹れてくれたお茶が美味しいわ。それにこういう和室で和菓子をいただくのも、風情があって良いわね」
 ドロレスは上機嫌で、まんじゅうをパクつく。
「ロリータの言う通り、和室はやっぱり落ち着くね」
 春樹はお茶を冷ましながらゆっくりと飲み、深く息を吐く。
 しばらくの間はお茶とまんじゅうを味わいながらまったりと過ごしていたが、ふと雪がやんだことに気付いたロキが二人に声をかける。
「んー……、もうそろそろお風呂に入らない……? ここ、露天風呂が混浴になっているんだよね……。三人で入ろう……?」
「あら、良いわね。ロキさんもハルも、水着を持ってきたでしょう? 露天風呂だけは水着を着ていいことになっているんだし、せっかくだから三人で入りましょうか」
「ぶっ!? げほっ……。まっまあ良いけど」
 春樹は口ではそう言うものの、耳まで赤く染まっていく。
「んー……。じゃあ私とロリータは先に行って、着替えてくるね……」
「そうね。女の子の着替えは時間がかかるものだし。じゃあハル、露天風呂で会いましょう」
 ロキとドロレスは荷物の中から水着を取り出すと、すぐに部屋を出て行った。


「……『女の子の着替えは時間がかかる』って言ってたけど、かかり過ぎじゃないか?」
 既に水着に着替え終えた春樹は、温泉に入りながら大きなため息を吐く。
 二人より後に来たものの、露天風呂に彼女達の姿はなかった。なので仕方なく先に髪と体を洗って温泉に入ったのだが、それでもなかなか二人は姿を見せない。
 しかし女性用の脱衣所からは、ロキとドロレスの楽しそうな声が聞こえてくる。
「ヤバい……。のぼせそうだ」
 露天風呂は外にあるが湯の温度は高めで、春樹の顔は真っ赤になって汗が流れ続けていた。
「おーいっ! ロキさん、ロリータ! 俺、もうそろそろのぼせそうなんだけど、まだ時間がかかる?」
 耐え切れなくなって脱衣所に向かって声をかけると、慌てて二人は出て来る。
「んー……。春樹、お待たせ……」
「待たせてごめんなさいね。湯上りに水を飲むと良いって聞いたから、売店で買ってきたの」
 ドロレスはそう言って、ミネラルウォーターのミニペットボトルを春樹に渡す。
「あっありがとう。でもロリータ、何で体にタオルを巻いているんだ?」
 春樹は首を傾げながら、ドロレスの格好について問いかける。
「実は持ってきた水着を着てみたら、きつかったの。今の私が成長期なこと、すっかり忘れていたのよね。それで仕方なくタオルを巻いてきたんだけど……ここの温泉って、タオルを入れちゃいけない決まりなのね」
 ドロレスは困り顔で、壁に貼ってある注意書きを見た。その中の一つには、『タオルを温泉に入れないでください!』と絵付きのポスターがある。
「ここはやっぱり恥ずかしさをこらえて、裸で入るしか……!」
 言いつつドロレスがタオルに手をかけたものだから、春樹はギョッとして距離をとった。
「おっおい! ちょっと待て……」
「なーんちゃって♪」
 しかしタオルを取ったドロレスの体には、白のワンピース水着がある。長い金髪は頭の上で結んでおり、すっかり温泉に入るスタイルになっていた。
「じゃーん! 水着はとっくに着ていたの。ウフフ、ビックリした? この新しい水着、似合う?」
 慌てた様子を見せた春樹だったが、スっと眼を細め、ドロレスの後ろにいるロキに視線を向ける。
「ロキさん、その水着姿、ステキだよ。良く似合っている」
「んなっ!? 私は?」
「ロリータは知るか」
 からかわれたことを怒っているのか、それとも照れているのか、春樹はあえてドロレスを眼に映さないようにしていた。
「んー……、ありがとう……。どう……? 変じゃない……?」
 ロキは白いビキニを着て、長い銀髪を頭の上で束ねている。メガネを外している顔はあまり見たことがないので、新鮮さを感じた。
「ロリータより魅力的であることは間違いないよ」
「ぬわーんですってぇ!」
 頭から湯気が立ちそうなほど怒ったドロレスは、自分用のミニペットボトルを春樹に向かって投げる。
「うごふっ!?」
 そして見事に、春樹の額に的中したのだった。


●賑やかな夕食
 額を負傷した春樹は一足先に温泉から出て一人で部屋に戻り、赤く腫れた額を水で濡らしたタオルで冷やす。
 その間にロキとドロレスは温泉を十分に満喫した後、部屋に戻る。二人が戻ってきた頃には、春樹の額の腫れは引いていた。
 そして仲居に頼んで、夕食を部屋に運んでもらう。山の中にある旅館だが、近くに海もあるので、海の幸と山の幸がテーブルに所狭しと並ぶ。
 三人は豪華な料理に眼を輝かせながら、満面の笑顔で食べていく。皿が空になる頃に地酒とおつまみを頼み、夕食を終えるとそのまま飲み会に移る。
 しかし酔って醜態を見せることを嫌がった春樹は、一人でお茶を飲んでいた。
「男が酔いつぶれたら、面目も潰れる」
 渋い表情でお茶を飲む春樹とは対照的に、地酒を飲むロキとドロレスは明るくはしゃいでいる。
「んー……、ここのお酒、とっても飲みやすくて美味しい……」
「ホントねぇ。日本酒ってはじめて飲んだけど、どんどん飲めちゃうわぁ」
 ロキはドロレスの酔っ払っていく姿を見て、ギョッとした。
 ドロレスの頬は温泉に入った時のように赤く染まっており、眼もトローンとしている。座っているのに体はフラフラと動き、しゃべり方も舌足らずになっていた。
「んー……。でもロリータはちょっと危ないかも……」
「そぉんなことないって! こんなに良い気分になっているんだもん!」
 明らかに酔っ払っているのだが、本人は自覚がないらしい。
「あはは! ロキさん、良い匂い〜♪」
 いきなり飛びついてきたドロレスを、慌ててロキは抱きとめる。ドロレスは猫のように、ロキの顔にスリスリと頬ずりをしてきた。
「ロキさんのお肌、白くてスベスベ〜♪ こーんなに綺麗な人に好きになってもらえたら、男の人はスッゴク喜ぶんだろうなぁ」
「えっ……?」
 突然のドロレスの言葉に、一瞬、ロキの酔いが冷める。
 ドロレスは相変わらず酔っ払っているようだが、その眼には僅かに鋭さが宿っていた。
「あのねぇ、ロキさん。なぁんだか最近、距離を感じるんだけど……私の気のせいかな?」
「ロリータ……」
「私はロキさんと、もっと仲良くなりたいって思っているの! だからもっと近付きたいな」
 春樹に聞こえないよう声を潜めながら、ドロレスはロキの耳元で囁く。抱き着いてくるドロレスの力が思いのほか強いことを知り、ロキは少し悲しそうな表情で眼を閉じる。
「んー……、寂しい思いをさせて、ゴメンね……。春樹とロリータの仲が良いところをいっぱい見て、私も寂しかったのかもしれない……」
「ロキさん……。そうだったの。でも大丈夫! 私はロキさんのことも大好きだから!」
「……うん。私もロリータのこと、大好きなお友達だって思っている……」
 そして気分が盛り上がった二人は、固く抱きしめ合う。
「……アンタら、そういうことは俺が見ていない所でやってくれない?」
 少し離れた場所から二人を見ていた春樹は、置いていかれた感じだ。
 するといきなり二人は春樹に視線を向けると、その眼はキラーン!と光った。
「えっ? 何?」
 思わず身の危険を感じて後ろに下がる春樹だが、ロキとドロレスは突然飛びかかってくる。
「うわあっ!?」 
 二人を支えきれず、春樹は後ろから倒れてしまう。
「んふふ……。春樹をぎゅー……、ロリータもぎゅー……」
「ふわぁ……。もう眠いわ。このまま寝ちゃおうかなー」
「ふっ二人とも、酔い過ぎだよ! 早く離れて!」
 二人の女の子に乗っかかれて、体の柔らかさと重さを感じてしまい、春樹の顔色は赤くなったり青くなったりする。


 寝始める二人を何とか引き剥がした直後、食器を片付ける為に仲居達が部屋に来た。ついでに布団を敷くのを頼み、二人を寝かせてもらう。
 仲居達が出て行った後、春樹は自分用の布団を引っ張って、二人から距離をとる。
「とりあえず、これでいいだろう。今度は寝ぼけて襲ってくることが、ないとも言えないからな」
 思っていた以上に二人の力は強く、春樹ははがすのに苦労した。なので自分と二人の間に三人分の荷物を置き、バリケードにする。
「ふわぁ……。俺もそろそろ眠くなってきたな。……うん?」
 欠伸をした春樹は、遠くから除夜の鐘の音が聞こえてくることに気付く。
 壁にかけてある時計を見ると、もう新しい年を迎える時刻になっていた。
「ヤレヤレ……、慌ただしい年末年始だな。まあ何はさておき。――明けましておめでとう。今年もよろしくな」
 二人の寝顔を見ながら、春樹は微笑む。
「んー……、おめでとう……。今年もよろしく……。二人とも、大好きだよ……」
「ウフフ……、私も大好きよー……」
 幸せそうな顔で寝言を言ったロキとドロレスだが、また襲われるのではないかと思った春樹は慌てて自分の布団の中に入った。


☆隠された本心
「二人とも、本当にもう寝たのか?」
 春樹は恐る恐る二人の様子を窺うが、静かな寝息が聞こえてくるだけだ。
「……はあ。露天風呂ではちょっと言い過ぎたかな?」
 ドロレスに対して、少し意地悪だったことは自覚していた。彼女がイタズラ好きなのは前から知っていたことだし、からかわれることも慣れていたつもりだ。
 でもいざ水着姿のドロレスと一緒にお風呂に入ることを意識した途端、自分の行動が制御できなくなった。
「『その水着、良く似合っている』って、たった一言で喜ばせることができたはずなのにな」
 ドロレスにはなかなか思っていることを素直に伝えられず、歯がゆく思う。
 その一方で、ロキの危うさに不安を感じていた。
「いくらロキさんが若く見えても、年頃の男と水着姿で混浴……っていうのは、あんまりよくないよなぁ」
 今日は自分とドロレスが一緒だったからいいものの、危険はどこに潜んでいるのか分からないのだ。
 ロキは三人の中では一番年上だが抜けている部分があり、よくドロレスと共にフォローすることが多い。
「……まっ、二人とも今は俺と一緒に寮で暮らしているし、後で何とかしよう」
 考えることを止め、春樹は布団をかけ直して眼を閉じた。


●新年を迎えて
 女将から神社がある場所を聞いた三人は、早速初詣に行くことにする。
 しかしロキの顔色はいつもより白く、フラフラしながら歩いていた。
「あうぅ……。頭、痛い……。飲み過ぎちゃったかな……」
「私は酔っ払っちゃったみたいだけど、二日酔いにはならなかったわね」
 一方で、ドロレスはケロッとしている。だが神社に向かう人々を見て、あることを思い出す。
「そういえば今朝テレビで見たんだけど、初詣に行く人って多いのね。有名神社とか、スッゴク人がいっぱい集まっていたわ」
「まあ初詣は元旦に行った方が、気分が盛り上がるからな。ふあ〜あ……」
 春樹は寝不足の顔で、欠伸をする。いつ二人が襲いかかってくるか分からなかった為に、深く眠ることができなかったのだ。
 三人は神社に到着すると、それぞれ参拝をする。
「(んー……、今年も二人と仲良く過ごせますように……)」
「(今年も昨年に引き続き、幸せな日々を過ごせますように! それとハルともっと仲良くなれたら嬉しいけれど……。でもやっぱり、ハルとロキさんのお願い事がちゃんと叶いますように!)」
「(二人が精神的に、もう少し成長しますように。……このままじゃ俺の身も心も持たない)」
 ロキ、ドロレス、春樹は切実な願い事をした後、神社から出た。
 そこでふと、ロキが春樹の顔を覗き込む。
「んー……。そういえば春樹は、神様に何をお願いしたの……?」
「ロキさん、願い事は人に言わない方がいいんだ。でもまあ二人に関係していることは確かだよ」
「あら、ホント? じゃあ私達の幸せを願ってくれたのね?」
「……まあロリータの言っていることも、間違いではないけれど」
 誤魔化した春樹だが、すぐに後悔することになる。
 ロキとドロレスは顔を見合わせ、ニヤっと笑う。
「んー……。それなら春樹は今日一日、私達のお願い事を全て叶えてくれるってことで……」
「良いのよね?」
「へっ? いや、ちょっと待って。多少のワガママは聞いてもいいけど、昨夜のような過剰なスキンシップは勘弁してよ!」
 二人は昨夜のことをおぼろげながらも少しは覚えていたので、春樹に抱きついたことは記憶に残っていた。
「んー……、分かった……」
「じゃあ抱き締めて、撫でる以上のことはしないであげる」
「ロキさんはともかく、ロリータのその上から目線は何だ!」
「だって精神的にはハルの方が下だからね」
「〜〜っ!」
 頭に血が上りすぎて何も言えなくなった春樹は、その場で頭を抱えながら地団駄をする。
 そんな春樹の右からロキが、左からドロレスが抱き着く。
「うわぁっ!? いきなり何をするんだよ!」
「んー……。まずはこのまま旅館に戻ろうか……」
「女将さんがお餅料理を用意してくれるんですって。 美味しいお餅が待っているから、早く帰りましょう♪」
 美少女二人にはさまれながら、春樹は赤くなった顔を見せないように俯きながら歩き出す。
「……ったく。今日だけ、だからな」


<終わり>


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb7437/ロキ/女/大学部1年/ダアト】
【jb7335/神谷春樹/男/高等部2年/インフィルトレイター】
【jb7450/ドロレス・ヘイズ/女/小等部4年/ナイトウォーカー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご依頼していただき、ありがとうございました(ペコリ)。
 『☆』の部分は個人ストーリーになっていますので、他の方のノベルも一緒に読んでいただければと思います。
 ほのぼのしながらも、三人のちょっと複雑な恋愛模様をお楽しみください。
winF☆思い出と共にノベル -
hosimure クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年01月06日

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