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『操られたフラストレーション 』
綾鷹・郁8646)&瀬名・雫(NPCA003)

 暗い船倉に蠢く影が一つ。影は闇の中、ニタァと笑うと天井を見やった。


 船倉の上、旗艦では、郁と雫が移民達の苦情処理に追われていた。
 今は、移民船団を引き連れて長旅の途中。最初は、料理を焦がしたり、生焼けだったりと、船員の些細なミスも、苦笑で済まさせていたが、大勢が、船内で何日も共同生活を送っているわけで、彼らのフラストレーションが、苦情となって郁と雫を襲っているのだ。
「すみません、これ以上広い部屋はないんです」
「部屋が広いって言われても、相部屋にするわけにはいかないんだよ」
 なんとか物資を分けて不満を我慢してもらっているが、対応は場当たり的になっている感が、否めず根本的な解決にならないため、また苦情が来る。しかも物資も数に限りがある。
 これ以上物資を分ければ、航行に支障が出るし、かと言って渡さずに、収める方法もない。もう、限界だと、とうとう船が止まってしまった。
 船が泊まったことで移民達は怒り心頭。さっきまで、いなかった移民までもが文句を言いに押し寄せ、苦情処理をしていた部屋はすしずめ状態になってしまった。
 そこに、船員から連絡が入る。
 どうやら、裕福な男が島を丸ごと停泊地として貸してくれるというのだ。
 助け舟が来た。とホッとしながら、移民にそれを伝え、一旦そこに移住してもらうように指示した。
 全員分の家もあるし物資も十分。
 ……そこまでは良かったのだが、品質がどれもイマイチ。明らかに、使わなくなったものを提供されたという感じが否めない。
 移民たちもそれを感じたらしく、程なくして苦情発生。対策会議が行われることになった。


「耐えるべきだ」
「ストレスで死ぬ」
「住めば都だ」
「人の原動力は欲だ」
「不満を募らせて安定を捨てるのか」
 などなど、我慢を訴える都含む順応派と我慢を唱える郁に反目した雫を含む開拓派が喧々諤々と議論するが、話は平行線を辿り、ちっとも進まない。挙げ句の果て、結論が出ないまま、両派は分裂。開拓派が、島を出ていこうとするも、悪天候のため島を出ることができない。
 その間にも、
「狭ければ屋根で寝たらいいのよ!」
「広過ぎるなら太れば?」
 郁と雫は互いの仲間にむちゃくちゃな適応を強いる。

 島に来て数日が立ち、島全体が一触即発の緊張感に包まれていた。
 そんな時、はっと郁が、我に返る。
「何かがおかしい」
 よくよく考えれば、最初からおかしいのだ。料理の失敗を苦笑で済ませるような温厚な人たちが、いくらフラストレーションが溜まっているとは言え、部屋が狭いだの、広いだので、苦情をあんなに言ってくるだろうか。
 いや、そんなことはないはずだ。
「まさか!?裏に何かいるの?」
 そう感じた彼女は共感能力を使い、船倉に何か人ではないもの、妖怪の存在を察知した。
「裏で糸を引いているのはこいつね。苦情の内容から推察するに、プロクルステスの寝台……どこから潜り込んだか知らないけれど、許せないわ」
 早速船倉へ行く郁。なんとか倒そうとするものの、無意識に干渉され、屈服を強いられる。
 なんとかしなくては、島にいる移民たちが戦争でも始めそうな雰囲気だ。急がなければと焦る郁に
「慎重?郁ちゃんは臆病者でしょ?」
 あとをつけられていたのか、いきなり、雫が鋸で郁を切りつけようと襲ってきた。
「貴女のは無鉄砲やろ!」
 刀で受ける郁は閃く。弾き飛ばした鋸を取り、新台妖怪の方へと走り出す。
「そうだ!お前が型にはまればいい!」
 そう言って、妖怪の四肢を切り落とすと、妖怪は絶叫にも悲鳴にも似た叫び声を上げて動かなくなった。


「あれ?何してるの?郁ちゃん」
 後ろでキョトンとした雫の声がする。我に返ったようだ。これで、移民たちも大丈夫だろうと郁は安堵の溜息をついた。



Fin
PCシチュエーションノベル(シングル) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年01月06日

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