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『冬のアトラス紀行 〜セレシュ・ウィーラー〜 』
セレシュ・ウィーラー(mr1850)

 シンシンと降り積もる雪。
 見渡す限りの雪景色に、ひっそりと輝く星たち。
 足跡の無い白の世界はまるでどこか別の世界へ誘うようだ。

――今日はクリスマス。
 あなたは誰と、どんな風に過ごしますか?

 * * *

 平行世界『アトラス』。
 豊かな気候と自然に恵まれたこの世界は、四季折々の景色が楽しめると共に、それに合わせた行事が目玉でもある。
 ユグドラシル学園のセレシュ・ウィーラーは、夏に訪れたこの世界を再び訪れていた。
 目的の地は勿論アトラスに在る『アクロポリス』と呼ばれる都市だ。
「この前は暑い思ったのに、今度は寒いわぁ」
 はあ。っと吐き出した息が真っ白に染まる。
 その様子に体を小さく震わせると、セレシュは自らの両手に息を吐きかけて擦り合わせた。
「確か、コンビーニはこっちの方やったと思うけど……」
 そう零して辺りを見回す。
 そんな彼女の目に飛び込んでくるのは、白亜に彩られた街並みが白銀に染まる世界。
 キラキラと日の光を反射させるその光景は、1つの芸術作品と呼んでも過言ではない程に綺麗だ。
「幻想的な光景やね。ん? あれは……」
 夏には水が豪快に吹き出していた噴水。それが止まった中央広場にひときわ大きな樅ノ木がある。
 そしてその頂上付近には、見覚えのある小さなドラゴンが1匹。
「あのドラゴン……コンビさんやないか?」
 目的地だった観光案内所『コンビーニ』。そこで案内人を務めている少女(?)コンビ・ニーアにセレシュは会いに来た。
 そしてその当人がこんな場所で何かをしている。これは声を掛けるしかないだろう。
「コンビさーん! なにしてはるんー?」
 両手を口の横に添えて大声で叫ぶ。
 その声に樅ノ木の山頂に星を添えたコンビが振り返った。

 あんぎゃ? あぎゃあぎゃあぎゃ!

「何言うてるかわからへんわ……」
 どうやらドラゴン化している時は人語を話せないらしい。ひたすらドラゴン語で語り続けるコンビにセレシュが首を傾げる。
「コンビさん。何言うてるかわからへん」
 ポツリ。
 零した声に「ああ!」と言った仕草を見せてコンビが下りてくる。そうしてセレシュの前で動きを止めると、彼女は小さな翼をパタつかせて言った。
「――人語能力切り替えに失敗していました。申し訳ありません」
 何やその能力。
 思わずツッコみそうになる思いを呑み込む。その上でコンビを見ると、セレシュは彼女の後ろに在る樅ノ木を見上げた。
「これ、クリスマスの飾りなん?」
 樅ノ木には頂上の星以外にもオブジェらしきものが複数飾られている。しかもその上には本物の雪が薄ら積もっているのだから、見ごたえは十分ある。
「そうなんです! これぞアクロポリス冬の名物の1つ、巨大樅ノ木です!」
 ジャジャーンッ☆ と効果音まで付けての紹介だったが、案外普通の樅ノ木だった。
 とは言え、この世界のクリスマスを楽しみに来たセレシュにとっては、普通の樅ノ木であっても楽しめる物の1つであることは間違いない。
 それにコンビは言った。
「今、『アクロポリス冬の名物の1つ』言うたよね? てことは、他にも名物がある、言うことやよね?」
「流石、セレシュ様! 御目が高いです♪」
 キラキラとつぶらな瞳を輝かせて頷くコンビにセレシュの口角が上がった。
「ほなら、名物案内人のコンビさんに、冬のアクロポリス案内をしてもらわんとね♪」
 そう言って笑ったセレシュに、コンビは嬉しそうな鳴き声を上げて頷いて見せた。

  ◆◇◆

 アクロポリスには幾つかの観光名所がある。その中には白亜宮や夕日の見える丘など、この地独特のものも在るのだが、今回コンビがセレシュを連れて来たのは、そうした有名な観光名所ではなく、何処に行っても存在する市場だった。
「セレシュ様、本当にここでよろしいんですか?」
 人の姿に変じたコンビが、心配そうにセレシュを見詰める。その視線にニコリと笑うと、セレシュは近くの露店を覗き込んだ。
「アクロポリスのクリスマスが知りたいんよ。せやから市場はもってこいの場所や。あ、おじさん、これは何て言うん?」
 そう言って彼女が指差したのは、毛もくじゃらの小さな人形だ。先程からどの露店にも置かれているのだが、何かのまじない品だろうか。
「何だい嬢ちゃん。嬢ちゃんジャジャモク様を知らねえのか?」
「じゃじゃもくさま?」
 なんやろ? そうコンビを振り返ると、出番とばかりに彼女が口を開く。
「ジャジャモク様とはアクロポリスの雪神様を言うんです。ジャジャモク様のオブジェを家に飾ると、雪から家を守ってくれると言われているんですよ」
「へぇ。凄い神様なんやね」
 そう零してジャジャモク様を摘まみ上げた時だ。
『ナンダコノ野郎!』
「喋った!?」
 思わず放り投げたジャジャモク様を露店の店主がキャッチする。そうして笑い声を上げると、掌に邪魔黙様を乗せてセレシュの前に差し出してきた。
「そんな持ち方じゃ駄目だぜ。ジャジャモク様は下から掬い上げるように持ち上げねえと怒っちまう」
「お、オブジェが怒るんか……どんな仕組みなんやろ」
 驚きと感心。そして好奇心から再び手を伸ばす。するとその上にジャジャモク様が乗せられ、彼女の手の上に微かな温もりが広がった。
「……これ、生きてるん?」
 思わずコンビを振り返ると、彼女はにっこり笑ってジャジャモク様の頬を突いた。
「ジャジャモク様はアクロポリスに初雪と一緒に降って来るんです」
「雪解けと同時に消えちまうけどな」
 コンビの声に露店の店主が補足する。
 それに耳を傾け、セレシュは改めてジャジャモク様に目を向けた。
「これ、1つ……1体欲しいんやけど」
「おう。もってけもってけ」
「え?」
 ポケットから出そうとしていた財布が思わず引っ込む。その姿に店主は笑い声を上げるとコンビに説明するよう促した。
「ジャジャモク様は神様なのでお金で取引はしないんです」
「ほなら何で店先に並んでるんや?」
「それは迷子のジャジャモク様に守る家を探してあげるためです。お店に並べておけば、縁があれば誰かの家に行けますし、ジャジャモク様がいるとわかればその露店には人が来ますから」
 つまり、持ちつ持たれつの関係なのだ。とコンビは教えてくれた。
 それを聞いたセレシュが感心しながらジャジャモク様を突く。
『ナンダコノ野郎!』
「ふふ。よろしゅうな、ジャジャモク様」
 どうやら乱暴に扱うと声を上げるらしいジャジャモク様に笑みを零し、セレシュは家を守ってくれるよう願いを込めて口付けを落とした。

  ◆◇◆

「ふぅ、楽しかったわ♪」
 蜜林檎を頬張りながら満足げに声を零すセレシュに、同じく蜜林檎を持つコンビが嬉しそうに笑う。
「楽しんでもらえたみたいで良かったです。でも、観光の締めを私が決めても良かったんでしょうか?」
「ええんよ。うちはこの辺の地理とかわからへんし」
 そう言って蜜林檎に被り付く。
 この蜜林檎。アクロポリスで採れる特産品の1つらしいのだが、被り付くごとに蜂蜜のような蜜が溢れ出してきてとても甘い。
 この土地の人は、この蜜林檎を皮ごと焼いて、同じ特産品の花蜜と混ぜて食べるらしい。
 コンビの言う所によれば、そこにバターを乗せると甘みが倍増して更に美味しくなるのだとか。
「うちもバターを乗せた焼き林檎食べて見たかったわ。次来たらご馳走してな?」
 想像しただけでも頬が蕩けそうだ。
 思わず笑みを零してコンビの顔を覗き込むと、彼女は口の周りに林檎の蜜をくっ付けて頷いた。
「勿論です! あ、あそこですよ!」
 ザクザクと雪を踏みながら登って来た丘。
 ここはアクロポリスを少し離れた位置に在る『常世の丘』と言うらしい。
 観光名所の1つである『夕日の見える丘』とは正反対の位置に在り、ここには人が寄り付かないんだとか。
「言うほど道は酷くなかったね。ちょっと谷はあったけど、飛べば越えれるし問題ないわ」
「その谷が問題なんですよー」
 セレシュは羽根が、コンビはドラゴン化すれば飛ぶ事が出来る。なのでこの2人には谷など何の障害でもなかった。
 けれど普通の人はそうはいかない。
 谷を越えるために橋を通したり、命がけで飛び越える必要だってある。昔はそうした無謀な行為を行い、命を落とす人が居たらしく、それで常世の丘と呼ばれるようになったのだとか。
「ふわぁ!」
 山頂に到着した途端、セレシュの口から感嘆の声が漏れた。
 それもそのはず、この丘の景色は彼女の想像を遥かに越えていたのだ。
「常世の丘にはもう1つ名前の由来があるんです」
「星空と地平線を繋ぐこの景色やね?」
 頬を紅潮させて言葉を発する彼女にコンビは頷く。
「見えている星空は『命の海』と言って、亡くなった方たちの魂が星になった姿と言われています。そして地平線は命が生まれ変わるための境界線だと言われているんです」
 彼女たちの目の前に広がるのは、切れ目のない地平線。そしてそこに同化するように空へ広がる闇。けれど闇は無ではない。
 色とりどりの星が輝き、どこまでも、どこまでも、色を作って広がり続ける。
 闇は常世。星は命。そして曖昧に重なり合う地平線は生まれ出るための境界線。
「ええ景色やね」
「はい! でもこれからがもっとすごい景色になるんです!」
「どういうこと――」
 そう言いかけた時だ。
「わあ!」
 思わず見開いた彼女の目に、星が地平線に向けて落ちて行く姿が飛び込んでくる。
 自らの力で地平線を目指す姿は圧巻だ。
「綺麗やね……これがコンビさんの見せたかった景色なんやね?」
「はい! 今日はクリスマス――生誕祭です。生誕祭の日には常世の丘でたくさんの星が地平線に落ちます。そして地平線に落ちることが出来た星は次の年、生まれる準備が終わった順番に生まれて来るんです」
 その生まれるための儀式を見て欲しかった。そう語るコンビにセレシュが瞳を輝かせる。
「ありがとう。この景色はアクロポリスでなければ見れへんものや。この景色が見れただけでも、この世界に来たかいがあるわ」
 冬の短い休みを使っての小旅行。
 楽しく遊べればいいと思ってやって来たこの世界で、思わぬ情報をたくさん得ることが出来た。
「この世界はまだまだ知らないことがいっぱいやわ。ねえ、コンビさん」
「? なんでしょう?」
 笑顔で顔を覗き込んで来た彼女に、コンビの目が瞬かれる。
「また来てもええやろか?」
 ダメと言われても来るかもしれない。
 けれど彼女なら「うん」と言ってくれるだろう。
 そしてやはり彼女は笑顔でこう言ってくれた。
「ぜひ! コンビーニは……アクロポリスはセレシュ様のご来訪を、心よりお待ちしております♪」

―――END



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 mr1850 / セレシュ・ウィーラー / 女 / 外見年齢15歳 / 幻想装具学(幻装学) 】

登場NPC
【 mz0151 / コンビ・ニーア / 女 / 1025歳 / アクロポリス観光案内所の案内人 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『winF☆思い出と共にノベル』のご発注、有難うございました。
如何でしたでしょうか。
何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
winF☆思い出と共にノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2014年01月09日

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