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『おかえりなさい 』
イアル・ミラール7523)&エヴァ・ペルマネント(NPCA017)


──冗ッ談じゃないわよ
──これで終わりだなんて思わないで頂戴

冷たい石へと姿を変えたイアルを抱いて
ただひとり、そう言ったのはいつだったか……

あれから随分と長い時間が経ったように感じる。
けれど時計の針は、実際はそれほど進んでおらず、ただ、戦闘から蓄積された疲労がエヴァの身体に残り
その状態で「本を読んで調べる」などという慣れない行動を重ねて、それが異常なほどに時を感じさせていた。

疲労困憊。
重い瞼。

──小さく、エヴァの本が手から落ちる音が聞こえた。


***


「ふふ、この程度じゃ手応えが無いわね」
細い腰に細い腕、ビキニアーマーの間からのぞく肌。
一体どこから、そんな力が出ているのか……
その姿からは似合わぬ力と身のこなしで剣と共に踊り、動きに合わせてモンスター達の首が飛ぶ。
優雅にさえ見える、一人の女戦士。

そんな華麗な姿を見ていたかと思えば、突然場面が変わる。
まるで、映画のチャプターを飛ばしたかのように。

次に目に見えたのは、何かの儀式。
その儀式の中央で、まるで生け贄のように拘束されているのは、先程の女戦士だった。
戦場で華麗に舞っていた筈の彼女が、どんなミスを犯したのかは定かではないが
間違いなく、今の彼女は一切の動きを許されない状況へと陥っていた。
繋がれた儀式台の上で、彼女の抵抗は虚しくも掻き消される。
儀式が始まり、周囲の者達が詠唱を始めると、何かを叫んだかのように彼女の唇が動いたが、言葉は紡がれていなかった。

──それから、どれくらいの時間が流れたのか。
再び開いた瞼の向こう側で、揺れた彼女の瞳は、それまでとは違う色を湛えていた。

「おぉ……。 よくぞお戻りになられました」
「おかえりなさいませ、イアル様」
全ての者が順にそう呟いて、次々に跪いてゆく者達。
──その言葉に彼女は静かに頷いた。


「イアル様だ!」
「おぉ、イアル様……」
王女を慕い、王女を大切に思う民達に、彼女は手を振って応える。
そう、彼女は儀式によって記憶を上書きされ、違う人間として生きていた。
小さくとも、守護龍・鏡幻龍の加護で豊穣が約束された平和な国の王女『イアル』として。


「イアル様! またも隣国の奴らが!」
イアルの国は、隣国の大国による侵略を度々受けていた。
けれどイアルは王女であると同時に、鏡幻龍の巫女。
ただ優しく、美しく、守られるだけの王女ではない。

「私が行きます! 皆は民達に避難の指示を!」
その度に、イアルが自ら鏡幻龍の力で撃退する。
だが、鏡幻龍の巫女の力は本来の『イアル』のものであり、『彼女』のものではない。
女戦士としての闘い方など、きっと今の彼女の中には存在していない。
鏡幻龍の力を扱い、鏡幻龍の力で闘う。
それが今の、彼女の闘い方なのだ。

けれどそれは、『彼女』の一身で受け止めるには、あまりにも大きすぎる力だった……
当然、そんな状態では守りきることなど出来ず、ついには城まで攻め込まれてしまう。
「イアル様!もう無理です!お逃げ下さい!」
最後までイアルの傍に居た侍女が、そう叫んだ。
「いいえ、ここで私が逃げるわけには!」
「何もかもを無駄にしないで!この国には 貴 女 が必要なんです!生きて!イアル様!どうか、どうかご無事で……ッ!」

侍女のその強い言葉に、イアルは唇を噛み、両手を握り締め……
一抹の涙の跡だけを残して、真っ直ぐに抜け穴へと進んだ。

何もかもを無駄に。
貴 女 が必要。

その言葉に、どんな意味が込められていたのか
──きっともう、その答えを誰も知る者は残されない。


「──ッ!!!」
抜け穴を進んだ先で、イアルは何者かに拘束された。
腕を掴まれ、口を塞がれ……

地図にも載らない小さな国など、大国から見れば小さな庭のようなもの。
彼女の部屋からの抜け穴がどこへ通じているのか、そんなことは、とっくにお見通し。
待ち伏せていたのは、攻め込んで来た大国の兵士達だった。


「ほぅ……、美しいものだな」
そう言って口を開いたのは大国の帝王。
イアルは兵士達に捕まり、帝王の前へと引きずり出された。
帝王はゆっくりと歩き出し、イアルの前で立ち止まると、彼女の額へと指先を伸ばした。
「殺すには惜しい。 飾るか。」
イアルには、その言葉の意味が解らない。
拘束された状態でもなお、イアルは帝王を睨み付けたが、次の瞬間、──その視界が揺れた。
深い眠りへと誘われるかのように、意識が遠のく。

「服を剥げ。 邪魔だ。」
帝王のその言葉で、周囲の者達がイアルの服を取り払う。
けれど、イアルは抵抗するわけでもなく、暗示にでも掛かったかのように立ち尽くしていた。
そして、まるで操り人形のように、帝王の指の動きに合わせてイアルの体が動く。
言葉を発するわけでもなく、その瞳は何を映すわけでもなく……
ただ美しく、彫刻品のようにイアルが形を成した。

──彫刻品のように。
その言葉の通りに、イアルは石造へと姿を変えてゆく。
足の指先から、パキパキと音を立てて、ゆっくりと……

その後、支配された象徴「裸足の王女」として、イアルは謁見の間に飾られ続けた。
長い、永い時を、何も映さないその瞳で、ただ静かに見続けていた。


***


──バサッ!

「……ん」
本がベッドから床へと滑り落ちた音が聞こえ、エヴァがゆっくりと目を開けた。
「あ、いつの間にか眠っちゃったのね」
片手で目を擦りながら起き上がろうとすると、反対の手に冷たいものが触れる。
エヴァは、石化したイアルを抱いたまま、眠りに落ちていた。
「……」
エヴァは真っ直ぐにイアルを見た。
今の夢は、まさか……?
そんなことを考えながら。
「ふふ、まさかね」
そして、エヴァは静かに口付けを落とした。

──ピシッ!

「え?」
エヴァの口付けを合図に、イアルの体へと亀裂が走り、その亀裂から光が零れる。
彼女を覆う殻を破るかのように、その亀裂は全身へと及び、やがて……

──パァン!

光を放ち、高い音を立てて弾けた沢山の欠片。
そして、そこに残されたのは、柔らかさを帯びた温かいイアルの姿。
「──あ、…イ……」
何かを言いかけたが、そのままエヴァは言葉を失った。

「エ…ヴァ……」
ゆっくりとイアルの唇が動き、その名を紡ぐ。
薄く開いた瞼の向こうに見えた瞳は、確かにエヴァを見ていた。
「──ッ!」
エヴァはイアルを抱き締めた。
溢れそうになった涙を見せないように、イアルの肩に顔を埋めて。

そして……

「おかえりなさい、イアル」
エヴァが、ゆっくりと言葉を繋げる。
イアルには、何故か懐かしく聞こえたその言葉。

けれど、その理由は、エヴァの夢の中へと置き去りに……




「ただいま、──エヴァ」





Fin



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ノミネートのご依頼、ありがとうございました。
なかなかお受けすることが出来ず、随分と間があいてしまいましたが
今回続きを書かせて頂けて、とても嬉しかったです。
今回も、とても楽しく書かせて頂きました。
また機会がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
三上良 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年01月09日

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