▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『おしょうがつ? 』
ティー・ハート(ic1019)


 花見、七夕、夏祭り、お月見、ハロウィン、聖夜祭、文化の交差点とも言える神楽の都では一年を通して様々な祭りが行われている。そのどれもが賑やかで華やかだ。だがやはり一番街が活気付くのは新年、正月ではないだろうか。
 家々の玄関には注連飾りが飾られ、ちょっと大きな家や商店の入り口前には門松が並ぶ、晴れ着姿の人々が通りを闊歩し、お囃子の音とともに歯をカチカチ鳴らして獅子舞が現れる。
 街全体がお祭り気分に浮かれてる、そんな雰囲気であった。

「さっぶい」
 空っ風に吹かれてティー・ハート(ic1019)は思わず首を竦める。昨晩から今朝にかけて降った雪のせいで風は頬を切る冷たさだ。そのあまりの冷たさに体が強張り耳がピクリと動く。
 視界の片隅に刺繍を施された厚手の布が踊った。布を飾るタッセルが右に左に揺れてなんとなく楽しそうな雰囲気に見える。少し前をふらふらと歩くジャミール・ライル(ic0451)が肩にかけているストールだ。
(ライルの服あったかそうだな…)
 手を伸ばし彼が首に巻いているマフラーを数度軽く引いた。
「さっむ…」
 ジャミールの口から零れたのは引っ張った事に関する抗議ではなく先程自分が漏らしたのと同じような言葉。手をしきりに擦り合わせ息を吹きかけ温めている。そして独り言のように「さっむ」ともう一度。
 着膨れたジャミールの中身を確認というわけではないがティーはポフポフと彼の体に触れた。柔らかい起毛の布地が手に心地よく、つい猫の腹でもなでるかのように堪能してしまう。
 されるがままになっていたジャミールがくるりと振り返る。
「いやも、こっちの寒さマジヤバイんだって、いっぱい着てなきゃまじ死ぬもん」
 そう言う表情は珍しく真顔。一枚でも脱いだら死ぬ、本気でそう思っていそうな顔。
「…それにしても……っ」
 後ろから来た人物と肩がぶつかりつんのめった。更に今度は逆方向から集団が。慌てて脇に避ける。
「大丈夫かー」
 人の流れを上手い事避けてジャミールがやって来た。両手は組んで袖にしまいこんだまま。多分自分が転びそうになっても腕を掴んでくれることはなさそうだ、とティーは思う。
「…なんか今日、人多くね?」
 神楽の都は人口の多い街だが、今日はそれにしても人出が多い。普通に歩いているはずなのに人にぶつかってしまうほどだ。しかも普段より着飾っている人が多い。
「…こわっ」
 途切れることなく続く人波に悪酔いしてしまいそうでティーはふるりと肩を震わせた。
「あー…?」
 言われてジャミールも周囲を見渡す。
「そーいやそうね、豪華な服着てる人多い気が…なんかお祭りかな?」
「かもな。なんか店の前に同じような飾りぶらさがっているし」
 がらり、と音を立て背後の店の戸が開いた。店主であろうか恰幅の良い初老の男が出てきて、壁に「謹賀新年」と書かれた紙を貼り付ける。
 そういえばこの文字も今日あちこちでみかけた、とティーは店主に話しかけた。
「あの…スミマセン…今日は何かあるんですかね?」
「…?」
 質問の意図がわからない、といった風に瞬きを繰り返す店主。だがティーの耳や格好から他国から来た開拓者だろうと判断したのか「正月だよ。新年を迎えるお祭りだ」と教えてくれた。
「おー? お、生姜つ?」
 自信なさそうに聞きなおすティーに店主が頷く。
(みんなで生姜食べるのか?)
 変な祭りだ、と思いながら店主に礼を述べ振り返るとそこにいたはずのジャミールがいない。
「あれ?」
 少し離れた所で上がる女の子の楽しげな笑い声。もしやと思ってみれば、そこに着飾った女の子と談笑するジャミールの姿があった。
(にゃろう…)
 心の中で拳を握った。
(俺がちょっと離れた隙に…あんな美人捕まえて)
 今朝の名残の雪を少々手に取り背後に忍び寄る。
「よし、行こうか…!」
 ぐいっとマフラーを引っ張って隙間を作ると雪を滑り込ませた。手の温度で適度に溶けた雪はするりと背中に落ちていく。
「ひぁあっ」
 ジャミールが背筋を反らして悲鳴を上げた。中々良い反応だ、と耳が揺れる。
「いやいやいや…」
 ぐるりと振り返ったジャミールは歯をガチガチ言わせて自身を抱きかかえていた。彼のほうがティーより背が高いというのに、恨めしげな視線は上目遣い気味。
「行こうかじゃねぇべ?」
 そして浮かべた笑顔は先ほどの真顔より怖い。
 少しの間、二人で見つめあう……。
「さむいっ」
 ベシっとジャミールに上から頭を叩かれた。勢いで耳が跳ねる。
「…で、なんだったのー」
 笑顔で女の子を見送ったジャミールが尋ねてきた。
「え?」
「いや、だからー、ティーちん、聞いてきたんでしょ」
 この状況のこと、と通りを往来する晴れ着姿の人々を視線でぐるりと一囲み。手の動きがないのはきっと袖から出したら寒いからだろう。
「お、生姜つ? お、生姜食う?」
 上がり気味の語尾に見え隠れする自信の無さ。
「なに…生姜?」
 いぶかしげなジャミールに頷くのと首を傾げるのとの中間あたりの曖昧な動きを返した。
「寒いから的な…アレなの? こっちの風習的な? ほら、なんだっけ…天儀だとハロウィンに南瓜食べる、みたいな?」
 意味がわからないわーと言わんばかりに肩を竦めて首を振るう。

 さして目的のある外出ではなかったので人に流され歩いていると、次第に人口密度が上がってきた。そして道の行き当たりに見える朱色の鳥居。どうやらこの流れは神社へむかっているようであった。
 『生姜つ』とはなにか、そんな興味もあったので流されるままに鳥居をくぐる。参道は常に隣と肩が触れ合うほどに人が沢山いた。
「…女の子なら歓迎なんだけど、男は、なー…」
 ジャミールのぼやき。ティーの逆側の隣は見知らぬ中年の男。だが逃げ出したくとも移動できない。気付けば列に並んでいる状態だったのだ。あとは列に従って進んでいくしかない。
「なんかいい匂い、する、なー?」
 ただよう食欲を刺激する香りにティーが鼻を鳴らした。
「生姜の?」
 返って来るのは冗談めかした言葉。
「生姜食う?」
 そこまで言ってから二人で顔を見合わせた。第三者が聞いていれば「なんのことやら?」と首を傾げられそうなくだらない会話だが、なんとなく楽しければいいのだ。
 暫く列に並んで歩いていると社殿が見えてきた。
「って……」
 コツン…何かがティーの後頭部にぶつかった。足元に転がったのは…。
「小銭?」
 なんで金が…なんて思ったら頭上を硬貨が飛び交っている。
「な、に…あれ」
 ジャミールも気付いたらしく、空を見上げている。
「俺もやりたい」
 面白そうだと思ったのであろう、ジャミールがティーの袖を引っ張った。
 言葉だけではなく目も雄弁に「やりたい」と語っている。引っ張られた袖、ティーはその意味をわかっていた。ジャミールは基本財布を持ち歩かない。だからあれをするためにはティーの協力が必要であった。尤も何時もの事なのでティーからしてみれば相変わらずだなぁ…なんて苦笑を零すくらいの話である。そういうところを含めてジャミール・ライルなのだ。
 だが、真似をする前にこの行為が一体何を意味するのかを知りたい。『お正月』のこともだが、そういうところはきっちりさせておきたいのだ。
「ちょっと待った…」
「ティーちん、真面目だよね〜。そういうとこ」
 周囲を見渡すティーの意図がわかったのだろうジャミールも一緒になって探してはくれる。ただ字が読めないので戦力とは言いがたい。
「あ…」
 賽銭箱の隣に『参拝の方法』と書かれた図入りの看板を見つけた。
「えーっと…」
 背伸びして内容を確認。どうやら箱の中に賽銭を入れた後、手を合わせ願い事を言うらしい。ジャミールにもその内容を伝え、ついでに五十文渡す。
 どうせならということで最前列に行ってから賽銭を投げる事にした。
 普段、振りかぶって貨幣を機会なんてそうそうない。普段できないことができる、というのはそれだけで中々楽しいものだと振りかぶった。横を見ればジャミールも五十文手にはしゃいでる。
「あ〜…あの子、可愛い」
 かと思えばそんな耳打ち。賽銭箱の向こう側、社殿にいる巫女のことを言っているらしい。ジャミールの格好が目立つのであろう。此方に気付いた巫女にジャミールが手を振る。
「願い事終わったなら、行くよ。後ろ、詰ってる」
 マフラーを引っ張り脇道へと逸れた。

 列に並んでいる間は気付かなかったが、参道の脇にはいくつも屋台が並んでいる。これが食欲をそそる匂いの正体だ。
「おっ、屋台出てるぞ、なんか食うかー?」
「おー、食おう、食おう」
 異議なしとばかりに同意するジャミール。賽銭と同じく当たり前のように彼にご馳走するつもりであった。
 人混みから解放された途端、寒くなったのかジャミールから「あったかいものー」というリクエストも上がる。
「温かいもの、なぁ。……あれはどうだ?」
 『甘酒』と書かれた幟。呑んだ事はないが『酒』とあるからには体があったまりそうだ。
 屋台の親父に甘酒を二つ頼む。一口飲んだときに二人顔を見合わせた。
「「生姜…!」」
 互いの声が重なる。「うちのは生姜入りだから体が温まるよ」とは店主。
「やっぱり、ほら、アレだ。体温めるために生姜を、食べる祭り?」
 では先程賽銭を投げた相手は生姜の神様なのだろうか。とりあえず神様の正体はおいといて確かに体がぽかぽかとしてきた。
 その後も屋台を見て回る。屋台は食べ物だけではなくお面や風船など玩具を扱っていたり、射的など遊戯を提供しているものもあった。
「これとかうまそうべ?」
 焼いた肉を薄く切り麺麭で挟んだものをジャミールが指差す。一度肉を挟んでから更に麺麭を焼く、狐色の表面がなんとも美味しそうだ。それを一つ買い、隣の屋台でティーは並んでいる時に惹かれた香ばしい匂いのたこ焼きなるものを買う。
「…!!」
 丸々一つ口に入れ、後悔した。熱い、とてつもなく。はふはふと蒸気のように口から漏れるまっ白い息。ジャミールが差し出してくれた枡酒で一気に流し込んだ。
「…新手の罠かと思った……」
 舌がひりひりと痛む。しかし二つ目、注意して食べれば外はカリっとして中はトロリそれにソースの味が絡み、中々に美味しいということがわかった。
「それ美味い?」
 じっとジャミールの視線がたこ焼きに注がれる。
「お? 俺のも食いたい? ほら、残りやるから…」
 視線に気付いたティーが半分残し皿を差し出す。
「一口、一口」
 あーん、とジャミール。
「………」
 思わず固まるティーにジャミールが首を傾げる。それから「あぁ」と頷いて食べかけの麺麭を差し出した。
「俺のもあげるから。はい、あーーんって…」
 ずいっとティーの口元に麺麭が迫る。
「………」
「あーーん」
 たこ焼きの皿片手に押し黙ったティーが体を小刻みに震わしそして…。
「だぁああああ!」
 と爆発した。
「だから、あーんは恥ずかしいっつーの」
 顔が熱い。多分先程一気した天儀酒のせい…ではない、わかってる。公衆の面前で男同士であーんなんてとてもじゃない、と首を景気良く振った。
「えー、そぉ?」
 麺麭越しにジャミールは首をかくんと傾げる。
「ライルが良くても俺が…良くないっ…。ほら、あそこの…」
 近くの屋台の横で立ち話をしている女の子達を指差す。
「あそこの女の子にしてあげなさい!!」
 皆可愛いでしょ、女の子好きでしょ、と赤い顔で懸命に訴えた。
「いやいやいや、俺はお前の食ってんのが欲しいんだって…? だから一口ずつ交換…」
 OKと、逆に諭された。
「………」
 暫し無言で互いの顔を見る。友達と散歩がてらふらついていただけなのに、なんの試練だろうか。しかしジャミールに他意が無いのもわかっている。単に自分が恥ずかしいだけなのだ。
 ぐっと手の甲を頬に押し当てた。冷たい手が気持ち良い…と思うくらいに頬が熱い。
「ほら、冷めちゃうってば…早く」
 急かされる。
 心を決めた、よしこれは酒のせいにしてしまおう、と。天儀には「無礼講」なんて言葉もあったはず。酒の席なら仕方ないのだ。
 深呼吸。そして一口麺麭を齧った。
「あ…美味しい」
 だろ、と何故かジャミールが得意そうだ。
「じゃあ、今度はそっち」
 再びあーんと開いた口にたこ焼きを入れてやる。やってしまえば案外簡単なことだ……ったかもしれない。
「美味いな。そして生姜だな」
「うん、生姜…」
 たこ焼きの中に入っていた紅生姜のことだ。やはりこれは生姜を食う祭りなのだろうか…。
「そういえば、ライルは願い事何にした?」
「願い事ー…。それ誰かに言ったら叶わないって誰か言ってるの聞こえたけど。ティーちんは?」
 麺麭を齧ったまま視線だけ向けられる。
「言ったらだめ、なんだろう。………」
 コホンと咳払い。
「今年もよろしくなっ」
 トンとジャミールの肩に軽く自分の肩をぶつけた。
「はいはい、よろしくねー」
 戻ってくるのはおざなりな返事。だが此方を見るジャミールの目は笑っている。
 きっと今年一年もこんな感じなのだろう。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名       / 性別 / 年齢 / 職業】
【ic0451  / ジャミール・ライル / 男  / 24  / ジプシー】
【ic1019  / ティー・ハート   / 男  / 20  /  吟遊詩人 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
この度は発注頂きまして本当にありがとうございます。桐崎ふみおです。

お二人の初詣いかがだったでしょうか?
果たして「お生姜つ」の誤解は解けたのか大変気になります。
今回はお二人での申し込みを頂きましたのでオープニング以降はそれぞれ視点を変えさせて頂いております。
イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
winF☆思い出と共にノベル -
桐崎ふみお クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2014年01月14日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.