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『おしょうがつ? 』
ジャミール・ライル(ic0451)


 花見、七夕、夏祭り、お月見、ハロウィン、聖夜祭、文化の交差点とも言える神楽の都では一年を通して様々な祭りが行われている。そのどれもが賑やかで華やかだ。だがやはり一番街が活気付くのは新年、正月ではないだろうか。
 家々の玄関には注連飾りが飾られ、ちょっと大きな家や商店の入り口前には門松が並ぶ、晴れ着姿の人々が通りを闊歩し、お囃子の音とともに歯をカチカチ鳴らして獅子舞が現れる。
 街全体がお祭り気分に浮かれてる、そんな雰囲気であった。

 ピュウと音を立てて空っ風が吹き抜けていく。昨晩から今朝にかけて降った雪のせいでとても冷たい風だ。ジャミール・ライル(ic0451)は無言で肩から掛けているストールを引き寄せた。そしてマフラーを口元まで引っ張り上げる。口を開いて体の中につめたい空気を取り込みたくない気分だ。
「さっぶい」
 背後から声が聞こえティー・ハート(ic1019)にマフラーを引っ張られた。
 更に数度マフラーを引っ張られる。
「さっむ…」
 何か言おうと思ったが口から出たのは端的に現在の気持ちを表す言葉のみ。悴んだ手を擦り合わせ吐息で温める。それでも指先は冷たいままだ。
 本当に天儀の冬はおかしいのではないか、とアル=カマル生まれのジャミールは思う。その天儀の冬に文句の一つでもつけてやろうかと思ったが、結局口から出たのは先程と同じ「さっむ」の一言。
 もう寒さで何もかも動かなくなってきたわーなんて遠い目をしていると何時の間にかティーにもふもふと体を撫でられていた。
「いやも、こっちの寒さマジヤバイんだって、いっぱい着てなきゃまじ死ぬもん」
 ティーに向けた顔は真顔。表情筋もどうやら凍り付いたようだ…いやそれは冗談だが、それくらい洒落にならない寒さである。開拓者は神楽の都に住まなくてはいけない、とか決めたのどこのどいつだよ…そんな悪態を心の中で吐く。
「…それにしても……っ」
 周囲を見渡していたティーが後ろから人にぶつかられバランスを崩した。まあ、運動神経は良いから転ぶ事は無いだろう、何より一度袖にしまった手を出したくは無いと「大丈夫かー」と声だけかけて、脇にそれた彼の元まで行く。
「…なんか今日、人多くね?…こわっ」
「あー…?」
 言われてジャミールも周囲を見渡す。確かに人が多い。
 神楽の都は人口の多い街だが、今日はそれにしても人出が多い。普通に歩いているはずなのに人にぶつかってしまうほどだ。
「そーいやそうね、豪華な服着てる人多い気が…なんかお祭りかな?」
 しかも道行く女の子もいつもより華やかな格好をしている。
「かもな。なんか店の前に同じような飾りぶらさがっているし」
 がらり、と音を立て背後の店の戸が開く。店主であろうか恰幅の良い初老の男が出てきて、壁に何か書かれた紙を貼り付ける。多分文字だ。自信はないが…。
 ティーは少しばかり天然が入っているが根は真面目な青年である。きっとこの賑わいの正体が気になったのだろう、店主に話しかけに行った。
 …となると自分が手持ち無沙汰になる。
「…お?」
 丁度人待ちの風の女の子と目が合った。綺麗に着飾り、化粧もばっちりだ。手を振れば向こうも応えてくれる。
「可愛いー。 ねぇ、今からどっか遊び行くの?」
「お兄さん、開拓者さん?」
「そー、そー。こっちの冬寒いなぁー。 マジ死にそう」
 そう言って肩を多少大袈裟に震わせると女の子が笑う。
 女の子との会話が盛り上がっていたために背後にティーが忍び寄ったことに気付かなかった。
「よし、行こうか…!」
 妙に押さえた調子のティーの声とともに、背中を冷たい何かが滑り落ちる。
「ひぁあっ」
 ジャミールが背筋を反らして悲鳴を上げた。全身鳥肌立つ…いや確実に心臓止まったと覚悟を決めた。
「いやいやいや…」
 ぐるりとティーへと振り返る。視線より下にある彼をジト目で睨んだ。
「行こうかじゃねぇべ?」
 にこりと全開の笑顔と共に妙に明るい爽やかな声。
 少しの間、二人で見つめあう……。
「さむいっ」
 ベシっとティーの脳天にチョップを落とした。勢いでウサギ耳が跳ねる。もふもふと温かそうだ。冷たい手でこっち握ってやればよかったかな、と思う。
「…で、なんだったのー」
 笑顔で女の子を見送った後、ティーに尋ねた。
「え?」
「いや、だからー、ティーちん、聞いてきたんでしょ」
 この状況のこと、と通りを往来する晴れ着姿の人々を視線でぐるりと一囲み。手は再び袖の内側にしまっている。外気に触れる面積は少しでも少なくしたい。
「お、生姜つ? お、生姜食う?」
 返ってきた答えはなんとも奇妙なものであった。
「なに…生姜?」
 ティーもジャミールと同じように「なにそれ」と思ったのかもしれない、なんとなく曖昧な頷きを返す。
「寒いから的な…アレなの? こっちの風習的な? ほら、なんだっけ…天儀だとハロウィンに南瓜食べる、みたいな?」
 どこかの女の子の家に遊びに行った時、これを食べると風邪を引かないとかなんとか言われて南瓜を出されたような、なかったような記憶。何にせよよくわからない行事なのは確かだ。
 さして目的のある外出ではなかったので人に流され歩いていると、次第に人口密度が上がってきた。そして道の行き当たりに見える朱色の鳥居。どうやらこの流れは神社へむかっているようであった。
 『生姜つ』とはなにか、そんな興味もあったので流されるままに鳥居をくぐる。参道は常に隣と肩が触れ合うほどに人が沢山いた。
「…女の子なら歓迎なんだけど、男は、なー…」
 ジャミールがぼやく。隣に並んだ中年男の頭が時折寄りかかってくるのが気になった。寄りかかってくるなら断固女の子に限る。だが逃げ出したくとも移動できない。気付けば列に並んでいる状態だったのだ。あとは列に従って進んでいくしかない。
「なんかいい匂い、する、なー?」
 ただよう食欲を刺激する香りにティーが鼻を鳴らす。
「生姜の?」
 香ばしい匂いだがあえてそんな風に返した。
「生姜食う?」
 そこまで言ってから二人で顔を見合わせる。第三者が聞いていれば「なんのことやら?」と首を傾げられそうなゆる〜い会話だが、ふんわりそんな感じでいいのだ。堅苦しいのは肩が凝る。
 暫く列に並んで歩いていると社殿が見えてきた。
「って……」
 ティーが後頭部を押さえる。何かがぶつかったらしい。
「小銭?」
「な、に…あれ」
 見上げれば青空バックに飛んでいく硬貨。前に進めば進むほど皆いそいそと財布から硬貨を取り出して投げる準備をしている。よくわからないが楽しそうだ。楽しそうならやってみなくてはならない。
 ただ生憎ジャミールは財布を持っていない。財布を持ち歩くという習慣は一切無かった…。
「俺もやりたい」
 と、ティーの袖を引っ張った。お金関係はティーにお願いする気満々だ。ジャミールは彼がそれくらいで怒ったりしないことを知っている。
「ちょっと待った…」
 しかしティーはそれに待ったをかける。まあ、検討はついている。気になるのであろう、この硬貨を投げるという行為の意味が。さっきも人出が多いことを気にしていたし。
「ティーちん、真面目だよね〜。そういうとこ」
 ティーと一緒になって、ジャミールも周囲を探した。だが字が読めないためにただぐるっと周囲を見渡した程度で終わってしまったのだが。
 ティーが説明の看板を発見したらしく声を上げた。
 そして五十文をジャミールに渡しながら説明してくれる。『サンパイ』とやらのやり方を。
 どうせならということで最前列に行ってから賽銭を投げる事にした。
 五十文を握り振りかぶって放つ。高く投げた貨幣は屋根にぶつかって落ちてきた。自分が投げた五十文は次から次へと降ってくる貨幣に紛れてあっという間に見えなくなってしまう。
 投げ入れられた賽銭から視線を上げていくと社殿の奥にいる巫女が目に入る。黒髪に白い肌が映える綺麗な子であった。
「あ〜…あの子、可愛い」
 こそりとティーに耳打ちした。ジャミールの視線に気づいて微笑む巫女に手を振る。
「願い事終わったなら、行くよ。後ろ、詰ってる」
 しかしマフラーを引っ張られ脇道へと連れて行かれるのであった。

 列に並んでいる間は気付かなかったが、参道の脇にはいくつも屋台が並んでいる。これが食欲をそそる匂いの正体だ。
「おっ、屋台出てるぞ、なんか食うかー?」
「おー、食おう、食おう」
 ティーの提案に一も二もなく乗った。ジャミールに断る理由は無い。だが財布は持っていないので奢ってもらう気満々である。
 人混みで汗をかいたせいだろうか風がふくと背筋がぞくりと寒い。ジャミールはストールをしっかりと羽織りなおした。
「あったかいものーがいい」
「温かいもの、なぁ。……あれはどうだ?」
 奢ってもらう上にリクエスト。だがティーは律儀に温かいものを探してくれる。
 そして見つけてくれた甘酒。差し出された湯呑から漂う甘い香。一口飲む、独特の舌触りの飲み物だ。そして…。
「「生姜…!」」
 互いの声が重なる。「うちのは生姜入りだから体が温まるよ」とは店主。
「やっぱり、ほら、アレだ。体温めるために生姜を、食べる祭り?」
 ジャミールはあったかぁ〜と湯呑を両手で包み込む。
 その後も屋台を見て回る。屋台は食べ物だけではなくお面や風船など玩具を扱っていたり、射的など遊戯を提供しているものもあった。
「これとかうまそうべ?」
 焼いた肉を薄く切り麺麭で挟んだものをジャミールが指差す。一度肉を挟んでから更に麺麭を焼く、狐色の表面がなんとも美味しそうだ。ティーはそれを一つ買い、隣の屋台で自分用にもなにかを買っていた。小さな丸い団子のようなものが皿の上乗っている。その香ばしい香りは列に並んでいる時に嗅いだものだ。『たこ焼き』というらしい。
「いただき〜」
 麺麭をガブリ。横ではティーが悶絶していた。口から真っ白い湯気を出している。
「え…ちょ、ティーちん、どうしたの、これ、これ呑んで…」
 近くの人が持っていた枡酒を拝借するとティーに渡す。
「…新手の罠かと思った……」
 冷酒で一息ついたティーがしみじみと呟く。べぇと冷気に晒すように舌をだしている。火傷したのかもしれない。
 しかし果敢にも二つ目に挑む。今度は慎重に。そして目を瞬かせた。
「それ美味い?」
 ジャミールがたこ焼きをじっと見つめる。
「お? 俺のも食いたい? ほら、残りやるから…」
 視線に気付いたティーが半分残っている皿を差し出した。
「一口、一口」
 あーん、とジャミール。
「………」
 思わず固まるティーにジャミールが首を傾げる。それから「あぁ」と頷いて食べかけの麺麭を差し出した。
「俺のもあげるから。はい、あーーんって…」
 デッカクいって良いから、と麺麭をティーの口元に。
「………」
「あーーん」
 たこ焼きの皿片手に押し黙ったティーが体を小刻みに震わしそして…。
「だぁああああ!」
 と爆発した。
「だから、あーんは恥ずかしいっつーの」
「えー、そぉ?」
 ティーはあまり表情を変えるほうではない。だから顔が赤いのを、ジャミールは酒のせいかと思った。ジャミールに「あーん」が恥ずかしいという発想はなかった。「あーん」をしたいかしたくないか、それだけだ。
「ライルが良くても俺が…良くないっ…。ほら、あそこの…」
 慌てた様子でティーは近くの屋台の横で立ち話をしている女の子達を指差した。
「あそこの女の子にしてあげなさい!!」
 皆可愛いでしょ、女の子好きでしょ、と赤い顔で懸命に訴える。
「いやいやいや、俺はお前の食ってんのが欲しいんだって…? だから一口ずつ交換…」
 ジャミールは今、ティーの食べているたこ焼きが食べたいのだ。どうしてそれがわからないのー?と首を傾げる。
「………」
 暫し無言で互いの顔を見る。ティーが頬に手の甲を押し当てていた。一体なんの呪いだろうか。
「ほら、冷めちゃうってば…早く」
 熱いうちが美味いに決まっている、とティーを急かす。
 ティーが何か決意したように深呼吸し一口麺麭を齧った。
「あ…美味しい」
 だろ、と得意気に頷くジャミール。
「じゃあ、今度はそっち」
 再びあーん。漸く待望のたこ焼きが口の中にやってくる。
「美味いな。そして生姜だな」
「うん、生姜…」
 此処にも生姜が入っていた。やはりこれは生姜を食う祭りなのだろうか…。まあ、温かくなるならいいのだ。
「そういえば、ライルは願い事何にした?」
「願い事ー…。それ誰かに言ったら叶わないって誰か言ってるの聞こえたけど。ティーちんは?」
 ティーに聞き返した。
「言ったらだめ、なんだろう。………」
 コホンと咳払い。
「今年もよろしくなっ」
 ジャミールの肩にティーが軽くぶつかってきた。
「はいはい、よろしくねー」
 適当に返す。
(だってまあ…)
 此方を見てるティーと視線が合った。
(ほら…どうせ今年も、一緒だろ)
 ふぅ、と息を吐く。此方の考えている事が伝わったのかティーの耳がぴるると揺れた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名       / 性別 / 年齢 / 職業】
【ic0451  / ジャミール・ライル / 男  / 24  / ジプシー】
【ic1019  / ティー・ハート   / 男  / 20  /  吟遊詩人 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は発注頂きまして本当にありがとうございます。桐崎ふみおです。

お二人の初詣いかがだったでしょうか?
果たして「お生姜つ」の誤解は解けたのか大変気になります。
今回はお二人での申し込みを頂きましたのでオープニング以降はそれぞれ視点を変えさせて頂いております。
イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
winF☆思い出と共にノベル -
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舵天照 -DTS-
2014年01月14日

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