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『クリスマスの贈り物 〜おにーさんの突撃・めりくり編 』
百々 清世ja3082




 身を切るように冷たい風が吹き抜けていく。
 だが街は赤に緑に金銀の彩りに埋め尽くされ、暖かく華やかな雰囲気に包まれていた。クリスマスシーズンの街は、どこか人を優しい気持ちにさせる。
 ショーケースを覗き込む百々清世もその一人、なのかもしれない。
「どうせ今日も暇してんだろ? 俺ってマジやさしーわ」
 ポケットの携帯電話を取り出すと耳に当てる。
「しかも今日はちゃんと電話すんのも忘れてねぇし」
 待つこと暫し。ややあって相手が出ると開口一番、要件を切り出す。
「あ、じゅりりんー? 苺好き?」
『……は?』
「だからー。苺好きかどうかってきいてんの!」
『苺? 嫌いではないが突然何g』
「あーやっぱいいわ」
 プツン。
「まあ迷った時は両方買ってきゃいいや。半分こしてもいいし。やっぱ苺とチョコと、両方お願いねー」
 清世は人懐こい笑顔を浮かべ、店員の女の子に話しかけた。
 オルゴールのクリスマスソングが流れる店内。ショーケースに並ぶ苺ショートやチョコレートケーキは、金色の鈴と赤いリボンのついたプラスチック製の柊や、砂糖菓子のサンタや、ホワイトチョコレートのプレートで、クリスマスらしく飾られている。
 手渡された小箱を持って、清世も明るい気分で店を出た。ところで、ようやく気づいた。
「あ、やべ。もしかして行くってゆってない気がする」
 だが清世は悪い方向に物事を考えないタイプだ。
「……まあ、いるだろ」
 軽い足取りで次の目的地へと移動する。




 連打されるチャイムの音に、ジュリアン・白川は複雑な顔で立ちあがった。
 玄関ドアのノブを握る頃には、清世の声がはっきりと聞こえている。
「寒いー! 早く開けてー!!」
「わかったから、チャイムを壊すな!」
 鍵を開けると同時に、ドアの隙間から何かが突っ込んできた。
「!?」
 何やらふかふかした物で視界が塞がれる。
「あー寒い! 死ぬかと思った!!」
 パタパタとスリッパを鳴らし、清世は白川の脇をすり抜けて真っ直ぐ居間へと駆けこんで行った。玄関に残された白川は、押しつけられた物をしげしげと眺める。
「……テディベア???」
 かなり大きな茶色いクマのぬいぐるみが、つぶらな瞳でこちらを見上げていた。

「なんだねこれは」
 クマを小脇に抱えて居間に入ると、清世は既にコートを脱いで放り投げている所だった。
「テディベアー! 可愛いべ?」
「確かに可愛いが、これをどうするんだ」
「どうってプレゼントでしょ?」
 白川が怪訝な表情を浮かべる。
「何の」
 今度は清世が怪訝な顔になる。
「何のって……今渡すっつったら、クリスマスプレゼントに決まってるじゃん」
 無言で立ち尽くす白川。清世は居間を横切ってキッチンへ向かう。
「飯食った? まだ? 俺作る? ……何その顔」
「いや、余りに意外な展開に思考がついて行かなくてだね……」
 清世は下げていた大きな袋を、遠くを見る目をしている白川がよく見えるように持ちあげた。
「せっかくクリスマスなのに、誰にもパーティとか誘って貰えないじゅりりんを慰めに来たんだけど? ほら、チキンとかちゃんと買ってきてやったしー。まじ俺サンタさんだと思う」
 そこでふと、居間に続いた白川の仕事部屋が目に入った。雑然として、色々な物が積み上がっている。携帯電話もそこに放り出されていた。
「……珍しいねー、あの部屋いつもはもすこし片付いてない?」
「ああ、ちょっと色々と忙しくてね……」
 そこで白川が不意に言葉を切る。
「……。クリスマス?」
 何やら思い出したという表情。その直後、無言のままで、クマを抱えていない方の手で自分の顔を覆った。
「……どしたの、じゅりりん」
「いや、いいんだ。色々と手遅れのようだから」
「ふーん? まあいーや。皿とかここの使っていいよねー」
 清世は袋から次々とご馳走を取り出し、慣れた様子で食器を並べる。
 白川の様子が妙だったが、本人が手遅れと言っている以上手遅れなのだろう。
 だったら気にしても仕方がない。




 居間のテーブルにいっぱいの皿が並んだ。
「これは……すごいな」
 立派なチキンにお惣菜のサラダ、オードブル風に飾られた清世特製のブルスケッタ、飲み物、そしてケーキ。置き場所に困ったテディベアもテーブルを囲むように鎮座している。
「めりくりー、じゅりりん!」
 ポン! と軽い音を立てて、スパークリングワインの栓が宙を飛ぶ。
「メリークリスマス。お気遣いどうも有難う」
 何やら真面目くさった調子で、白川がグラスを見つめた。
 そういえば去年のバレンタインの頃、言っていたのだった。清世は一般的にカップルが一緒に過ごす日は敢えて女の子との約束はしないのだと。
(まあそれでここに来るということは、私に約束がないと確信しているということだが)
 尤もそれは事実なので仕方がない。クリスマスの存在すら忘れていたのだから。
「やーらしー。なにひとりで笑ってんの? あっほら、ケーキどっちがいい?」
 そこでようやく白川にも先刻の電話の内容が飲み込めた。
「君は苺が好きなのかな」
「苺も好きー。じゅりりんは?」
「どちらかというとチョコかな」
 何気なくそう言ったが、清世がちょっと困ったような表情になる。
「……君はチョコがいいのか。私は別にどちらでも構わないよ」
「半分こする」
 清世は頷くと、空いた皿に切り分けた半分を乗せた。

 スパークリングワインの酔いが回るにつれ、いつもの通り清世がひっつき虫モードに移行する。
「じゅりりんーほんとにクリスマスにパーティーするツレとかいねえの?」
 床に座り、白川の肩にもたせかけた背中に体重を乗せて、仰け反った。白川の顔がさかさまに視界に入る。
「常々疑問なのだが、世間ではそんなにパーティーなどしているものなのか? 私の周りではあまり聞かないが」
「やるよー。ケーキ食ってー、酒飲んでー。プレゼントも交換したりするしー」
「そうか。今頃の学生はそんな物なのか」
 何やら神妙な顔でグラス片手に白川が呟いた。
「やだーじゅりりんおじさんみたいー」
 清世がけらけら笑いながら、テディベアを抱き寄せて寝転がる。
「だからー、じゅりりんも俺がパーティーしてやってるべ? こうしてプレゼントも持ってきたしー」
「どうしておじさんへのプレゼントがクマのぬいぐるみなんだ」
 白川、何か引っかかっているらしい。
「えーこの部屋殺風景だし。こうゆうのカワイーじゃん? あとこうやってごろごろすんのにいいしー一緒に寝ると寂しくないしー」
 白川は一瞬、自分がクマを抱き寄せている図を思い浮かべた。そして即座にそれを破棄する。
 と、突然もふもふの感触が顔に押しつけられる。
「うっぷ!?」
 クマを退けると、入れ違いに清世が鼻をくっつけんばかりに顔を寄せてきた。
 酔いの回った目が据わっている。
「で……じゅりりんは俺になんかプレゼントねぇの?」
「えっ?」
「じゅりりんてば酷いー! こうしてやるー!!」
 清世がクマを身体の前に据え、背後から掴んだもふもふの両手で白川をポカポカ殴る真似をした。……相当酔っているようである。
 



 ソファに転がりうとうとし始めた清世を、白川が軽くゆすった。
「ほら、風邪を引くから。ちゃんと寝るんだ」
「うー……?」
 目をこすりながら清世は身体を起こす。
「まだ寝ない、飲む……っぶ!?」
 バフン!
 顔に柔らかい物がぶつかり、流石の酔っ払いも一瞬目を見張る。
「何これ……枕……?」
 いかにも真新しい枕だった。見上げると苦虫を噛み潰したような白川の顔。
「……クリスマスの為に用意したという訳ではないが、そろそろ来客用も古くなっていたしな。専用にするといい。涎を垂らそうが自分用なら気にしなくていいだろう」
 ポカンとする清世から、白川がふいと視線を逸らす。
 そこでようやく清世は気付いたのだ。白川の渋面が照れ隠しらしいことに。
「ぶ……っ!!」
「……何が可笑しいんだ!!」
 枕に顔を埋め、足をばたつかせて、清世は死ぬほど笑った。
 ――じゅりりん、ばかだろ。
 それって、なんだかんだでお泊まりを認めてるってことじゃん?

 ひとしきり笑って、笑い疲れて、テディベアと枕を抱えて清世が身体を起こす。
「わかった、寝る。じゅりりんも一緒に寝よー」
「またそれか!」
「いーじゃん、減るもんじゃないし。あったかいし」
「俺の良質な睡眠時間と精神力が減る」
 何だかんだ言いつつ、押し切られるのは既にお約束の域で。
 狭い寝床に男二人、そこに大きなテディベアが加わる。当然狭い。狭すぎる。
「じゅりりん」
「何だ」
 白川の声がぶっきらぼうに答えた。
「おやちゅー」
 ボフッ!
「むぐ!?」
「はいはい、おやちゅーおやちゅー」
 白川がクマを清世の顔面にぐいぐい押しつける。
「じゅりりん、ひど……」
 顔から外したクマを抱え、清世が怨みがましく不平を漏らした。
「ちゃんと後頭部におやちゅーしといたからな、間接おやちゅーだ、良かったな」
「……超手抜きじゃね?」
「いいから寝ろ」
 白川が背中を向けた。
(ま、いいか。今日の所は)
 新しい枕に免じて。
 清世はもふもふのクマを抱えて眠りに落ちた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / 押しかけサンタ】

同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28 / 実はチョコ派】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつも白川がお世話になっております。
今回はメリークリスマス編、お気に召しましたら嬉しいです。
それにしてもご馳走だけでなくプレゼントまでいただいて、さぞかし白川は驚いたことでしょう。
今後この部屋にクマがいるかと思うと、色々と面白いことになりそうですね。
ご依頼、誠に有難うございました!
winF☆思い出と共にノベル -
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エリュシオン
2014年01月14日

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