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『時の騒乱絵巻 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&(登場しない)


 考古学セミナー、の名目で各自サボりに精を出す者が、久遠の都・ダウナーレイス精鋭部隊の中にも実に多い。憂うべき事態である、と藤田あやこは思っている。
「うう……GLとBLの即売会を間違うとか、最低……」
 事象艇『蕗』号内部。
 腐女子にとっては古新聞ほどの価値もない百合本の内容を、研修報告書にまとめる作業を強いられながら、綾鷹郁が泣き言を漏らしている。
 セミナー終了後の、帰り道である。久遠の都・防衛宙域に停泊中の連合艦隊旗艦に、あと3時間ほどで到着する予定だ。
「それまでに報告書を上げておくように。サボった罰だ、しっかりやれよ」
 言い残し、あやこは仮眠室へと向かった。3時間あれば、一眠りするには充分だ。


 目が覚めたとき、蕗号はまだ宇宙を航行中であった。そろそろ旗艦に到着する、という気配もない。
「何……まだ3時間、経ってないの……?」
 眠い目をこすりながら、あやこは時計を見た。
 時計は故障していた。故障、としか思えなかった。半年後の日付が、表示されているのである。
 仮眠室を出た。
 郁が、まだ報告書を書いていた。いや、目は開いているが手は動いていない。
 郁は、目を開けたまま眠っていた。
 あやこは、郁の長いまつ毛を思いきり引っ張った。
「起きろー」
「痛……痛い痛いいたたたたっ! 何しゆうぞ!」
 涙を飛び散らせながら、郁が目を覚ます。
 そこへ、乗組員の1人が駆け込んで来た。
「た、大変です艦長!」
「何だ。旗艦には、まだ着かないのか?」
「着きません。この船は現在、漂流中であります」
 自動航行システムに不具合でも生じたのか。それはまあ、郁に修理させれば良い。
「それと、もう1つ……長期保存食以外の食料品が、腐っています」
「何だと……?」
 あやこは、郁の首根っこを掴んで立たせた。
「こんな腐った女子を、積んでいるからかな?」
「そ、そんな事言ってる場合じゃないよ艦長」
 郁が、時計の表示を指差して言った。
「ほら見て。何かよくわかんないけど、半年経ってる……」
「何だ、この時計も故障しているのか」
「故障ではありません、艦長」
 報告に来た乗組員が、青ざめながら告げた。
「食料の腐敗から判断するに……蕗号は半年間、漂流していたようであります」


 まるで戦国絵巻であった。
 自動航行システムを修理させ、どうにか久遠の都・防衛宙域に戻って来たところである。
 そこでは連合艦隊旗艦が、龍国の戦艦と交戦中であった。
 そうとしか思えない状態のまま、時が止まっている。爆炎が、飛び散る破片が、静止画像の如く空間に固着している。
 両艦の内部も、同じような有り様だ。
 連合艦隊旗艦・艦橋では、艦長の留守を預かっていた参謀が、龍国兵士に射殺されている。龍国軍の部隊が、艦橋に雪崩れ込んでいる。
 一方、龍国戦艦内では動力炉が爆発し、両国の乗員が、争うでもなく仲良く混乱中である。
 そんな状態で、全員が静止していた。
 その様が、映像となって虚空に浮かんでいる。いかなるシステムによって投影されているのかは不明だ。
「これは……一体……」
 戦国絵巻のようなその映像を、蕗号艦橋から見やりつつ、あやこは顎に片手を当てた。
「龍国軍が攻撃を仕掛けて来た……にしては、何かがおかしい。何だ、何が起こっている」
「わかんないなら、調べてみるしかないじゃない。あたし行って来る」
 駆け出そうとする郁を、あやこは止めた。
「まあ待て。両艦内部では、どうやら時が止まっている。うかつに乗り込んだら、お前も止まってしまうぞ」
「そう言いながら……あやこ艦長が手に持ってるのは」
 郁は後退りをした。
「メイド服……にしか、見えないんだけど。一体、何のつもりかな?」
「服は着るもの、に決まっているだろう」
 あやこは、さりげなく郁を壁際に追い詰めていた。
「ブルマやスクール水着に、メイド服が加わるだけだ。大した事あるまい?」


 龍国戦艦の内部で、時が止まっている。逃げ惑う乗員たちが、走りながら、あるいは転倒しかけた格好のまま、静止しているのだ。
 そんな中を、あやこと郁は歩いていた。
「やはり時空の歪みが発生しているようだな。時流の影響を受けない服装で、正解だっただろう?」
「だから何でそうなるの!」
 無理矢理にメイド服を着せられた己の身体を、不満げに見回しながら、郁が怒っている。
「何でメイド服が、時流の影響を受けない服って事になるわけ?」
「セーラー服もブルマも、時と共に古くなってゆく。だがメイド服は、いつの時代も不滅だからさ」
「不滅かなあ。そろそろ古くなり始めてると思うんだけど」
 スカートをつまんでみたりしながら、郁はまだ文句を言っている。
「セーラー服もブルマもスク水も、確かに好きで着てるんだけどさ……メイド服だけは、なぁんか違うのよねえ。あたし的には」
「贅沢を言うものではない。与えられたコスチュームは好き嫌いなく着こなすのが、ダウナーレイスの戦士だろう」
「……そう言う艦長は、何でメイド服着てないの」
 あやこのセーラー服姿を、郁がじろりと睨む。
 微笑みを返しながら、あやこは身を翻した。清楚に軽やかにはためくセーラー服が、きらきらと光に包まれる。
 その煌めきの中で、セーラー服がメイド服に変化してゆく。
「とまあ、このような感じでな。前もって重ね着しておいたのだ」
「……変身がしたかった、ってわけね」
 子持ちの女がやる事なのか、と郁は思わなくもなかった。


 龍国戦艦が、連合艦隊旗艦に戦闘を仕掛けてきた……にしては何かがおかしい。
 あやこも郁も、すぐそれに気付いた。
「怪我人……ばっかりだね」
 静止画像のように止まっている龍国兵士たちを観察していた郁が、呟いた。
 確かに、8割近くが負傷兵である。
 連合艦隊旗艦の精鋭部隊が、こんな怪我人の群れに攻撃されて、ここまで混乱するだろうか。参謀が射殺されるほど、攻め込まれるだろうか。
 攻め込まれている艦橋に、あやこと郁は足を踏み入れた。
 雪崩れ込んでいる、ように見える龍国の傷病兵たち。攻め込まれている、ように見える艦橋のオペレーター陣。両者共に、静止した時の中で固まっている。
 ……否。動くものの気配を、あやこは感じ取った。動く何かの影を、郁の目が捉えていた。
「そこ!」
 声と共に、郁が小銃を構える。
 銃口を向けられ、ビクッ身をすくませたのは、1羽の鳥だった。参謀の大柄な身体、その背中に隠れている。
 人間大の、怪鳥である。
「ま、待って……撃たないで欲しい、私は君たちの敵ではない」
 参謀の背後で翼に隠れながら、そんな言葉を発している。
「結果として君たちに、こんな災いをもたらしてしまったが……すまないと思う」
 あやこは理解した。
 龍国の負傷兵たちは、この怪鳥を追って、艦橋に雪崩れ込んで来たのだ。この鳥を、撃とうとしているのだ。端から見れば、参謀を射殺している様になってしまう。
「貴様……蟲の親類か」
 蟲。時空の闇に巣食い、時そのものを食い荒らす生物。
「あ、あの連中と一緒にされるのは心外極まるが……君たちから見れば、同じようなものだな」
 うなだれながら、怪鳥は言った。
「我らは本来、恒星に托卵するのだが、この宙域を飛んでいる最中に産気づいてしまってな。龍国戦艦の動力炉に、つい卵を産みつけてしまったのだ」
「なるほど。蟲の同族である時空生物が、龍国戦艦の動力を吸収しつつ、今まさに孵らんとしている……この辺りの時空が乱れているのは、その影響か」
「……通信記録、解析完了」
 艦橋の機器類をいじり回しながら、郁が言う。
「龍国の戦艦が、救援要請を出してますね。怪我人を乗せて航行中のところ、鳥さんの卵に動力吸い取られて動けなくなって」
 連合艦隊旗艦が、その要請に応えた。雷撃レーザーで直接、龍国戦艦の動力炉に電力を叩き込む方法を採った。
 ところが、これも時空怪鳥の卵による影響であろうが動力炉が暴走。雷撃レーザーが逆流し、連合艦隊旗艦を直撃。双方共に、大破寸前の状態で時が止まってしまった。
 怒り狂った龍国兵士の一団が、元凶である時空鳥を射殺すべく雪崩れ込んで来た状態のまま、この艦橋でも時が止まっている。
 この鳥が、こちらの艦橋に逃げ込んで来たのは、怒り狂う兵士たちを引き付けて卵を守るためであろう。
「と、いうわけ……で問題は、この鳥さんをどうするかなんだけど」
 言いつつ郁が、時空鳥に小銃を向けた。突き付けられる銃口に、鳥は抗わなかった。
「私は、撃ち殺されても良い……ただ、どうか私の卵だけは助けて欲しい。生まれて来る雛には、何の罪もないはずだ」
「……貴女も、母親なのね」
 郁に射殺許可を出さぬまま、あやこは少しの間、思案した。
「綾鷹……時を戻せ」
「は?」
「乱れた時粒子をふんだんに帯びた、この艦橋内の機材を使えば……ある程度は時を巻き戻せる機械を作れるはずだ。本命の男以外は何でも作れる、お前の能力をもってすれば」
「一言余計! それによ、そんなふうに時間を巻き戻したところで」
「同じ事が繰り返されるだけ、と言いたいのだろう? だからまず、この時空鳥にさっさと立ち去ってもらう。生まれた雛もろとも、な」
 時が止まっている、はずの艦内が揺れた。龍国戦艦の内部は、もっと激しい震動に襲われているはずだ。
 動力炉に産みつけられた卵が、孵ったのだ。
「生まれた……私の、赤ちゃん……!」
「喜ぶのは後にして、この宙域から早急に立ち去ってもらいたい」
 あやこは急かした。
「時流を乱す要因である貴女がたに、いなくなってもらう。その後で時を巻き戻せば……何事も起こらない未来が、新しく生まれるはずなのだ」


 七色に輝くひよこを背に乗せて、時空鳥が宇宙の彼方に飛び去って行く。ありがとう、この借りは必ず返す。そう言い残してだ。
 見送りつつ郁は、即席の『時空リモコン』を作動させた。
 大破寸前であった両艦が、時を巻き戻され、自己修復機能でも搭載したかの如く元に戻ってゆく。
 巻き戻しが、止まった。
 艦橋内では参謀が、オペレーターの報告を受けて命令を下している。
「参謀、龍国の艦艇が接近しています」
「領空侵犯ってやつだな。よし、雷撃レーザーをぶち込んでやれ!」
「ちょっと、何よそれ!」
 郁が叫んだ。
 うかつだった、とあやこは思った。
 時流を乱す要因であった時空鳥は、確かにいなくなった。それによって、未来は変わった。
 動力炉の暴走で両艦が共倒れになる未来から、領空侵犯とそれへの反撃によって戦端が開かれてしまう未来へと。
 雷撃レーザーは、すでに発射寸前である。止めている暇も、考えている暇もない。
 携帯通信機に向かって、あやこは叫んだ。
「蕗号、総員脱出! 自動操縦で雷撃レーザーの射線上に割り込ませろ!」
 乗員を乗せた脱出艇が、蕗号から射出される。
 それと同時に、旗艦が雷撃レーザーを発射した。
 標的である龍国艦艇の楯となる形に、無人の蕗号が突っ込んで来る。そこへ雷撃レーザーが直撃。
 蕗号は爆発した。その爆風が、龍国戦艦をいくらか揺らした。
「か……艦長!? いつから、そこに」
「落ち着け参謀。あの龍国艦には、傷病兵しか乗っていない」
 あやこは言った。
「助けてやれ。龍国への、外交的な貸しにもなる」


 セーラー服を着た藤田あやこが、キラキラと光をまといながらメイドに変身している。
 龍国の兵士たちが目を輝かせ血走らせ、それに見入っている。時空リモコンで、何度もその変身を巻き戻しながらだ。
 変身を繰り返しさせられているのは、虚像である。本物のあやこは、それを苦笑混じりに見つめている。
「私も、まだまだ捨てたものではない……という事にしておくか」
「ったく、萌豚どもが。百合本が灰になっちゃったくらいで激おこ状態なんだから」
 怒り狂う龍国兵士たちをなだめるために、郁は自信作である時空リモコンを譲渡する羽目になったのだ。
「それにしても、変な鳥のせいで大変な騒ぎになりましたねえ」
「宇宙で生きるというのは、そういう事さ。ああいう生き物とも、上手くやってゆかねばならん」 
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2014年01月20日

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