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『七つの海と一つの宝 』
加倉 一臣ja5823


 晴れた日の、この島国の海は空はとても美しい。
 絶えず吹きつづける潮風、白き翼を広げる海鳥。
 港は商船で活気に沸いて、それがまるで一つの宝であるように。


 しかし今は、そんな宝も灰色の霧に隠されていた。
「雨が近いんかな。降るなら降るで、だーっと来てほしいんけど」
「雨が降る前に、海賊船がだーっと来そうなもんだよな」
「……カズオミは、それを楽しみにしとるクセに」
「あらま。信用ないのね」
 海軍の詰所から、霧に閉ざされる海を眺めるユウマが不貞腐れていると、同僚であり恋仲のカズオミが軽いノリでその肩を叩く。
「信頼はしとる……」
 といって、どこか腑に落ちず、ユウマは唇を尖らせる。
 彼は己の正義を追い求め、海軍へと志願した。
 商船を襲う海賊たちとのめくるめく熱き戦いの日々――かと思いきや、お偉方の護衛だったりそこで耳にする腹黒い噂話だったり。
 世の中は、夢と希望だけでできているわけではないのだと痛感させられる日々で、かといって割り切るにはユウマは若い。
「お疲れちゃん、二人とも。そんなところで睨んでたって、海の女神は微笑まねーよ?」
「キヨセ、どこ行っとったん? 朝の定時報告、おらんかったやろ」
「野暮なこときかないのー」
 ウィンクを飛ばすキヨセの、緩めた襟元からはキスマークが覗いている。そういうことか。
(こんなんやのに、砲撃の腕前は立つんよなー……)
「それよか、お上が二人を探してたぜー」
「こんな時間に誰だろうな?」
 キヨセとカズオミは、所属は違えど同期入隊で気心が知れている。
 上官――それも上層部に気に入られているキヨセからの報せだ、軽いものではないだろう。
 真っ当な内容であれば、カズオミたちが所属する部隊から連絡が入るはずだ。
 それを、『キヨセが先に握っている』意味。『わかった』と、カズオミは言葉に混ぜて応じ、わからぬユウマの手を引いて執務室へと向かった。




 海を渡る技術が安定すると、人々はその先を見たくなる。未知の世界へ踏み出したくなる。
 しかし、踏み出した先で出会ったものと友好関係を築けるとは限らない。
 目にした宝は得たくなる。
 自領の宝を渡すわけにはいかない。
 かくて夢と希望と浪漫の為の技術は、争いの為に使われるようになり、
 敗者、或いは脱落者は、賊へ堕ち徒党を組み、知識を頼りに自力で這い上がり独自の力を付ける。

 今は、そんな時代。

「ハハッ。来ると思ったぜ、クソ紳士」
 霧に閉ざされた島国から、少し離れた海域で。
 接近する海賊船の旗を知り、『銀の海賊』は『金の海賊』の到着を待っていた。
「来ねえと思ってたぜ、銀髪のガキが。そんなフットワークだからレディに逃げられてばっかりだっての学習しろよ」

「…………」
「…………」

 無言で、互いに銃を突きつけ合う。
 船と船の間を、温い潮風が抜けてゆく。
 海鳥が物見台から飛び立った。
「遊び屋の言うことだ、嘘は無え。俺は『宝』が欲しい」
「奇遇だな。俺も『宝石』をアイツ等の思惑通りにしたくねえと考えた」
「しかし海軍の野郎共が邪魔だ。――邪魔する奴は喰い千切る。但し頭は働かせて、な」
「ほう?」
 金の海賊・アランは、銀の海賊・ハクシュウの言葉へ片眉を上げた。
「その為にも…… 仕方ねえ。クソ気に入らねえクソ紳士野郎、あんたと手を組みたい」
「セリフがスマートじゃねえな、減点10だ。……が、いいだろう、引き受けた。元より、そのつもりがなきゃ、わざわざ俺から出向きはしないさ」
「ちっ。だから厭なんだよ、てめえと組むのは」
 銃を降ろし、優雅に葉巻を噴かす金の海賊へ、ハクシュウは悪態を吐いた。

 昨夜。
 夜の闇と霧に紛れ、一艘の小型船が近づいた。乗っていたのは海軍に所属する『遊び屋』だった。
 奴の本音こそ見えないものだが、全てが本音だと考えれば、フワフワした態度をひっくるめて合点がいくから腹立たしい。
 なんだってそんなのが海軍にいるのかもわからないが、かといってこっちへ来られても迷惑だ。
 島から島へ、船から船へ、その日の気分で居心地のいい場所をフラフラしている青年を、今は互いに都合よく利用していた。
 それはアランとて同じようで、普段であれば縄張り争いで火花を散らす関係だが、利害さえ一致すれば背を預け共闘することもある。
 こと、海軍相手で負けたことはなかった。

「ハッ! クソ共同戦線と行こうじゃねえか」

 霧は雨や嵐へとならず、このまま晴れるというのが見立てだ。
 その前に―― 動く。奪う。宝を、この手へ。




「友好の証…… ですか」
 隣国の姫が自ら船で宝物を運び、この国へ来るのだと海軍幹部殿はユウマとカズオミへ告げた。
 海峡向こうの隣国とは海域の権利を巡っての争いが絶えることはなく、争っては金銀の海賊に利だけ攫われるということが珍しくなかった。
 それはもちろん、――今回も。
「で、俺たちが呼びだされたってことは、姫君のエスコートですか?」
 腰に提げたサーベルを撫でながら、カズオミが問う。
 答えは、否。
「『適当に』って、どういうことですかっ」
「落ち着け、ユウマ。……友好関係を結ぶ、のではないのですか?」
 幹部殿は振り返らない。
 この件は、国からの命であること。
 いずれ攻撃を仕掛ける計画であったこと。
 それ故、隣国が被る被害・混乱は自国にとって都合が良かった――
「まさに、『渡りに船』ですか」
 カズオミが鼻で笑う。
 幹部殿は、極めて冷淡に声を発した。

 これは国の命令だ、と。


 自分たち以外の兵士は皆、出航に向けて準備を進めている。
 流れへ逆行するように、ユウマ、カズオミ、そしてキヨセは詰所の廊下を進む。
 人に話を聞かれない場所で、これからについてを打ち合わせるためだ。
「守るに、適当も何も無いやろ!」
「適当に、か。それ得意よ。な、キヨセ?」
「超得意、任せとけ。侍女とか可愛い子いるかなー。オミ、見に行く?」
「…………冗談も程ほどにな?」
「そんな睨むなよ、おちびちゃん」
 ジト目で見遣るユウマへ、キヨセが制帽の上から頭を撫でてやる。
「まだ成長期や!」
 ペシッとその手を払いのけ、ユウマは決意を込めた眼差しで前を見据えた。
「海賊の手に渡せば不幸になる。なら俺の正義として、姫を守る」
「いいさ、正義感のまま警護しな」
「戦乱を楽しむんもええけど、それはそれ。カズオミ。サポート、宜しく」
 こういう時、ユウマの恋人は酷く放任主義だ。
 後ろを守ってくれているのはわかる。それでも、時折何処か、不安になった。
「俺が守りたい姫は、一人だけよ?」
「? なっ、ば、こんなところで、何ゆうて!!」
「はいはい、綺麗なお姉さんは俺一人でもらっちゃうから安心してねー」
「できるかボケェ!」
 打てば響くユウマの叫びは、裏表がなく気持ちいい。
(さて、上は隣国への損害もお望み、と。歯ごたえのある難度じゃねぇの?)
 くすくす笑いながら、カズオミはシガレットを唇に挟んだ。




 海軍の帆船は、霧の中を慎重に進んでいた。
 風が弱く、波も静か。怪しいほどの、穏やかさ。海鳥の鳴き声も聞こえない。
「……なんや、拍子抜けやな」
 姫を乗せた隣国の船と海上で落ち合い、並んで自国へと向かう途で、ユウマが呟いた。
 既に隣国の船が襲われている可能性も考えていたし、合流する瞬間も考えていた。
 が、大きな隙になるであろうそれぞれのタイミングで、海賊たちの姿は確認できなかった。
 この濃い霧の中、接近を確認するのが難しいこともあり、念入りに警戒していたというのに。
「お姫ちゃん、可愛かったなー。また顔出してくんないかなー」
「キヨセは、なんで此処におるん。持ち場、逆やん」
「えー。だって、向こうじゃお姫ちゃんの居る船室が見えないじゃん」
「そそ、いざって時に姫と宝の場所を把握できないと、ネ」
「いざって?」
 同調するように言葉を添えるカズオミを、ユウマがキョトンとした表情で見上げた。
 対するキヨセは白手袋をはめなおす。悪戯っぽく、ペロリと唇を舐めて見せて。――誰に対して?

 ドン、

 次の瞬間、船を震動が襲った。
「なっ」

 敵襲――東より、海賊旗を確認……

 物見台から連絡が響く。
「あっちはあっちで、腕利きの砲撃手がいるみたいだな。そうとう、目が良い」
「カズオミ、何を呑気な…… にしたって、たった一発で動けんくなるような船じゃ」
「ちびちゃん、しぃー」 
「……!」
 キヨセが片目を閉じて、ユウマの唇へ人差し指を押し当てる。
(船、わざと…… 海賊を待っとる……!!?)
「沈む船と心中する趣味はないのよ。砲撃なら任せろー ってな」
「キヨセ!」
「他の男の名前を叫ぶなんて、妬けちゃうわ」
「こんなときにふざけとる場合か、カズオミ!!」
「行くぜ、ユウマ。胸躍る最高の遊び相手のお出ましだ!」
「応!」
 襟元を緩め、カズオミがユウマへと視線を流す。
 それを受け、ユウマはサーベルを抜いた。白刃が輝きを放つ。
 それは、ユウマの信じる正義という名の光。




(狙った。それが一番重要だ)
 俺が狙った。その時点でそいつは俺の所有物だ。
 近づくほどに激化する砲撃戦。
 愛する船の部分部分が、砲弾を喰らっては木端となり散ってゆく。
 嗚呼、向こうの砲撃手はイイ腕をしてやがる。
 絶妙にこっちの船を『落とさない』。
「船長!!」
「吠えるな! 手を休めたら沈むぞ、クソッタレ!!」
「はっ、はい!」
 『そういうバランス』で撃ち込んでいる。
「惚れ惚れするな、遊び屋の奴め」
 カラカラとハクシュウが笑う。
「さあ、ド派手なゲームの幕開けと行こうか! どこぞの船長に遅れんじゃねえぜ!」
「聞こえてんだよ、クソ紳士!!」
「わめくな、わめくな」
 船の規模を比較すれば海軍が優る。
 しかし、こちらは『的』二つ。船の足も、海軍のそれより此方が速い。
 撃ち合いをしている間に追いつき、追いつく前に横っ腹へ穴を開けてしまえば此方のペース。
 金と銀、二艘の海賊船が砲撃の合間を縫い、宝を積んだ船へと接近してゆく。
「向かう先は敵ばかり、では無しにしろ…… 下手は打てねえ。覚悟の上だな?」
 ハクシュウが先を行くのを確認し、アランはチラと視線を後ろへ投じた。


「案の定の警備態勢だな」
 海賊船が、海軍の船へと接舷する。
 ハクシュウ、アランが声を号令を発し、海賊たちが雪崩れ込んで行った。
「攻撃態勢の間違いだろ、ハナから俺たちが来ると読んでやがる」
 『友好の証』という割に隣国は姫の護衛がやたら多く。
 お出迎えの海軍も然り、だ。
「俺が海軍でも、そう考える」
「確かに」
 軽い口調で会話を飛ばし、弾丸が切れる傍から新たな銃を引き抜いてはハクシュウとアランが前線を押し上げる。
 友好ついでに、近海の海賊を撃破できれば更なる宝の追加――? 
(『現実』は甘くねえ。宝石のように美しくなんぞない)
 アランは知っているから、目を細めては兵士を撃ち落とす。
 何も知らず、飼われる気の毒な軍人ども。
 正義? 友愛? 忠誠?
 それらの流れ行きつく先を、知りもしないで愚直に戦う愚か者。
 海の広さを、知りもしないで。
「乾いてやがる。潤いが足りねえな」




「一匹ずつでも厄介やのに群れよって。まとめて沈めたるわ」
 基本に忠実な剣筋で、接近を許すことなくユウマの刃が海賊へ斬りつける。
 2、3……4人を倒したところで、銃声が耳元を駆け抜ける。
「ユウマ。向こうは飛び道具も持ってるんだ、顔は上げとけ」
「……ありがと」
 銃を引き抜いた海賊の、その背を斬り伏せたカズオミが、続けて側面へと蹴りを入れながら注意を。
 そのまま二人は背を合わせ、混戦の前線を守り抜く。
(ワンサイドゲームより長く愉しめる方が好みでね。損害は、出来るだけ均等にってな)
 ユウマの背面。彼の死角で、カズオミは戦況をグルリ見渡す。
 海賊の襲撃を待ち構えていた海軍に、心理面での動揺は少ない。
 むしろ、友好を結ぶための姫を護衛していることから士気は高まっている。一方的に奪われてエンド、とはならないだろう。
「ちょっと、ここ頼むわ」
「おう、……カズオミ?」
「俺を信じろー」
「軽いな!?」
 といって、振り返り止める余裕などユウマにはない。
 海賊たちの手から離れた銃が床に散らばり、血の匂い、汗の匂い、火薬の匂いを霧が吸い取ってゆく。
(金と銀の海賊は、倒すべき悪……。俺らの国を、海を、汚させへん!! ここで、仕留める!)
 一進一退の攻防、切り込むのならこの剣で――!

「見ねえツラだな」
「お前は……!」

 弾切れの銃を放り、腰に提げた幾つもの中から新たな得物を手にして。
 銀の海賊が、ユウマを見下ろした。




「これでイーブン。ま、宝は守るか」
 サーベルを一振り。付着した血を払い、カズオミが口の端を歪める。
(おたくに恨みはないが、今後の邪魔になりそうなんでね)
 胸を一突きにされたのは、海軍幹部の一人だった。
 白兵戦の混乱に乗じての、始末。

「……こいつは、面白い場に居合わせたな」
「アラン」

 忍び寄る気配に顔を上げると、灰色の空を背景に金の海賊が居た。
 二つ名通りの、美しい金髪をさらりと揺らし、銃口を突きつける。
「よぉ、カグラ。それにキヨセ。久しぶり、と言っとくか?」
「……」
「……こっち見んなって、海賊と知り合いだってバレたら困るのお前もだろ」
 駆けつけたキヨセへカズオミが視線を送る、『遊び屋』である砲撃の名手は笑い一つで誤魔化した。
「金と銀のが連携するだろうとは思ってたが、同時攻撃には少し驚いたな」
「美しいレディの為に、男は幾らだって躍るのさ」
「なるほど」
 アランの口ぶりから、恐らくハクシュウも当人の知らぬ形で躍っているのだろうとカズオミは察する。
「乾いた世界が潤うなら、それ以上愉快な事はない……ってな。お前らは御同類だと思っているが」
「そいつは光栄」
 血の匂いを纏う、海軍と海賊。
 しばし鋭い視線を交わし、そして……




 霧が晴れ、海上に光が差し込み始めた。

「もう、やめてください……!」

 血で血を洗う戦いの場へ、そぐわぬ可憐な声の花が咲く。
「姫! どうして、ここへ!!」
 ぎょっとしてユウマが振り向く。ハクシュウが口笛を吹いた。
 聞きしに勝る、美しさだ。
「幹部殿が殺された。これ以上、俺たちが戦ったところで結果は見えてる。司令塔を喪った時点で俺たちの負けだ、ユウマ」
「な……! カズオミ、それ、ほんまなん……」
(俺の傍、途中で離れたんは頭が狙われるってわかっとったからか……)
 その辺りの機転が、自分には足りない。
 いけすかない上官ではあったが、だからといって喜ぶわけにもいかず、ユウマは呆然とした。
「ちびちゃん、ちょっと耳かしてー」
 姫の両脇を固めるのはカズオミとキヨセ。キヨセが進み出て、ユウマに耳打ちする。
(……え、まじでか)
(まじで。考えてみ、あんな可愛い子が、籠の中で一生過ごすなんてかわいそーじゃん?)
(じゃん)
「なーにコソコソ話してんだよ。そうだな、あんたがコッチへ来るっていうなら、考えないでもない」
 顎を撫で、値踏みするようにハクシュウは姫へ呼びかける。あと十年も経てば彼好みの美女になるだろう。
 その後ろで、アランが小さく頷いた。
「金と銀の海賊が、女一人で手を打つと?」
「その『女一人』で、お前らの国は傾くんだろ? 紳士的な申し出だとは思わねえか」
「……俺の正義は人の幸せ最優先。一応、建前として宝だけ海軍に貰っていいかな」
「正義! ハッ! 正義!! 耳障りの良い言葉を吐くな、少年兵」
「ユウマ、や! 命拾いしたな海賊、次会う時は海の底への招待状やるわ」
「……ハクシュウだ。覚えときな、ルーキー。おい、カズオミ。部下の教育はしっかりしとけよ」
「ははっ。……また遊ぼうぜ?」
 冷たい視線を恋人から受けつつ、カズオミはヒラリと片手を挙げた。




 かくて、美しき隣国の姫は海賊に奪われ、友好の証たる宝物と将校の死体が海軍には残された。

「姫は家柄を代償に自由を、海賊は宝を代償に隣国から姫の身代金を。
我が国は優秀な人材を喪った代償に隣国への義理と金銭的損害を。大団円だな」
 霧が晴れ、コバルトブルーの空が広がる先に、愛しき祖国の港が見える。
 潮風に髪をなびかせ、カズオミがのんびりと口にした。隣には、何処か釈然としない面持ちのユウマ。
「事後処理は任せろ。……オミはアレの件、黙っといてやるから貸一な」
「サーンキュ」
 肩を叩いて去るキヨセの、その手へ愛用のシガレットを一束、カズオミは握らせて見送る。
「姫さんの希望が海賊側なんは、驚いたわー……。幸せになれるとええな」
「そこは、さすが『銀の海賊』アラン、といったところだな」
「? どういうことや、カズオミ」
「んー。大人のヒミツ。さ、国へ戻ったら忙しくなるぜぇ」




 財宝を持ち帰ることが出来ず、不平を漏らす部下たちをハクシュウが笑い飛ばした。
「いつ財宝が狙いだと言った。……これを見な」
 姫の身柄と同時に、引き渡されたのは財宝に紛れた『秘密の文書』。
「ふん、隣国からの、海軍攻撃計画に関する指示書、か。色気はねえが、金にはなる」
 片手で開き、それからコートの内側へ戻す。
「どうやらまた近い内に会う事になりそうだぜ、海軍諸君に紳士野郎」
 とんだ『友好の証』のやりとりだこと。
「……で、お姫さんはっと」
 アランの船へ引きとられた姫の様子を、ハクシュウは伺った。
 ――からの、己の目を疑った。


「身代金は、頂戴する。それまでの間は大人しくしてもらう必要があるが…… できるな?」
「……なんと、お礼を言ったらいいか」
「この船に居る間は、この男はこの船の乗組員だ。仲間だ。だから、命は保証する。が―― あとは、覚悟しておくんだな」
 姫が、『海賊側』を望んだ理由。
 籠の中の鳥が、自由な空を求めるのは自然な流れなのかもしれない。
 美しく囀る声も、羽も、潮風にさらされ荒れてしまったとしても、抱いた憧れは止めることができないのだろう。
 『駆け落ち相手』の背を強く叩き、一度、鋭い眼光でアランは問うた。
 若者は、決意を込めた表情で頷きを返す。
 船を降りたら――陸へ戻ったら、次に会う時は獲物とされる。
 恩義も何もかも、リセットされる。
 それが、恋人たちの代償。過去を捨て、確かな保証何一つない未来を、手にするのだ。

「アラン!!? なっんっだっ、それは!!!!」
「はっ。銀髪野郎に分け前? ねえな。次逢う時はあの世へ招待してやるよ」
「このっ……」

 スイ、アランの船がスピードを上げて離れてゆく。
 銀の海賊の罵声も、金の海賊の軽やかな笑い声も、全ては波間へ吸い込まれてゆく。
 海鳥が白い翼を広げ、自由に空を旋回していた。その両腕に、美しき宝石を抱くかのように。




【七つの海と一つの宝 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja6901/ 小野友真     / 男 /18歳/ 海軍】
【ja5823/ 加倉 一臣    / 男 /27歳/ 海軍】
【ja3082/ 百々 清世    / 男 /21歳/ 海軍】
【ja7030/ 赤坂白秋     / 男 /21歳/ 銀の海賊】
【ja8773/アラン・カートライト/ 男 /26歳/ 金の海賊】

魔法のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年01月24日

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