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『二人の正月 』
ALjb4583

 時は元日。
 普段は閑散としている神社の入り口には今日、絶え間なく人が行き来をしている。
 AL(jb4583)は、時間を十分に確認したうえで、通行人の邪魔にならないよう、待ち合わせの鳥居の傍に立っていた。
 慎重にあたりを見回すが、どうやら、自分が先に到着したようだ。まずはホッと一息。今回待ち合わせている相手は、女性だし、尊敬する人物だ。待たせたとあっては一生の不覚。職業柄もあって、ついALはそんな風に考える。
 そうして、待ち合わせ場所に立ちながら、人々の往来にじっと目を凝らす。この人混みの中、見落とさずにいられるだろうか……?
「……あ」
 懸念は杞憂に終わった。
 通りゆく人々の中に紛れてしまいそうな小柄な姿なのに。鮮やかな着物姿がALの目にはくっきりと浮かび上がって見えて、思わず声が漏れる。
 そうして、自分が声を上げたタイミングに合わせ、視界に写る彼女もこちらへと顔を向けた。
 間違いない、今日、ALを初詣に誘ってくれた待ち合わせ相手、猫野・宮子(ja0024)だ。
 こちらに気がついて、彼女の方から近づいてくる。
「ALくんっ、あけましておめでとうっ……」
 大声を出さずとも聞こえるほどの距離まで近づいたところで、宮子が声をかける。
「はい。……宮子様、明けまして、おめでとうございます。……」
 明るく声をかけてきた宮子に、こちらも丁寧に挨拶を返そうとしたのだが、近くで見る宮子の姿に、思わず言葉が詰まった。
 鮮やかな振り袖。柄は……彼女らしく、やっぱり猫か。失礼にならないように気をつけて、そっと全身を確認する。
「あ、うん……頑張って振袖着てみたけどどうかな? ちょっと恥ずかしいけど……」
 ALの様子に気がついた宮子が、気恥かしそうに感想を求めてきた。
「はい。とてもよくお似合いです。……その柄も素敵ですね。正直、驚いてしまいました……」
 お世辞でも何でもない、素直な感想だった。
 なるべく穏やかに言ったつもりだが、正直、少し声が緊張してしまったと思う。
「えへへっ……」
 幸いなことに、宮子はALの答えに気を悪くはしなかったようで、照れ気味に笑うと、軽快にくるりと身を回した。
「それじゃ、行こっか?」
 そのまま、参道へと向きを変えた宮子がそう、声をかけてくる。
「はい。参りましょう」
 大勢の人がひしめきあう参道を見て、小柄な宮子は少し不安そうに見えた。その不安を少しでも拭い去れたら、と、しっかりした声で応えると、二人は歩きはじめた。

 気をつけていたつもりだが、ALも決して体が大きい方ではない。人の流れに身を投じると、思った以上に身動きが取れなかった。
 まず、どうにか自分の体勢を整えたところで……宮子の背が、道行く人に押されるのが見えた。
 たたらを踏むようにニ、三歩。宮子の身体が急に前に進む。
 ……離れる!
 反射的に手を伸ばした。
 遠くへ行ってしまったと、伸ばした手が掴もうとしたものは、だけど、すぐそこにあった。
 振り向いた先。視線が合う。きっと自分と同じように慌てたんだろう宮子の顔。
 それから、やっぱり、自分と同じように伸ばしてくれた掌が。すぐ、傍に。
 触れ合った二つの掌は、ごく自然に結ばれていて。
 そのことに戸惑う間もなく、人の列はなおも二人を押し流していく。
 流れに合わせて、二人は進む。繋いだ手を、握ったまま、数歩。
 ……。
「あ……うん、逸れたらいけないもんね。うんっ」
 戸惑い、振りほどくこともしっかり握りしめることも出来ずにいた掌を、宮子の言葉がつなぎとめる。
 彼女が望んでくれるならば、僕が彼女を守らなければ。小さな掌から伝わるぬくもりは、そう決意させるには十分で。
「……はい。そうですね。急に流れる時があるみたいですから、気をつけていきましょう」
 しっかりとそう答えて、宮子の側に並び直す。大丈夫、最初こそ戸惑ったけど、人の流れは今の感じで大体把握した。これからは、しっかり自分がエスコートしなくては。
 そうして、本堂を目指す人の動きの中、二人も周りにならって、立ち止っては、進む。
 手を繋ぎ、二人歩く、本堂までの道のりは、全く自分たちの思うようにはいかなくて。全然動けないと思っていたら、今度は一気に急かされる。
 握る掌だけが確かなその時間は、長いような、短いような。焦れるような、惜しいような不思議な感覚で。
 なんとも言えない気持ちで歩いていたら、不意に視界が開けた。
「あ、……着きましたね」
「そう……だね。それじゃ、お参り、しよっか」
 まるで決意するように、互いに言って。拝礼するために離した手は、やはりどちらからともなくだった。
 ガラガラと鈴を鳴らし、ニ礼ニ拍手、最後にもう一度、深く頭を下げる。
 お参りがすんだら、おみくじを引いて。
 次を待つ人に、追い立てられるように神社をでると、人ごみから解放された宮子が解放感からか、ぐっと伸びをした。
 ALも、一度深呼吸して、澄んだ冬の空気を吸い込んで気を引き締めなおす。
 ……彼女は満足してくれただろうか?
「……それじゃ、帰ろっか?」
 振り向いた彼女の顔は、ひとまず笑顔だった。それに、ALも満ち足りた気持ちで、「はい」と頷く。
 そうしてまた、帰り道を二人、並んで歩く。
 ――……今度はもちろん、手は繋がなかった、けれども。




 初詣を終えた二人は今、宮子の部屋でくつろいでいた。宮子も今は、振袖から楽な普段着に着替えている。
 猫グッズであふれた彼女の部屋を、気にする風でなくALも炬燵に入ってくつろいでいる。
 外にいるときは意識していなかったが、冬の気候の中、思った以上の時間を過ごしたことで、体は思った以上に冷えていたようだ。温まっていく手足に血が通っていく感触に、ふぅ、と力が抜けていく。
 さっきとはうって変わって、気だるい雰囲気。
 いや、これもある意味ではお正月らしいだろうか?
 気軽な空気が漂う中、二人の口も軽くなっていく。お茶を飲み、餅などを齧りながら、他愛のない話に花を咲かせていく。
「そう言えば、先ほど引いたおみくじですが……宮子様はいかがでしたか?」
「ん? ああ、私は中吉だったよ? えっとね……」
 ALがふと持ちだした話題に、宮子はごそごそと、巾着を手繰り寄せて中を探る。
 やがて買ってきたおみくじをそこから引っ張り出すと、改めてその中身を確認していた。
「んっと……『今、運気が開けようとしている。決断力を持って、実行すべき時。れ……』。……。えっと、大体こんなことが書いてあるかなっ」
 悪くない結果だったのだろう、明るい声でその中身が読み上げられる。一瞬、声が途切れかけてたが、気にかかる項目でもあったのだろうか?
「……なるほど。宮子様にとって今年は挑戦の年になるかもしれませんね。何か成し遂げたいことがあるのでしたら、僕も応援します。僕も、宮子様ならできると信じていますから」
 声が切れた気がするのはあえて踏み込まないことにして、ALは感想を告げた。彼女を応援したい気持ちは本当だ。
「……ん。ありがとっ」
 ALの言葉に、宮子は弾んだ声で応えてくれた。良かった。もし途切れた言葉の先に悪いことが書いてあったのだとしても、少し力になれたのであればそれでいい。
「AL君は? どうだった?」
 と、そこで、逆に問われて、ALもまた自分のおみくじを見直した。
「僕は『吉』、ですね……。ええ、全体的に悪くない運勢のようです」
 宮子がそうしたように、ALもまた、おみくじに書かれた格言や運勢を適当に拾い上げて読み上げた。
「『探し物が見つかる』とのようなことが書かれていますね」
「ん? AL君、何か探しているものがあるの?」
「思い当たる点は急にはでてきませんでしたが……そうですね。新しい主が見つかるということなのかもしれません」
 宮子の言葉に、じっくりと考えてからALは答えた。己にとっての探し物。出会えるの……だろうか。
「そうだね。……いいご主人様と、出会えたらいいよね」
 宮子が、ポツリとそう言った。その言葉に何か、一層心が軽くなった気がして、ALも自然に微笑んでいた。

 互いにおみくじの結果は悪くなかったとあって、雑談は終始和やかな空気で進んでいた。それはとても楽しい時間ではあったが、普段から学校で顔を合わせている二人のこと。ずっと話していると話題の種はどうしても少なくなっていく。
 少しずつ沈黙の時間が増えていって。でもそれも悪くないと、ゆっくりと過ごす、そんな時が、どれほどたったころだろう。
(……しかしながら、炬燵は温かいものですね……つい、眠く……なって……)
 次第に頭がぼんやりしていくのを、ALは感じていた。
 ……これが使用人の頃の自分であったら、いかんいかんと己を叱咤しただろうか?
 だけど、今日、この時。
 共に学校に通う、大切な人と穏やかに過ごした、今日、この一日は。
(とてものんびりした年明けも……良いのかもしれませんね……)
 そんな風に、思わせる。
 元旦。
 特別な一日と。緩やかな日常。
 それを一度に、共に過ごした相手。
 誘ってもらえた光栄を、改めてかみしめながら。やがて抗えないほどの睡魔が彼を包み込み始めていた。
 ……うとうとと寝がえりを打つさなか。柔らかな暖かい感触が頬に生まれる。
 目覚めた彼が、己を膝枕したまま眠る宮子に気がつくのは、もう少し先のことだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb4583 / AL / 男 / 13 / ダアト】
【ja0024 / 猫野・宮子 / 女 / 14 / 鬼道忍軍】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は大変お待たせしてすみませんっ。
そして、お気遣いいただき却って申し訳ありませんでした。今後とも、ご縁がありましたら是非ともよろしくお願いいたします。
この度は、ご発注ありがとうございました。
winF☆思い出と共にノベル -
凪池 シリル クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年01月27日

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