▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『円環より生まれたる天使たち 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&鬼鮫(NPCA018)


「明日っから……夏休みぃー!」
 綾鷹郁が、はしゃいでいる。
 連合艦隊旗艦・艦内通路である。
「漫画描いたりゲームやったりでダラダラ過ごす宣言! いぇーい」
「以前から思っていたが……お前、意外にインドア派なのだな」
 艦長・藤田あやこは呆れた。
「夏休みと言ったら普通、海に行ったりとか」
「確かにスク水とかビキニとか着てるけどぉ、あたし別に泳ぐのが好きってワケじゃないから。イケメン芋洗い状態の海辺なら大好きだけど……でもね艦長。イケメンって、実はそんなにいないのよ。海辺のイケメンパラダイスなんて漫画の中だけ。だから、あたしは漫画を描くのっ」
「まあ、それはどうでも良いが……お前、1つ肝心な事を見落としているぞ」
 郁の尖った耳を、あやこは摘んで引っ張った。
「それはな、明日から始まるのは観測任務であって夏休みではないという事だ」
「お、お休みみたいなモンじゃないのよぉ。宇宙台風の観測なんて」
「まあ確かに……24時間コンピューター任せにしておける任務に、我々を駆り出すというのもな」
 別に荒れ狂っているわけでもない宇宙台風の、長期観測。楽暇易と三拍子揃った、まさしく長期休暇にも等しい任務である。
 ただ宇宙空間に発生する台風というものは、大気圏内のそれとは根本的に異なる。形状が似ているから台風と呼ばれているだけで、実はブラックホールやワームホールの類である事が多い。中には、時空に何かしら影響を及ぼすものもある。
 油断は出来ない。とは言え、観測してどうこう出来るものでもない。
 時空異状の災いというものは、観測などしていようがいまいが、起こる時には起こるのだ。


 元暴力団員で、賭場の経営にも関わっていた。
 だからと言って、ギャンブルが強いというわけではないらしい。
 ポーカー勝負は、郁の圧勝だった。
 鬼鮫は罰ゲームの蝉取りで木から落ち、負傷し、今は郁の看護・診察を受けている。
「木が回ってるかと思ったら、俺が回ってたぜ」
 ナース服を着た郁を相手に、鬼鮫はぼやいた。
「ま、それはともかく……お前、診察なんて出来るのか?」
「ん〜……中耳炎のせいで、三半規管まで痛んじゃってるねえ」
「また適当な事を……」
 鬼鮫は苦笑した。
「ただの睡眠不足だよ。悪いが、ちょいと寝かしてもらうぜ」
「鬼鮫ちゃんは働き過ぎだもんねえ。夏休みなんだから、ちゃんとお休み」
 横たわった鬼鮫の身体に、郁は布団をかけてやった。


 幽霊の声が入っている、と話題になった歌である。
 それを郁は、作業用BGMとして流しながら、漫画の原稿を描いていた。
 幽霊の声云々はともかく、好きな曲なので流している。
 今日もまた、歌の背後で幽霊が囁いている。郁は唱和した。
「せんぱぁ〜い、っとぉ……あれ?」
 郁はふとペンを止め、耳を澄ませてみた。
 幽霊の囁き声が増えている、ような気がする。
 郁はBGMを止めた。囁き声は、止まらなかった。
 郁は軽く、頭を押さえた。
「疲れてんのかな、あたしも……いけない、いけない。別に締め切りのある原稿じゃないんだから、もうちょっとのんびりやらないと」
 それでも、今日はもう少し描く事にした。
 作業用BGMを、変えてみる。ホラー的な噂とは無縁の、明るい曲である。
 それを流してみても、囁き声は消えなかった。


 思った通り、執事が犯人だった。
「ほぉらねえ。ふふっ、私の推理力もなかなかのもの……」
 呟きながら、あやこは本を閉じた。
「あれ……私、これ読んだ事ある?」
 そんなわけはなかった。最新刊である。
 なのに、あやこは思う。自分は最初から、執事が犯人であると知っていたのではないかと。
「この作者……もしかして過去のトリック、使い回してる? だとしたら由々しき事態よねえ」
『由々しき事態ですぜ、艦長』
 鬼鮫参謀が、いきなり艦長室に通信を入れて来た。
『所属不明の艦艇が、本艦に接近中! 鉄砲玉みてえに突っ込んで来ます。通信も繋がりません』
「回避は!?」
『操舵不能! たぶん例の台風の影響ですぜ!』
『艦長、砲撃許可! とっとと撃沈せんと、ぶつかるぞなもし!』
 綾鷹郁が、鬼鮫と一緒にいるようだった。
『突っ込んで来とるがは向こうじゃき、撃っても正当防衛で収まりゆうぞね!』
『待て、砲撃したら向こうも撃って来る。それより爆雷の反動を利用して……』
『鬼鮫らしゅうもない、んな悠長な事やっとる場合かや! ほ、ほれ、もうそこまで来とる!』
 あやこは、窓の外を見た。
 巨大な戦艦が、突っ込んで来ている。もはや目視出来るほどの距離である。
 どこかで見た事のある戦艦だ、とあやこは思ったが、記憶を呼び起こしている暇はなさそうだ。
「砲撃を許可する!」
『了解!』
 郁の返事に合わせ、連合艦隊旗艦・全砲門が一斉に火を噴いた。光を放った。
 荷電粒子ビーム。テラボルト雷撃レーザー。熱核魚雷。ブラックホール弾頭ミサイル。
 それらと全く同じ攻撃が次の瞬間、相手戦艦から放たれていた。
 衝突寸前だった戦艦2隻が、巨大な宇宙台風と比べれば線香花火にも等しい一瞬の爆発光に変わり、消滅した。 


「明日っから……夏休みぃー!」
 綾鷹郁が、はしゃいでいる。
 連合艦隊旗艦・艦内通路である。
「漫画描いたりゲームやったりでダラダラ過ごす宣言! いぇーい……あれ? あやこ艦長、今何か言った?」
「だから、お前意外にインドア派なのだな、と」
「ううん、その後……何か、囁き声みたいなのが……聞こえるんだけど」
「お前もか。実は私も最近、何やら幻聴に悩まされていてな」
 艦長・藤田あやこは溜め息をついた。
「どうやら疲れているらしい。長期休暇にも等しい、楽な任務……ゆっくり休ませてもらうか」


 幻聴に悩まされているのは、あやこと郁だけではなかった。
 同じ症例が、艦隊旗艦・乗組員のほぼ全員から報告されている。
 幻聴を聞くほど、心を病んでいる。
 そんな状態でも、非常事態には対応しなければならない。
『所属不明の艦艇が、本艦に接近中! 鉄砲玉みてえに突っ込んで来ます。通信も繋がりません』
「砲撃を許可する!」
『了解!』
 衝突寸前だった戦艦2隻が、巨大な宇宙台風と比べれば線香花火にも等しい一瞬の爆発光に変わり、消滅した。


「明日っから……夏休みぃー!」
 綾鷹郁が、ナース姿ではしゃいでいる。
 連合艦隊旗艦・医務室である。
「漫画描いたりゲームやったりでダラダラ過ごす宣言! いぇーい」
「おめえは元気だなあ……」
 ベッドに倒れた鬼鮫が、死にそうな声を発している。
「俺はこの様だ……おめえの元気にゃ、付き合えねえよ」
「どれどれ、白衣の天使かおるが診察してあげよう……ん〜、中耳炎のせいで三半規管まで痛んじゃってる、あれ?」
「また適当な事を……おい、どうした?」
「鬼鮫ちゃん……前も同じ病気に罹らなかった? カルテには残ってないんだけど……」


 幻聴ではなかった。何故なら、録音されたからである。
「何者かのメッセージ、というわけか……」
 録音された音声を繰り返し再生しながら、あやこは思案していた。
 何度再生してみても、同じ結論にしか至らない。
 幻聴と思われていた囁き声は、藤田あやこの声だ。綾鷹郁の声だ。鬼鮫参謀の声だ。その他、旗艦乗組員全員の声だ。
 自分たちが、自分たちに対して、メッセージを遺した。そういう事になる。
 問題は、そのメッセージの内容なのだが。
『所属不明の艦艇が、本艦に接近中!』
 鬼鮫参謀が、いきなり艦長室に通信を入れて来た。
『鉄砲玉みてえに突っ込んで来ます、通信も繋がりません!』
「これか……」
 あやこが気付いた時には、すでに遅い。
 衝突寸前だった戦艦2隻が、巨大な宇宙台風と比べれば線香花火にも等しい一瞬の爆発光に変わり、消滅した。


 大学からの、帰り道である。
 藤田あやこは、立ち止まっていた。道の真ん中に、鏡が置いてあるからだ。
「もー、誰よ。こんな所に」
「鏡ではない。信じられないだろうが落ち着いて聞け、過去の私」
 もう1人のあやこが言った。
「お前……セーラー服やブルマは好きか?」
「はあ? 何言ってんの……嫌いに決まってんじゃない。私はね、男どもに媚びた服を作るつもりはないの。宇宙に1つだけの藤田あやこブランドを絶対、打ち立てて見せるんだから」
「そうよね……こんな事、言ってたのよね。この頃の私ってば」
 もう1人のあやこが、泣きそうな顔をしながら、1本のメモリを手渡して来た。
「何よ、これ……」
「TCへの肉体改造技術……なんて言ってもわかんないでしょうけど、貴女に伝えておくわ。それとね、何年か後には貴女の力で絶対、ブルマとセーラー服とスク水が流行るようになるから。その運命には、逆らわないように。いいわね? まだキラキラしていた頃の私」
 一方的に言葉を残し、鏡は消えた。


「明日っから夏休みぃー! ……って、ええ加減にせんがか!」
 何者かに対して、郁は怒り狂った。
「わけわからんループ仕掛けとる奴! 出て来ぉーい!」
「落ち着け、綾鷹」
 藤田あやこ艦長が、いきなり現れて言った。
「過去への仕込みは、済ませて来た……例の作戦を、実行するぞ」
「え……ほんとにやるの?」
 郁が、尻込みをした。あやこは睨みつけた。
「過去の自分では思いつかぬほど奇抜な行動でなければ、ループを断ち切る事は出来ない! あんたが言った事でしょうが!」
「そ、それは……そうだけど……」
『所属不明の艦艇が、本艦に接近中!』
 鬼鮫参謀が、いきなり艦長室に通信を入れて来た。
『鉄砲玉みてえに突っ込んで来ます、通信も繋がりません!』
「うう……やるしかないのね」
 泣きながら、郁は覚悟を決めたようだった。


 何度目の循環になるのかは、わからない。
 とにかく今回は違う。準備が、すでに整っている。
「出撃!」
 あやこの号令に合わせ、精鋭女子部隊が一斉に着衣を破いた。
 布きれと白い羽をひらひらと格納庫内に舞わせながら、彼女たちは宇宙空間へと飛び立った。
 セーラー服、体操着にブルマ、スクール水着にレオタード……様々な装いの美少女たちが、天使の翼をはためかせながら爆雷を抱え、敵戦艦へと向かって行く。
 否、敵戦艦ではない。それは、連合艦隊旗艦であった。
「もう1人の……あたしたち……」
 ブルマと体操服を着用した郁が、羽ばたきながら呟いた。
「あの中で今頃みんな、ポーカーやったり、漫画描いたり、本読んだり」
「TCに改造され、こんな格好で宇宙を舞う……そんな事は予想だにしていない私たちだ」
 翼とセーラー服を宇宙空間で翻しつつ、あやこは命令を下した。
「普通の人間であった私たちに、別れを告げる……爆雷、投下!」
 一斉に投下された爆弾が、2隻の連合艦隊旗艦の間で、爆発した。
 爆風で航路を逸らされた2隻が、衝突する事なく擦れ違って行く。
 別の自分たちが、何事もなく宇宙の彼方へと去って行く。それを見送りながら、郁が呟いた。
「どこへ、行くんだろう……」
「さあな……こんなふうにはならなかった、私たちだ」
 己の翼を軽く弄りながら、あやこは言った。
「今まさにここで分岐した、私たちの、もう1つの可能性……一体、どこへ行くのかしらね」
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年01月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.