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『源を求めて 』
イアル・ミラール7523)&モリガン(NPCA047)


「う…ん……」
手をゆるく握り、その手を自分の顎のあたりに添えて
難しい顔でディスプレイと睨めっこを続けている女性が一人。

彼女の名前はイアル。
以前、友人により悪い魔女から、その身を救われたのだが
彼女の中では、未だに何かがくすぶり続けていた。

ここは元高級ホテルの一室。
彼女は少し前から友人と一緒に、ここでの生活を始めている。
何もかもが恵まれた、…というわけではないが、それなりに幸せな毎日。
すぐ傍で眠る友人の顔を見て、イアルは静かに微笑んだ。
その友人のもとへ近づいて、一度だけ頬に小さくキスを落とす。

「原因を、探さなきゃ……」
そう言うと、イアルはひとり立ち上がり隠れ家をあとにした。
扉を閉める直前に、もう一度振り返り、眠る友人の顔を見たのは
イアルの中に、何か言葉に出来ない不安があったのかもしれない。


***


ヒュゥ、と風の鳴く音が響く、未だ記憶に新しい洋館。
扉は閉じているのだが、割れた窓や崩れた壁の隙間から、外の様子は充分に判る。
イアルはその洋館の一室で、何かを探していた。

何か手がかりを。
原因となった、魔女の力の源を知る手がかりを。
そう思いながら、イアルはただひたすらに洋館の中を探索していた。

「………?」
散らかった本の下に、イアルがふと、何かを見つける。
それを拾い上げ、手に乗せて息を吹きかけた。
沢山の埃をかぶっていたが、何かのカードのようだ。
「字は読めないけれど……、ゲームのデータカードかしら」
何のゲームのデータが入っているのかは判らないが、現在のように『何を探せば良いのかも解らない』という手探りの状態では、充分すぎるほどの収穫。
イアルは、そのカードを持ち帰った。


***


「ただいま」
イアルは隠れ家へ戻り、まだ眠っている友人へと、小さく声を掛けた。
ほんの数時間、館を離れていただけなのに、またずっと離れ離れになってしまうような気がするのは何故だろう。

そんな気分を振り払うかのように、イアルはパソコンへと向かいゲームのデータカードをセットした。
そして、画面に現れた『スタート』のボタンを押す。

─── その瞬間、イアルの姿が画面へと吸い込まれるかのように消え去った。


***


「え?! …えっ?!」
イアルは起動したゲームの中へと吸い込まれていた。
自分の両手を見るが、身につけていた服や装飾品が違う。
赤いビキニアーマー。 おそらくクラスは女戦士。
周囲を見回せば、そこは森の中に埋もれ、朽ちた神殿の跡地。

「ここは、もしかしてゲームの…… ─ッ!!!」
突然、背後から殺気を感じ、イアルは腰の剣を抜きながら一歩後へ退いた。

ザッザッと、伸びた爪が床を擦る音を立て、四つん這いでこちらを見ている女性。
着ている服は破れて汚れ、身体は汚れ放題で悪臭にまみれ、野良犬のように唸り声を上げているが、…彼女は、女神モリガン。
迷いの無い殺気を帯びて、襲い掛かってくることから考えても、おそらく心まで完全に野生化しているのだろう。
そんなモリガンの姿を見て、イアルはこのソフトこそが、自分に掛けられた野生化の力の源だと気付いた。
けれど……

「──あッ!」
モリガンからの二度目の攻撃を受け止められずに、構えていた剣がイアルの手から離れ、遠くへと弾き飛ばされた。
彼女の中の優しさが邪魔をして、イアルにはモリガンを攻撃することが出来ない。
どうする?…と、考える時間などモリガンは与えてくれなかった。

─ YOU LOSE ─

どこからともなく響いたその声が耳へ届くと、まるで何かが抜けていくかのように、イアルの身体が床へと落ちる。
両手で体を支えて、起き上がった時、既にイアルは『人』ではなかった。

体を支えた両腕は前足となり、野良犬のような状態に戻されてしまったイアル。
人としての理性は、再び彼女の中で眠りについた。

─ コンティニュー? CONTINUE? ─

…続きを紡げる者は、そこに居なかった。





Fin



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ノミネートのご依頼、ありがとうございました。
今回より、また新しい物語が始まるとのことで、とても楽しみにしております。
まだ序盤ではございますが、とても楽しく書かせて頂きました。
また機会がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
三上良 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年01月27日

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