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『初詣にいこ? 』
百々 清世ja3082


 お正月も開けて三日目。空は突き抜けるように青く、雲一つ無い快晴。年越しやら初詣やら初売りやら福袋やら一通り新春絡みの行事が終了し落ち着いた頃合。

「ふぁあ〜」
 百々 清世(ja3082)は巨大なビーズクッションに埋もれながら欠伸を一つ漏らした。手元にあったリモコンでテレビのチャンネルを適当に変える。どこも変わり栄えのしない正月特番ばかり。
「暇ー」
 テレビの電源を落としゴロゴロと巨大クッションの上を右に左に。正月にやるべきことはやってしまって手持ち無沙汰、時間をもてあまし気味だ。大学生の冬休みなんて後期試験勉強をする気がなければ空き時間たっぷりである。
 この部屋の本来の主である女の子はバイトがあるからーとちょっと前に出て行ったばかり。その後飲みに行くとか言っていたから今日は帰って来ないだろう。
「暇で死ねる…死なないけどー」
 窓から見える空は真っ青。真っ裸の枝にくっついた名残の枯れ葉は揺れていない…ということは風も対して吹いていないということか。
 絶好の外出日和のような気がした。転がっていた携帯を拾い上げる。
「だーれーかー遊んでくれそーなのー…」
 適当な節をつけて口ずさみつつ眺めるアドレス帳。そして榎本 翔太郎(ja8375)に連絡を入れた。自分以外に遊ぶ相手がいないだろうから暇だと思ったのだ。
 相手が出るまでにちょっと間がある。
「っも、しもし」
 済ました声。でも「もしもし」の前に息を飲み込む気配と最初の「も」が僅かに裏返っている。電話を取るまで相手の様子が浮かび思わず口元に笑みが零れる。
「あー…えのもん、ひまー?」
 どうせディスプレイに名前は出てるし彼の携帯を鳴らすなんて自分以外滅多にいないだろうなんて考えて新年の挨拶もなにもかもふっ飛ばした。更に相手から返事が来る前に「俺暇、初詣行こ」と誘う…いやもうこれは決定事項を伝えたといってもいい。「時間、ある? 暇?」なんて気遣いはしない。
「午後から弓始式に参加する予定なんだが」
 聞こえてくるのは落ち着いた声。多分これ、クールぶってるよなーなんて思いながら「じゃあ、午前中空いてるよね?」と待ち合わせ時間と場所を一方的に告げて電話を切った。
 これで今日は一人暇を持て余さずに済みそうだ、とほくそ笑んで意気揚々と外に出て…笑顔が凍る。
「さっむっ」
 言葉と共に吐き出される息は真っ白。誰だよ、外出日和とか思ったのは…!心の中で悪態を吐いてグルグルに巻いたマフラーに鼻の下まで突っ込んだ。雲一つない快晴だが、空気は冷たい。そうだ昨日の夜から晴れてた。放射冷却とかそんなこと、胸のデカイお天気おねーさんが言っていたな、なんて思い出しても後の祭り。
 足元から上がってくる寒さに片足を上げてみる…そんなことしても寒さは確実に伝わってきた。
(やっぱ外で遊ぶのミスったかな…)
 先程までいた部屋の窓を懐かしそうに見上げる。…まあ、そんなことしたところで誘ったのは自分だ。仕方ない、と覚悟を決めて歩き出した。


 お正月も三日目となると参道を行く人もまばらだ。心なしか参道両脇を固めてる屋台も数が減っているように思える。コンクリ製の鳥居の下、清世はあっさりと待ち合わせた人物をみつけた。肩には矢筒と弓袋、コートの下から袴が覗く。ともかく目立つ。
「あけおめー」
 やっほーと言葉だけ。両手はコートのポケットの中。それを見咎めた翔太郎が「転んだら危ない」なんて言ったような気がするが寒いしと聞く耳を持たない。それでも一応集合時間よりだいぶ前に来たであろう相手に敬意を表して形だけでも脚を早めてみせた。
「あけましておめでとうございます」
 ぴっと背筋を伸ばして律儀に年始の挨拶をくれる相手にどんと軽くタックル。弓道で鍛えている体は自分が軽く肩をぶつけたくらいでは尻餅をつくなどという無様な真似は見せなかった。
「寒いー、温めてー」
 そのまま押し競饅頭の要領でぐいぐいと押す。
「誰が温めるかっ」
 ぐいと押し返される。
「あ…そーだ」
 清世の視線が翔太郎の脇へと向かう。ポケットから手を取り出し、問答無用で脇の下に手を突っ込んだ。
「想像通りーあったかー…」
 ほぅ、なんて一息。迷惑そうに眉間に皺を寄せたが手を払ったりしない翔太郎に調子に乗って脇に入れた手をもふもふっと動かした。
「いい加減にしろ」
 言葉だけの抗議が返ってくる。

「えのもん、その格好寒くねーの?」
 鳥居を潜って参道の砂利を蹴飛ばしながらの馬鹿話。
「寒い…」
「武道してるから心頭滅却…とか、なんとかはなし?」
「それは火だな」
 からかい混じりの言葉に酷く真面目な顔をして寒さ関係ない、ときっぱり言い切る翔太郎に清世が笑う。

 賽銭が綺麗な放物線を描いて落ちていく。鐘を鳴らして拍手一つ。作法か何かあったような気もするが、まあ細かい事は気にしない。神様だって何万人とみてれば多少違ったって気付かないだろう。
「早く暖かくなりますよーに」
 願い事は声に出して。できれば今すぐ叶えて欲しい、と空を見上げた。空はアホみたいに真っ青だ。
 隣を見ればなにやら熱心に祈ってる姿が。どうにも願い事は一つではなさそうである。
「えのもん何をお願いしたん?」
「今年も無事に弓が引けますように、だ」
 涼しい顔で返ってきたのはたった一つだけ。そんなことないだろ、素直に白状してみろなんて肘でコツンと突いたが、相手も中々に口が堅い。
「ま、なんとなくわかるけどな」
 頑なな相手に唇の端をニヤと上げてみせる。
「よしお参り終了。じゃ、屋台でなんか食って…ってその前に御神籤引いて行こうぜー」
 巫女さん可愛い、そんな事を言いながら社務所の方へ。六角形の箱を盛大に振って出てきた番号の籤を貰う。
「…あー……」
 どうして御籤の言葉は持って回った言い方なのか。
「読む気になんないよねー」
 ひらひらと指の間で泳ぐ御籤の結果は「中吉」。悪くないがネタにもなりにくい結果。とりあえず恋愛運だけは読んでみる。
「んー…自分に正直で素直な人なら良しって…。俺、自分に素直だから問題ないって…えのもん?!」
 御籤を手に肩を落としどんよりした空気を纏っている翔太郎。ひらりと飛んできた御籤を掴まえてみれば結果は「凶」。らしい、といえばらしい結果だ。
「えのもん…」
 ぽんと肩に手を乗せ、御神木を指差した。

「よし屋台ー。何か食べよー」
 さあ、行こうと歩き出そうとした腕を掴まれる。
「あ、破魔矢忘れた破魔矢」
 待ってるよーという抗議も空しくズリズリと社務所まで逆戻り。だから社務所辺り日陰で寒いんだって、という主張は聞き入れて貰えない。

 破魔矢を手に参道を左右に並ぶ屋台をひやかしつつふらふらと来た道を戻る。弓始式までまだ時間があった。
「唐揚げ食べたーい」
「食べればいいだろ」
 ツレナイ返事。
「唐揚げ食べたーい、奢ってー?」
 めげずにもう一度。今度は目的も明確に。
「……」
 翔太郎の渋い顔を清世の笑顔が交差した。
「……っ。唐揚げだけだぞ」
 ジャンケンでいうとグーとパーの関係だ。翔太郎は最終的には仕方ないと折れてくれる。口下手だが優しい奴なのである。
「ほら、落とすなよ」
 唐揚げがいくつか入った容器を差し出されるが清世は手を出さない。代わりに「あーん」と口を開けた。
「俺が買ったんだから、ももが持て」
「えー、寒いし手ぇ出したくないしー。だからあーん」
 堂々と物臭宣言。餌を待つ雛のように口を開ける。おまけとばかりに「ピヨ」と鳴いてやった。
「…俺が代わりに食べるぞ」
 翔太郎が楊枝で唐揚げを刺して自分の口へと運ぼうとする。
「……えのもん」
 清世が翔太郎の名を呼んでもう一度「あーん」と口を開けた。
「熱くても文句言うなよ…」
 揚げたてから揚げが口に突っ込まれる。
「はっ…ふ……」
 ごくんと飲み込んでから美味しい、もう一口と。一度あーんをしたら抵抗がなくなったのか今度は素直に唐揚げを口に運んでくれた。
「射的、やりたい」
 最後の一つを清世の口に入れた翔太郎がちょっと先にある屋台を指差した。一回五百円、と手書きの看板。先程の破魔矢といい彼がやりたいことを主張するようになったのは…ちょっとした優越感にも似た何かがある。だからというわけではないが清世は「んじゃあ、行こうか」と射的に向かった。
 弓道と勝手が同じなのだろうか。翔太郎は五発の弾で上手い事景品を落としていく。だが落とす景品はノートやら筆記用具。実用品ばかり。だが全然祭りらしくない。
「小学生のラジオ体操みたいだねー…」
 なってないなーなんてわざとらしく頭を振ると、清世は上の段の縫いぐるみを指差した。
「アレ取ってよ、アレ。もふもふしてて暖かそうだしー。えのもんなら絶対取れるって」
 そんな調子でぬいぐるみとシャボン玉セットを狙わせた。欲しいわけではなかったが…面白そうだったのだ。使い道のない景品なんていかにも祭りっぽいじゃないか。
 なので取ったあと、景品を渡されたがぬいぐるみは彼のコートのフードに突っ込み返しておいた。
「結構似合ってるって」
 と、親指立てれば「全く」と呆れつつも縫いぐるみを背負ったまま歩き出す翔太郎がいる。


 弓始式は神社の裏手、普段参拝客が入れない白州を開放して行われる。射手は一列に並び、扇を模した的を狙う。
「皆中してくる。見てろ」
 ぬいぐるみを背に射場へと向かう翔太郎の頼もしい背を見送ったあと、見学者の列へと入る。
「えのもんは…」
 清世は人の間を縫って最前列に陣取った。翔太郎は列の丁度真ん中辺りにいる。
 白の道着に紺の袴。背筋をピンと伸ばし、視線はただまっすぐ的に。息遣いが此方まで聞こえてきそうな真剣な眼差しだ。
 皆が一斉に弓を構える。引き絞られる弦とともに空気もピンと張り詰めた。
 寒いのは好きではないが痛いくらいに冷たい空気が此処には相応しい気がする。
 鳥の羽ばたきにも似た音を立てて矢が放たれた。
 吸い込まれるように矢は扇の要へ。
「ぉお…っ」
 思わず声を上げそうになって周囲の静けさに口を押さえる。
(弓射ってるえのもんまじかっこいー)
 鋭い視線に厳しい横顔。続いて二射目の構えに入る。これは惚れる、なんて冗談ではなく思った。
 二射目は扇の真ん中を射抜いた。
 拍手をしたい。でも右を見ても左を見てもそんなことをしてる人はいなかった。仕方ないので指先だけで音を立てずに拍手を送る。
 三射目、四射目…全て扇を射抜いた。外れたものは一矢もない。
 一礼をし、その場を去るまでまるで別人のように凛々しい翔太郎の姿がそこにあった。

 宣言通り皆中を成し遂げた翔太郎を拍手で向かえる。
「えのもん、まじかっこいー」
 先程拍手できなかった分ここぞとばかりに盛大に手を叩く。
「お前も射ればよかったのに。扇とか射れるんだぞ……」
 褒められなれていないのか翔太郎は照れた様子で頭を掻いている。律儀にまだぬいぐるみをフードに入れていた。
「まじだって。俺、惚れる! いや惚れた」
「えっ…ちょ、惚れ……。いや……え?」
 惚れた、の言葉に焦る翔太郎は先程とは別人のようだ。
「…そんくらいかっこよかったってこと。それとも俺にまじ惚れしてほしかった?」
 からかうように首を傾げると、そっぽを向かれる。でもそのまま「応援有難うございました」なんて言葉が返ってきた。本当にこういうところが律儀だ。そこが面白い。
「かっこいーえのもんが見れたし、俺としては満足だったけどねー」
 ところで、とそっぽを向いた翔太郎の視線の先に移動する。
「この後用事ある…? どっか行きたいとことかさ」
「…いや、ないが」
 俺にそんな気が利いたもんがあるか、とふて腐られた。そんな表情が見れるのも自分の特権だと清世は思う。
「じゃーさーえのもん家行って遊ぼ、お酒かってさー」
「別にいいが…」
 翔太郎が口篭る。
「俺でいいのか。面白い話なんてできやしないぞ」
「……あのね、えのもん。そんなことばかり言っているとちゅーすんぞ、ちゅー」
 翔太郎が固まる。一々楽しい反応をするものだからついからかってしまいたくなるのは仕方ない。
「俺は今日えのもんと飲みたいのーってことで、お酒買いにいくよー」
 ほら早く。勝手知ったる、ではないが翔太郎の家は知っているのでそちらに向かって歩き出す。
「あけおめ飲みしよー」
 ツマミ何買ってこっか、なんてはしゃぐ清世の声に、なんでもいいと答える翔太郎の声も常よりわずかに弾んでいた。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名     / 性別 / 年齢 / 職業】
【ja3082  / 百々 清世   / 男  / 21  /  インフィルトレイター 】
【ja8375  / 榎本 翔太郎  / 男  / 20  /  ディバインナイト 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は発注頂きまして本当にありがとうございます。桐崎ふみおです。

初詣はいかがだったでしょうか?
ゆるっとふんわりしてますでしょうか?
なんとなくお二人の友情の機微がでていれば、と思います。
これからもお二人、仲良く過ごされることを祈っています。
今回はお二人での申し込みを頂きましたのでオープニング以降はそれぞれ視点を変えさせて頂きました。
イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
winF☆思い出と共にノベル -
桐崎ふみお クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年01月28日

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