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『●蒼白い雪降る、月明かりの下で 』
亀山 絳輝ja2258

 青白い雪が降りしきる、蒼銀の世界。
 寒いはずなのに、不思議と温かいそんな不思議な日。ただ雪が降っているだけで特別変わっているわけではない、ごく普通の夜。
 そんな夜、部屋から空を眺めている亀山 絳輝だった。


(静かだと思ったら、雪なんか振っていたのか……)
 珍しいそれに心奪われつつ、ガラスに張りつき融けていく様に、もの悲しさを覚えた。
 これほど綺麗な物も、ずっと残るわけではない。
 人の命も、これと大差ないなと自虐的に笑う――と、無性に人恋しくなる。
「……初詣に、誘ってみるか」
 思いつきだったが、言葉にしてみると心が弾んで来るのがわかる。
 それに明日はほんの少しだけ、特別な日。そんな日に会いたいと願っても、バチは当たらないはずだと自分に言い聞かせ、テーブルの上のスマートフォンを手に取るのだった――

「おはようさんだな! もも!」
 いつものストイックな男装姿ではなく、イメージにピッタリなマフラーに手袋、それにロングコートとブーツという出で立ちの淳紅が明るく笑い、手で会釈する。
「ぉ……はよ――」
 眠たそうに目をこすり、ジーンズにダウンジャケット、そしてマフラーとややもこもことした服の清世が、絳輝の会釈した手をタッチするように重ね合わせた。
 そして噛み殺しもせず、大きな欠伸をひとつ。
「久々早起きだわ……まじねむ……」
「コラコラ、もう昼前だぞ?」
 呆れたような笑みを浮かべ、短く息を吐き出して肩をすくめる。
 どんな生活サイクルか知っているだけに、それ以上の事は何も言わないし、そんな説教くさい事を言う仲でもないと絳輝は自覚していた。
「朝食食べてないなら、先に屋台にでも行くか?」
「んー……任せるわー。てきとーで」
 実にゆるくて適当だが、そこがまた居心地の良さであろなと感じていた。
 言葉の通りに適当に歩き出すと、ゆったりとつかず離れず、適度な距離で一緒に歩いてくれる清世。ぶらぶらと腹に溜まりそうなものを物色しながらも、境内を目指す。
 日が日なだけに、人でごった返す――かと思いきや、意外と人は少ない。多いには多いが歩けないほどではなく、すいすいと境内まで歩けた。
「なんか、思ったより歩きやすくね?」
「ももが人ごみ嫌がるだろうと思って、比較的すいているここを選んだんだ」
 柄杓で手に水を掛けながら答える絳輝に、マジでーおにーさん感激と感謝の念を込めてか清世が髪が乱れるのも構わず、頭をなで繰り回す。
 好きにさせていると、気が済んだのか乱れた髪を整えてくれるあたり、いいところというか――彼らしい。
 神前で鈴を鳴らし、きっちり45円を賽銭箱へ置くように入れると二礼する絳輝。
 見よう見まねで、一拍遅れて清世も二礼し、2人そろって二拍手。清世だけ、一回多い。
 そして深々と長めの礼をする。
(今年も変わらず、続きますように)
 早々に顔をあげた清世をちらりと盗み見、それから顔をあげる。
「それから、ここへ来たらおみくじも引かないとな」
 嬉々としておみくじを引き、はたと動きを止める。心なしか、全体的に震えているような気がする。
「なにでたー?」
 清世が覗き込もうとする前に、んー?と清世に顔を向けたままおみくじを2つに折り、そっと結びに行く。引いたその日に結びに行くという時点で芳しくない結果だと言っているようなものだが、清世がそれを知っているかは定かではない。
「ももはどうだ? お、なかなかいいじゃないか……」
 気持ち的に複雑だが、素直に祝う。語尾がやや尻すぼみなのは、ご愛嬌で。
「おにーさんとしては健康の『大病知らず、怪我は注意すればよし』ってとこが、なんかねー。
 俺、怪我すんの? しないの?」
 困った顔を見せる清世に、思わず絳輝は吹き出し、顔をそむけ笑っていた。
「え、笑うトコ?」
「いや――今年は殴られずに無病息災だと、いいな……?」
 気遣いながらも、一向に笑いを収める気配がない。納得しないような顔の清世だが、何かを見つけたらしくすぐに興味はそっちへと移っていった。
「甘酒、飲む――はー、あったけー。生き返るー……」
 ほっと一息顔の清世。濃く白い吐息が、消えていく。
「美味しそうだな……少しちょうだい。かわりに、お汁粉のおもち、食べるか?」
 いつの間にか手にはお汁粉が。みょーんとどこまで伸びるんだという餅を、箸で持ち上げる。
 すると、食うーと言って伸ばした餅にそのままかぶりつき、もぐもぐと伸びた部分を食べ進みながらも、両手の塞がった絳輝の為に甘酒を口元へと運んでやった。
 少し行儀が悪いかなどとも思ったが、今この瞬間を楽しむ方を選んだ絳輝は甘酒に口をつける。
 温かく優しい味――ただの甘酒だが、1人で飲んでもここまでの味は感じられないだろう。
「あ、そだ。この後、家行ってもいい?」
「家? どうしたんだ?」
 話題に出た事で、自分の家に今日は誰もいない事を思い出す。
 問い返され、顎の髭を指で弄りつつ、かくりと首を傾げる。
「んや、特に今日はもう予定ないしな、と思ってー? あとほら、お年玉。妹ちゃんと弟くんにさ」
「お年玉? ももが?」
 それこそ不思議だと言わんばかりに、首を傾げ返す絳輝。だが心外だと言わんばかりに清世は真面目な顔をして、立てた両手の親指を自分に向ける。
「おにーさんだって、たまにはおにーさんらしートコ、見せちゃうんだよ?」
 真面目な顔なはずだが、どう見てもふざけているように見えてしまう――だが、拒否する理由もない。
「そうだな、おせちもまだ残ってるし……ついでに、お寿司でも買って帰るか」
「おーいいね。いなりと玉子多めでっ」
 予想はしていたとはいえ、予想通りの言葉に思わず笑みがこぼれ、了解と笑いながら頷くのであった。

「おじゃまー……って、静かすぎねぇ?」
 絳輝の家の玄関で、いつも騒がしい絳輝の弟と妹がいるはずだが、今日に限ってずいぶん静かだなと首を傾げた。
「2人は弟の彼女と誕生日デート中だから、今」
「あー、なんだ。いねぇのか。じゃあ2人でいちゃいちゃしとこう」
 こういう時の切り替えは早く、実にポジティブでおもしろいなと浮かれ脚で廊下を歩く清世の背中を眺めていた。
 居間で買ってきた寿司とおせちの残りを並べ、テレビの電源を入れる。
 そして座っておせちをつつくと、正月特有のゆるっとした空間がこの場を支配する。
「あれある? あの……アレ、玉子焼きの豪華なの」
 目を輝かせる清世に、やはり来たかと伊達巻を箸でつまむ。
「言うと思って、弟の魔の手から救出しておいた」
「マジか。弟君とは永遠のライバルになりそうだ」
 馬鹿な事をと笑いながら、伊達巻を清世の口の中へと放り込む。
 寿司もおせちをそこそこつまんだ頃、横になる清世。それがもう満足という意味である事を知っている絳輝は、おせちを片づけ始める。
 お茶を入れ、戻ってきた頃にはさすがに起き上がって胡坐をかいていた。
 そして絳輝を見るなり、ぽんぽんと胡坐を叩く。
 その意味を理解し、嬉しそうに絳輝はテーブルにお茶を並べると、胡坐の上にすっぽりと収まった。
「ジャストフィットー」
「そうだな」
 絳輝は少しだけ照れくさくもあったが、肩に顎を乗せぐりぐりと抱き心地を楽しんでいる清世の横顔を見ると、どうでもよくなった。
「おせちも食っちゃったら、何もする事ないよね」
 ぼんやりと2人してテレビを眺めながら、やや退屈そうにぽつりと清世が呟くのだが、絳輝はというと思いのほか楽しいようで、番組に見入っていた。
「正月は特別番組多くて、楽しいな!」
 そこは微妙に同意しかねると、肯定も否定もしないまま絳輝を後ろから抱きしめ、肩に顎を乗せたまま目を閉じる。
(眠くなったのだろうか?)
 そんな事を思いつつテレビへと視線を向け直すと、唐突に清世が目を開け、あーと何か言おうと口を開いた。
「そういや……誕生日おめでと。今年もよろしく?」
 腕に力を込め少し強く抱きしめると、頭に手を置く。
 そう。今日は彼女の誕生日――ほんの少しだけ、特別な日なのであった。
 ずいぶん思い出すまで時間かかったなと、不満がないわけでもないが、それでもやはり祝ってもらえると――たまらなく嬉しい。
「ん、今年もよろしくな、もも。健康で、元気でいてくれ」
 首をひねり、そっとすぐ横の頬へと口づけするのであった――……



――――終――――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2258 / 亀山 絳輝 / 女性 / 20 / アストラルヴァンガード】
【ja3082 / 百々 清世 / 男性 / 21 / インフィルトレイター】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、楠原日野です。
このたびの発注ありがとうございました。なかなか不慣れな事もあり、時間がかかってしまいましたがご希望に添えるものができたと思っております。
ゆるふわらぶこめを存分に堪能させていただきました。またのご発注お待ちしております。
winF☆思い出と共にノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年01月29日

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