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『自分を変えるために 』
藤田・あやこ7061)&ニコラ・シェーンベルク(8723)&鬼鮫(NPCA018)

 この日、あやこは深いため息を漏らしていた。
 何度吐いたか分からないため息を、幾度となく漏らしては悩ましげに眉を寄せる。
 温和な娘の自主性と英才教育を求める親族との意見の食い違いが原因だった。そして何より、娘があやこの教育を拒み続けているのだ。
 これまでのように元服が近い娘を前に、あやこは自分が正しいと思う気持ちを持って娘と向き合っていた。
「あなたの元服が近い。その前に妖精武士道を説くわ」
 そう言って、目の前の娘に切々と妖精武士道なるものを説いていた。だが、娘はそれを熱心に聞くどころか、怪訝に眉を顰めてそ知らぬ顔をする。その態度を咎めれば、娘は決まってこう言うのだ。
「好きに生きろって、それがパパの遺言だったじゃない」
 そう言って口を尖らせ、娘はぷいっと横を向いてしまう。
 そんな娘にどう接してよいか悩んだあやこは、鬼鮫に相談を持ちかける。すると鬼鮫は少し悩んでから何かを思いついたように口を開いた。
「それなら、妖精租界の祭に行って見たらどうだ? 何か得るものがあるかもしれないぜ」
 ニッと笑う鬼鮫に、あやこは娘と共に妖精租界の祭に出かける事にした。


 大勢の観衆の見守る中始まった祭。その祭では独裁者役の女戦士が剣劇の挑戦者を募集している姿がある。
 あやこは後ろにいる娘を振り返り、真面目な表情で彼女を見据えた。
「……伝説では、歌姫が勝つの」
 剣劇で破れたあやこは娘を嗾ける。
「勝つ為には、妖精武士道は絶対。あなたにとって大事な事よ」
 ハッキリと告げると、娘は言葉もなく押し黙った。
 その帰り、家に向かう為に路地を曲がったところであやこと娘は、刺客に突如襲われた。
 あやこは咄嗟に娘を庇い、刺客相手に何とか応戦する。だが、思うように身動きが取れず、下唇を噛んだ瞬間颯爽と一人の女性が現れた。
 金髪の髪をなびかせ、彼女は鮮やかな身のこなしで次々と刺客を退ける。
 刺客らの立ち去った後には王国与党党首家の家紋入りの短剣が落ちているのに気が付き、あやこはそれを拾い上げて懐に仕舞いこむ。
「無事かしら?」
「あなた……」
 にっこりと微笑むニコラに、あやこは目を瞬かせた。
「私はニコラ・シェーンベルク。あなたに伝えたい事があるの」



 二コラは藤田家の客室へ招かれると、姿勢正しく正座してまっすぐにあやこを見詰めるニコラを前に、あやこも茶を差し出しながら向かい側へ腰を下ろす。
「先ほども言ったけれど、私はニコラ。藤田家の顧問としてやってきたの」
「顧問?」
 あやこが聞き返すと、ニコラは神妙な顔つきで頷いた。
「妖精王国のお家騒動……。近々その事で取り返しの付かない事件が起きるわ」
「事件? なんのこと?」
「今のままでは、藤田家の存亡の危機はきっと免れないでしょうね」
 あやこは隣に座っている娘をチラリと見やると、娘はその視線から逃れるように視線を逸らした。
「それと今回の件については与党姉妹……彼女達が関与しているわ」
「……私の教育では失敗だと、そう言いたいのね」
 あやこの問いかけに、ニコラは何の躊躇いもなく頷き返す。
 疑り深く彼女を見つめていたあやこだが、こうして真っ直ぐに見つめ返すニコラの瞳に嘘はないように見える。
 やがてあやこは深くため息を吐き、小さく頷いた。
「分かったわ……。とりあえず、あなたの言う与党姉妹の件はこちらで調べさせてもらう。それから、情報を回している情報屋にもね」
 あやこの言葉に、ニコラは深く頷いた。
 早速その場から退席しようと立ち上がったあやこに続き、娘も立ち上がろうとするとニコラが彼女を呼び止めた。すると娘は戸惑いながらもその場に座りなおす。
「お母さんを護る気はある?」
 あやこが完全に退席したのを確認してから、ニコラはそう訊ねると娘は小首を傾げる。
「護る?」
「そう。今回の件で、あなたがお母さんを護らなければならない時が来る。その時、あなたに必要なものは武術よ」
 娘はあやこが切々と訴えてきた妖精武士道の事を思い出し、娘は視線を下げた。
「自分の為にも武術は絶対必要よ。是非とも体得してもらいたいわ」
 力強く奨励するニコラに、娘はぎこちなくも小さく頷くのだった。


 その頃、あやこは鬼鮫と共に情報屋の居場所を突き止め、酒場へとやってきていた。
「言いなさい。当主家姉妹はどこにいるの」
 情報屋は眉間に深い皺を刻み、頑なに口を閉ざしている。その様子を見ていた鬼鮫は、パキパキと拳を鳴らした。
「言わねぇなら言わせてやろうか?」
「わ、分かった! 言う! 言うよっ!!」
 襟元を掴み上げていた手を緩めたあやこに、情報屋は軽くむせ込みながら口を割り出す。
「あいつらは、宝石の盗掘と密売を画策してるんだ……」
「盗掘と密売?」
 あやこは怪訝に眉をひそめ、鬼鮫を見上げると彼は小さく頷く。
「現場を抑える」
 姉妹の居場所まで聞き出すと情報屋を解放した二人は、すぐさま現場に急行した。


 訓練室において、ニコラはあやこの娘に3Dで襲撃現場を再現させる。そして自らその現場に立ち、撃退方法を教え込む。
 確実に相手を死に追いやる為の技。それを娘の前で平然とやって退けると、ニコラは娘を振り返った。
「やってみて」
 指示されるがままに、娘は襲撃現場に立ち向かう。
 だが、最後の一押しが彼女の優しさによってどうしても躊躇われてしまった。
 苛立ったニコラは娘の前に立ち、声を荒らげる。
「母を護れるの。そんなことで」
「わ、私は、こんなの望んでないわっ!」
 涙目になりながら声を張り上げる娘に、ニコラの表情は冷たい。
「あなたが望もうと望まなかろうと、現実はやってくる。その時に後悔しても遅いのよ!」



 あやこらは、情報屋から聞き出した盗掘現場に駆けつけた。だが、一足遅かったのか、姉妹は貨物船を奪ってすでにその場にはいなかった。
「貨物船の船長を絞めるしかないわね」
 あやこと鬼鮫は、貨物船の船長を追い彼を旗艦に連れて帰るなり、すぐに彼を締め上げた。
「さぁ、吐きなさい。姉妹はどこで密売をしているの」
「やめてよ! そんな言い方したら、話せるものも話せないし、乱暴は駄目よ!」
 有無も言わさぬ勢いで迫るあやこを見た娘は、血相を変えてあやこを諌めた。それを見ていたニコラは心底呆れた様子だった。
「悪いけど、あなたと一緒にいたらこの子はいつまで経っても駄目なままだわ。養育権をこちらに譲って。この子は私が育てるわ」
 突拍子もない申し出に、あやこは驚愕の目を向けたが、すぐに激怒した。
「何を言ってるの。親でもないあなたが娘の養育権を握ろうだなんておかし過ぎるわ!」
 今にもニコラに掴みかからん勢いで憤激するあやこだが、鬼鮫の一言で現実に引き戻される。
「取り込み中悪いが、密売現場を抑えた。すぐに向かうぞ」
「……」
 あやこはきつく拳を握り締めニコラを睨み見るが、当の二コラはまるでそれを気に留めた様子もなかった。
 密売現場に駆けつけたあやこたちだが、何か様子がおかしかった。
 密売人の船だけがあり、姉妹の船がどこにも見当たらないのだ。
「騙されないわよ。砲撃用意!」
 二コラはあやこの事など気にも留めず、砲撃を命じる。彼女の命令に従い、砲撃すると先ほどまで何もなかった場所に船が現れた。
「すぐさま姉妹を拘束する」
 あやこはすぐに姉妹の船に向かった。


 あやこが姉妹を拘束に向かっている間、ニコラは娘と旗艦の教室にいた。そこで妖精王国の伝説について語っていたのだ。
「昔、勇敢な歌姫が独裁者を打ち、勝利したのよ」
 その話を聞いていた娘は眉根を寄せながら、あやこが話していた言葉を思い出した。
「どうして歌姫は悪者を殺したの? 話し合いは駄目だったの? どうして悪いから殺してしまうの?」
 二人の意見が噛み合わない話し合いを続けている間に、あやこは取調室で姉妹を前に話を進めていた。
「粗方目星はついているのよ。白状しなさい」
 鋭い眼光を光らせて睨みつけるあやこは、二人の前に先日ニコラから受け取った刀を取り出した。それを見た瞬間、姉妹は驚愕に目を見開く。
「それは……!」
「なぜ、私の懐胎を知ってるの」
 あやこが更に突き詰めて聞き込んでいる時に、ニコラがこの場にやってきた。
 姉妹がニコラを見るのと同時に、あやこもニコラを振り返り同じ質問を彼女にする。
「なぜ?」
「……」
 二コラはじっとあやこの目を見つめ、口を開く事はなかった。


 その晩、藤田家の寝室で眠っている娘の元へニコラがそっと忍び込んでくる。そして彼女の寝首を掻こうと身構えるが早いか、暗闇に発砲音と光が走り抜けた。
 発砲したあやこに背を向けたまま立っていたニコラはゆっくりとこちらを振り返る。そして、今にも泣き出しそうな顔でこちらを見つめ返した。
「ママ……。私よ」
 あやこが眉根を寄せると、ニコラは自分の素性を明かし始めた。
 自分はあやこの娘で、未来からやってきたのだと。外交官と言う道を選んだ自分を鍛えて、母を暗殺から守る為にわざわざ姉妹を雇って暗殺を仕組んだこと。
「全ては自作自演……それも全てママを守る為……。私は、過去の自分自身を討って歴史から消えたいの!!」
 ハラハラと涙を溢すニコラにあやこは歩み寄ると、そっと彼女を抱き寄せてその頭を撫でた。
「何言ってるの。そんなことする必要ないわ。全てはなるようにしかならないのよ」
 号泣するニコラを、あやこはしっかりと抱きしめた。


 翌日。
 娘はニコラの存在を朝から探し回っていた。
 どこを探しても見当たらない彼女の存在に、あやこに訊ねてくる。
「ママ。先生は?」
「急用で帰ったわ」
 その言葉を聞いた娘は驚愕に目を見開き、仕事をしているあやこにしがみつく。
「逢いたい!!」
 突然の別れに涙する娘を振り返り、あやこはニッコリと優しく笑いかける。
「大丈夫。あなたが成人したら逢えるわ」
 あやこは娘の頭を優しく撫でるのだった。
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東京怪談
2014年02月04日

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