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『ショコラティエの魅せる夢 』
飯島 カイリja3746

●バレンタインの夢一夜
「ショコラ・バーだって。知ってる?」
「知ってる知ってる!」
 学校の一角、女学生同士がわいわいと噂話に華を咲かせている。
 ショコラ・バー。夢を観たい人に、夢を魅せてくれる場所。
 甘いカクテルと共に、ほろ苦いショコラを。
 辛口のワインと共に、飛び切り甘いショコラを。
 お酒とショコラの華麗なるマリアージュ。
 色取り取りの包みに隠された秘密を、どうぞ召し上がれ。
 ――それはバレンタイン・デーの夢一夜。斯くして今宵魅せられるのは誰の番?
 年齢不問、性別不問、何もかもが関係無い。
 バレンタインの夜のみに客を迎える、秘密のショコラ・バー。
 噂を耳にすれば、あっという間に足取りはこちら側。

 ”ショコラ・バーはあなたの訪問を心待ちにしております。”

 あなたは噂を偶々耳にする。そしてその夜、連れ立って歩いていたパートナーと共にあるバーへと足を踏み入れる。導かれるように、促されるように。不思議で可笑しなショコラ・バーで、一夜限りの夢を見る。

●いざ行かんしょこら・ばあ
 久遠ヶ原学園の一教室。一人で黙々と飯島 カイリ(ja3746)は課題をこなしていた。
 世間の女子たちはバレンタインの話で賑わっているようだが、カイリには関係ない。――と彼女は思っている。
 しかし、時間はもう随分遅い。窓から見える景色はすっかり暗くなってしまっている。立ち上がって伸びをし、帰る準備でも、としたところ、背後で何者かの気配がした。
「ん……? ……っぎゃあ!」
 振り向こうとした矢先、唐突に身体が宙に浮く。明確に言えば身体があっさりと持ち上げられる。
「色気の無い奴じゃのぅお前は……」
 そう言いながらカイリを抱え直すのは、互いの親に定められた婚約者である千 庵(jb3993)だ。豪快な笑みを浮かべながら、カイリを軽々と持ち上げその目を覗き込む。
「むきー! はーなーせー!」
「説得力がまるで無いのぅ」
 頬を染めつつじたばたと暴れるカイリを宥めつつ、庵は笑ってその小柄な身体を抱き竦める。穏やかな眼差しは愛しい人を見詰めるそれだ。
「カイリ、しょこら・ばあとやらに行こう」
「……ショコラ・バー?」
 唐突に切り出された話にカイリは目を丸くする。
 ――学園内で飛び交う噂で聞いた話。
 ――夢のようなひと時を叶えてくれる、魔法のお店。
 庵は大きく頷くと、抱いていたカイリをゆっくりと下ろしてやる。
「何でも、ばれんたいん? の日だけ開店するらしくてのぅ」
「だからって何でボク?」
 怪訝そうに問い掛けるカイリに、庵は笑みを浮かべると堂々と言い切る。
「可愛いからの」
「……返答になってないっ!」
 常日頃から素直になれないカイリだ。庵に告白されて以来、そのツンツン具合は天井知らず。ついつい彼を避けてしまいがちになり、顔を見るなり逃げ出す始末。こうして捕獲されて漸く、逃げることを忘れたカイリは庵と真っ向から話をすることが出来る。
 拒否の言葉が無いことを受諾と取った庵は、カイリに袋を手渡す。
「これに着替えてくると良い」
「何? これ」
 袋の中を覘くと、ピンクを基調とした――服。
 取り出してみれば、それはフリルがふんだんにあしらわれた一着のパーティードレスだった。ピンク色のグラデーションが愛らしくも美しい。カイリの好みか否かで言えば、好みの部類と言って良い。
 何せ、彼女が今身に纏っているのもいわゆるゴスロリ服そのものなのだ。
 ロリータ服の好みについては庵も勿論把握している。
「……良いけど」
「よし。じゃあわしは外で待っておるからの」
 どうしても素直になれないカイリはさておいて、庵はつかつかと外に出て扉を閉める。
 ――そして、待つこと数分。
 扉を開けて出て来たのは、愛らしい衣装を身に纏ったカイリ。頭には可愛らしいリボンをちょこんと付け、彼女自身の持つ幼さが際立つ。
「……どう?」
「……綺麗だが、愛らしさが勝るな」
 若干の恥じらいを持ちつつおずおずと尋ねたカイリに対し、庵は暫し見惚れた後しみじみと頷いて返す。
「ところでこれ、ピッタリなんだけど」
「ワシの目を舐めんな」
「変態だね」
 疑念の色深く尋ねたカイリにあっさりと返す庵に、彼女はため息を吐く。
 文句を言った所で無駄だということも、全てはカイリを思ってのものだということにも薄々感付いていたからだ。勿論、素直になれないカイリは口を出すことをしないけれど。
 普段であれば和服を着ている筈の庵が今日に限ってダークスーツを着ていることから、服を渡された理由は明確だった。
(バレンタインの夜くらい、ほんの少し素直になっても構わないかも知れない)
 カイリの心を知ってか知らずか、庵はカイリの手を取るとやや強引に引く。
「行くぞ、カイリ」
「ちょっとっ……、ああもう、好きにしなよっ」
 ――斯くして二人はショコラ・バーを探しに、繁華街へと向かった。



 ショコラ・バーはあっさりと見付かった。秘密の噂といった話が冗談だったかのように、堂々と佇んでいる看板。その目の前には、道化師のフルマスクを付けた女性がバスケットを手に立っている。
「いらっしゃいませ、ショコラ・バーへようこそ! ――ドレスコードは一粒のチョコレート、その他は何から何まで自由な空間。あなたも、あなたも、きっと満足していただけることかと思います」
 女性はやわらかな声音で囁きかけると深く一礼し、バスケットを差し出した。中に入っているのは大小様々、色もそれぞれの包み紙。その表面には『chocolate』の文字が印字されている。
「貰えるんだ? ……じゃあ、ボクはこれ」
「わしはこれかのぅ」
 それぞれが手にしたカラーは、青とピンク。
 ブルー――水を連想し故郷のヴェネツィアを思い出したカイリと、ピンク――可愛らしいカイリの姿を連想した庵。
 包み紙を開くが早いか、カイリはぱくりと口にチョコレートを放り込む。
「……ん、美味しいなあ」
 チョコレートはふんわり蕩けるように甘く、それでいてしつこさがまるでない。噛み砕いた中からはソースが溢れ出て、口内を甘い風味で満たしてくれる。
「こちらからどうぞ、足元にはお気を付けて」
 ――案内されるがままに階段を下り地下へと降りると、そこには広い奥行を持った空間が有った。ダンスフロアにソファースペース、静かな照明を使ったカウンターにはバーテンダーの姿が見える。
「何とも小洒落た内装だのぅ」
 渋い感想を述べる庵の横顔を見上げながら、カイリはとくとくとした胸の高鳴りを感じ始めていた。
「ねぇ、ダンスを踊りたいな」
 するりとカイリの口をついて出たのは、素直な気持ち。ダンスを踊りたい。穏やかなバックミュージックの流れる会場で、庵と――目前の彼と、連れ立ってダンスを踊りたい。
「ねぇ、ボクをエスコートしてよ。レディをガッカリさせないでね?」
「……簡単なものしかわからんが、踊ってくれるか、カイリ」
 チョコレートの香りの漂うショコラ・バーで、カイリは庵の手を引き満面の笑みを浮かべて頷く。
「うん、喜んで!」
 突然素直になった相手に面食らう庵だったが、直ぐに口許を綻ばせて笑う。
「……何時もこうなら本当にいいんじゃが……」
 小さく呟くと共に押し出された吐息に混じる、仄かな喜色。
 庵は嬉しかった。唐突に素直になった相手を不思議にも思ったが、何故だか深く気にはならなかった。
 愛しい相手が自分を求めてくれている。ただそれだけのことが嬉しくて、庵はカイリと共に連れ立ってダンスフロアへと向かった。

●愛し君と二人、素直な彼女と
 ダンスは優雅で軽やかなワルツを一曲。
 人々の波の中で小柄なカイリをかばうよう立ち回りながら、庵は華麗にエスコートして見せた。
 その合間合間でもカイリは「恰好良いね」「上手だね」などと笑い掛け、庵の胸を高鳴らせる。
 それは素直なカイリの気持ちだった。普段であれば簡単には出て来ない気持ちがするすると解けるように飛び出して来る。
 取り合う手のぬくもりはやわらかで、カイリはその手に甘えるよう確りと握り締め指を絡め、ダンスのステップを踏んだ。
 そうしてピアノで奏でられる一曲を躍り終えると二人は満足し、偶々空いていたソファー席へと腰を下ろす。
 カイリへのときめきで落ち着かない様子の庵を見ながら、小首を傾げる彼女。
 チョコを口に含んだ庵に対し「美味しい?」と尋ねると、何だか様子が変だ。
 頬が少し赤くなり、カイリを見る目は潤んでいるようにも思える。ふわりと漂って来るチョコの香りに当てられたのかとも思ったが、違うらしい。照明の具合の所為だろうか? ――そんなことを思いながら、カイリは庵の手指に触れると緩く握り締める。
「庵、楽しかった。ありがとう」
「……カイリ」
 ふにゃりと崩した笑みを浮かべるカイリに対し、庵はどこか深刻そうな表情を浮かべている。どうかしたのか、そう尋ねるより先に、庵がカイリに身を寄せた。
 先ずは額に啄むような、バードキス。額、眦、鼻先、頬、やわらかな肌を啄んでキスをする。
「ひゃ、あ、くすぐったい!」
「可愛いカイリ、煽るでない……!」
 跳ねて身を竦ませるカイリは、頬をぱっと染めて華が咲いたよう。
 とうとう我慢し切れなくなった庵は、カイリの唇を唇で塞ぐ。華奢な細腰を抱き寄せ、温かでやわらかく、そうしてチョコレートの香りがする唇を重ね合う。
 素直になったカイリもまた、その口付けを甘受する。チョコレートの濃密な香りが混ざり合う中、二人はキスの甘さに陶酔し切っていた。
「ん、いおり、いおり」
 切れ切れに口にするカイリの言葉は覚束ない。
 甘く蕩けたような声音が庵の耳を擽る。
 素直になりたい。本当はもっともっと素直になりたい。そんな思いに掛かっていた枷を、あっさりと秘密のショコラが取り外してしまった。
「カイリ、愛してる、お前は俺のだ、もう離さない」
 告げる言葉は真意に迫ったもの。庵は唇を離すと同時にカイリをきつく抱き締める。耳元で囁かれた言葉にカイリは目を潤ませ、同様に腕を回して固く抱き返した。
「……いおり、」
 囁きは甘く切なく吐息雑じりで、庵はそれだけで胸の高鳴りが増す一方。
 素直さと高揚に助けられる形で二人は互いの熱を伝え続け、そうして夜は穏やかに更けて行った。



 御姫様抱っこでカイリを抱えた庵が店を出て来るのは、それから暫く後。
 疲れたのか否か、眠りこけてしまったカイリの目蓋に口付けを落とし、庵は小さく呟く。
「……お休み、我が姫」
 家まで連れ帰り、眠りにつかせる夜の騎士。
 ピンク色の愛らしいドレスはそのままに横たわらせ、ブランケットをかけてやるだけの落ち着きは取り戻すことが出来たらしい。
 庵は安らかなカイリの寝顔を見ながら、自身もうたた寝に入り始める。
 ショコラ・バーの出来事を思い出し、ほくそ笑む表情を隠したまま。
 穏やかな表情で眠るカイリはどんな夢を見ているのだろう。
 そんなことを考えながら、庵もまた眠りに落ちていった。

 翌朝目覚めたカイリが傍らで眠る庵を見付け真っ赤になったのは、記述するまでも無いだろう。



 バレンタインの夜のみ客を招き入れる、不思議なショコラ・バー。
 一匙の夢と一匙の心を織り交ぜて、魅せられる夜をショコラと共に味わおう。

『ショコラ・バーで過ごす夜。お楽しみいただけましたでしょうか?』

 ――甘いショコラと共に、恋人たちの夜は更けていく。 

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3746 /  飯島 カイリ / 女性 / 14 / インフィルトレイター】
【jb3993 /  千 庵 / 男性 / 20 / ルインズブレイド】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして、相沢です。有難う御座いますの拝を篭めまして。
 今回はショコラ・バーへようこそおいでくださいました! 甘いショコラに合わせて、飛び切り甘い一夜をお過ごしいただけましたでしょうか。普段は素直になれない可愛いあなたの可愛い一面。そして、いつもより余裕のない素敵な彼の一面。
 PC様個別部分は『●愛し君と二人、素直な彼女と』になります。どうぞ合わせてお楽しみください。

 気に入っていただければ幸いです、ご依頼どうも有難う御座いました!
不思議なノベル -
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エリュシオン
2014年02月05日

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