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『年の初めのためしとて 〜おにーさんの突撃あけおめ・再 』
百々 清世ja3082




 新年である。
 気持ちも新たに、旧年中の反省などもしつつ。百々 清世は珍しく真顔で決意した。
「今年はちゃんとお年玉貰いに行くん……」
 回収目標はジュリアン・白川。一応清世の所属する大学部の講師ではあるが、その自宅は最近、清世の別宅のような状態である。
「まあそんでも、いつも通りじゃ芸もねぇしな」
 ポケットから携帯電話を取り出し耳に当てる。
 暫くの後、何かを警戒するような白川の声が応答した。
「あ、もしー? あけおめさーん!」
「ああ……あけましておめでとう。今年もどうぞ宜しく」
 礼儀正しいが月並みな挨拶は、清世の一方的な宣言と共に打ち切られた。
「えっとー、今から行くから外着用意しとけー?」
 プツン。
「どうせじゅりりんの事だから、正月満喫してねえだろ? 去年も初詣も行ってねえって言ってたしなー。初詣誘ってやるし、行く前にちゃんと連絡するし。俺マジやさしーわ」
 電話を仕舞い、清世はすぐ傍のマンションのエントランスに飛び込んだ。
 ……そこが白川の住居である。




 表示された番号に多少なりとも覚悟を決めて電話に出た白川だが、外着と言われてさすがに困惑した。
 それも束の間、けたたましく鳴り響くチャイム。玄関ドアを開けると、いつも通りの笑顔で清世が立っていた。
「……一体何処から電話してきたんだ」
「ちゃんと家につく前に電話したっしょ? で、何でまだそんな服きてんの? それで初詣とかいくの?」
 白川は明らかに室内着のままだ。
「初詣だと!? そういうときは、君が自分の部屋を出る前に電話したまえ!」
 文句を言いつつも、白川は急いで衣装部屋に入っていった。
「は−やーくー! 女の子じゃねえんだし、パパッとその辺の服、適当に着りゃいいじゃん!!」
 一度靴を脱ぐと外に出るのが嫌になるのが判っているので、清世は玄関先でじたばたと足踏みしながら白川を急かす。
「もう少しだ、待ちたまえ!」
 慣れた手つきでネクタイを締めながら廊下に出た白川の姿に、清世が目を丸くした。
「えー何じゅりりん、休みの日にネクタイとか信じらんねーわ!!」
「初詣だろう。きちんとした服装で行くのは当然だ」
「じゅりりんてば、ホント真面目ねー……」
 清世は不気味な生物を見るような目で、白川を見遣った。




 歩いて向かったのはそれほど大きな神社ではなかったが、新年とあって参拝客も多い。
 ちょっとした出店などもあり、なかなか賑わっていた。
「こんな所にこんな神社があったのか」
 感心したように白川が呟く。
「じゅりりん……あそこに何年住んでんの……」
 清世は白川の顔をまじまじと見つめる。が、当人は特に気にする風もなかった。
「近所なんて意外と知らないものだろう」
 以前からちょっと変わったところがあるとは思っていたが、本気で家と職場を往復するだけの生活なのか。
 清世には考えられないことだ。そしてやっぱり白川には時々刺激を与えるべきだと思った。
 もちろん、本人がそれを望んでいるかどうかは別の問題である。

 本殿の前で賽銭を投げ、並んで神妙に手を合わせる。
「じゅりりんは何お願いしたのー?」
「五穀豊穣、国家安寧、天下泰平」
「……うそつくなよ」
 清世は白川の膝裏に素早く自分の膝を入れる。いわゆる『膝カックン』狙いだ。
「じゃあ君は何をお願いしたんだ?」
 笑いながらひょいとかわし、逆に白川が訊いてきた。
「んーと、今年も楽しくいっぱいデートができますように?」
「君らしいと言えば君らしいな」
 そんなことをお願いして、神様が怒らなければいいが。
 だが白川は、何となく神様も清世のことは苦笑いで許してくれそうだと思う。

 まあそれでも神様だって、偶には突っ込みを入れたくなるのかもしれない。
 参道沿いに鬱蒼と茂る木々を揺らし、屋台のテントを捲りあげ、突然冷たい風が吹きつけてきた。
「うわ……寒……っ!!」
 清世は思わず目をつぶって身体を強張らせる。
「やーもう、何で初詣とか来たしー。寒いしやっぱ家いればよかったわ」
「君が初詣に行くと言ったんだろう!?」
 いちいち律儀に返す白川。その頃にはもう清世は、次の行動に移っている。
「あ、じゅりりん! ほらあそこ、甘酒!!」
 茶店の前に屋台が出ていた。
「甘酒が好きなのかね?」
「あったまるっしょ? 寒いしちょっと休憩〜!」
 鍋の甘酒が、大きな寿司湯呑にどろりと注がれた。
 割り箸で掻き混ぜると、甘い酒粕と生姜の匂いがふわりと漂う。
「ふわあ……生き返る……」
 清世は湯気を吹き、甘酒を大事そうに啜った。

 甘酒で少し気力を回復した清世は次の行動へ。
「そうだ、お御籤引くの忘れてた!」
 すたすたと境内に戻ると、愛想よく声をかけた。
「いいの当ててね〜♪」
 笑いを堪える可愛いアルバイト巫女さんから受け取った紙には『小吉』とあった。
「あれー……?」
 かくりと首を傾け、清世が文面を斜め読み。
(急な病気に注意とか……まあ気をつければ治るってことか)
「どうした、女難の相とでもあったかね」
 とからかいながら、白川が手元の紙を見る。運勢は『中吉』である。
「んなわけないじゃん。って、じゅりりんの方がいいとかありえないだろ」
 しかし内容は、およそ中吉のイメージと異なる辛辣な指摘だった。
「えっと……要するにー。仕事ばかりしないで気分転換しろってこと……?」
 白川がピクリと片眉を動かした。
「ほらー、神様もそういってるじゃん! もっと遊ぼうぜじゅりりん!」
「いや、そういうことではなくてだね」
 そう否定しながら、綺麗に畳んだ御籤を結び縄にしっかり結び付ける白川だった。




 帰り道は、いつしか小走りのような早足で。
 清世はドアが開くのももどかしい様子で、玄関に飛び込む。
「ふわー寒かった! やっぱ家はいいわ〜」
 真っ直ぐ居間に入り、清世はすぐにエアコンのスイッチを入れた。
「誰の家だ、誰の」
 コートを脱ぎながらこの部屋の主の白川が居間を覗き込んだ頃には、既に清世はもふもふのテディベアを抱いて、ソファに寝転がっていた。
「手は洗ったのかね? ちゃんとうがいもしたんだろうな。風邪をひくぞ!」
 廊下を伝って水音が響いてきたところで、清世がクマに向かって小さく呟く。
「じゅりりんてさ……時々おばちゃんみたいよな?」
「何か言ったかね!?」
 ……鋭敏聴覚か?
「じゅりりんてば、いつもかっこいーっ★て!」
 清世が裏声でクマの手を振る。


 事前に言ってくれれば何か用意しておいたのに。
 いつもと同じことを言いつつ、白川があり合わせのつまみを並べる。
 大体がハムとか。ハムとか。ハムとか。明らかに年末から余っている貰い物だ。
 キープしておいた缶チューハイを開けながら、清世がふと尋ねた。
「そういやじゅりりんおせちとか食わねぇの……?」
「おせち?」
「うんー。あの玉子焼きの豪華なの美味しいじゃん? 今年は彼女んとこで食った」
「そうか、良い彼女だな」
 最後に自家製のおせち料理を食べたのはいつだったか。
 ……白川には、随分昔の事のように思えた。
「まあ気がついたら正月というのは終わっているからな」
「そういうもんー? でもなんかやたら正月特番ってずっとやってる気がしね? 全然面白くないよねえ」
 清世がうんざりという表情でリモコンを操作する。
「なら見なければいいのではないかね?」
「んー、でもなんかやってないかなって思うじゃん。音が流れてるだけでもいいやって感じ……」
 こうまで言われて正月番組を作る方は、それはそれで大変そうだ。
「まあ詰まらない位の日常が続くのは悪いことではないな」
「何それー。じゅりりん時々おじさんみたいよな?」
 清世がからかうと、白川は憮然とグラスを口元に運ぶ。
「仕事と戯れて、おせちも食べずに正月を過ごしてきた寂しい人間のなれの果てだからな」
「やだーじゅりりん、今年はワタシがいるじゃない★」
 清世の操るクマがもふもふの腕で白川の腕にすがり、つぶらな瞳を向けた。
「……随分気に入ってるんだな。もうそれ、連れて帰るか?」
 クリスマスプレゼントだと言って、年末に清世が持ってきた大きなテディベアである。普段は居間の隅に、ででんと座っているだけだ。
「えー、なんで。ここにあるからいいんじゃん」
 膝の間にクマを抱き、清世が笑う。
 二十歳超えた男が何をやってるんだ。そう思いつつ、その姿があまりに平和そのもので、白川には眩しくすら思えたのだった。




 そして今年も来た時と同じ唐突さで、清世が腰を上げる。
「今日は泊まりませんしー! ちゃんと帰りますー!」
 テディベアを元の位置にきちんと座らせ、胸を張る清世。
「威張ることか。……まあ気をつけて帰りたまえ」
 白川は半ば拍子抜け、半ば安堵という具合だ。
 玄関先で靴を履いた清世が立ちあがったと思うと、くるりと振り向く。
「あ。大事なこと忘れてた」
「……何だ?」
 どこか警戒しつつ若干身を引く白川を、清世がやたら目を輝かせて見つめる。
「じゅりりん、お年玉ちょーだい」
 掌を上にして差し出す両手。
「……君は幾つだ? 成人したらお年玉などねだるんじゃない」
「えー、寂しいじゅりりんをおにーさんがわざわざ慰めに来てあげたのにー! ……あっ」
 詰め寄る拍子に、手袋がポトリと足元に落ちた。
「誤解を招くような言い方はよしたまえ。大体君は……」
 手袋を拾おうと屈んだ白川の言葉がそこで途切れる。
 肩と首にかかる重さ。そして頬に当たる、暖かく柔らかな、覚えのある感触。
「…………」
 白川は無言で清世の身体を押し戻す。
「君は時々、驚くほど策士だな」
 呆れたように、そして諦めたように。清世の笑顔を軽く睨みながら、白川は片手で自分の頬を押さえ、別の手で拾った手袋を差し出す。
「えー、こんなのただの挨拶っしょ。あ、もしかしてほっぺじゃなくて口の方が良かったとか? ……って冗談、冗談!」
 白川は無言のまま、手袋を清世の顔にぐいぐいと押し付けてきた。
「ま、とにかく。今年もよろしくー?」
 閉まりゆく玄関ドアの向こうに、清世のウィンクとひらひらする手が消えて行った。


 年が明けてもやはり、変わらないものは変わらないのである。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / 今年もゆるりと。】

同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28 / 今年もひっかかりました。】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
早いもので、あれから一年経ちました。
昨年の物を読み返し、相変わらずなところと少しずつ変化しているところがあるのだなあと。
改めまして、本年もどうぞ宜しくお願い致します。
この度のご依頼、誠に有難うございました。
winF☆思い出と共にノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年02月06日

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