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『Alles Liebe 』
綾鷹・郁8646)&鍵屋・智子(NPCA031)

「今更?」
2047年のエリア51を摘発し円盤を没収せよ。綾鷹郁に唐突に下された任務はそれであった。
宇宙人が円盤と共に墜落し、救助を求めた宇宙人は興奮した米兵に撃たれ脳死……かつてエリア51で起こった事件の全貌といえばそんな感じであったはずだ。
今更洗い出す案件でもないと郁は思ったのだが、ここで断るわけにもいかない。
「地球人に拉致監禁された挙句、殺された……軍事介入の脚本としちゃ上出来よね?」
隣で話を聞いていた智子が一寸顎に手を当ててそう呟いた。なるほど、一理ある。
宇宙開発の芽を摘む、という航空事象艇乗員の理念には沿っているのかもしれない。
郁は問題の現場に行き、捜査を始めることにした。
「なにかな、これ」
没収を命ぜられた円盤について調べると、一部に象形文字が書かれているのを発見した。
脳死中の宇宙人もこの場のどこかにいるだろう。
郁は円盤内部を調べるべく手を伸ばしたところで、郁は突然振動を感じた。
怯みその場を後ずさった郁の前で円盤が動き出す。徐々に加速していく円盤はこのエリア51を抜け、どこかへ行くように見えた。
「ちょっと!」
追いかける郁だが、開いた間は加速により広がり、一筋縄では追いつけぬほどになっていた。
「なんだあれは!!」
円盤は原子力発電所の方へ向かったのか、警備兵の叫びが遠くの郁にも聞こえた。
なにをするつもりなのだろうか、と考えが脳裏を巡ったところで、その疑問は直ぐ解決された。
「こいつ、燃料もってく気だ!!」
「バカヤロウ!さっさと撃て!」
両者とも早く止めなければならない。間に合った郁は声をあげ、警備兵を制止しようとした。
が、しかしその声は届かず引き金は引かれ、あたりは目が使い物にならなくなってしまうのではないかというほどの光に包まれた。
いくら任務とはいえここまでの被害は――慌てて事象艇に乗り込んだ郁は、行き先を爆破前に指定した。
操作中、郁の頭になにかの声が響く。説明しがたいが、人間離れしたような声といったところだろうか。
「ティークリッパーの人ですか?」
「そうよ?だから……なに?」
ノイズ混じりの言葉を注意深く聴きながら、提示された疑問に郁は応えていく。
「ああ、よかった。私はあの円盤の中に居るとされている、ここでは宇宙人と呼ばれるものです」
突如、宇宙人を名乗り出した声の主は、郁に対し友好的な態度を示した。
その態度が嘘ではなくどうやら敵ではないようだということは、郁の共感能力でわかる。
しかし、郁の能力は利点は多いが嫌な点も多いものだ。分かりすぎるがゆえに、見るべきでないことも見えてしまう
「墜落の際、妻を撃たれてしまいまして。一人では少々心細い物ですな」
墜落時の彼の悲痛な表情、その時の状況まで、見てしまうとは。
郁は彼に同情を覚えた。そして、出来るだけ力になりたいとも感じるようになったのだ。
……そして、幾分かの前置きを置いた後、声はあることを頼み出した。
「手伝って欲しいことがあるんですが……」
「……いいわよ!何でも言って!」
この頼みが後の騒ぎに繋がるとは、その時の郁は思っても見なかった。

結局、また同じ光景が繰り返された。……しかし、先ほどと違うのは郁が円盤に乗っていたこと。
地下壕で生存者と落ち合い、情報を得る機会があるというのは有利である。

「円盤は現代のロゼッタストーンよ!」
項垂れる生存者たちの中、異質なほどに興奮している研究者の姿があった。名を鍵屋智子としよう。
彼女は円盤……正しくは、それに書かれた象形文字を睨みつける。
「あと少しあれば解読できるんだけどね」
生憎あと少しがたりないわ、と残念そうに呟いた智子に郁が解読方法を示す。
張り切った智子の熱意か、普段よりも数倍の速さで解読に成功したようだ。
「元素壱拾伍、ウンウンペンチウム。それがこいつの燃料っぽいわね」
得意げに話す智子を前に、原発燃料を盗もうとしていたのはそういうことだったのか、と納得した郁は再び事象艇を動かそうとする。
爆発前に遡って行く事象艇の中、またしても彼の声を聞く。
燃料を解読したことを彼は察したのか、郁にまた頼みごとをしたのだ。内容は、その燃料を盗め。
「帰りたいの?」
その声には、無言の肯定がついた。
事象艇を使えば、盗むことぐらいは用意だ。爆発前である昨日。
彼と意思疎通をはかろうとしていた所員を尻目に、所員に紛れ込んだ郁が倉庫に乗り込む。
元素壱拾伍……奥に補完されていたそれを盗んだ郁は、気付かれる前に逃走する。
たしか智子が研究室にいたはずだ、彼に渡した後はしばらくは匿ってもらおう。そういった計画だった。
「あれを渡した?馬鹿が!奴は囚人だ」
しかし、匿ってもらう段階でトラブルが生じた。予想外の叱責を受けた郁は、慌てて円盤を追う。
また、あの逃走劇が起こってしまった。

「最初からこれが狙い?」
そして、何度爆発したのだろうか。この炉が。
その前で智子は悔恨の念を表していた。
「成程…虐待死は戦争の口実になるわね」
郁は円盤の前に立ち、説得を試みようとした。
「やめて!貴方は善人でしょ?」
「もういいんだ」
しかし、その説得は届かない。いつか見えたあの光景を送る。
……それでも彼は頑なだった。円盤の動きを見ていた警備兵が声を張り上げる。
「野郎!積年の恨みを自爆で晴らす気だ!爆発するぞ!」
その声に大多数の兵士が退避するが、覚悟を決めた者、失う者がないものと残る者はいた。
また発砲と爆発が起こるのだろうか。それだけは阻止しなくてはならない。
「私が止める!」
今回の件で責任を感じ取っていた郁は立ち上がる。
炉の中、制御棒を押して回る。喀血することぐらい気にしなかった。やらなければならないことがある。
幾ばくかの時間そうした後、ようやく原発は停まった。あの爆発は起こることはない。
「馬鹿よ」
しかし、郁の身体は被爆してボロボロだった。瀕死の彼女が助かる確率は低いだろう。
絶望と悲しみで涙を溢す智子のポケットから馴染みのメロディが流れる。
取って確認したメールには、治療法という件名と、その方法が書かれていた。その治療法と智子の看病の成果、郁は快復した。
……治療法を送ったのは、やはり彼だったのだろうか。
もう聞くことすら儘ならない疑問を抱え、星空を仰ぐ郁にテレパシーで送られてきた返事は。
彼の心からの笑顔であった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
黒木茨 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年02月07日

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