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『罪と罰を灼き尽くすコロナ 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&鬼鮫(NPCA018)


「らしくないな、綾鷹」
 艦長・藤田あやこは、それだけを言った。
 綾鷹郁が、俯いた。
 査問会である。あやこ以外にも、連合艦隊の高位軍人がずらりと居並び、査問対象である綾鷹郁を取り囲んでいる。
 彼女にとって、査問会は初めての経験ではないはずだった。
 これまでも軍規違反に限りなく近い事をしでかしては、こうして呼び出され、上官複数を相手に物怖じする事なく自分の意見を述べていた郁が、しかし今回は口数が少ない。
 明日は士官学校の卒業式、という時に、事故が起こったのだ。
 卒業式当日に小型事象艇の曲技飛行を披露するはずだった卒業生のグループが、その練習中に起こした事故。重傷者4名そして死者1名という惨事であった。
 特に成績優秀で、卒業後のエリート街道を約束されていたグループである。生き残っている者を1人1人こうして査問にかけ、事故の真相を究明しているところである。
 そのグループの中心人物、曲技飛行隊の隊長を務めていた卒業生が答弁したところによると、死亡した1名の操縦ミスが原因で起こった事故であるという。
 他の者たちも、綾鷹郁までもが、判で押したように同じ事を言った。
 口裏を合わせている気配が濃厚ではある。
 らしくない、とあやこが言ったのは、その口裏合わせに郁が参加している事に対してだ。
 保身のために皆と同調し、死んだ者に責任を押し付ける。
 それは、綾鷹郁という少女に、最も似合わない行動である。
「言うまでもないが……こんなものは、調べればすぐにわかる事だぞ」
「調べて下さい……」
 俯いたまま、郁は言った。
「その結果、どんな判決が下っても……あたしたちは、受け入れます」


 士官学校で、苦楽を共にした仲間たちである。戦友、と言ってもいいだろう。
「俺たちは虚偽報告をしているわけじゃあない……ひたすら口をつぐんでいれば大丈夫、何の問題もないさ」
 隊長が言い、他の者たちも俯き加減に頷いている。
「綾鷹お前、余計な事は何も喋ってないだろうな? 口が軽いというわけじゃないが、お前は良くも悪くも正直だからな」
「……何にも、喋ってないよ」
 喋らなくとも、口をつぐんでいても、無駄な事。郁は、そう言いそうになった。
 事故の精査を担当しているのは、何しろ鬼鮫参謀と藤田あやこである。
 あの2人の追及から、この仲間たちを守る。
 それはアシッドクランを相手にするよりも難儀な戦いとなりそうであった。


 隊長と呼ばれるだけあって、人望はあるようだった。
「仲間思いな子でね……他も皆、いい子ばかりだよ」
 老いた庭師が、あやこの質問に答えてくれた。
 士官学校の、全てを知り尽くす人物である。
「誰かが、綾鷹を嫉むあまり何か仕掛けたのではないか……私は、そう思っていたのだが」
「そんな事をする子は1人もいないよ艦長。繰り返すが皆、本当に誠実でいい子なんだ。仲間思いな子ばかりだよ……ただ」
 老庭師の口調が、表情が、曇った。
「仲間を思って、庇い合っているうちに……何かしら嘘が生まれちまうってのは、よくある話でね」


 人殺し、と罵られた方が、ずっと気が楽だ。
 少なくとも、罰を受けた気分にはなれる。
 だが遺族は、郁に、そんな自己満足を許してはくれなかった。
「うちの娘が……本当に、ご迷惑をおかけして……」
 故人の父親が、声を詰まらせながら深々と頭を下げている。
 やめて、と郁は悲鳴を上げそうになった。
「あの子は申しておりました。落ちこぼれの自分がここまで来れたのも、綾鷹さんのおかげだと……それが最後に、恩を仇で返すような形になってしまって……」
「ああ、いや……そんな事は……」
 曖昧な事しか言えない自分が、郁は情けなかった。
 この人物の娘が、曲技飛行の練習中に操縦ミスをやらかし、事故を起こした。今のところ、そういう事になってしまっている。
 そういう事に、してしまっているのだ。郁たちが。
「あの子の、友達になって下さって……本当に、ありがとうございました」
(駄目だ……)
 口に出せぬ呟きを、郁は心の中で漏らした。
(あたしたち……これじゃ、駄目だ……!)


 あやこは、己の耳を疑った。
「コロナ……だと?」
「間違いありません。連中、コロナをやろうとして失敗しちまったんでしょう」
 事故現場と事象艇の残骸を調べていた鬼鮫参謀が、そんな報告を持って来たのである。
 コロナ。複数回の爆撃を数ミリの狂いもなく一点に集中し、標的を破壊する飛行戦闘技術。その危険さゆえ、曲技飛行での使用は禁じられている。
 禁止技に挑戦してみたいという功名心が、事故をもたらしたのか。
「事はそう単純じゃありませんぜ。失敗したとは言いましたがね……もしかしたら、コロナの練習それ自体は成功してたのかも知れません」
 鬼鮫が、謎めいた事を言っている。
「問題は、その後……どうも敵襲の形跡らしいもんが残ってるんですよ」
 事故ではなく敵の襲撃で、1人が命を落とし4人が重傷を負った。もし、そうであるとしたら。
「……何故、あの者たちはそれを報告しない? 1人の操縦ミスだなどと、口裏を合わせて」
「完璧な奇襲だったんでしょうな。本当に襲われたのかどうか、自信が持てなくなるくれえに……誤報は、成績に響きますからね」
「もし、そうだとしたら……いよいよ本当に、お前らしくないぞ綾鷹」
 今はこの場にいない少女を、あやこは叱りつけた。
「仲間を庇うため、だとしても……こんなやり方じゃ、誰を庇う事も守る事も出来はしないわよ」


「綾鷹、お前! 仲間を売るつもりか!」
 隊長が、郁の胸ぐらを掴んできた。
 その手をやんわりと振りほどきながら、郁は言う。
「隊長も皆も、よく考えて。あたしたち、吐き気がするような事やってるんだよ? このまんまじゃ、あの子だって……」
「ああ、わかってるよ! 俺が殺したって言いたいんだろう!? 俺のせいだって!」
 隊長が、激昂しながら泣き出した。
「確かに、コロナをやろうって言い出したのは俺さ! みんなを、それに付き合わせたのもな! そのせいで……そのせいで、彼女は死んだ……わかってるんだよ、そんな事ぁ……」
 コロナ。超高速の、一点爆撃戦法。
 もちろん、練習で使用したのは実弾ではなく照明弾である。
 郁は思い返した。鮮やかな、照明弾の連続爆発。
 その閃光が、あの怪物を呼び寄せてしまったのだ。
 怪鳥……いや、翼竜であったろうか。
 とにかく、翼ある怪物としか表現し得ぬものが突然現れ、襲いかかって来た。
 悪夢としか思えぬような、超高速の奇襲であった。反撃する暇も、郁たちには与えられなかった。
 まごまごしている間に、郁たちの事象艇はことごとく破壊され、4人が重傷を負い、1人が死んだ。
 あの怪物が結局、何であったのかは、わからない。蟲の同類か、アシッド族の生物兵器か。
 とにかく、敵であった事は間違いない。
 敵襲であったのだから、報告するべきだったのだ。
 突然現れて消え去った怪物の存在など無論、誰も信じはしないだろう。虚偽の報告を行った罪で全員、卒業間際で大減点を食らい、留年をする羽目になっていたかも知れない。
 それでも、嘘はつくべきではなかったのだ。仲間が1人、死んでいるのだから。
「考え直せ綾鷹……あれは敵襲でも怪物でもない、単なる突然の荒天、異常気象だったんだ。不可抗力だったんだよ。さもなきゃ俺ら全員、事故でパニクって集団幻覚でも」
 言葉が終わるのを待たずに郁は、隊長の顔面に平手打ちを叩き込んでいた。
「このへんで、もうやめとき……無様で、恥ずかしゅうて、夜も眠れんなるぞね!」
 尻餅をついたまま、隊長は泣いていた。
 他の者たちは、俯いている。隊長と同じく、涙ぐんでいる者もいる。
 仲間が、死んだのである。
 まず行うべきは隠蔽工作などではなく、その死を悼み、涙を流す事であった。


 隊長は、過失致死罪で起訴された。
 一切、抗弁する事なく、彼はそれを受け入れた。
 他の者は全員、留年で済んだ。
 卒業を間近にしながら、それを取り消され、汚名を帯びたままのもう1年を士官学校で過ごさなければならなくなったのだ。
 針の筵であろう。充分に辛いだろう、と藤田あやこは思う。
 だからと言って、許してやるつもりはない。
 綾鷹郁が望んでいるのは、許しではなく罰を受ける事なのだ。
「こんなもので罰を受けたつもりになってもらっては困るぞ。わかっているのだろうな?」
「はい……」
 郁は俯いた。
「どんな罰を受けても、あたしの罪は消えません……」
「……まあ、これでわかっただろう。庇い合いが、仲間を守る事に繋がるとは限らないと」
 あやこは幾分、口調を和らげた。
「軍務に忠実である事。失敗も罪も、速やかに報告する事。それが結局、仲間を守るための最も手っ取り早い手段なのだよ」
 説教めいた事を言いながら、あやこは郁に背を向けた。
 この少女には、しばらく1人で泣くための時間が必要だ。
 1つだけ言葉を残し、あやこは部屋を出た。
「いずれ、私が本当のコロナを教えてやる。覚悟しておけ」


 鬼鮫参謀が、自身で報告に来た。
「アシッドクラン超光速海軍……またしても、奴らか」
「新型の生体兵器、ってのが一番近いでしょうな。ワープ能力を持つ翼竜……厄介な化け物ですぜ」
「その実戦テストだった、というわけだな。今回は」
 艦橋の窓から、あやこは宇宙を睨んだ。
「それにしても、超光速海軍……久しぶりに、その名を聞いたぞ」
「あの連中と決着をつけるにゃ、久遠の都と妖精王国がガッチリ手ぇ結んで総力を挙げなきゃいけません。この艦隊だけが頑張ってる現状じゃ、ちょいと厳しいもんがありますな」
 鬼鮫に言われるまでもなく、問題は山積みであった。
 綾鷹郁には、さっさと立ち直ってもらわなければならない。 
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年02月07日

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