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『君に届ける聖夜の祝福 』
御空 誓jb6197

 ”クリスマス、どっか行く?”

 御空 誓が三十分以上かけて作成したメールを、十分以上かけて送信したのは、十二月に入ったばかりの頃。
 そろそろ初雪が降ってもおかしくないほどに、空気がいっそう冷え込んで来た日のことだった。
 送り先は、幼なじみで恋人である風早花音。
 もうすぐクリスマスと言うこともあり、自分からデートに誘うべきでは無いかと数日前から真剣に悩んだ末の行動。
 どう誘えばいいかわからず、ああでもないこうでもないと打ち込んでは消しを繰り返し、ようやく出来たのがさっきの一文と言うわけである。
「いや、デートとか言ってもな。幼馴染みだし、今までだって何度も一緒に出掛けてるし」
 一体誰に言い訳をしているんだと言う勢いで独り言を続けていると、スマホが突然震え出し落っことしそうになる。
 慌てて画面を確認すると、花音からの返信だった。祈るような思いでメールを開くとそこに表示されていたのは――

 ”遊園地に行きたい!”

「遊園地か……まあ花音らしいつーか」
 安堵のため息を漏らしながらその下の文章に目を向ける。

 ”デート、楽しみにしてるね♪”

「いやいや、デートとか改めて言われると照れるっつーかもう!」

 叫んだ勢いで、誓はベッドから転がり落ちた。


●12月24日

 冬晴れの朝は、とても心地がいい。
 きりりと冷え切った大気を胸一杯に吸い込み、一日のはじまりを祝福するように降り注ぐ陽光に目を細める。
 そうするだけで、自身の内が自然と浄化される気がするから。

「うわぁ……やっぱ今日は混んでるなぁ」
 遊園地前の人だかりを見て、誓は素直な感想を漏らす。
 混雑を予測して朝早くに出掛けたのだが。やはり今日という『特別な日』には、同じように考える人もそれだけ多いのだろう。
「迷子にならないようにしないとだね」
 周囲を見渡す花音を見て、誓は笑う。
「まあそれだけ白けりゃ見つけやすいけどな」
 花音が身につけているのは、冬仕様の森ガール風衣装。たっぷりとドレープをきかせたスカートに、もこもことしたケープ風のコート。上品なレースやファーで飾られた全ては、まるで雪のように真っ白で。
「クリスマスっぽくていいかなって思ったんだけど……変かな?」
「いやいや、変とか言ってねえし!」
 不安そうに見上げる花音に、誓は慌てて否定する。そして一旦うつむいてから、そっぽを向き。
「……に」
「に?」
「……似合ってるよ……」
 かろうじて聞こえてきた声に、花音は微笑んでしまうのだった。

 冬特有の淡い陽差しに、色とりどりの建物がきらきらと輝いている。
 二人が訪れているのは国内有数のテーマパーク。今日はどこもかしこもクリスマスデコレーションが施されていて、見ているだけで心が浮き立ってしまう。
 園内いっぱに響く軽快なクリスマスソングに、誘われながら。
「誓ちゃん、早く早く!」
「おい、そんなにはしゃぐと危ないって」
 お目当てのアトラクションへ駆け出す花音を、誓が慌てて追いかける。
「だって急がないと、今日中に回りきれない……きゃっ!」
 振り返ると同時につまづいて転びそうになる。思わず目を閉じた花音の身体を包み込む、温かな感触。
「……だから言っただろ? 危ないって」
 顔を上げた花音の目に映るのは、呆れ顔の誓。転びそうになった彼女を抱き留めてくれたのだ。
「あ、ありがとう」
 恥ずかしさに思わずうつむいてしまう。だって、あまりにも不意打ちに顔が近かったから。
 その様子に気付いた誓も、はっとしたように身体を離し。
「とととりあえず、気を付けろよ」
 先を歩き出した誓の耳が真っ赤になっている。背中を追う花音は、たまらず口を開く。
「あの、誓ちゃん」
 振り返った誓は不思議そうに彼女を見つめている。花音は早くなる鼓動を抑えながら、何とか声を振り絞り。
「あのね……私、誓ちゃんと手……繋ぎたい」
「えっ」
 絶句した誓は目を白黒させながら。
「こ、子供みたいじゃねぇか」
「でも、こんなに人がいたらすぐ見失っちゃうよ」
 全くの正論を言われ、誓はたじたじ。けれどこちらを見つめている瞳が、緊張と期待で微かに震えるのを見て。
「……ったく、仕方ねぇな」
 そう言って花音の手を取り、そのまま無言で歩き出す。恥ずかしさのあまり、上手く顔を見ることはできないけれど。
「ありがと、誓ちゃん」
 背から聞こえてくる声に、「馬鹿、礼を言う必要なんてねえし」と返す。
 ――ここで応えなくちゃ、俺こそ馬鹿だ。
 彼女が勇気を出して伝えてくれたのだ。
 花音の手から伝わる温度が、なぜか無性に愛おしかった。

●聖夜の祝福

 園内は昼過ぎになると一層の人出を見せる。
 高くなった太陽の下、二人は人の波に飲まれながらもアトラクションに乗ったり、途中アイスクリームを買って食べたりと、めいっぱい今日と言う日を楽しんでいた。
 命懸けの日々を送る撃退士にとって、穏やかに過ごせる時間がどれほど貴重で幸福であるかが、二人ともわかっているからだろう。
 散々はしゃいで、笑って、気がつけばもう夕方。
 ゆっくりと暮れゆく茜の空が、園内を淡く染め上げ宵の訪れと共に微かな胸の高鳴りを呼び覚ます。
 橙色の灯りがひとつ、またひとつ。
 もうすぐ、聖夜のはじまりだ。
 
 お土産ショップの前を通りかかった時、花音が足を止める。
「わぁ、かわいい……!」
 彼女の視線を釘付けにしているのは、白いクマのぬいぐるみ。この遊園地のマスコットキャラクターを模したものだ。
「……これ、かわいいか?」
「うん、かわいいよ!」
 誓が困惑するのも仕方が無かった。その『クマっぽいなにか』は非常に前衛的なデザインで、完全に笑ってない目と何故か手にした大根が一部のマニアに大人気の商品なのである。
「まあ……欲しいなら買ってやるけど」
「えっ本当? ありがとう誓ちゃん!」
 花音はぬいぐるみを手にして、満面の笑みを浮かべている。そのあまりにも嬉しそうな表情につい、笑いながら。
「グソクじゃなかったのか?」
「グソクも好きだけど、これも好きだもん」
 花音がそう言って大事そうにクマを抱き締めた時、どこかで花火の上がる音がした。
「あ、夜のパレードが始まるよ!」
 誓の手を引き音のする方へ走ると、煌めく光の洪水が目に飛び込んでくる。
「わぁ……!」
 くるくると踊る、光の輪舞。
 色鮮やかな電飾と、軽やかに舞い翻る踊り子が次々に通り過ぎてゆく様は、まるで幻想の世界に紛れ込んでしまったかのようで。
 華やかな音楽の向こうでは、大きな花火が上がり続けている。
「綺麗だな……」
 ぽつりと口にする誓の手を、花音も何も言わずきゅっと握る。
 ふりまかれる夢と笑顔は、ここにいる全てへの祝福と祈り。聖夜の祝砲は何度も胸に響き、たくさんの想いを空へと届ける。
 花音の温度を感じながら、誓は思う。
 未だに彼女を救えなかった罪悪感は消えない。けれど今自分の隣で微笑む恋人は、とても幸せそうで。
 ――この先も、ずっと守っていけるかな。
 彼女の瞳に、影が差さないように。
 いつも幸福な色をそのまなざしに宿していけるように。
 
「……あ、そうだ」
 誓はポケットから小さな紙袋を取り出すと、花音へと差し出す。
「メリークリスマス。これ、俺からのプレゼント」
「えっ……」
 花音は一度瞬きをしたあと、ゆっくりと紙袋を受け取る。中に入っていたのは、花をモチーフにしたピンクゴールドのペンダント。
「お前の趣味とかよくわかんねーから、気に入るかわからないけど」
 照れくさそうな誓に対し、ぶんぶんと首を振ってみせ。ペンダントをつけてもらうと、大切そうにそっと触れる。
「……ありがと、誓ちゃん」
「えっお前なに泣きそうになってるんだよ!?」
 慌てふためく誓へ向け、花音は目に涙を浮かべたまま微笑む。
「だって、嬉しいんだもん」
 恋人が一生懸命選んでくれた。それだけで、どうしてこんなにも嬉しいのだろう。

 花音は思う。
 愛とか、恋とか。
 正直に言えばまだよくはわからない。自分にはまだ少し、難しい。
 ――でもね、胸がどきどきするよ。
 君と手を繋ぐだけで、心がぽかぽかと温かくなる。
 君の顔を見るだけで、涙が出てきそうになる。
 ねえ、誓ちゃん。
 この胸一杯の気持ちを、何て伝えたらいいんだろう。

「全く……何も泣くことないだろ?」
 声が聞こえると同時、頬に温かな感触が伝わる。誓の手のひらがそっと触れたのだ。
「誓ちゃん……」
 誓はそのまま優しく一撫ですると、花音の頬をつまんでぷにっと引っ張る。
「ひでぇ顔」
「あっひどいー!」
 吹き出す誓に花音はふくれっつらをしながら抗議。
「まあ、喜んでくれたならよかった」
 笑いながら、花音の頭をぽんぽんとやる。その表情は、安堵と歓びが入り混じった穏やかなもので。
 二人は再び手を繋ぐと、花火を見上げる。
「誓ちゃん、今日は本当にありがとね。私……今すごく幸せだよ」
「……そっか」
 俺もだよ、と言う言葉は胸に秘めて。
「来年もまた、こうやって一緒にクリスマスを過ごせたらいいね」
「そうだな」
 そして夜空へ向けて互いに祈り合う。

 ずっと、側にいられますように。
 ずっと、こうして笑い合っていけますように。

 聖夜の祝福は満天の星となり、いつまでも二人の頭上から降り注いでいた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/ジョブ/恋】

【jb6197/御空 誓/男/17/ルインズブレイド/暖】
【jb5890/風早花音/女/16/ダアト/穏】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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まだちょっと照れくさい微妙な距離感と、どきどき感。
初々しいお二人に書いてる方がごろもだする程度には、楽しく書かせていただきました。
いつもお世話になっております、この度は発注ありがとうございました。
大変お待たせしてしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。
なお、冒頭部に個別パートが存在しています。
winF☆思い出と共にノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年02月10日

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