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『神様おねがい! side アリストテレス 』
有田 アリストテレスja0647


「なぁにお願いしたんだ?」
「……ないしょー☆」


 参拝客であふれかえった神社を後にして、有田 アリストテレスとチェリーは街へ向かった。
 二人で初詣。
 そして、久しぶりのデート。
「はぐれるなよ。迷子になって泣いても俺は知らないぜ?」
「……う、うん」
 右手をアリストテレスに取られ、子供扱いに反発するでなく、視点を何処か一点に定めたまま、チェリーは大人しくされるがまま。
「…………チェリー?」
 いつになくぎこちない彼女の様子に、アリストテレスはヒョイと顔を覗き込む。
「楽しくないか?」
「うん! じゃ、なくて、そうじゃなくて、えっとその、……久しぶり、だから」
 ――緊張して。
 消え入りそうな声が、続く。

 楽しみで。嬉しくて。
 前日から、テンションは上がりっぱなしで。
 デートプランはお任せにしたけれど、服装は動きやすいものが良いかな?
 でもでも、女の子らしさは忘れちゃダメなんだからね!!
 それから、それから――……

 チェリーの顔が、赤くなったり青くなったり……。
 どんな時間を過ごして今日に至ったかを理解して、アリストテレスの頬が自然と緩んだ。
「すごく、楽しい……よ?」
「うん、わかったから」
 上目づかいに覗きこんでくるのは反則だと思う。
 つないだ手を、もっと近くに引き寄せたくなるのを必死に自重して、青年はイチ押しのランチがある店を話題に乗せた。



●cherish
 チェリーと出会って。
 『秘密』を知って。
 それでも、自分の気持ちは揺らがなかった。
 幸せそうにケーキを食べる恋人の姿こそ、アリストテレスにとって幸せの象徴のようなものだ。
 いつでも元気で、表情豊かで。
(……チェリーは、どうなんだろ)
 交際して二年目、二人の関係はまだ『手を繋ぐ』まで。
 彼女の体の事は知っている。人格の事も。
 その上で、アリストテレスは『チェリー』を大切に思う。愛しく思う。
 もっと、近くなりたいと、思う。
(俺だけの一方通行、とかじゃないよな……)
 そんな今でも、手を繋げば微かな緊張が伝わる程で。
 そこが可愛いと感じるのだけど、進展を望むのも本心だった。




 年中無休で生活を営む野鳥が、枯れ枝から飛び立った。
 夏場であれば、きっと緑豊かなのだろう街中の公園も、どこか景色は物寂しい…… そのわりに。
「結構……、遊びに来てるひと多いねっ☆」
「あの神社からだと、寄り道に丁度いいもんな。さすがに冬場はボート屋やってないかー」
 恋人、友人、家族連れ。
 中央にある大きな池を泳ぐ鴨へ餌をやったり、路上で音楽を演奏したり、なかなかに賑やかだ。
 食事を終えて、軽く周囲の散策を。
 暖まった体に、外の空気は心地いい。
「へへっ☆」
「うん?」
「やっぱり、動きやすい服装で正解だったね! アリスちゃんとのデート、アクティブだろうなって予想してたよ☆」
 営業していたのなら、きっと二人でボートに乗ったのだろう。
 彼の事だからチェリーにオールを渡すことはないだろうけれど、わざと危ない幅を通ったり、うっかり水が掛かるような悪ふざけをしたかもしれない。
「正月からやってたなら、スケート場も考えてたんだよな。ここから遠いし、諦めたけど」
 お見通しか、とアリストテレスは歯を見せて笑った。
「!! いいな! スケートも、きっと楽しいよっ☆」
「じゃあ…… 次?」
「次!! お弁当、気合入れて作っちゃうんだから☆」
 『イカニモ』な甘い雰囲気は、照れくさくて逃げてしまいがちなチェリーだけれど、こうして楽しそうなアリストテレスの表情が好き。
 自然と『次』の約束を交わし、二人は普段の二人らしい空気を取り戻す。
「それから…… げっ」
「?」
 チェリーらしからぬ声が飛び出し、アリストテレスは少々驚く。
「な、なんでもない! お財布、さっきのお店に忘れちゃったかもーってドキッとしただけ! 気のせいだったよ☆」
「ああ、あるよな、そういうの」
 確かに、ちょっと気恥ずかしい勘違いだ。
 少女の理由に納得し、青年はそれ以上は気に懸けなかった。
(なっんっでっ! ここに居るの……!)
 少女は、一瞬目が合ったようなないような、知人の姿を二度見する勇気はなかった。
 大丈夫、気づかれてなどいないだろう。
 彼との関係を隠すつもりはないが、冗談でからかわれるのは御免である。

「……おっと」
 恐らくは日常の運動に使っているのだろう、スポーツタイプの自転車で青年が二人の傍を抜けていく。
「危ないな」
 結構なスピードを出していた。
 チェリーを自分の側へ引き寄せながら、アリストテレスは遠ざかる背へ悪態をつく。
「ありがとう、アリスちゃん。……びっくりしたぁ」
「……うん?」
 急に距離が近づいて、すぐそこにアリストテレスの首筋があって、チェリーは顔を上げられない。
 硬直する彼女とは、また別の方向へアリストテレスは視線を投じていた。
「チェリー、あれ」
「なあに? ……っ、だ、だだだだめだよ、アリスちゃん!?」
 そっと指したのは、寒々しい木々の向こうで寄り添う一組のカップル。
 何をしているのか察したチェリーが、慌てて彼の目を覆った。
 盗み見なんて、それも、キスシーンの!!
「すげえな……。俺らも、ああいう風には出来ると思うか?」
「……アリスちゃん」
 カキン、と固まる音が聞こえた。
 顔を赤らめて。
 泣き出しそうな顔をして。
 少女は、否定も肯定もできないままに、身を固くしている。
「……次、行くか。ちょっと歩くけど、大丈夫だよな」
 冗談交じりだったけれど、本音も込めていた。
 だから、アリストテレスは謝らないし、誤魔化さない。
(俺は、できるよ。チェリー)
 焦ってる?
 がっついてる?
 だって、それは仕方ない。

 恋なんだから。




 気温が下がり始めた海辺。
 自販機でホットドリンクを買ってきたアリストテレスが、片方をチェリーの頬に当ててやる。
「もうっ アリスちゃん!?」
「はは、怒った怒った」
「びっくりするでしょ!? もー。乙女をからかって!!」
「元気、出たか?」
「え」
「なーんか、様子、おかしかったから」
「……そう、かな」
 岸壁の上、膝を折ってチェリーは小さく座り込む。
「緊張、してる?」
「ちょっと」
 隣に腰を下ろすアリストテレスの顔を、どうしてか見ることができない。
 波の音。彼が開ける缶コーヒーの香り。
 冷たい風が、チェリーの髪をさらう。
「チェリーは、初詣で何をお願いした?」
「えっ、な、ないしょだってばっ」
「俺はさ」
 祈るような。願うような。
 達成するのは、自分自身であるけれど。背を、後押ししてほしいと思うのは。

「……もっと、チェリーに近づきたい」

「…………っ」
 チェリーの手から、ミルクティーの缶が落ちて、転がってゆく。
 その手へ、アリストテレスが自身の手を重ねる。
 手の甲から伝わる温度は、感触は、繋いでいる時とは別のように感じた。
「そろそろ……、お互い踏み込んでいってもいいんじゃないか?」
「だ、ダメッ!! だめだよ、アリスちゃん……ッ」
 真剣な表情の彼を、チェリーは必死に押しとどめようとする。
 何をしようとしているのかは、察することができた。
「だって…… 『チェリーの体』じゃ、ない、んだよ……」
 ――ああ。泣きそうだ。
 嬉しいのに。
 幸せなのに。
(どうして、チェリーはチェリーだけのものじゃないんだろう)
「アリスちゃんに、迷惑がかかるようなことになったら…… チェリー、いやだよ」
 ファーストキスの相手は、大好きな人と。ロマンチックな海辺で。
 こんな幸せ、ないでしょう?
 なのに。
「俺が好きなのは、『チェリー』だよ。チェリーは、俺と…… キス、するの嫌?」
 強い瞳が、真正面からチェリーに挑む。
 拒み切れない。拒めるわけがない。
「べっ、べつに、ファーストキスじゃないから緊張しないし! チェリーが言ってるのはっ」
「それじゃあ」




 穏やかな、冬の海。
 寄せては返す、波の音。
 岸壁に置いた缶コーヒーの香りと、彼女の甘い香りがアリストテレスの鼻先をくすぐった。

 あまい、リップクリームの味。
 緊張で小さく震えている彼女を見て、アリストテレスはふっと微笑した。
 可愛い、と思う。
 愛しい、と思う。
 何に代えても大切にしたい、と。
「ア、アリスちゃ……」
 強く抱きすくめられて、怒涛の展開にチェリーは目を白黒させた。

「『初めてのキスの味』はどうだったかな、お嬢さん?」
「!!!!!!!!!」

 顔を見なくてもわかる。
 触れあわせた頬が、一気に熱を持つ。



 神様、お願いです。
 どうかどうか、この時間が夢じゃありませんように。
 どうかどうか…… 進む勇気が、本物でありますように。
 この先も、ふたりで、一緒に。




【神様おねがい! side アリストテレス 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0647/ 有田 アリストテレス / 22歳 / インフィルトレイター】
【ja2549/チェリー(御手洗 紘人)/ 15歳 / ダアト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました。
甘くて幸せな糖分増し増しお正月デート、お届けいたします。
デート途中、お互いの視点で分岐を付けております。
楽しんでいただけましたら幸いです。素敵な一年となりますように!
winF☆思い出と共にノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年02月13日

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