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『あの娘のスキャンダル 』
御手洗 紘人ja2549


 冬休み明けの久遠ヶ原学園。
 短い休みを満喫した生徒、休みナニソレと戦闘に明け暮れる生徒、いずれも久しぶりの顔合わせということで普段より賑やかさを増している。
 クリスマス、年越し、正月。
 短い期間なりにイベントは盛りだくさんで、その中で関係が進展した恋人同士も居たり。
 急に走り出してみたり、ピタリと立ち止まってみたり、どこか挙動不審なチェリーもそんな一人の乙女だった。
 冬休みが明けてから数日、ずっとこんな様子だ。
(呼び出すわけにもいかないし、かといって乗り込むわけにもいかないしっ!!)
 いつ来るか、いつ来るか、待ってばかりのスタンスは正直言って性に合わない。
 しかし。それでも。
 放置はできないし確認しないと落ち着かない。

「だーから! 平穏にしてましたって!! 人聞き悪いな……」

(来た!!!!!)
 耳馴染みのある声が、職員室方面から聞こえてくる。
 卒業生の、筧 鷹政だ。
 と同時に、瞬間移動も驚きの速度で男の背後に回り込み、スタンエッジ混じりの拳で襟首を掴み、近くの空き教室へ放り込む。
 時間にして、およそ6ターン程の出来事であった。




「――!? チェ、」

「みみみみ……みた? ねぇ! 見たの!!?」

 胸倉を掴まれ、黒板へギリリと押し付けられた鷹政の言葉を遮り、チェリーは詰め寄る。
 その危機迫る表情に、鷹政は視線を右へ、左へ、上へ、それから
「ああ! お正月のデーt」
「わああああああああああ!」
 ズドン、手のひらに集めた魔力が鷹政の腹部を抉った。
「なんで!!」
「だ、だって、なんか…… なんか……」
 吐いた血で口元を赤く染める鷹政が顔を上げれば、チェリーは頬を真っ赤にしている。
 なんという酷い対称的な絵面。
(……ああ、なるほど)
 あまりにも、鷹政が普段知る少女とは様子が違う。
 そのことから、事情をなんとなく察した青年は、からかうべく口を開こうとした。
「親戚のおじさんにうっかり見られた感じで恥ずかしい……ッ!!」
「ごめん、ちょっと泣く時間を貰っていい?」




 精悍な好青年だったよねー
 告白はどっちから?
 へー、お付き合いして二年目かあー 二年ねえー へーーー
 いっちばん楽しい時期だよねえー
 あ、いいね、年上なんだー へえええ
 次のデートにはお弁当っていってたっけ、幸せ者だなー うらやましいなー
 自転車からさりげなくかばってくれたりさー 紳士だよねー


 普段は、いいようにチェリーにペースを握られているものだから、ここぞとばかりに鷹政は冷やかす。
 思い返せば、ほぼ一方的に突撃を受けてばかりで自分はチェリーのプライベートをほとんど知らない。
 『親戚のおじさん』なんて、相応に近しく考えてくれているだろうに、だ。
 高校生だ、そういった相手が居ておかしくはないし、鷹政相手には悪戯を仕掛けてばかりの少女の、意外な一面が可愛らしいとも思う。
 デートシーンへ居合わせた時はそれほど深く考えていなかったが、顔を赤くしたり青くしたり動揺の激しい彼女を前にして、それがどれだけレアな場面であったかようやく理解するに至った。
(年相応の、女の子じゃん)
 恋人の前では、或いは同年代の友人たちの前では、普段からこんな感じなんだろうか?
 照れ隠しに、時折スキルが飛んでくるのは致死レベルで注意が必要だけれど。
(はは、なんか新鮮)




 顔が熱くて上げられない。
 ニヤニヤ笑っているのは見なくたってわかる。
(友達に彼を見られるのは恥ずかしくないし、自慢もしたいよ! でも、鷹政くんに見られるのはなんか違うし!!)
 気恥ずかしさを例えるなら、やっぱり『親戚のおじさんに』というやつだろう。
 普段は強気の魔法少女を貫いているから、プライベートな表情は教えたくなかった。
(こうやって勝ち誇ったような態度をするってわかってたもん!)
 いじわるいじわる、
 口にしたら付けあがるだけだ、チェリーは必死にこらえる。
 時折、耐えきれなくなって至近距離で何度か魔力が炸裂したものの。




「――で、どこまで進んだの?」
 本日、最大のオッサン発言。

「鷹政くんの…… バカァァァァー!!」
 本日、最大火力が火を噴いた。




「ばかばかばかばか、しんじらんない最ッ低!!」
 これでもかというほど顔を真っ赤にし、双眸に涙を浮かべ、チェリーはデジカメのシャッターを押し続ける。
 黒コゲにされ、気を失っている鷹政を無心に撮影する。
 一方的におちょくられて悔しい。
(ええい、もうちょっとひん剥いちゃえっ☆)
 これくらいの戦利品、お年玉にしたって安いくらいだ。どれくらいで売り捌けるだろう。
「わーるかったって、やりすぎたってば! ……やりすぎだな!!?」
 意識を取り戻した鷹政は、起き上がるなりジャケットを慌ててあわせる。魔法攻撃を喰らった記憶はあるが、何故シャツだけ破れているのだ。
「嘘ー! そうやって口先ばっかり!!」
「だって微笑ましいじゃん、『親戚のおじさん』としては、さ?」
「ッッッッ」
(これだから!)
 これだから、いやだったんだ、見られるのは!!
「べっつに!! キスくらい、珍しくなんかないしっ!」
「へ?」
 ――そこまでは話してない。見られていない。
 しかし、慌てるあまり混乱状態に陥っているチェリーは判断力を失っていた。
 やられっぱなしは悔しいから、驚かせてやる! その一念で。

「――え」

 火傷の残る頬に、柔らかい唇の感触。
「……チェリーちゃん?」
 キスをされたと気付くのに、数瞬要した。
 鷹政は、豆鉄砲を喰らった鳩のようにチェリーを見上げている。
 その視線に、チェリーが我に返る。
「…………少しくらい、鼻の下伸ばしたらどうなのよー!!」
「いやだって、この流れで何がどうして!!」
 釣られて鷹政もワタワタしてどうする。
「けど、ふーん。なるほど」
 意地悪く、鷹政は口の端を上げて立ち上がる。
「『キスくらい』、ねー」
「ちょ、ちょ……!!?」
「冗談、彼氏に後ろから刺されるのはゴメンだよ」
 うろたえるチェリーの、前髪を軽くかき上げて。

「……キスだと思った?」

 きゅ、と固く目をつぶったチェリーの額を、指先で弾く。
 今度こそ、声にならない声を上げて、チェリーの魔力は怒涛のコンボで赤毛の阿修羅を地面へ沈めた。




 数日後、やたらスキャンダラスなブロマイドが購買へ持ち込みされたというが、その真偽は定かではない。




【あの娘のスキャンダル 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2549/チェリー(御手洗 紘人)/ 15歳 / ダアト】
【jz0077/   筧 鷹政    / 26歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました。
とあるデートの目撃者、その後日談…… お届けいたします。
普段とはちょっと違う二人のやりとり、お楽しみいただけましたら幸いです。
winF☆思い出と共にノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年02月14日

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