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『母性愛 』
綾鷹・郁8646)&草間・武彦(NPCA001)

 たくさんの紙ふぶきが舞い、たくさんの歓声が沸き起こる。
 中でも子供達の喜ぶ声と、目の前にいる乗員達を呼ぶ声が入り混じり辺りは喜びに満ちた観艦式。
 子供達が乗員を手に余るほどの大きな花束で歓迎していた。
 その経緯を警備する為に派遣された婦警とその他の警官たちが、大勢の人々の中から不審者がいないかどうか目を光らせている。
 ふいに、ある婦警の視界に男の姿が止まった。男は黒鞄を小脇に抱えたまま子供達の群に向かって歩いていく。

 ――時は来た。男から黒鞄を奪え……。

 婦警は天啓に導かれ、標的の男のそばに近づいていく。
 男の周囲にいた子供達がふいに騒ぎ出す。そして照明や携帯が一斉に狂いだした。
 婦警は男から黒鞄をすかさず奪い上げたその瞬間、黒鞄の中の爆弾が作動し婦警は自爆したのだった……。
 爆発と同時に傾いだ妖精第一艦隊旗艦と、婦警の自爆に巻き添えを食らった無数の遺体が転がっている。そしてそれらはどれも結晶化していた。

            *****

 ピッと言う機械音が鳴り、入り乱れたような映像が流れ始める。
 興信所では、草間が防犯カメラから得た情報を繰り返し再生していた。だが、何度見直そうとも、自爆十秒前の乱れた映像しかない。
「ふーむ……」
 草間は唸った。
 艦隊の司令塔たる旗艦を潰す手口は賢明だ。何せこの手の事件は今月で三度目。残るは郁の艦隊のみだ。
 現場で見た遺体は全て砕けた彫刻のようで、その遺体に残る無数の指紋は子供達が婦警に抱きつく際に付いたものだ。
 先ほどから見ている映像にも手掛かりは無い。
「病歴、薬物反応も不審点はなし……ねぇ……」
 郁は弾き出されたデータの紙を見つめて深いため息を吐く。
 草間もリモコンを投げ出し、両腕を頭の後ろで組んだ。
「こうなったら、現行犯逮捕しかないか……」
 郁の呟きに、草間も深く頷いた。

 最後の旗艦、USSウォースパイト。犯人陽動の為に、最大規模の観艦式の開催を準備している。
 それを見上げていた郁は、チラリと草間を見た。
「この作戦、うまく乗っかって来るかしら……」
「さぁな。たぶん大丈夫だとは思うが……」
「子供達がこれ以上危険な目に遭わない為にも、この作戦は必要だものね……。上手く乗っかってきてくれることを望むわ」
 草間はタバコをもみ消し、煙を吐き出しながらくるりを踵を返した。
「とりあえず、婦警の家宅捜査に行くか」
 郁は草間と共に婦警の自宅を訊ねる。すると出迎えたのは婦警の夫だった。
 どこか虚ろな様子の夫に、二人は怪訝な目を向ける。
 部屋の中は至って普通。リビングに通された二人の前に、夫は淹れたての紅茶のカップを差し出しながら、自分もソファに腰を下ろして紅茶を啜る。
「早速ですけど、奥さんは事件の前日などどんな様子でしたか?」
 郁の問いかけに、夫はどこか呆けたようにポツリと呟く。
「……妻は至って普通でした」
 抑揚の無い声でそう返事を返す夫に、眉根を寄せる。
「普通、ね……」
 郁は釈然としない気持ちでそう繰り返し呟くと、キッチンにいた草間に声をかけられる。
 そちらに向かってみると大量の紅茶を発見した。
「何これ。何でこんな沢山……」
「さぁ……。しかし、子供を庇うような女が自爆なんかするのかが、俺はどうも引っかかる」
 訝しむ草間に、郁もまた眉根を寄せた。
 チラリと背後を見れば、夫はやはりソファに座ったまま呆けた様子で紅茶を啜っている。

 翌日。郁は紅茶を手掛かりに何かを思い立ったように声を上げた。
「サマワへ飛ぶわ」
「は? サマワ?」
 驚く草間を余所に、郁はサマワへ飛んだ。
 禁酒の国の男子禁制の女子カフェの主人に郁は婦警の経緯を訊いてみると、彼女の簡単な経歴が聞きだされる。
 彼女は元米軍の小児診療医で評判は上々のようだ。
 カフェを後にした郁は、短いため息を吐く。
「有力な手掛かりは見つからないか……。ここにくれば何か情報が掴めると思ったのに……」
 そして帰国し、草間の興信所へと赴くと、草間は郁のお土産に手渡された紅茶を啜りながらボソッと呟く。
「で。成果は紅茶だけか」
「……」
 何も言い返せない郁。完全に手詰まりだった。
「……このままじゃ、子供達がまた危険な目に遭うかもしれない……。子供達を守らなきゃ……っ!!」
「落ち着け! 綾鷹!」
「子供達を、子供達を守るのっ!!」
 郁はそう叫んで突然暴れ出し、手の付けようがなくなった草間は、郁を病院へと救急搬送させた。

「母性愛が昂り人体発火寸前だった?」
 医者は郁の容態を見て、驚愕していた。どうやら紅茶の成分に原因があるようだった。
 草間は顎に手をやり、眉根を寄せる。
「手口は解けた。だが動機が不明なんだよな……」
 草間はすぐに興信所へ戻り、再びビデオを再生する。
「電磁波は携帯での安否確認を封じて、民衆の不安を煽る為……か。でもなぜ事前に……?」
 眉根を寄せ、草間は訝しんでいる。


 その頃、婦警の夫は紅茶を啜り飲み続けている。
「了解……子供達の為に……」
 虚ろな眼差しでそう呟く夫。
 彼もまた、天啓に従っているのだった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
りむそん クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年02月17日

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