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『ピンチをチャンスに変えろ! 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&(登場しない)

 荒れ果てた荒野に、アシッド族がたむろしていた。
 占い師の映る水晶球を手にした者が、占い師の指示により地中に地雷を埋めて回っているのだ。
「お婆。本当に百年後に敵がこの場所を通るのか?」
 俄かに信じられない男が怪訝そうに訊ねると、彼らに指示を飛ばしている老婆はしわくちゃの顔に一層皺を寄せる。
「つべこべ言わず、地雷を埋めい!」
 老婆にドヤされ、男はうろたえながら作業に戻った。
 老婆の手に抱えられた水晶球の中の人物は、満足そうに声をかけてくる。
『今撃破を確認。ご苦労』

             *****

 100年後。
 保有地ではアシッド族の埋蔵物を監視すべく、地球規模の地下鉄鋼を敷くことになり大掛かりな工事が行われていた。
 それまでこの地にあった病院を移設し、車両基地を建設している。
 旗艦はこの工事に携わるべくこの地を訪れていた。
「上陸します」
 乗員の言葉にあやこが頷くと、砂塵を巻き上げながら旗艦が着陸する。だが、その直後地雷が突如出現し、凄まじい爆破が起きる。
「なっ……!?」
 驚愕するあやこと郁たち。地雷の爆発により地面には巨大な穴が開き、急には浮上できない旗艦は大きく傾きながらその穴に填まってしまった。
 旗艦内でバランスを保てず強かに体を打ちつけたあやこは、顔を苦痛に歪めながら上体を起こす。
「何が起きているの?!」
「地中に埋められた地雷が、一斉に反応を示したようです。機械の形状を見る限りおよそ100年ほど前に埋められたものと思います」
 辺りを分析していた乗員がそう言うと、あやこの隣でよろめきながら起き上がった郁が眉間に深い皺を刻み小さく呟く。
「たぶん……歴史が変えられているんだわ……。こんなことって……」
「しっかりしなさい! 綾鷹」
 嘆く郁をあやこは叱り付け、ぐっと拳を握り締めた。
「このまま黙ってやられると思ったら大間違いよ。鉄道網完成の暁には、奇襲は絶対に許さない!」
 闘志漲るあやこの眼差しは、見えない敵を睨みつけていた。


「作業員の失踪? 一体何が……」
 作業地では、毎日のように作業員が一人二人と失踪していると言う話が舞い込んでくる。
 郁は顎は腕を組み、すっきりしない現状に首を傾げる。
「そう言えば、ここにあったって言う病院は今はどこにいっているの?」
「あの廃病院ですか。中に元医師だという男性が居座っていて、どうやっても退いてもらえなかったのですが……」
 その話を聞いた郁は、すぐにその医者に何やらきな臭い物を感じた。
 一通り話を聞きだすと郁は近くにあると言うその廃病院に向かう。
 完全に寂れた病院で、外観はボロボロ。メンテナンスなど当然しているはずもなく、中は真っ暗だ。
 だが、郁は別段恐怖を感じるわけでもなく平然とその病院内に足を踏み入れる。ナースステーションを抜け、そのすぐ傍にあった医局の古めかしい扉を開くと、中には男が一人佇んでいた。
「何だ君は……」
「私は綾鷹郁。久遠の都政府の環境保護局員よ。あなた、ここで何をしてるの?」
「……」
 郁の問いかけに、男は一瞬口を噤んだ。そして視線を逸らしながらポツリと呟く。
「私は、ここで身重だった妻を亡くしたんだ。幸い、息子は産まれることが出来たが……」
「……」
「5分だけ……5分だけ抱く事ができたんだ。だが、二人とも……」
 言葉を詰まらせ、男はさめざめと泣き崩れる。
 二人の親族を亡くした悲しみから、この場を離れる事ができない。そんなところだろう。
 可哀想だと思わなくも無いが、彼の心情に絡め取られている現状ではない郁は淡々と訊ねた。
「ところで、この間からこの辺りで失踪している人が出ているのだけど……」
「私が犯人だと言いたいのか!」
 突然人が変わったように涙に濡れた目を剥き、勢いよく振り返った男に睨みつけられた郁は眉根を寄せる。だが男はすぐに肩を落とし背を向ける。
「私は失踪者の家族を慰めただけだ……」
「……」
 その言い分に、郁の眉間の皺が一層深まったのは言うまでも無い。
 何かを隠している。
 直感的にそう感じさせるものが、彼には十分すぎるほどにあった。
「あなた、何を知ってるの。何か隠してる事があるわね」
 単刀直入に訊ね返すと、男はふたたびこちらに視線を投げかけてほくそえむ。
「隠す? 別に何も隠してない。私はただ、感染症だった母体を救う為に蠍と土竜の遺伝子を注入しただけだ」
「何……?」
 更に何かを訊ねようと口を開いた瞬間、人間のものとは違う獣のような咆哮を廃院のどこかから聞き取る。
「!?」
 郁は怪訝な表情を浮かべ辺りを見回した。


 その頃、あやこは農村を訪ねていた。
 今月に入り、落とし穴に填まったという行方不明者が十人いると言う。
「相次ぐ失踪……どう言うことかしら……」
 あやこは失踪者の家を訊ねて周ると、不思議とどの家も医師がカウンセリングにやってきていると言う話があった。
 その話に、あやこは符号点を見つけ出す。
「どう考えても、医師がきな臭いわね……」
 そう呟きながら村の畑に差し掛かる。するとそこに引きずり後を発見した。
「これは……」
 あやこは屈みこみ、その引きずり後を見つめていると村民が声をかけてくる。
「ついさっきまで警戒中の警官がそこにいたんです。でもちょっと目を離した隙にいなくなってしまっていて……」
「……?」
 ふと、足元に犯人と思われる体液が付いているのを発見したあやこはDNAを採取した。そしてそれはキメラのものである事が判明する。
「これは、キメラ……」
「あやこさん!」
 郁は急ぎあやこの元に駆け戻り、先ほどの咆哮の報告をする。するとあやこは何かを察しその場に立ち上がる。
「母子の発掘令状を! 私はその医者を採血する」
「了解」
 あやこが一度その場を離れ、郁は母子の墓に向かうと、妻の遺体と何かが抜け出したような穴があることに気が付いた。
「ない? 一体どこに行ったの……」
 郁は怪訝にその穴を見つめた。その時、遠くから銃声のような音が聞こえてくる。
 郁は咄嗟にそちらを振り返り、大急ぎで発砲音の聞こえた場所に駆けつけた。
「あやこさん!」
「やられたわ。こちらが血液採取の任意を求め、尋問する前に銃で自殺した」
 見れば、机の上に突っ伏して頭から血を流し死んでいる男の姿があった。手には自殺に使った拳銃が握られている。
 あやこはその男の袖を捲ると、腕から血液を採取する。
「これを調べるわ。さっき警官失踪場所からDNAを採取したのよ。何か関連があるかもしれない」
「……分かりました」
 あやこは現場を離れ、旗艦へと戻る。旗艦でDNA鑑定の結果を待つ。
 数日待っている間に、ようやく結果が出ると警官失踪現場から採取したものと男のDNAは寸分違わぬ完全一致と出た。
「妻子を救う為に遺伝子操作に手を染めたのね。蠍は免疫力が強いし、土竜の類はタフよ」
「私が墓を見た時、倅の棺は空だった。抜け穴があったの。私が廃院で聞いたあの咆哮……。たぶん、倅は生きてる」
 郁の言葉に、あやこは訝しげに眉根を寄せた。
「じゃあ……、なぜこの男は自殺をしたの?」
 二人は眉根を寄せ、考え込んだ。


 その頃、男の体を苗床に蔓延した細菌が産科を襲っていた。
 誕生した無数のキメラが地中深く潜り込み、旗艦目指して大地を掘り進んでいる。
 激しい地鳴りと共に、放射状の土煙が集中して襲い来る。
 それを察知したあやこと郁はすぐに司令室まで駆け込んできた。
「キメラ、多数襲来! 距離100メートル!」
 郁が切羽詰った声で叫ぶ。
「そう来るか……」
 あやこは低く唸り、拳を握り締めた。
「まだこちらに勝利の光はある。綾鷹! 行くよっ!」
 あやこの号令に、その場にいたTCたちは背中の翼を広げ大空に飛び上がる。そして猛然たる速さで土煙を巻き上げるキメラ目掛けて空爆した。
 激しい爆音と爆風を巻き上げ、強烈な攻防が続く。その中、あやこは旗艦の前に舞い降りる。
「必殺……っ」
 旗艦に手をかけると渾身の力を込める。
「丸外しぃーーーっ!!」
 巨大な旗艦のボディはあやこ一人の力で持ち上がり、そして産科目掛けて飛んでいった。
 大地が揺れるほどの激しい衝突に大穴が開き、たちどころにキメラたちはその息の根を止めたのだった。

              *****

「彼はただ、息子に友達を作ってあげたかっただけかもしれない」
 目の前で細く煙を上げる線香を見つめながら郁はポツリと呟いた。その呟きに、あやこはきつく拳を握り締める。
「許さない、アシッド……! 残滅する!」
 憤激した様子のあやこは、強く誓うようにそう呟いた。
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東京怪談
2014年02月17日

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