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『思い出と共に 』
強羅 龍仁ja8161


 新年が明け、冬休みが明け、学園内の賑やかな空気も落ち着いてきた頃合い。
 斡旋所の依頼を確認していた強羅 龍仁が、人並みの中に見慣れた赤毛を発見した。
「鷹政。なんだ、また厄介ごとか?」
「またって何さー。今日は暇つぶし」
「潰すほどの暇があるのか、自営業」
「そう言うなって」
 学園卒業生で、フリーランスの事務所を構えている筧 鷹政だ。
 二年前の夏にコンビを組んでいた相棒を、当時追っていた事件の中で喪い、現在は独りで活動している。
 何くれとなく学園へ依頼を持ち込んでみたり自身に降りかかったトラブル解消を依頼する様子からは、余裕があるように見えるけれど、実際のところはそうでもないと龍仁は知っていた。
「ま、風邪も引いてないみたいだな?」
「それを言わないで……」
 年末の話を引き合いに出され、気まずそうに鷹政は目を逸らす。
「俺も、この後は空いてるんだ。どうせ潰す暇なら付き合わないか」
「へえ? そいつは珍しい」
 酒を飲む仕草をしてみせる龍仁へ、鷹政が片眉を上げた。




 日が暮れ始め、ぽつりぽつりと灯りがつき始める久遠ヶ原の街をブラリと歩く。
「安くて、たくさん飲めるような店が良いか。ああ、料理が美味いのは大前提だが」
「え どんだけ飲むの、明日もあるでしょ?」
「誰かさんと違って、俺は響きにくいんでな」
「状況が悪いんだよ、常に!!」
 ふくれっつらをしながら、鷹政が幾つかの店をピックアップする。
 息子最優先の生活を送る龍仁より、最新の久遠ヶ原タウン事情に詳しいようだった。


 選んだのは、静かなたたずまいの小料理屋。
 カウンター席と四人掛けのテーブル席、畳張りの小上がりが用意されていて、奥には個室もあるようだ。
 どこか懐かしい香りが漂い、落ち着いた雰囲気。
「久遠ヶ原にも、こういった店があるのか」
「穴場だよね。これくらいの活気が居心地よくて、時々寄ってるんだ」
「ひとりでか?」
「一人酒も楽しめる、素敵なお店です」
 まあ、デートに使うような店ではないだろう。
「会社の方を思い出すな」
「強羅さん、一般勤めもしてるんだっけ?」
 カウンターの片隅を陣取りながら、鷹政が首を傾げた。
「付き合いはあっても、どうしても気は遣うな」
「だろうねぇ」
 如何せん、一般人とは基本スペックが違う。
 『日常』の幅が違う。
 違う、ということを感づかせることなくコミュニケーションをとることは、難しいだろう。
「あ、とりあえずビール! 第三じゃないやつ! 強羅さんは?」
「…………そうだな、地酒の…… 熱燗で頼もうか」
「スタートから早ぇよ」




 おでんの具材は?
 たまご、大根、こんにゃくは鉄壁として……
「赤ウィンナー好きなんだけど、強羅さんは許せる?」
「俺は構わんが、息子には食べさせないな。添加物が成長にどう影響するか」
「大将、赤ウィンナー追加ー! あ、餅巾着もー」
 焼きたてのホッケが届いたところで、鷹政が追加オーダー。
「ああ、鷹政、ちょっと待て」
「うん?」
「骨はとってから」
「いや、自分で取れるし。……強羅さん」
 さりげなく鷹政から皿を取り上げた龍仁を、胡乱げな眼差しで見上げる。
「どうした?」
「もしかして、酔ってますか」
「まさか」
「まさかー。だよな」
「今日くらいは俺も酔うまで飲むかな」
「……まっさかー☆ あ、俺、ウーロン茶追加で」


「そういえば、正月の間……凄い凧揚げが開催されたの、知ってるか」
「ナニソレ、相変わらず学園はワケわかんないことに本気だすな……」
 酒の肴は、他愛のない会話。
 深刻過ぎず、深入りしすぎず。
 なんだかんだで酒を酌み交わすことが多い二人だから、その辺りの加減は互いにわかりはじめていた。
「……正月、っていえばさ」
 酒の強い龍仁に飲み負けて崩れないよう、鷹政は合間にソフトドリンクを挟んで調整している。
 ウーロン茶のグラスをカランと鳴らし、なかなか溶けない氷を見つめた。
「強羅さんの奥さんに会ったよ、夢の中で」
「美人だったろ」
「可愛かった。知らなかったら口説いてたね」
「おまえな」
 感傷に浸る気も失せる。アルコールが回り始めているのもあるのだろう、龍仁は明るい笑みをこぼして、鷹政の頭を小突いた。
「……おまえは?」
「俺?」
「相棒の話、詳しくは聞いていなかったと思ってな」
 出会いは学園だったらしいが、それでも七年間。卒業してからも行動を共にしていたという、恐らくは『撃退士』として誰より鷹政の傍にいた存在。
「あー……。……黒髪美人だったよ。性格キツめの女王様」
「……男、だったな?」
「いるじゃん、なんかこう…… そういう。変な意味じゃなくてさ」
 闇に溶ける黒い髪、切れ長の銀の瞳、線の細い体。
 女性的に類するわけではないが、体格がしっかりしている鷹政が並べば、どうしてもそう見える。
 だから彼は、鷹政と並ぶことを嫌っていた。
「という建前で、後方に徹して、俺はあいつの鉄砲玉で…… それが楽しかった」
 最前線で刀を振るう、欲しいと思った箇所へ援護が飛ぶ。
 何処までも行けると思った。二人なら。
 過去形で語る鷹政の横顔を覗き見て、その瞳が少し潤んでいることに龍仁は気づいた。
「今にして思えば、俺は俺で、『思考すること』をあいつに丸投げしてたんだよな。ひとりになって、ようやくわかった」
 ひとりにならなきゃ、いけなかった。
 筧 鷹政が、この先も撃退士として成長を望むなら―― きっと。
「とか、青いことをいってみます」
「…………」

 死別には、いくつかパターンがあって。
 恐らく、鷹政は命を懸けられたのだろう。
 ――いつだったか、そう考えたことがあった。
『特別な存在は……特別だから、な』
 その時、自分はそう声を掛けた。

 龍仁とは違う形で、意味で、鷹政も背負うものがあるのだと、今ならわかるような気がした。
 自分が他者へ見せないように、彼もまたそう振舞っているのだろう。

「……悪ィ。ちょっとだけ、肩貸して」
 くぐもった声。
 龍仁の肩へ、不意に負荷がかかる。この角度では、表情を伺うことはできなかった。




 店を出ると、酔いの覚めるようなキンとした空気が二人を出迎えた。
「〆は…… 茶漬けが定番だろう。なんだ、チョコレートパフェって。なんでメニューにあるんだ」
「俺は甘いモノって決めてるんだよ。リクエストしたら、最初はバニラアイスだけだったのがだんだんエスカレートしていってさ」
 裏メニューにもほどがあるラストを思い出し、龍仁は呆れた表情で鷹政を見遣る。
「そのうち、病気になるぞ……?」
「そのうちを怖がって生きるよりは、楽しくいたいじゃないですか!!」
 いいじゃん、チョコパフェくらい!
 言い募る鷹政は、普段と変わらない。
 気の許せる友人、というよりは、どこか気に懸る弟、のような。
「あー! 見て、強羅さん!!」
「なんだ、今度は」
「すっげー、星キレー……」
「……ああ」
 闇に浮かぶ白い吐息の向こう、銀の星々が瞬いている。
「オリオン座しかわかんねーんだよなぁ」
 隣のつぶやきに、つい表情が緩む。

『ねえ、龍仁さん』

 いつだろうか、妻と夜空を見上げた時を、ふと思い出していた。
(あの時は……)
 温かい思い出が、龍仁の胸を静かに満たす。
 酔いのせいだろうか。楽しい気分で飲んだ酒だからだろうか。
 今は、幸せな思い出ばかりが、夜空の星のように煌めいている。

「……鷹政」
 ぽふ、隣の赤毛を、子供に対するように撫でながら。
「もう一軒、行くか」
「ギブ、ギブです強羅さん。楽しいところでストップ、俺知ってる!」



 戻らない思い出と、現在進行形で紡がれる思い出が、こうして煌めいている。





【思い出と共に 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8161/ 強羅 龍仁 / 男 / 30歳 / アストラルヴァンガード】
【jz0077/ 筧 鷹政 / 男 / 26歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました。
のんびりまったり、ちょっと遅めの新年会、お届けいたします。
楽しんでいただけましたら幸いです。
winF☆思い出と共にノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年02月17日

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