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『母性愛2 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&草間・武彦(NPCA001)

「遺体から紅茶のコンドロイチン硫酸とパンノキの亜硝酸エステルを検出。アドレナリンが触媒して体をニトロ化する……なるほどな」
 草間は鑑識から回って来た情報を見つめながら一人納得した。そしてその結果をヒラリと郁に見せる。
 郁は受け取った結果に目を通し目を見開いて戦慄する。
「子供を咄嗟に庇う者が人間爆弾になるだなんて……」
「恐ろしい時代になったもんだぜ」
 草間はタバコを燻らせながら、吐き捨てるように呟いた。
「で、お前はどうすんだ?」
 咥えていたタバコを指に挟み取って煙を吐きながら訊ねると、郁は挑むような眼差しで彼を見た。
「旗艦へ戻るわ。今回の件はあやこさんにも伝わっているし、何とかして解決に導くわ」
「……ご苦労なこった」
 まるで人事のように、草間は深いため息を吐いた。


 草間と共に旗艦に戻った郁は、あやこに今回の鑑識の結果を見せに向かった。
「あやこさん。今回の事件の手口が分かりました」
「ご苦労様。こちらは今事象艇が犯行当時に遡って地磁気を観測しているところよ」
 あやこは郁の持ってきた結果に目を通すと、ぐっと眉根を寄せた。
「……最低な事件だわ」
 苦しげに呟くと、事象艇から連絡が入った。今回の地磁気の観測がどうやら上手くいったようだ。
 あやこはその情報をモニターで確認すると、後ろに立っていた郁と草間を振り返る。
「電磁波の出所が分かったわ。サマワとピトケアン島よ」
 その情報を聞いた草間はモニターに弾き出された結果を見つめ、腕を組んでふーん、と鼻を鳴らした。
「パンノキの産地だな。このピトケアン島の裏側はサマワだ。全て繋がる」
「あたし、観察に行って来る」
 郁が観察を買って出ると、あやこは反対せずに深く頷いた。

                 ****

 18世紀のピトケアン島。英軍艦バウンティ号の叛乱者が隠棲している。
 男は女を巡る争奪の渦中にあり、残虐的にも次々と同性を殺していった。その争奪に敗れた男達は祖国を逆恨みして次々と息絶えていく。
 同性を全て殺し残った男は後宮を建設するも、女達はこの現状に満足するどころか皆嫌悪さえ抱いている。
「争いは何も生まない。平和こそが私たちの望むもの……」
 そう願って止まない女達の平和な世界を渇望する思いは、地球の裏側まで貫いた。
 20世紀の同地。帆船模型を焼いている人々がいる。その面々は皆恨みに満ちていた。
「地獄へ落ちろ……っ!」
 皆が皆、呪文を唱えるようにそう呟いている。
 どれほどの時間が経とうとも尽きない男達の祖国への怨嗟を、大地は吸い続けていた。
 そして何も知らないピトケアン島の真裏に位置するサマワでは、子供達が旗艦の歓迎準備をしている。
 それを見ていた郁とあやこは眉根を寄せたままに、納得したように頷く。
「なるほど。元凶は判ったわ」
「末代までの恨みか……」
 それほどまでに強い怨嗟は、これまで見たことが無い。
 過去へ遡ってみてきた出来事を草間も黙って見続けていた。


 軌道上にある中国宇宙ステーション。そこでは冥王星探査機が停泊中だった。
 あやこはその宇宙ステーションに見つめ、これをチャンスと捉えて口を開く。
「冥王星探査機があるなんて好都合。地獄へ乗り込むわ!」
 息巻いているあやこに、郁は同調しニッコリと微笑むとすぐさま宇宙ステーションにコンタクトを取った。
「冥王星探査機を徴発しますぅ」
 何の前触れも無いその徴発に中国人たちはただ呆然とするばかりで、言葉に困っていた。
「こ、困るヨ……」
「ご協力感謝します!」
 泣き言を漏らす彼らの話しなどまるで聞いてもいないかのように、郁はにこやかにそう言うと、彼らは涙目になっていた。
 そして郁たちは探査機を使い、冥王星の衛星ニクスへとやってきた。
 ニクスには夜の女神と暁の娘が住んでいる。郁たちは女神にこれまでの事情を説明し、地獄への扉を開いてもらい潜り込む。
 潜り込んだ地獄には、ピトケアン島の女性争奪戦で死んだ男達が何かを乞うようにたむろしている姿が見える。
「何をしているの……」
 ポツリと呟くと、男達は一斉にこちらを振り返る。そしてあやこ達の姿を見つけるなり群がるようにこちらにやってきた。
「我々は短絡的な殺人を繰り返した事を反省している。なぜあんな事をしてしまったのか……」
 皆が皆頭を抱え、悲痛に顔を歪ませて反省の言葉ばかりを漏らしていた。だがやがて、一人の男が顔を上げるとあやこの腕を掴んできた。
「黒幕はベガにいる。俺たちを苦しめる本当の黒幕は、ベガにいるんだ」
「何ですって……? それは確かなの?」
 郁が眉根を寄せてそう聞き返すと、男達は一様に何度も頷いてみせる。
「嘘を言っているようには思えない。これは新たな証言だと取るべきだわ」
「ベガと言えば、織姫……」
 草間の呟きに、二人は深く頷いた。


 120世紀の織姫星。
 郁達はこの星に降り立つと、異様な光景に目を見張った。
 アシッド族の女が、織姫に対する地球人の思慕を大量に集めているのだ。
 あやこたちはこっそりとその様子を岩陰から覗き込み、怪訝に顔を顰める。
「あれは……」
 呟いた郁の言葉に、あやこが頷いた。
「少し違うけど、やってることは願望砲と同じだわ」
 アシッド族の女は集めた思慕を人を操るための邪念に変えて、地球へ打ち返す準備に余念が無い。
 彼女の行動を見つめながらあやこは草間に声をかける。
「この時代の地球では、織姫星って……」
「そうだな。北極星ってところだろ」
「……だとすると、船乗り達は夜になると北極星天測する際にあの毒電波を浴びる筈ね」
 あやこは郁と顔を見合わせると一度深く頷き、岩陰から颯爽と姿を現し女の傍に歩み寄った。
「平和を望む女を操って旗艦を沈めたり、男の飢餓感を蓄積して世界を操る電波の電源に用いたり、忙しそうね」
 腕を組み、冷ややかな視線で女を見下ろすと、女は手を止めてくるりとこちらを振り返る。そして不敵に笑うと彼女もその場に立ち上がった。
「時間稼ぎお疲れ様」
 そう吐き捨てると、颯爽とその場から駆け出す。
 郁はその女の背中に向かい、声を荒らげた。
「逃げるなぁーっ!!」
 二人は女を追ってその場から駆け出した。


 サマワの港では、いつかのように黒鞄を握り締めた不穏な男が旗艦を睨むように見据えている。その男の背後に草間は悠然と立ち、男は驚いたように彼を振り仰いだ。
「旗艦の爆破なんてさせるかよ」
 草間は夫と、黒鞄の男の二人を捕らえた。そして二人をそのまま取調室に連行し、話を突き詰める。
「色々と調べさせてもらったぜ」
 タバコをふかしながらそうもらした草間の背後には郁と、そして腕を組んで立っているあやこの姿があった。
 夫は観念したようにあやこたちを睨みつけながら口を割る。
「科学衰退を企む悪漢達の情報交換を阻んで何が悪い? 鞄の中身を見ろ」
 言われるままに草間達が鞄の中を覗き込むと、黒鞄を持っていた男もまた口を開いた。
「私は◎●世紀から来たTCです」
「……っ!?」
 その言葉に、郁は酷く驚愕したように目を見開いた。
「温厚な人を逆手に取った人間爆弾……人の欲望を増幅する心身掌握レーザー……。厄介ね……」
 取調室を出たあやこが、ポツリと呟くと郁もまた深い嘆息をはく。
「私たちが進歩の疎外要因だと敵に宣伝されちゃってるしね……」
 二人の呟きに、草間もまた大げさにため息を吐いた。
「胸糞悪い世の中だぜ……」
 悪態をつき、タバコをくゆらせながらあやこ達をするどく睨みつける。
「……お前らもな」
「……」
 草間の眼光に、返す言葉もないあやこ達は口を引き結ぶしかなかった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2014年02月19日

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