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『解明への一歩 』
綾鷹・郁8646)&紫苑・桜(8676)&鍵屋・智子(NPCA031)

 頭部だけの冷凍睡眠を格安で請け負う、冷眠社。その冷眠社には、不穏な影が蠢いている。
 低い唸り声と、地面を踏むまばらな雑踏。何かが倒れこむ音、ガラスが割れる音……。
 暗闇の中にひっきりなしにそれらが響いていた。
 不穏な影。それは数人の狼男達だった。狼男達は冷凍された生首を奪い、そして一目散にその場から逃げ出そうとする。だが、騒ぎを聞きつけた社員が機銃掃射で彼らを撃った。
 大半の玉は当たらなかったものの、一人の男が被弾。呻きながらその場にくず折れ、傷口からは銀色の血を流していた。
 その横で他の仲間が再び被弾し、朦朧とする意識に引きずり込まれるように急所を打ち抜かれた男は、傷口を掴む男の横でそのまま死亡した。
 傷を負った男は歯を食いしばり、何とかその場から立ち上がると傷を負っていない他の仲間達の後を追って逃亡したのだった。


「違う。これも、これもだ……」
 アジトに戻った狼男達は、冷眠社から奪ってきた沢山の生首を袋から取り出し選別をしていた。
 取り出した生首を次々に丸坊主にしては「違う」とぼやき、捨てていく。
「これも違う。サイズが違う」
「なんだそれ。シンデレラかよ」
 仲間に突っ込みを入れられつつも、男達の手は止まらなかった。
 そんな彼らの横で、傷を負った男は荒い息を上げながら苦しげに眉根を寄せる。そして近くにいる同僚に三又の機械を強請った。
「頼む。別の体が欲しいんだ……」
 ギョッとしたように目を見開いた同僚は深い眉根を寄せ首を横に振った。
「駄目だ。これは俺様のだ。ボスに貰えよ」
 しがみつく男の腕を乱暴に振り払い、自分をぞんざいに扱う同僚に負傷した男は尚も食い下がった。
「駄目だ……。任務達成まで俺は帰れん。絶対に……」
「そんなの知らないね。とにかくこれはやれん」
 こちらを振り返ることもせず一蹴する同僚に、男はギリッと奥歯をかみ鳴らした。

             ****

「体温計の連続強奪事件?」
 数日後、郁の元になんとも不思議な事件の情報が寄せられた。
 最初の内、薬局にふらりと現れた顔色の悪い謎の男がありったけの体温計を抱えて買って行った。と、言う店主の情報があったのだが、それはやがて見境なく手近の薬局があればそこから無理やりに体温計を大量に奪っていくのだと言う。
「おかしな事件ね。まぁでも、放って置くわけにはいかないし。分かったわ。張り込みしましょ」
 郁はその日の内に、まだ事件に巻き込まれておらず、これから襲われるであろう薬局の陰に隠れて男を待った。
 すると、予想通りふらりと足取りのおぼつかない男が現れる。
「今よ!」
 郁はすぐさま物陰から飛び出し、男の背後に素早く回り込むと男の首元を狙い攻撃を仕掛ける。
 男は抵抗する間も無く、あっけなく倒されてしまった。
 倒れた男を連れて医務室に運び込み、すぐさま解剖を行った。
 切り開かれた体を見た瞬間に、郁の眉根が寄る。
「こいつ、百面相よ。変幻時代の有機機械。水銀の体液を持つ妖怪ね。超級突破士を呼ぶわ」
 動かぬ躯と化した男を冷たく見下ろしながらそう呟くと、郁は踵を返した。


 よく晴れた日の午後。鍵屋は病院を訪ねていた。
 ある障害者に聴取するためだ。
「久し振りね」
 にこやかに笑い出迎えたのは紫苑・桜だ。口に筆を咥えているところを見ると、また何かを描いていた様だ。
 鍵屋はそんな彼女の傍にある椅子に腰を下ろすと呆れたように呟く。
「また何描いてるの」
「次の同人誌。今回は力作になる予定なの。で、あなたがここに来たって事は何か用があるんでしょ?」
 鍵屋の訪問には何かがあるとすぐに察した桜は、単刀直入にそう聞き返す。
 すると鍵屋は口元に小さな笑みを浮かべて浅くため息を吐いた。
「あなた最近、別世界に行かなかった?」
「うん。確かに私は別世界に行ったよ」
 包み隠す事もなく頷くと、鍵屋は真剣な眼差しで桜を見つめ返す。
「なら、アレの襲来に関しても、分かるわね?」
「アレ? あぁ、アレですか。うん。分かるわ」
「アレの襲来を探知して欲しいの」
 直接な情報を与えずとも、桜はすぐに察したかのように頷き返した。


「ここは……」
 目覚めた郁は、見慣れない風景に視線をめぐらせた。
 全てに霞がかかっているかのようなその世界に、郁は不安げに顔を顰める。その瞬間、郁の脳裏に失踪時の記憶がまるで走馬灯のように蘇ってきた。
「……!」
 郁は頭を押さえ、顔を俯けると同時に共感能力経由で先の情報窃盗犯が接触してきた。
「ようこそ。ここへ君を呼んだのは私だ」
「……何ですって? こんな誘拐じみた事をしておいて、何をのうのうと……」
 不機嫌に眉根を寄せ、明らかに敵意を露に不機嫌になると、情報窃盗犯は困ったような気配を見せる。
「君に警告する為に手荒な真似をした。申し訳ない」
「……」
「世界衝突を企む者達がいる。これは君たちにとっても深刻な問題だ」
 男の言葉に、郁は眉根を寄せたまま視線をさ迷わせた。
「世界衝突?」
「先に君が捕らえた百面相。百面相だけが世界の壁を越えられる。だから私が先兵として造った。だが、反乱者が君の世界側の「扉」を開こうと企んでいる」
「反乱者って……何……?」
 怪訝に訊ね返す郁だが、男はそれに関して口を割らない。
「反乱者が扉を開く前にΩの痣を持つ女を探せ。奴が鍵だ。因みに君たちには頭を剃る習慣があるがそれは私の仕業だ。あと、鍵屋を信用するな。奴は……百面相だ」
「……!?」
 思いがけない情報に、郁は驚愕に目を見開いた。


 病院にいた鍵屋は、桜を連れて旗艦へと戻った。
 解剖に使われた百面相の遺体をくまなく見ていた鍵屋は、三又の機械を発見した。それら一連の流れを見ていた桜はふと呟く。
「水銀の血ですか……。久慈川水系を牛耳る輩が関与してますね」
 桜は百面相が使っている三又の「憑依器」を見て即答する。
「なるほどね……」
 鍵屋は憑依器を受け取りながら納得したように頷く。
 この男の機械は使用済みだ。誰に憑依したか時間をかけて解析すれば判る。
 また確信へと一歩近づいた鍵屋はきゅっと口を引き結び、小さく頷いた。


 その頃、格納庫では次の強奪に備えて待機していた郁が仲の良い同僚のTCに、先ほどの別世界へ行った時の話をしていた。
「その話、本当なんですか?」
「えぇ、間違いないはずだわ。世界衝突を招くこちら側の扉を開けさせないためにも、ここはあたしたちが何とか取り押さえないと……」
「……」
 意気込む郁に、TCは口を閉じたまま彼女を見つめていた。
 そこへ鍵屋が現れ、その姿を捉えた瞬間に郁とTCは身構えた。
「来たわね! 鍵屋智子! もう騙されないわよ」
 突然口火を切った郁に、鍵屋はその場に立ち止まり目を瞬く。
「何言ってんのよ?」
「とぼけるんじゃないわ! あなたが百面相だと言う事はもう分かってるのよ!」
 まくし立てるようにそう叫んだ郁に、鍵屋はぐっと眉根を寄せる。
「は? 私が百面相ですって? 何ふざけたこと言ってるの。そんなわけあるわけないでしょうが!」
「嘘だ!」
 こちらを疑って止まない郁に、鍵屋は苛立ちを隠さずに大股で傍に歩み寄り、手にしていた解析結果を叩きつけるように見せ付ける。
「これを見てから疑いなさい!」
 示された解析結果の紙を、郁は半信半疑に見つめる。そして次の瞬間ギョッとしたように目を見開いた。
「え……」
「どう? これでも私を疑う気?」
 ふんぞり返る鍵屋に、用紙から顔を上げた郁の視線は隣にいたはずのTCの方へと向けられた。
 TCは郁が鍵屋と言い争っている間にその場をこっそりと離れようとしており、郁が顔を上げた時にはすでに出口に向かって走り出していた。
「やりなさい。これ以上危険を回避する為よ!」
 鍵屋に促されるままに郁は銃を手に構え、走り去るTCの背中目掛けて発砲した。
 TCはくず折れるようにその場に前のめりに倒れると動かなくなった。
「……」
 郁はハラハラと零れ落ちる涙に唇を噛んだ。
「あのTCは、訓練時代からの友人だったの……」
「……よくやったわ」
 鍵屋は泣き崩れる郁を、力なく慰めた。
「でも今は感傷に浸ってる場合じゃないの。遺体を守らないと……」
 鍵屋がそう声をかけ、遺体の置かれていた場所へと駆け込むが時すでに遅く、遺体は一時間ほど前に全て奪われてしまっていた。
「やられた……」
 悔しげに唇を噛む鍵屋と郁は、何もなくなった空間をにらみつけた。

              ****

 バサリ……。と、黒い髪が大量に地面に落ちる。
 髪を剃り落とされた生首からは、Ωの印が現れた。
 首から垂れた無数のケーブルが肉体と繋がり、百面相の女は蘇りニタリ……と冷たい不気味な笑みを浮かべていた。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2014年02月21日

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