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『カリスマブロガー、時空の海へ 』
リサ・アローペクス8480)&綾鷹・郁(8646)&瀬名・雫(NPCA003)


 閉店BGMに合わせて、マネキン人形が踊っている。
「おかしい……疲れてるのかな、私」
 呆然と呟きながらリサ・アローペクスは、スマートフォンを掲げた。
 自分が悪い夢を見ているのでなければ、しっかり動画が撮れているはずだ。
 某デパートの、地下食品売場である。
 上階の婦人服・紳士服売場から、着飾ったマネキンたちが下りて来る。名曲『別れのワルツ』に合わせ、カクカクと全身を揺らしながら。
 上手く編集してアップロードすれば、ブログの客寄せくらいには使えるかも知れない。
 リサはそう思ったが、そんな場合ではなかった。
 マネキンたちが、カクカクと踊りながら、客や店員に襲いかかっている。
 1体が、こちらにも殴りかかって来る。
「え……? 何……」
 スマートフォンを掲げたまま、リサは呆然と固まった。
 突然、防火扉が突っ込んで来た。セーラー服も見えた。
 女子高生、と思われる少女が1人。どこから外してきたものか、重そうな防火扉を細腕で担ぎ振り回しながら、突進して来る。
 リサに襲いかかったマネキンが、その扉に叩きのめされ、砕け散った。
 ちぎれた片腕が、リサの足元に転がった。
「逃げて、早く!」
 少女が叫ぶ。
「このビル、爆破するから!」
「あの、君は……」
 リサが問いかけようとした時には、少女はすでに背を向けていた。
「通りすがりのJKじゃき! うおおおおおおおお!」
 人々を襲うマネキンの群れに、防火扉で挑みかかって行く少女。
 戦いの動きに合わせて、セーラー服のスカートが跳ね上がる。
 可愛らしい尻の膨らみが、濃紺のブルマを貼り付けたまま躍動していた。


 テレビのニュースも新聞も、あてにはならない。
 あのデパートの爆発を「爆破テロ」としか報じていないからだ。
 奇跡的に、死者は1人も出なかった。
 あの少女が、客も店員もガードマンも全て避難させたのだろう。
 彼女は言っていた。このビルを爆破する、と。
 その言葉通り、無人となったデパートはその後、動くマネキンたちもろとも爆発した。
 動くマネキン人形。その片腕が今、リサの見ているテレビの上に置いてある。つい、拾ってきてしまったのだ。
 あれは夢でも幻でもなかった。動くマネキンに襲われたリサを、あの少女は助けてくれたのだ。セーラー服の下に紺色のブルマを穿いた、あの通りすがりの女子高生が。
 リサは「JK、スカートの下、紺色パンツ」で検索をしてみた。
 あの少女の画像が多数、ヒットした。
 彼女に助けられた者が他にも大勢いる、という事だ。
「やっぱりな……報道なんかよりも、ネット住民の方が、よっぽどあてになる」
 最強のネット住人に、リサは話を聞いてみる事にした。


「あれ? 彼氏と一緒に来たんじゃないの?」
 瀬名雫が、リサを迎え入れるなり、そう言った。
「あっははは、彼氏なんかじゃないってば。ただの男友達だよ。外に待たせて来た」
 リサは笑い飛ばした。
「それよりさ、例のJKの事なんだけど」
「うん、まあ写真見てもらえればわかると思うんだけど」
 室内には、何枚もの写真が貼られていた。
 ケネディ暗殺、タイタニック号沈没……様々な歴史的瞬間を写し出す写真。そのどれもに、1人の少女が映り込んでいる。丸印で、囲まれている。
 あの、通りすがりの女子高生だった。
「時の、渡り鳥……あたしたちは、そう呼んでるんだけど」
 雫が説明をした。
「いろんな時代で目撃されてるのよね、その子。歴史的に何かしら起こった時には、必ずその場にいる。そんな感じ」
「それじゃ今、この時代に、歴史的な何かが起こるかも知れない……そういう事なのかな」
 リサは考え込んだ。
 外で待っている男友達の事など、どうでも良くなりかけていた。


「遅いなあ、リサ……」
 ベンチに座りながら、青年は心細さに苛まれていた。
 リサ・アローペクスにとっては自分など、幾人かいる男友達の1人でしかない。そんな事は、わかっている。
 自分以外の男友達と、会っているのではないか。そんな疑念が、青年の心の内に生じていた。リサ本人は、女友達と会って来る、とは言っていたのだが。
「わかっているよ。女だろうが男だろうが、友達は友達。それ以上のものになんて、なれやしない……それでもリサ、僕は君の事が……」
 1人、懊悩する青年に、何かが襲いかかった。
 ベンチ近くの自販機脇に置かれていた、プラスチック製のゴミ箱だった。
 それは大量の空き缶を吐き散らしながら牙を剥き、青年を一瞬にして呑み込んでしまった。


「遅くなって、ごめんごめん。雫と、つい話し込んでしまって」
 リサは男友達を連れ、行きつけのカフェへと入った。
「本当に悪かったね、寒い中あんなに待たせて」
「い、や、構わ、ない、よ」
 男友達の口調が、妙にぎこちない。寒くて凍えているのかも知れない。
「コーヒーでも飲んで、暖まるといい。ここはコーヒーだけじゃなくて軽食も充実している。待たせたお詫びに、私がおごるよ」
 言いつつリサは、ちらりと窓の外を見た。
 わけのわからない騒ぎが、起こっていた。
 ゴミ箱、バケツ、マネキン人形……様々な合成樹脂製品が、通行人を襲っている。
「何だ……何かの、アトラクション?」
「ご、ちそうに、なろう、かな」
 ぎこちない言葉と共に男友達が、いきなり襲いかかって来た。
「君の、いのち、を」
「え? 何……」
 呆然とするリサの目の前で、男友達が牙を剥く。
 それと同時に、セーラー服がはためいた。
 スカートが跳ね上がり、可愛らしく膨らんだ濃紺のブルマが躍動する。
 そのヒップラインからバランス良く続いた脚線が、鞭のようにしなった。
 超高速のハイキックが、リサの男友達を粉砕していた。
 粉砕された屍が、リサの足元に倒れ込む。マネキンの、残骸だった。
「言葉も動きも、露骨にカクカクしてんのに……気付かないもんかなぁ」
 通りすがりのJKが、片足を優雅に着地させながら呆れている。
「何……これは……」
 リサは、呆然とするしかなかった。
「彼は……本物の、彼は?」
「あたしが捜して、助けといてあげる。お姉さんは、家へお帰り」
 ちらりと窓の外を見ながら、少女は言った。
「1人で帰るのは、危険だね。送ってあげるよ」


 家に着くなり、マネキンの片腕が襲いかかって来た。
「ちょっと、駄目じゃない! こんなの持ち帰っちゃあ!」
 怒鳴りつつ、少女は引き金を引いた。どこからか突然、銃剣付きの小銃が出現していた。
 銃声が轟き、マネキンの片腕は砕け散った。
「何もかも……夢、じゃあないんだね……」
 呆然としている場合ではない、とリサは覚悟を決めた。
「ブログのネタにでもなるかな、なぁんて思ってたけど……こんな馬鹿な日記アップしたって、みんな読んでくれないね。炎上すら、しないね」
「そういう事。夢じゃあないけど、まあタチ悪い悪夢とでも思っててよ」
「教えてよ。ねえ今、一体何が起こってるの?」
 すがりつくように、リサは問いかけた。
「貴女の事は、友達から聞いている。この悪夢のような事態を何とかしてくれるために……時を、渡り歩いているんだろう?」
「この時代の人にマークされちゃってんのね、あたしってば……あ〜あ、艦長に怒られるかなあ」
 観念したように、少女は説明をしてくれた。
「あたしたちは今、戦争中なの。土星の衛星ハテに棲んでる、ちょっとタチ悪い知的生命体とね……あのマネキンどもは、そいつらの兵隊。奴らの主食は合成樹脂と汚染物質だから」
「そんなものを食べているうちに、マネキンみたいな身体になってしまったと?」
 一連の出来事が夢ではない以上、そんな話も信じないわけにはいかなかった。
「ハテ人の親玉は、土星の輪から1歩も外に出ないで命令だけを地球に送ってる。それを受信するアンテナが、この街にあるはずなんだけど」
「それを、探しているというわけだね……あれ、じゃないかな?」
 リサは、窓の外を指差した。
 つい最近、出来たばかりの遊園地で、巨大な観覧車が回っている。
 少女が、疑わしげにリサを睨んだ。
「……何で、そう思うの?」
「土星の輪に棲んでる宇宙人だろ? とにかく大きな輪っかに、縁があるんじゃないかと思って」
「はー、アホらし……」
 少女は、溜め息をついた。
「……と思ったけど。何も手がかりがない以上、思いついた所から駄目もとで探ってみるしかないわね」


「ごめん! アホらしいとか言ってたの謝る!」
 銃剣付きの小銃を振り回しながら、少女は謝罪を叫んだ。
 回転を続ける観覧車から、動くマネキン人形たちが次々と投下され、着地し、襲いかかって来る。
 この防御の固さは、観覧車が敵の重要な軍事施設である事の証であった。
「お姉さん、いいカンしてるよ!」
「いや……私も、まさか当たるとは……」
 信じられずにいるリサを、マネキンの軍勢がわらわらと取り囲む。一斉に、襲いかかって来る。
 そこへ、少女が飛び込んで来る。セーラー服が翻り、濃紺のブルマとしなやかな脚線が、瑞々しく躍動する。
 蹴りを伴う、銃剣の斬撃だった。
 マネキン人形たちが、片っ端から蹴り倒され、切り刻まれてゆく。
「まずは話し合い、と思ったけど……相手が人形じゃ、どうしようもないわね」
「話し、合い、だと」
 ぎこちない声が聞こえた。
 一際、豪奢な服を着せられたマネキン人形が1体、カクカクとした動きで歩み寄って来る。
「貴様ら、狩られる、側の、地球人、どもと、我ら、狩人たる、ハテ人が、一体、何を、話し、合う、という、のだ」
「土星人は土星の輪っかに、地球人は地球に! 何の関係も持たずに住み分けてた方が、宇宙は平和だと思うんだけど!?」
「我らは、平和、など、望んで、いない」
 突然、天空から……宇宙から、何かが降り注いで来た。それを、リサは身体で感じた。
「これは……強力な電波?」
「今、我らの、母星と、宇宙基地と、そして、この、観覧車が、一直線に、並んだ」
 マネキンの総大将が、ぎこちない口調で勝ち誇っている。
「大いなる、土星の、恵みが、降り注ぐ。この、力、ある、限り、我らは、無敵。最強。宇宙、全ての、ものを、奪う、事が、出来る。平和に、生きる、必要、など、ない」
 強力な電波が、マネキンの総大将に集中してゆく。
 少女の身体が、宙に浮いた。
 まるで見えない巨人の手に掴み上げられたかの如く、少女は空中で苦しみもがいている。
「あうっ……ぐ……ッ」
「その、まま、死ね」
 強力な電波が、マネキンの総大将によって、念動力に変換されているようであった。
 それによって空中に吊り上げられた少女の細身から、何かが落ちて来て転がった。
(私に……力があれば……!)
 今のリサに出来る事。それは、落ちて来たものを拾い上げ、マネキンの総大将に向かって投げつける事、くらいであった。
 それを実行した瞬間、マネキンの総大将は爆発した。
 観覧車が止まり、マネキンの軍勢は1体残らず倒れて動かなくなった。
「何……?」
「合成樹脂分解弾よ……1発しかないから、使いどころ狙ってたんだけど」
 落下して来た少女が、地面に激突し、苦しそうに受け身を取りながらも微笑した。
「……いい感じに決めてくれたね、お姉さん」
「私が……」
 止まっている観覧車の中で、男友達が気絶している。
「多分コピー作るために生かされてたんだと思う。早く行って、助けてあげなよ」
「ううん……彼が目を覚ます前に私、貴女と一緒に行くよ」
 あの青年が、自分に思いを寄せている事は知っていた。
 自分の事は、単なる夢と思ってもらうしかない。目が覚める前に、地球を立ち去るべきであった。
「私はリサ・アローペクス……貴女は?」
「USSウォースパイト号副長、綾鷹郁」
 少女は軍人風に敬礼をした。そして微笑んだ。
「もうこの時代には帰って来れない……覚悟は、出来てるみたいね?」
  
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小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年02月24日

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