▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【葱】 名付け親奮闘記 【AFO】 』
来生 十四郎(ea5386)

「早いもんだな……」
 京都の自宅でシフール便を受け取った来生十四郎(ea5386)は、手紙に添えられた一枚の絵に目を細める。
 そこには、カラフルな前衛芸術が踊っていた。
 裏面に添えられた解説によれば、それは「葱に乗った十四郎おじさん」を描いたものであるらしい。
「なるほどなぁ」
 そう言われなければ何が描かれているのかわっぱりわからないが、そのつもりで見てもやっぱりわからない。
 しかし、そこは名付け親。名付け親と言えば親も同然、おまけに立ち位置としては、離れて暮らす祖父も同然の身である。
「上手いじゃねぇか、なあ。よぉく描けてらぁ」
 つまりは、親馬鹿だった。
「そうか、あの子はもう三つになるのか」
 目を細め、遥か遠くの地に住む友人達を想う。
 ワンダとレッドのクリムゾン夫妻、そして一人娘のスカーレット。
 毎年の誕生日には親しい友人達を集めてささやかなパーティが開かれているが、この手紙は近況報告を兼ねた招待状だった。
 まだ少し日はあるが――
「どれ、ちょいと脅かしてやるか」
 暫く顔を見ていないし、確か二人目の子もそろそろ生まれる頃合いだ。
「さて、弟か妹か……今度はどっちだろうな」
 これが初めてではないし、ましてや当事者でもないのだが、予定日が近付くとやはり落ち着かない気分になる。

 いや、あの時は――こんなものではなかったか。

 毎日の様に手紙で様子を尋ね、安産のお守りや妊婦の身体に良いと言われる茶や煎じ薬を買い集めては送り、それだけでは足りずに暇を見つけては彼等の元を訪ね――
 心配しすぎだと笑われた。
 まるで初孫の誕生を心待ちにする祖父の様だとも言われた。
 訪ねる度に担いで行く手縫いのおしめやおくるみは、五つ子が生まれても大丈夫な程に積み上がっていた。
 今にして思えば、少し舞い上がりすぎていたかもしれない。
 けれど、ワンダもレッドも、それが嬉しいと……幸せだと言ってくれた。
『こんなに心配して、楽しみに待っててくれる人がいるんだから。元気に生まれて来なきゃね』
 大きなお腹に語りかけながら嬉しそうに微笑むワンダは、既に母親の顔だった。
 一方のレッドは今ひとつ頼りないと言うか、父親の自覚に欠ける風情ではあったが――
「やっぱり、変わるもんだな」
 生まれたという報せを聞いて駆けつけた時には、もうすっかり顔つきが違っていた。
『おめでとう、お父さん』
 人は親になるのではない、子供が人を親にするのだと、何処かで聞いた。
 彼の様子を見れば、なるほどそれも頷ける。
『二人とも、良い顔だ。おめでとう』
 子育ては楽しい事ばかりではないだろうが、今のこの気持ちさえ忘れなければ、どんな事でも乗り越えて行けるだろう。

 小さな赤毛のお姫様は、スカーレットと名付けた。
 女の子ならそれが良いと、ワンダに頼まれた時からそう思っていたものだ。
 男の子の名前も考えてあったし、もし今度生まれる子が――
「いやいや、流石に二人とも俺が名付け親ってわけにゃいかねえよな」
 十四郎は苦笑いを浮かべつつ、荷造りを始めた。
 おしめやおくるみは間に合っているだろう。
 前の時に何しろ大量に持って行ったから、まだ使わずに仕舞ってある分も多い筈だ。
 ワンダには何か精の付くものを、レッドには酒でも持って行ってやるか。
「姫さんへの土産は、何が良いかねぇ」
 久しぶりに会う孫の顔――いや、孫も同然の娘の顔を思い浮かべながら、十四郎は京の町に出た。
 こうして土産を選ぶ時間もまた、楽しいものだ。
 この前の積み木は気に入ってくれたらしい。
 今度は手鞠にしてみようか。
 それに、可愛い柄の着物や帯も――


 キャメロットはこの時期にしては珍しく、気持ちの良い晴天だった。
「としろじしゃーん!」
 玄関を開けると、スカーレットが飛び付いて来た。
 本人はちゃんと「十四郎おじちゃん」と言っているつもりらしいが、まだ舌が上手く回らない。
 が、そんな所もまた可愛らしいと、ここでも親馬鹿全開だ。
「おぉ、大きくなったな!」
 小さな身体を抱き上げ、肩に乗せる。
「おっきぃよ、おねーしゃんだもん!」
 スカーレットは、お姉さんになる事が余程嬉しい様だ。
「いらっしゃい、十四郎さん」
 奥からゆっくりと現れたワンダの腹部は、今にも破裂しそうな程に膨らんでいた。
「おう、邪魔するぜ。あんたも元気そうで何よりだ……こっちも順調そうだな」
「順調すぎて、予定より早く生まれて来そうなのよ」
 どうやら、今朝から軽い陣痛が続いている様だ。
 今、レッドが産婆を呼びに行っているらしい。
「まったく、そんなに慌てて出て来なくても良いのにねぇ」
 ワンダが笑った。
「もしかしたら、十四郎さんが遊びに来るタイミングに合わせたのかもしれないわね。ほら、前の時は……、っ!」
 ワンダが突然、言葉を切った。
 膝を折って、その場に座り込む。
「来たのか?」
 その言葉に、ワンダは黙って頷いた。
 二度目だけあって流石に落ち着いたものだが、額には脂汗が滲んでいる。
 急いでベッドに運ぶと、スカーレットが心配そうな様子で後について来た。
「まま、びょぅき?」
「病気じゃない、赤ん坊が生まれるんだ」
「うまれゆの!? あかちゃん、うまれゆの!?」
 スカーレットは期待と喜びに瞳を輝かせ、鼻の穴を膨らませた。
「よし、今からお姉さんとしての最初の仕事だ。俺が戻るまで、ここでママの手を握っててくれ。出来るな?」
「うんっ!」
「よし、良い返事だ」
 十四郎はスカーレットの頭を軽く撫でると、準備の為に部屋を出た。
 そうだ、前の時はあれほど足繁く通っていたのに、運悪く出産には立ち会えなかった。
 今度はその時の分まで、出来るだけの事をさせてもらおう。
 この家は第二の我が家の様なもの。必要な物の場所はわかるし、隣に住む御婦人に声をかければ五分以内に近所の主婦が全員集合する事も把握している。
 井戸で綺麗な水を汲んで戻る頃には、主婦達によるサポート体制がすっかり整っていた。
「産婆さん、連れて来たぞ!」
 暫くして、レッドが飛び込んで来る。
 これで一安心、後は座して待つだけだ。

 チリリン、コロン。
 床を転がる手鞠が可愛らしい鈴の音を立てる。
 お姫様はどうやら、その土産を気に入ってくれた様だ。
 そうして二人で遊びながら待つこと暫し。

 奥の部屋から、赤ん坊の元気な泣き声が聞こえた。
「生まれたか!」
 十四郎が立ち上がり、スカーレットを抱き上げて走る。
 と、部屋の入口で飛び出して来るレッドと鉢合わせしそうになった。
「男の子だ! 元気な男の子だよ!」
「そうか、そりゃぁ良かった! おめでとうよ!」
 勿論、ワンダも無事だ。
「良かった、良かったなあ」
 涙もろい「祖父」は、またしても男泣き。
「十四郎さん、また……名前を付けてくれないか?」
 レッドが言った。
「男の子の名前も、考えてあったんだろ?」
「そりゃ、そうだけどよ……」
 口ごもる十四郎にレッドは笑う。
「俺がこうして父親になれたのも、家庭を持てたのも……あんたや皆のお陰だ」
 その感謝の気持ちを忘れない為にも、是非。
「俺、あんたの事も家族みたいに思ってるんだぜ?」
 などと言われたら、どうして断る事が出来るだろう。

 燃える様な赤毛の男の子は、ヴァーミリオンと名付けられた。


 数日後。
 無事を見届けた十四郎は、後ろ髪を引かれる思いを断ち切る様に帰途に着いた。
「何かあったら遠慮なく言えよ、すぐに飛んで来るからな」
 近所の主婦達にも、くれぐれもよろしくと頼んである。
 まあ、あの小母さん達は頼まれなくても何かと世話を焼いてくれそうではあるが。
 次はご近所にも何か土産を持って来よう。
 それに、坊主には独楽やけん玉、凧、竹とんぼ――

 ワンダには、気が早いと笑われるだろうか。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ea5386/来生十四郎/男性/38歳/浪人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。

 AFOの終了から時を経ても尚、こうして気に掛けて頂けるワンダやレッドは幸せ者です。
 そして、素敵な名前をありがとうございました。
 片方だけ使わせて頂くのは勿体ないと思い、双子にしようか、それとも……と悩んだ結果、こうなりました。
 ご依頼のイメージとは少々異なる形になりましたが……如何でしょうか。
 お気に召して頂ければ幸いです。
WTアナザーストーリーノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2014年02月24日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.