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『悪夢の悪用 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&鍵屋・智子(NPCA031)

 兜街の夜。一人の証券マンの男性が暗く静かな夜の闇の中、突然発狂し一緒にいた上司を撲殺していた。
「この悪魔……悪魔めぇっ! そんな呪符をばら撒きやがって!!」
 男の目の色は尋常ではなかった。目の前の上司を悪魔と罵り、辺りに散らばる株価チャート載った紙を呪符だと言い退けている。
 動かなくなった上司を前に肩で荒い息をついたその直後、男は顔面を両手で覆い隠し天を振り仰いで雄叫びのような叫び声を上げた。
 黒かった髪は見る見るうちに真っ白に染まり、そして男はその場にくず折れるように倒れ死亡したのだった……。

                 ****

「何ですか?」
 目の前に、怪訝な表情でこちらを睨むように見つめる女がいる。その彼女の前に立っているのは、郁とあやこの二人だ。
 二人は先日上司を撲殺した後、死亡した男の自宅を訪ねていた。
「先日亡くなったあなたの旦那さんの件で、何か変わったことがなかったかお話を聞きたくて……」
 あやこが女の視線に臆することなくそう言うと、女は深いため息を吐きながらどこかめんどくさそうに話し始める。
「そうね……夫は睡眠障害の治療中だけど、最近は安眠していた筈だわ」
「睡眠障害?」
「えぇ。悪夢に悩まされて、半年前から医大に通院しているの。夢日記みたいなものも付けていたけど……。でも最近は本当に熟睡できていたのよ」
 あやこと郁は互いに顔を見合わせた。
 医大に行けば何か手掛かりになるようなものが掴めるかも知れない。
 直感的にそう考えた二人は、女に礼を述べて自宅を後にし男のかかっていた医大を目指して歩き出した。
 その頃、医務室で男の遺体を調べていた鍵屋が、男の脳から小さなペースメーカーを見つけていた。
「これは……?!」
 そっとピンセットで摘み上げたペースメーカーを見て眉根を寄せた。
「何か引っかかるわね……」
 ペースメーカーを見つめながら、鍵屋は低く唸り詳しく調べに取り掛かった。

               *****

 医大では、夢遊病者の視床下部にペースメーカーを埋めて睡眠を制御する臨床試験を行っていた。
 安全で成功例は多数あるものの、今以上の向上を目指す為に日夜欠かさず試験を繰り返している。
 そんな医大にあやこと郁が訪ねてくると、男の主治医との面談を申し出た。主治医は丁度時間が空いたからと、診察室へ二人を招いた。
「今日はどうされたんです?」
「実は、先日亡くなったあなたの患者さんについてお聞きしたい事があるんです」
「あぁ、あの方ですか……」
 男の話を切り出すと、主治医は憂いに満ちた顔を浮かべた。
「経過は良好だったはずでしたがあのような結果になってしまって、我々としても残念でなりません」
「亡くなった事はご存知なんですね。じゃあ、彼がテロを行っていた事は知ってました?」
 郁がそう訊ねると、途端に主治医は愕然としたように目を見開き、血の気が引いたかのように一瞬にして顔が青ざめた。
「私の患者が、テロを……?」
「こちらの調べでは確かに臨床例に問題はないけれど、アレが関与している事は否定できません。すぐに患者全員に摘出手術が必要だわ」
「患者名簿などの関係書類はどこに?」
 畳み掛けるようにあやこが訊ねると、主治医は視線を下げ言い難そうに呟いた。
「実は……盗まれたんです」
「盗まれた?」
「つい数日前に、盗難にあって関係書類は全て持っていかれました」
「何てこと……」
 重々しい空気に包まれていた診察室に、一人の看護師がやってくる。
「先生。お手紙が届きました。宛名がありませんが……」
 看護師から手紙を受け取り中を見ると、そこには脅迫状のうたい文句が並んでいた。


 その頃、主治医の家では謎の男が電極を被った謎の男がパソコンで患者の名簿を閲覧していた。
 患者の画像をクリックすると、それまで平常値だった数値が急上昇して限界を振り切る様を見て、男は恍惚とする。
 画像をクリックされた該当者が働くピザ屋では、突然厳格を見た店員が雄叫びを上げて錯乱し始め、傍に置いてあったナイフを手に店主を刺殺した。
 やはり、幻覚を見た店員は店主を悪魔と罵っており、そしてその後、前回と同様に当事者である彼もまた髪を白髪に染めて死亡してしまったのだった。
 その翌日。鍵屋はあやこを前に腕を組み、眉根を寄せて鼻息を荒くする。
「悪夢を見ず、過労死する夢遊病者なんて不条理よ。あやこ、ちょっと実験に付き合ってくれるかしら」
 その後、あやこを昏睡状態にさせた鍵屋は彼女と自分にペースメーカーを接続。
 読みが当たるなら、同じ現状が起きるはず。
 鍵屋はそう考えていた。


 旗艦に戻らず、調査を続けていた郁はその頃ある発見をしていた。
 目の前に散らばるカルテと、手元に置かれた脅迫状。それらを見ていて気付いた事がある。
「……やっぱり……。どれも筆跡が同じだ。まさか、自演?」
 郁はすぐさま立ち上がると、主治医の家へと走った。
 銃を構え、勢いよく扉を蹴り破る。
「環境局よ!」
 暗い部屋の中、パソコンの明かりだけが漏れている。そのパソコンの前に背中を丸めて座り込んでいた男は、ゆっくりと郁を振り返る。
 その顔はヘラヘラと笑い続け、下卑た笑みを浮かべていた。
 郁は眉根を寄せて男を睨むと、男はゲラゲラと声を上げて笑い始める。そしてそれが絶頂に達すると、まるで操り人形の糸が突然切られたかのようにバタン! と男は倒れこむ。
 銃を突きつけたまま男に近づくと、男は笑みを浮かべたまま白目を剥き死んでしまっている。
「……何なの」
 郁は完全に死亡した男を検視していると、ふいに携帯が鳴り響く。
「はい」
『綾鷹? 実は見つけたものがあるの』
 電話の相手は鍵屋だった。
 話を聞いていると、郁は目を瞬かせる。
「獏装置?」
『ええ。あれは人を操るんじゃなくて悪夢を盗む機械よ』
「あやこさんは……」
『あやこ? あぁ。彼女は爆睡してるわ』
 しれっと呟いた鍵屋の言葉に、郁は呆れたように顔をゆがめる。
「こらぁー!! 智子!!」


 その頃、艦橋では、突然舵手が立て籠もり、旗艦の暴走を開始し始めていた。
 大きく傾ぐ旗艦に、乗員達の体は大きくよろめき、強かに壁に体を打ちつける。
「い、一体何が……っ!」
 乗員たちは傍にある物にとりあえずしがみつき、現状に困惑の色を隠せないでいた。
 窓から映る景色が、まるで眩暈でも引き起こしたかのように大きく旋回し、ある場所へと向かっているのが分かる。
「ま、まさか街と衝突するつもり!?」
 サッと血の気が引いた乗員達はなす術もない。


 研究室では、電極を被った鍵屋が郁とリンク中だった。
 最初の考えどおりであれば、鍵屋と同じ挙動をするはずが何もおきない。
「ペースメーカーはフェイクなのかしら……」
 考え込んでいた鍵屋だが、ふとあることに思い当たったのかパッと顔を上げ、隣にいるあやこを見た。
「そうだ。患者は悪夢を生む家畜だったのよ。故に過労死したんだわ!」
 力強くそう囀る鍵屋に、あやこは小首を傾げた。
「じゃあ真犯人は誰?」
「ズバリ! 最初の事件を引き起こした男の妻よ!」
「え〜夫人?」
 絶対的な自信を込めて言い切った鍵屋の言葉に、あやこは驚きを隠せず目を見開いた。
「とにかく、もう一度家に行きましょう」
 鍵屋の言葉に、あやこは郁と合流し再び証券マンの家を訪ねた。 
 郁は夫人が表に出てくる前に玄関の扉を開き、夫人の前に銃を突きつける。
「あなたを逮捕するとか、悪夢だわ」
 嘆く郁に、夫人は不敵な笑みを浮かべた。
「それならば、その悪夢を頂くわ!!」
「!?」
 郁達は突如手のひらを返したような夫人の態度に一瞬怯んだ。その隙に彼女達は捕らえられてしまう。
「離しなさいっ!」
 暴れる郁達に、夫人は手馴れた様子で獏機械に繋ぐ。
「私たちアシッドはね……人間の知識を集合無意識に蓄えるATMを造ったのよ」
 くっくっと笑う夫人は笑いが止まらない。
「私あっちの摘発を出し抜いて、誰かにロケットをいきなり発明させるとか、可能なのね!」
 鋭く睨みつけ、怒る郁。だが、ふと窓の外に映る大きな影に目を見開いた。
 窓の外には物凄い勢いで迫る旗艦の姿があったのだ。
 このままではマズイと、郁はぎゅっと目を瞑る。そして共感能力をフル回転で作動させ、集合無意識にアクセスを試みる。
「な、何するのっ!!」
 夫人は悲鳴にも似た声を上げる。だが、郁によって悪夢を逆流させると、夫人は激しい雄叫びを上げながらやがて悶死したのだった。
 目前まで迫った旗艦。もう駄目かとそう察知したが、間一髪。旗艦は大きく向きを変え衝突を回避した。
 それにより、街は救われたのだった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2014年02月24日

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