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『愛する人を護る為に…… 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&鍵屋・智子(NPCA031)

 結婚したばかりの家庭がある。
 今日は愛しい妻の為に、夫は彼女に内緒で誕生日会の準備をしていた。
 全ては順調。飾りつけも料理も、そして一番のメインであるケーキの準備さえも抜かりなく、彼は幸せそうだった。
 しかし、そんな夫を恐怖が襲う。原因不明で突如、夫の体が人体発火したのだ。
 夫はなす術もなく、燃え盛る炎にまかれて床の上をのた打ち回り。やがて動かなくなる。燃えるものが無くなると、炎は自然と鎮火し他に燃え広がる事はなかった。
 やがて、何も知らない妻はいつものように帰ってくる。玄関のドアを開けば愛しい夫が待っているものと信じて、幸せ一杯の微笑を浮かべてドアを開いた。が、次の瞬間彼女はその場に鞄を取り落とし、目の前にある人型に焦げた床と異様な臭いに包まれた現象に言葉を失ったのだった。

              ****

「四年振りよ!」
 気合十分に、あやこは開かずの旗艦資料室のドアを開いた。
 少し埃っぽい匂いがたち込める資料室に入ると、かつて何度も聞いた連続放火殺人からの電話を逆探知したテープを引っ張り出す。
『自主する条件は化学式の解読だ。でなきゃまた誰か死ぬ! 俺は止めたいんだよ! 解けるか? 即答しろ! 逆探知される前に切る……』
 そうとだけ言って、電話は切れた。
 彼の言う化学式の解読。それは未だに解読中だが答えは導き出されてはいない。そうこうしている内に、事件は沈静化。今では過去にあった記録として残る程度だ。
「相変わらず、この式が難解なのよね……」
 あやこは繰り返しテープを巻き戻しては何度も聞き返した。
 その頃、病院船白鷺の昏睡患者の病棟では、当直の看護師がいつもと同じように患者の様子を診にやってきた。
 床ずれを起こさないように時折体の向きを変え、容態を診る。
 いつもと変わらず、手にした記録用紙に血圧などを書き込んでいると、ふと人の気配がし彼女が振り返ったその瞬間。目の前の情景に手元の記録紙を取り落とし、驚愕に目を見開いた。
 目の前には人の形を模した蠅の群が、耳障りな音をたてている。
 恐怖に顔を歪め、一歩後ろへ退いた彼女の動きを合図に、蠅の群は彼女に襲い掛かった。
「いやぁあああぁっ!!」
 悲鳴を上げ、逃げようとするが蠅は容赦なく襲い掛かる。
 やがて、床に倒れた看護師はそのまま動かなくなり、群がっていた蠅は彼女から離れ再び人の形を模して部屋を後にしたのだった。
 その事件を聞きつけた郁と鍵屋は、すぐに現場に駆けつけた。
 彼女達の前には脅えた表情のままの看護師の遺体が転がっており、その傍らに膝を着いて彼女の肩に手を伸ばした郁のちょっとした接触に脆くも崩れ去り、灰となった。
「嘘……」
 驚く郁に、鍵屋は深い眉根を寄せて腕を組んだ。
「あり得ない。燃えたわけでもないと言うのに、なぜ触れただけで灰になる?」
 二人がすでに灰と化した看護師を見下ろしていると、郁に連絡が入った。
『白鷺号が襲われたんですって? 今資料室で調べ物をしていたんだけど、ある共通項を見つけたの。その共通項が昏睡患者よ』
「昏睡患者……」
 郁と鍵屋は、ベッドに横たわる患者に目を向ける。
『先日あった発火事件。夫は事件当日母親を見舞っているわ。すぐにその関連の捜査をして!』
「了解」
 郁は連絡を切ると鍵屋を見つめ、二人はどちらからともなく頷いた。

                ****

 暗い部屋に一人の男がいた。
 彼の目の前には電極に繋がった男が昏睡状態に陥っている。その体には無数の蠅が群がっていた。
 昏睡状態の男を見つめていた男は、辛そうに顔を顰め一瞬顔を俯かせる。そして……。
「兄貴……ごめん……」
 呟くほどの小さな謝罪を漏らすと、男は手元にあった電圧のスイッチに手をかける。そしてスイッチを入れると蠅は一瞬にして消滅したのだった……。


 艦隊司令部にて、あやこは圧力をかけられていた。
 上層部は旗艦を戦列から外す会議を行い、それはあやこにも伝わっている。だがあやこはその圧力に屈することなく、司令部の廊下で議員の一人を強請っていた。
「あなた、知ってるわね? 四年前にあった連続放火殺人事件。その資料、こちらに回して」
「な、なぜ戦列から外される予定の君らに、その資料を渡さなければならないんだ」
 冷や汗を流す議員に、苛立ったあやこは彼の顔の傍の壁を力いっぱい拳で殴りつけた。
「何? そんな圧力に私たちが屈するとでも思っているの? 冗談じゃない。あなたたちが力で我々をねじ伏せようと言うのなら、こちらだって力で応戦するのみよ!」
 あやこは銀色にチラつく銃口を突きつけ、もう一度言う。
「事件の資料を渡しなさい」
「……っ」
 低く、ドスを利かせた声音で要求すると、議員はごくりと生唾を飲み込んだ。


「灰化する程被爆して、自然放射能すら残ってない……?」
 研究室では、灰化した死体の一部を持ち帰った鍵屋が放射能の測定をしていた。だが、何度試しても線量は0を指し、ただ驚きに眉根を寄せるばかりだ。
「そんなことって、あり得るのかしら……」
 鍵屋は目の前の灰を睨むように見つめながらそう呟く。
 その頃、議員から資料を受け取ったあやこは、目を見開いた。
「元飛行士……。CIAにロシアまで絡んでる……!」
 あやこは犯人宅に急襲した。
 勢いよくドアを開き、中を覗き込むと既に逃亡済みだった。床の上にはベッドを引きずった跡が残り、周りにはロシア製の部品が散乱している。
「逃げられた!」
 悔しげに地面を踏んだあやこの表情は苛立ちに満ちていた。
 あやこが駆けつけた場所から逃亡し、新居での生活を送っていた犯人の元に、ある電話がかかってきた。
 それは数日前に面接を受けた病院からの電話だった。
『あなたは素晴らしい医師だ。採用です!』
 その言葉に、犯人はニッとほくそえみ礼を述べて電話を切る。そして昏睡状態のままの兄を見つめて呟いた。
「兄貴。病院の面接受かったよ! これで次の餌食が見つかる……」


「この式は何……?」
 旗艦では、鍵屋があやこから受け取った4年前から解読している化学式を前に考え込んでいた。
 あらゆる方向からあらゆる答えを導き出そうと、持てる知識をそこに注ぎ込んでいた鍵屋はハッとなって顔を上げた。
「酸化チタン!」
 式を解く手掛かりを見つけた鍵屋は喜び勇んで次々と式を解いていく。
「分かったわ!!」
 歓喜の声をあげ、郁とあやこを自分の元へと呼びつけた。
「いい? この化学式なんだけど……」
 目の前に置かれた黒板に、先ほど自分が解いた式をつぎつぎと書き込んでいく。
 あまり見慣れない記号や数式がたちまちの内に黒板一杯に広がっていった。
 郁はすっかり数式にぞっこんになってしまっている鍵屋の姿に呆れ、何気なく視線をそらす。するとそこにあった監視映像に映る蠅を発見し、勢いよく立ち上がった。
「兄に憑依した宇宙人の主食は、誰もが抱く未知への恐れ」
 映像を見ていた鍵屋がそう漏らすと、あやこもそれに続いて答え合わせをするように呟いた。
「被害者は恐怖のあまり発火した……?」
「ご名答」
 鍵屋はニンマリと自慢げに微笑んだ。
 その後、捜査線上に怪しい当直医が浮上した。
 あやこは一役買って出る事になり、その当直医にコンタクトを取る。
「お兄さんの治療法が判ったの。すぐに基地ゲートまで来てもらえるかしら」
 犯人はそれを聞くと目を見開き、歓喜の色に染まった。
 電話を切り、すぐに兄を振り返る。
「兄貴! やっと奴を追い出せるよ!!」
 涙目になりながら兄の傍に駆け寄り、男は「もう少しだからな」と一言言い残して部屋を後にした。


 指定された基地ゲートへと、足早に駆け込んできた犯人を医師に化けたあやこが手厚く歓迎する。
「待っていましたよ」
「それで、治療法と言うのは……」
「まぁ落ち着いて下さい。きちんと順を追って説明しますから……」
 あやこが犯人の注意を引いていると、ロシア軍が犯人に奇襲を仕掛けた。
 意表を突かれ、なす術もなくロシア軍に取り押さえられた犯人だった。が、この話が嘘だと感付くと犯人は激しい爆音を上げて爆発炎上する。
 彼を取り押さえていたロシア軍はすぐさま彼から飛び退いた。
 蠅の大群が出現し、人型を象るとまっすぐにあやこに向き直る。
「……!?」
 蠅は犯人の声で語りだした。
「兄に正しい知識があれば恐怖に勝てた。俺たちは宇宙を知る義務がある。お前は中世の宣教師か!」
 そう語る蠅に、あやこは胸に刺さるものがあった。
 自分は間違っていた。そう気付かされ、知らず知らずに頬に涙が伝い落ちる。
 あやこはその場に膝を着き、号泣した。
「私は、家族が住む世界を護るはずだった。なのに、結果的に家庭を壊したのよ……。ごめんなさい……」
 あやこは涙ながらに元彼に謝った。
 そんな彼女を影から見ていた鍵屋は呟く。
「事件にこだわる筈ね……」
 納得したように、鍵屋は頷いた。
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東京怪談
2014年02月24日

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