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『艦長爆死! 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&茂枝・萌(NPCA019)


 その酒場は、ほとんど焼失していた。
 爆発物を用いて決闘騒ぎを引き起こした輩がいるらしい。
 有名な、宇宙海賊の一味であったという。
「嘘……だよね、あやこ艦長……そんな連中に、殺されたなんて……」
 綾鷹郁は、呆然と呟いた。
 焼け跡の焦げ目から、連合艦隊旗艦艦長・藤田あやこのDNAが検出されたのである。
 微量の銀粉が、遺留品として発見・回収され、鑑識課に回された。
 逃げ去った宇宙海賊の手がかりが掴める事を、祈るしかなかった。
「嘘だよね……艦長……」
 郁は、無意味な呟きを繰り返した。
 突然、行方知れずになった藤田艦長を捜すため、いろいろと手を尽くした。
 山師の酒場に潜り込み、「藤田あやこに恋人を寝取られた女」を演じて泣き喚き、男たちの同情を買った。
 情報を、得るためだ。
 そうして探り当てた先が、藤田艦長の爆殺現場であった。
「郁……いえ、綾鷹副長」
 1人の少女軍人が、声をかけてきた。郁の副官・茂枝萌である。
「藤田艦長の葬儀を、執り行わないと……弔辞を読むのは、貴女の役目よ」
「弔辞……そんなもん『悲しかった。終わり』でよかぞ……」
 郁は、銃剣付きの小銃を引っ掴んだ。
「それより仇討ちじゃき……くそったれな宇宙海賊ども、1匹も生かしちゃおけんぜよ!」
「落ち着いて、郁。副長の自覚を無くしては駄目よ」
 口調静かに、萌は郁を諌めた。
「わからないの? 艦長は、お亡くなりになったのよ……そういう事に、今はしておかなければいけないの」


 その宇宙海賊が行っている略奪行為は、遺跡の盗掘が主なものであるらしい。
 龍国領内。すでに荒らされた遺跡の1つを、郁は調査していた。茂枝萌を伴ってだ。
「あやこ艦長が……死んだふりして、身を隠してると。こっそり何か、やらかそうとしてると。萌っちは、そう言いたいわけ?」
「艦長の、やりそうな事だとは思わない?」
「大いに思うけど……」
 言いつつ郁は、身を屈めた。
 遺跡に並ぶ、数多くの奇怪な石像。その1つの足元に、何やら光るものが付着している。
 あの爆殺現場から発見されたものと同じ、銀粉である。
「あ……副長、これを見て」
 萌も、何かを発見していた。石器、のようである。
 見てと言われたが、見ている場合ではなくなっていた。
 石像の陰から現れた宇宙海賊たちが、郁に、萌に、銃口を向けている。
 郁は抗わず、両手を上げた。
 宇宙海賊に、潜り込んで調べてみる必要がありそうだからだ。


「久遠の都の、軍人スパイか……」
 宇宙海賊の船長が、ぎろりと郁を見据えた。
「あんな空っぽの遺跡で、何をしていた?」
「学術的調査ってやつよ。金目のもんにしか興味が無い、あんた方と一緒にしないでよね」
 郁は、チョーカーのような首輪をはめられていた。
 見たところ、船長以外の海賊全員が同じものを装着させられている。
 電子操作によって、何かしら苦痛を与える類の首輪であろう。これで船長は、海賊団を統率しているのだ。
 捕われたのは、郁1人である。茂枝萌は、いつの間にか姿を消している。
 郁を見殺しにして、1人で逃げた。ある目的のために、逃げてもらったのだ。
 ちらりと、郁は見回した。
 海賊たちの中に、いくらか気になる顔が2つある。
 両方とも女だ。1人は龍族、もう1人は山師。
「軍人の言う事を、真に受けるわけにはいかん。でかい戦争の準備でも、してるのかも知れんしな」
 船長が、思案した。
「……人質にすれば、久遠の都から身代金をふんだくれるかも知れんな」
「それは無理」
 女山師が、口を挟んできた。
「その娘は艦隊の鼻つまみ者でね。久遠の都では今頃、いなくなって清々しているだろうよ。身代金なんて払うわけがない」
「随分と詳しいではないか、瓦礫よ」
「情報通じゃないと、山師はやっていられないんでね」
 瓦礫と呼ばれた女山師が、そう言いながら郁を一瞥する。
「きさん……!」
 郁は思わず、叫んでしまいそうになった。
 その時、海賊船が揺れた。
「な、何だ! 敵襲か!?」
「ちち違います船長! 船が、船が暴走を!」
 悲鳴を上げる機関士を、郁は押しのけた。
「あたしが直す!」
「おい、勝手な事を……」
 などと船長が言いかけている間に、郁は作業を終えていた。
 機関部の、初歩的なトラブルだった。
 船の揺れが止まり、通常航行が何事もなく再開した。
「ほう……やるじゃないか」
 船長が感心している。
「いいだろう、お前を作業員として雇ってやる。働き次第では、その首輪を外してやらんでもないぞ」
 郁は思わず、瓦礫の方を見た。
 女山師は、興味無さげにしている。
 薄汚い変装をしているが、郁にはわかった。
 山師などではない。紛れもなく、藤田あやこだ。


「……一体、何を考えているの」
 龍族の女が、不穏な声を発している。
 盗掘品の鑑定作業をしながら、あやこは答えた。
「私が考えているのは、これら品々の事だけだよ。それが仕事だからな」
 考古学の知識を活かし、鑑定士として海賊団に雇われている女山師。
 それが現在の、藤田あやこである。瓦礫というのは、適当に名乗った偽名だ。
「鑑定を急ぐよう、船長からは言われている。邪魔をしないでもらいたいんだが」
 この海賊団は、何かを探している。それを求めて、遺跡荒らしを繰り返している。
 あやこが掴んでいる情報は今のところ、それだけだ。
「私の目は、ごまかせないわよ」
 龍族の女が、執拗に絡んで来る。
「機関部に細工をして船を暴走させ、あの綾鷹郁が船長の信用を得るように仕向けた……のは、貴女でしょう?」
「何の事だかわからない。とにかく邪魔をするなと言っているのに」
「邪魔をしているのは、貴女よ」
 龍族の女が背を向け、苛立たしげに足音を響かせ、ようやく去って行く。捨て台詞のように、言葉を残しながらだ。
「誰であっても、私の使命を邪魔する者は許さない。たとえ貴女でもね、瓦礫……いえ、藤田あやこ」
 この龍女も、船長への従属の証たる首輪を装着させられている。
 だが、とあやこは思う。この海賊団を本当に操っているのは、実は彼女なのではないか。


 龍国全土、ほぼ全ての遺跡を盗掘しても、海賊たちの求める遺物は見つからなかった。
 だが1つ、判明した事実がある。
 その遺物が、すでに龍国政府学術団によって発掘され、今は国立博物館の目立たぬ一角に展示されているという事だ。
 当然と言うべきか、博物館を強襲するという話になった。
 博物館である。軍事施設ではないから、防御は甘い。電送盗難を防ぐためのバリアーが1枚、張ってあるだけだ。外部からのハッキングで、容易く解除出来るレベルのものである。
 問題は、その後だ。
 博物館の地下ブースに展示されている、龍王級の重巡洋艦。
 表向きは展示物だが、実弾もエネルギーも装填済みの現役艦である事は、すでに調べ上げてある。
 海賊船の武装では、いささか厳しい相手だ。が、やるしかない。
 あと少しで、あの遺物が手に入る。
 自分が、爆死を装ってまでこの海賊団に潜り込んだのは、あれを手に入れるためなのだ。
 ここまでは、上手くいっている。1つだけ、予想外の事態が起こった。
 綾鷹郁が、恐らくわざとであろうが捕われて来た事だ。
 1つ細工をして、彼女の居場所をこの海賊船内に作ってやった。
 それで充分だろう、とあやこは思う。何が起こっても郁なら、自分で自分の身を守る事が出来る。
 あやこは、エンターキーを押した。
「ハッキング完了……バリアーは解除されたよ、船長」
「よし、電送機発動!」
 船長の命令はただちに実行され、艦橋に何かが電送されて来た。
 石造りの小さな箱。目的の、遺物である。
 これさえ入手すれば、この海賊たちに用はない。
 あとは、この遺物を海賊船の外へ持ち出すだけである。
「せ、船長! デカブツが出て来やがりました!」
 海賊の1人が叫ぶ。
 博物館そのものが左右に割れ開き、地下から巨大なものが迫り上がって来て離陸・浮揚した。
 龍王級重巡洋艦。
 その巨体いたる所で、砲門が開いた。無数の砲口が、こちらに向けられる。
「う、撃って来ますぜ船長!」
「回避と同時に戦闘準備! 反撃! おら、さっさとしろ!」
 狙い通り、海賊たちは混乱状態に陥っている。
 この隙に石の小箱を奪い、脱出する。
 砲撃が始まり、この船が撃沈されたとしても、あやこ1人なら脱出可能だ。
 郁は、放っておいても自力で生き残ってくれるだろう。
 海賊船が、揺れた。
 砲撃戦が、始まったようだ。
 龍王級重巡洋艦が被弾し、爆煙を引きずりながら撤退して行く。
「何……っ!」
 あやこは絶句した。この海賊船に、龍王級を撃退出来るような火力はない。
 と言うよりも、海賊側からはまだ1発も撃っていない。
 巨大なものが、海賊船の近くに出現していた。
 連合艦隊旗艦。あやこが艦長を務めていた船である。
 それが、艦長命令を受けたわけでもないのに砲撃を行い、重巡洋艦を追い払ってしまった。
 艦長が死亡扱いとなっている今、あの艦に砲撃命令を下せる者は、ただ1人。
「綾鷹……貴様、余計な事を!」
「あてが外れちゃった? ねえ、あやこ艦長」
 言いつつ郁が、石の小箱を片手で弄んでいる。
「どさくさ紛れに、これをゲットするつもりだったんでしょうけど……ああ、ちなみに今、旗艦を動かしてるのは萌っちだから。あの子に全権、委任してあるから」
「勝手な事を……!」
「それはこっちの台詞。ねえ艦長、あんたが考古学大好きっ娘なのは知ってるけどぉ」
 郁が、じろりと睨みつけてくる。
「こんなものゲットするために、死んだふりまでして、軍務も何もかも放り出して……やり過ぎもいいとこだってのよ。趣味に走るのはここまでにして、とっとと軍に戻りなさい。上層部には、あたしが一緒に謝ってあげるから」
「それをよこせ、綾鷹」
 携帯端末を取り出しながら、あやこは命じた。
「説明している暇はない。私には、単なる考古学的趣味ではなく、その遺物を手に入れなければならない理由があるのだ。手に入れた上で、この龍国でやっておかなければならない事がある……旗艦を撤退させろ。さもなくば、あの艦の自爆コードを打ち込まなければならなくなる」
「そんなもん、あんたが死亡扱いになった時点で、とっくに書き換えられとるき」
 郁が言った。が、旗艦が退却して行く。
 指揮権を委任されている、萌の判断であろう。
「萌っちのやつ、空気読んどる気にでもなっとるがか……」
 郁は、舌打ちをした。
「まあ良か……あやこ艦長、しばらく付き合うちゃるぞね」
 郁が、石の小箱を放り投げてよこした。
「あんまりバカやらかしゆうなら……軍法会議かける前に、その首かおるが切り落としちゃるきに。そんつもりでまあ、やりたい事やってみさらしや」
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東京怪談
2014年02月26日

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