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『友へのプレゼントは 』
只野黒子ja0049

 もうすぐ、バレンタインがやってくる。
 女性から好きな男性に想いを込めたチョコレートをあげる日――そんなイメージが以前は強かったけれど、最近は友チョコやら逆チョコやら、随分とその雰囲気も様変わりしつつあるらしい。
 それでも昔から変わらないのは、あげる対象が『大切な相手』ということであって。……いやもちろん、義理チョコなんていうのもたくさん存在するけど。
 甘いチョコレートの香りは、きっと皆の心を軽くさせているのだと思う。誰も彼もが、どこか浮足立っているのだから。


 そして、この少女――只野黒子もきっとそんな中の一人にはいるのだろう。今日は友人へのプレゼント選びのために、共通の友人と待ち合わせすることにしていた。
 バレンタインと言っても、あげるのはチョコレートばかりではない。
 想いを込めたプレゼント、それが大切なわけである。
 そして今回の同行相手は――
「わりぃわりぃ、遅れたー」
 悪びれもせず、待ち合わせ場所にそう言いながらやってきた百々 清世である。
 大学生である清世は小学生の黒子にとって、元は友達の友達という感じだったが、なんだかんだで世話焼きだったり何だったり、気がつけば普通に黒子自身の友達という位置づけになっていた。
「でもまたご指名してくれるなんて光栄だねー。今日もオシャレさんで可愛いし、楽しいデートにしようねー」
 そう言って清世は笑う。
 なるほど、本日の黒子の格好はフリルの入った白いブラウスにワンポイントの入ったレザー調の黒いハイウェストスカート。上着は黒いガーリーなトレンチコートで、足元はニーハイブーツ、こちらも色は黒である。名は体を表すかの如く黒い、ややゴスロリ風の服装だが、彼女にはよく似合っていた。腰ほどまである金髪は同時に目元も覆っていて、それもまたどこかミステリアスな印象を与えているが同時にいかにも彼女らしい。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
 黒子がそう口角をあげると、清世も笑った。


 買い物は定番だがショッピングモールで。
 モールに行けば様々な店が並び、だいたいのものが揃うので、これはありがたい話である。
 とはいえ、黒子自身は何を買うか大体決めていた。みんなに配るための義理チョコ用を沢山と、大切な友人へ手作りするための材料としての板チョコ数枚である。凝ったものを選ぶつもりはない。何しろあげる相手はみんな友人で、恋愛感情とは無縁の存在だからである。
 とりあえずはモールの中をひょいひょいと見て、塩梅を確認する。こういうウィンドウショッピングも楽しいものだ。
「ああいうの、只野ちゃんに似合いそうだねー」
 清世が指をさしたのは、いわゆるクラシカルロリータ系のブランドショップ。トルソーには落ち着いた色合いのワンピースが飾られていた。ロリータと言っても装飾は少なく、上品な印象のそれは確かに黒子によく似合いそうだ。同様に黒子も、清世に似合いそうな服や小物をメンズファッションのショウウィンドウに見つけたりして、そんなことをしながら歩く様子はいかにも楽しい。
 ありがたいことにこの時期は、大抵どこに行ってもバレンタイン用商品というのが並んでいる。二人の入ったモールの中でも、バレンタイン特設コーナーなんて言うブースが設けられていた。
 しかしそこも眺めたが、結局は小洒落た感じのする雑貨店、別の言い方をすればファンシーショップとも言えるだろうか、そういうところでお目当てを見つけた。
 清世はそんな黒子の戦利品を見て、ほうと思わず口に出す。
「只野ちゃんってチョコとか自分で作れる派か」
 チョコを作る――と言ってもカカオ豆から作るわけでは当然なく。チョコレートを湯煎してとかし、そこから別の形、あるいは別種の菓子としてつくり上げるということである。黒子はこくっと頷いた。
「ああ、多少は。今年は多少まともなものを、みなさんにあげたいと思いますし」
 清世はその答えに、思わず目を瞬いた。そして、笑う。
「すごいねぇ、俺は湯煎って集中力持たなくて……」
 すると、黒子は、
「チョコレートとか作られるんですか?」
 と思わず尋ねていた。どちらかと言えばノリの軽いように見える清世の意外な一面に、驚きを隠せないといった感じだ。まあ、ただの軽い男ではないことは黒子も承知の上なのだけれど。
「え、俺もチョコあげたりするよ? 他にもみんなで集まってお菓子持ち寄りでチョコパとかさー、楽しいじゃん。結構する」
 なるほど、交友関係の広い清世はそういうところで友人と親交を深めるというわけか。なんとなく納得した黒子は、他にも店を巡ってあれこれと見て回る。
「あ、荷物多いでしょ? 俺が持つよー」
 清世に買い物を手伝ってもらうのはこれで二度目だが、軽そうな外見に反して――いやあるいは見たままとも言えるのかもしれないが、彼は女性や年少者に対しては優しい。逆をいえば、男性にはシビアなことが多いのかもしれないけれど。
 そう言うやりとりをしながらウィンドウショッピングを続けていると、なんだかんだで結構歩き回っていることに黒子は気づいた。時計をみれば、ちょうどおやつ時である。
「そろそろ休憩しませんか?」
 指をさしたのは小洒落たカフェ。『カフェ』という呼び方がしっくり来る感じの店構えだ。見ればメニューに、冬季限定のホットチョコレートなんてものもある。本場ベルギーチョコを使用したものということが書いてあって、清世も休憩することには賛成だった。
 買い物というのは、なんだかんだでエネルギーを使うものなのだ。


「そういえば、さっきのチョコだけど」
 店に入り、注文をした後で清世が口を開く。
「結構な量だったよなー。あげる相手多そうね、只野ちゃん」
 黒子は小さく頷く。
「まあ、なんだかんだで友人は多いですし。百々さんもご友人は多いでしょう?」
「まーね」
 なんて言っているうち、二人の目の前には頼んだものが運ばれてきた。
 黒子には冬季限定ホットチョコレートとベイクドチーズケーキ、清世にはチョコパフェ。
 さっそく黒子は、チーズケーキをひとくち食べて嬉しそうに顔を綻ばせる。もっとも目元が隠れているのでわかりづらいかもしれないが。清世のパフェも美味しそうだなぁ、なんてこっそり思っていたりすると、清世はその視線に気づいたのだろうか、
「……ひとくち食べる?」
 とパフェをスプーンですくうと、
「はい、あーん」
 とばかりに黒子に差し出してみた。一瞬驚きはしたものの、素直にそれを口に入れる黒子。清世にはちゃんと恋人もいるし、こういうスキンシップが好きなのも知っているから、深い意味が無いのもわかるのだ。
 というか、年齢が十歳も離れていて恋愛感情を持っていたら、一種のロリコンと呼ばれる類になってしまう。当然ながらというか、清世はそういうタイプではない。楽しいことを楽しいと言い、楽しいと感じることのできる、そういうタイプなのだ。
「どう、おいしい?」
 清世は黒子が食べる様子を眺めながら、楽しそうに笑顔を浮かべて尋ねる。黒子はにっこり頷いて、
「甘くておいしいですね。……もしよければ、このチーズケーキも食べてみますか?」
 お返しとばかりにケーキをひとくち分フォークに刺し、清世の口元に差し出してみる。
「はい、あーんです」
 清世はそれに対して素直に口を開け、ぱくりと食べる。
「ん、これもうまいねー。只野ちゃん、甘いの好きなの?」
「嫌いではないですね。お菓子とかの中で一番好きなのはアイスクリームですけれど」
 ちなみにカレーも好きだというあたり、まだまだお子様な面が見え隠れしている。
「それにしてもさー、女の子って大変だよねー。チョコとかさ、みんなに配るんでしょ? お金も手間もかかるじゃん」
 清世はパフェを頬張りながら、素直に感想を述べる。まあ俺はもらう側なんだけどさ、と笑いながら。友チョコやら逆チョコなんて風習も増えたとはいえ、彼自身はそういうつもりはほとんどないのである。
「……ああ、たしかにそうかもしれませんけれど。でも、戦闘を担う友人が多いですし、あげなかったことによる後悔などはあまりしたくありませんから」
 口元を拭いながら、冷静に黒子は応じる。
 そう、彼らは学生であると同時に撃退士だ。天魔に抗うことが出来るだけの力を持っている。しかしそれは、いつ戦いで怪我を負うかもわからないということであり、命を落とすものだっているかもしれないという立場にあるのだ。
 もちろん、一般人だとて不慮の事故などは免れることはできない。しかし、撃退士は自ら危険に立ち向かうことが多いため、『万が一』の可能性はぐんと跳ね上がる。
 黒子も、清世も、それを十分知っている。
「……そっかぁ。只野ちゃん、すごいねー」
 それを素直に『すごい』と言える清世も、十分すごいと思うのですけれど――
 黒子はそう言いたかったが、なんとなくそれはやめた。
 そう、自然体であることこそが、彼の良さなのだ。
 そしてそう言える清世のことを好きな人間が男女問わず多いのも、黒子にはよくわかった気がした。


 カフェをでたあとも、適度にモールの中をぶらぶらする。その間、荷物持ちは清世の担当だ。
「んー、女の子に重いもの持たせるのも良くないしね」
 サラリとそんな言葉を言える清世。やっぱり女の子に対してかくあるべし、のようなモットーがあるのだろう。
 と、何件目かの雑貨店をでたところで、黒子は口角を上げ、
「一足早いですが、こんなものを」
 そう言いながら清世に何かを手渡す。綺麗にラッピングされたそれを開けてみると、なかなか洒落た雰囲気の防水シガーケースが入っていた。黒いそれは手触りもよく、しっくり馴染む。
「これは?」
 さすがに唐突で、清世も目を丸くしている。
「先日と、今日のお礼を兼ねてですけれど、ひと足早いバレンタインのプレゼントと思っていただければ」
「あー……、まじか」
 黒子の言葉に、清世はつい小さく笑う。
「そんな気遣いとかしなくてもいいのに。ていうか、もらえるとか全然思ってなかった系」
 そう言いながら、シガーケースを胸ポケットに入れると、
「すげー嬉しい。ありがとね、只野ちゃん」
 清世は嬉しそうに笑って、そして時計を見た。
「……そろそろ夕飯時だろ、お礼に寮まで送るわ。お礼になってるのかよくわかんないけど」
 荷物もあるし、まだ小学生の黒子を一人で帰すのも問題があろう。黒子も
「ありがとうございます」
 と素直に礼を言う。
 帰り道はすっかり暗くなって、見知った通りでもやはりどこか物寂しかった。けれど、もう春も近い。これからはどんどん日の入りが遅くなって、夕方も明るくなる。
「そうだ、只野ちゃん」
 清世は笑った。
「……はい?」
 黒子はわずかに首を傾げる。
「これだけじゃお礼っていえないだろうしさ、ホワイトデーは楽しみにしてろな?」
 ……ホワイトデーは男性から女性への、バレンタインの返礼の日。黒子もくすりと笑う。
「じゃあ、楽しみにさせてもらいます」
 十歳年上の友人からもらえるプレゼントは一体なんだろう。
 黒子はそんなことを思いながら、ペコリと礼をした。


 バレンタインは、大切な人に思いを届ける日。
 それが愛情か、友情か、はたまた別の感情か――それは人それぞれ。
 でも、言えることは。
 思いを届けるのも、それを受け取るのも、とても幸せな気持ちになれるだろう――そういうことだ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja0049 / 只野黒子 / 女性 / 小等部六年 / ルインズブレイド 】
【 ja3082 / 百々 清世 /男性 / 大学部四年 / インフィルトレイター 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびは再びのご発注ありがとうございました。
 仲の良い年の離れた異性の友人というのは、きっと普通の場合ならば兄妹のようにみえるのだろうと思いますが、お二方の場合はごくナチュラルな友人なのではないか――そう思いながら執筆いたしました。
 楽しんでもらえれば幸いです。
 では遅くなりましたが――ハッピー・バレンタイン。
不思議なノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月03日

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