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『滅びの遺産 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&三島・玲奈(7134)&茂枝・萌(NPCA019)


 連合艦隊旗艦艦長・藤田あやこが、爆死を装って行方をくらませた。
 副長・綾鷹郁が、女艦長を追って海賊船へと乗り込んで行った。
 現在、連合艦隊旗艦の指揮権は、茂枝萌に委任されている。
 ある程度は好きなようにやれる、という事だ。
 だから萌は、命令を下した。
「任せたよ、三島さん。今から貴女が副長……だけど実質、艦長だから」
 代理艦長として、恐らくは最初で最後の命令となるだろう。
「私、艦隊指揮なんて柄じゃないから……単独の隠密任務の方が、向いてるから」
「ちょっと待って下さい。あたし、ただの機関士ですよ!?」
 三島玲奈が、泣きそうな声を発している。
「そんな、艦隊指揮なんて……あ、あたしだって単独で敵に突っ込むような任務の方が向いてるの、萌さんだって知ってるくせに」
「少なくとも、戦艦の扱いで貴女の右に出る軍人はいない。勝手にいなくなる藤田あやこよりは、ずっと適任だと思うわ」
 萌は、玲奈の細い肩を優しく叩いた。
「その藤田前艦長から、暗号通信が届いてる。まずは、この解読から始めましょう」


 綾鷹郁が、連合艦隊旗艦を退けた。
 海賊たちには、そのように見えたらしい。
 海賊船内で、彼女は船長の信任を得た。
 相対的に、山師「瓦礫」……藤田あやこの立場は、いささか微妙なものになりつつある。
「その首輪で、首をねじ切られる前に……やるべき事は、やっておくと。そういうわけ?」
 龍族の女が、またしても話しかけてきた。
 嫌がらせか、あるいは何かを探ろうとしているのか。
 どちらにせよ、相手にしないのが一番である。あやこは、鑑定作業を続けた。
 博物館から盗み出した、石の小箱。その中には、見事な真球形に加工された宝石が収められていた。
 赤色の、宝玉。その内部に、いくつもの古代文字が浮かんでは消え続ける。
 その解読に没頭しているあやこを、龍族の女が会話で邪魔しようとしている。
「あの連合艦隊旗艦……ずいぶんと、あっさり引き上げたものね? まるで貴女からの、他の誰にも聞こえない命令を聞いたかのように」
「私が、テレパシーでも使ったって言うのか?」
 会話に応じる余裕が、あやこには出来た。解読は、ほぼ終わっていた。
「自爆コード云々などと騒ぎながら、あの時……携帯端末で、何か暗号通信のようなものを送ったのでしょう? 私の目は、ごまかせないわよ」
「何を言っているのか、わからないな。あんたは相変わらず」
「貴女なら、艦長のいない旗艦など余裕で撃沈できたはず……逃がしたのね、わざと」
「あんな船と戦っている場合ではないからさ。わからないのか? 私たちは、大変なものを手に入れてしまったんだぞ」
 赤い宝玉。これは、思った通りの物品だった。鑑定の結果、偽物ではない事が判明してしまった。
 ついに、発見してしまったのだ。
 あやこは言った。
「間違いない……これは、ソドム砲のエネルギーコアだ」


「サイコ砲?」
 萌が、問い返してくる。玲奈は頷いた。
「藤田艦長は、それを探して……海賊船に、乗り込んでるみたい」
 海賊船から藤田あやこが送ってきた暗号通信を、解読した結果である。
「ソドム砲、ゴモラ砲、神砲……3つの砲身から成る超古代兵器、らしいわ」
 10年前、とある秘密結社によって発掘されたが、バチカン教皇庁によって破壊された。破壊しなければならないほど、危険なものであったらしい。
 だが3つの砲身の各エネルギーコアだけは無傷で残り、バラバラに流出してしまった。
 龍国のタカ派が、サイコ砲の入手を企んでいるという。教皇庁によって破壊されたとは言え、3つのエネルギーコアさえ揃えば、再建造は容易であるらしい。
 サイコ砲が龍国タカ派の手に渡れば、久遠の都や妖精王国にとっても脅威となる。阻止しなければならない。
 藤田艦長は、そう暗号通信で伝えてきた。
「ゴモラ砲のエネルギーコアは、妖精王国のとある商人が持っている……そこまでは、わかってるって」
「龍国タカ派の人たちは、どうやって手に入れるつもりなのかな?」
 萌は考えた。商品として正式に購入するか、あるいは奪うつもりか。
 龍国、妖精王国、そして久遠の都。この3国の間では一応、不戦条約が結ばれている。奪うような行動を起こせば、下手をすると戦争になる。
「龍国の動きは、わからない。ただ艦長の潜り込んでる海賊団は、買い取るつもりでいるらしいわ。その商人から、ゴモラ砲のコアを」
 解読した暗号通信文を眺めながら、玲奈は言った。
「海賊と、その商人との合流予定地点まで書かれてる……これ、あたしたちに行けって事よね?」


 龍国タカ派、バチカン、そしてバチカンと敵対する秘密結社。
 計3つの勢力が、血眼になってサイコ砲を手に入れんとしている。
 ならば身軽な自分たちが、3つのエネルギーコアを先んじて入手し、売りつける。3勢力の者たちを巧みに煽って、値を吊り上げる。
 綾鷹郁が少し色目を使った結果、海賊団の船長は、そんな事までべらべらと喋ってくれた。
「もう1つのお宝が手に入れば……あの瓦礫って女は、もう要らんなあ」
 郁に酌をさせながら、船長は言った。
「隙を見て殺せ、綾鷹」
「……いいの?」
「あの女はあの女で、俺たちのお宝を狙ってやがるからな」
 鑑定の済んだ赤い宝玉を、片手で弄びながら、船長が言う。
「いれば、いたで役には立つが……それ以上に危険な女だ」


「……って、船長が言ってたよ」
 郁が言うと、藤田あやこ……瓦礫が、苦笑した。
「で……言われた通り、お前は私を殺すか? 私の後釜を狙うのか」
「殺すかどうかは、まだ保留。ちょっと確認しておきたい事があってね」
 郁は、ちらりと瓦礫を睨んだ。
「そのサイコ砲っていうのは、そこまで危険な代物なわけ? あやこ艦長が、死んだふりまでして探し回らなきゃいけないくらいに」
「お前はあまり勉強をしない方だが、ソドムとゴモラの話くらいは知っているだろう? 少なくとも名前くらいは」
「神様に滅ぼされちゃったっていう街だよね」
「神ではなく、超兵器によって滅ぼされた……という話があってな」
 この艦長が、趣味の考古学研究で調べ上げた話なのだろう。
「ソドムとゴモラが、どれほど文明の進んだ都市であったのか、本来ならば丸1日かけて講演したいところだが……そのような都市がな、ほとんど痕跡も残さず滅びてしまったのだ。それほどの兵器が、龍族タカ派のような連中の手に渡ったらどうなる」
「ほんとにそう思ってるんなら……あんな赤い玉っころ、鑑定のついでにブッ壊しちゃえば良かったじゃない」
 3つのエネルギーコアの、1つでも欠ければ、サイコ砲の再建造は不可能となる。これまでの話を統合すると、そういう事になりはしないか。
「超兵器のエネルギーコアだぞ。言ってみれば、破壊力そのものが詰まった爆弾だ。うかつに叩き割ったりしてみろ、こんな海賊船は跡形もなくなる……私とて最終的には軍法会議で銃殺刑かも知れんが、海賊どもと心中は御免だ。サイコ砲の完全破壊を見届けるまで、死ぬわけにはいかん」
「……覚悟が足りないわね、藤田あやこ」
 声がした。
 柱の陰に、龍族の女が立っていた。
「私は、いざとなれば海賊船もろとも、あの赤い宝玉を破壊するわよ。船内に、私がいようといまいと」
「……バチカンの破壊工作員だったのか、貴女は」
「龍約聖書の信者は、命を惜しまない。貴女たちとは違ってね」
「目的を達するために、命を投げ出す覚悟がある……」
 あやこは言った。
「目的を達するまでは、生き抜く覚悟というものもある」


「せっ船長、大変です!」
 海賊の1人が、艦橋に駆け込んで来た。
「妖精王国の、例の商船が! 久遠の都の戦艦に拿捕されました!」
「なっ何!? 馬鹿な、どうして合流地点が……」
 うろたえながら船長が、瓦礫を睨む。
「貴様……やってくれたな!」
「はて? 何の事やら」
 藤田あやこが、とぼけている。
「それより船長、私たちも早く行った方がいいんじゃないかな。久遠の連中に、ゴモラ砲のコアを奪われてしまうよ?」
「お前には先頭に立って戦ってもらうぞ! 少しでもおかしな動きを見せたら、その首輪で頸骨をへし折ってやる!」
「……言われるまでもない。戦闘準備をしてくるよ」
 艦橋を出て行く瓦礫に憎悪の視線を向けながら、船長は命じた。
「機会だ、綾鷹……乱戦のどさくさに紛れて、あの女を殺せ」
「了解……」
 己の首輪に軽く指を触れながら、郁は応えた。
 この首輪から解放される手段は、どうやら1つしかない。


 こういう事は、綾鷹郁の方が適任だろう。
 そう思いながらも三島玲奈は精一杯、媚びた声を発した。
「お仕事、大変ですねぇ。たまには休まないと倒れちゃいますよ? ね、お休みの日とか何してるの? 趣味はなぁに? 貴方のコトもっと知りたぁい」
 妖精王国の商人が、デレデレと鼻の下を伸ばしている。
 この間に茂枝萌が、船内を捜索し、ゴモラ砲のエネルギーコアを盗み出す。
 このようなもの作戦とも呼べないが、出来る事は他になかった。
 海賊船と妖精王国商船との、合流地点。
 連合艦隊旗艦が先回りをして、妖精王国商船を拿捕し、萌と玲奈が検疫の名目で乗り込んだ。
 あまり暴力的な事をしては外交問題になる。萌には一刻も早く、例の品を盗み出してもらうしかない。
 船が揺れた。
「な、何だ……」
 妖精王国の商人が、うろたえている。
 いくつもの人影が、荒っぽく船内に踏み入って来た。
 海賊団だった。
「うらぁー! てめえ、例のブツはどこだぁあ!」
 海賊の1人が、商人に銃を向ける。
 その銃身を、玲奈は掴んでねじ曲げた。
「貴方たち……買い取るつもりなんて、なかったのね。最初っから、奪い取るつもりだったのね……!」
「っったりめーだろォ!? 俺たちゃ海賊だぜえ、奪い取れるモンに金なんか払えっかよぉお!」
 海賊たちが一斉に、小銃をぶっ放した。
「伏せて!」
 怯え泣き喚く妖精商人を、玲奈は背後に庇った。
 仁王立ちになった少女の細身を、銃撃の嵐が直撃する。
 セーラー服や体操着その他、重ね着した衣装が、ことごとく破けて散った。
 閉じ込められていた翼が広がり、猛禽の如く羽ばたいた。
「人型戦艦を……なぁめるなあああああああッ!」
 羽ばたきながら玲奈は叫び、牙を剥いた。
 スクール水着をまとう細身が、白い羽を舞い散らせて躍動する。飛翔か、疾駆か、跳躍か。
 とにかく海賊たちが、悲鳴を上げながら砕け散った。
 躍動する少女の細腕が、海賊を1人1人、掴んでは引きちぎり、殴り潰す。
 スリムな両脚が、暴風の勢いで振り回され、海賊団を片っ端から蹴り砕いてゆく。
「最後に現れ、暴力で何もかも台無しにする……久遠の都のデウス・エクス・マキナは健在、というわけか」
 海賊の指揮官と思われる1人の女性が、呑気に感心している。
「手段を選ばず、お前という戦力を入手した甲斐があったというものだ」
「藤田艦長!」
 玲奈は叫んだ。
「軍務を放り出して一体、何やってるんですか! いくら危険な兵器を無力化するためだって、もっと他にやりようがあるでしょうがああ!」
「これしか思いつかなかった。始めてしまった以上、やめるわけにもいかんのでな」
「反逆罪になりますよ!」
「……もうなってるから、多分」
 言ったのは、綾鷹郁だった。
 いつの間にか、あやこの背後に立っている。そして小銃を構えている。
「どうせ銃殺刑……だったら今ここで、あたしが!」
 銃声が、轟いた。
 郁が引き金を引く、よりも早くあやこが振り返り、拳銃をぶっ放していた。
 郁は倒れ、動かなくなった。
「そんな……」
 玲奈が呆然としている間に、あやこは姿を消していた。
 電送による瞬間移動、であろう。
 郁の屍だけが、そこに残された。


「いや〜死んだ死んだ。また死んじゃったあ。ま、おかげでクソったれな首輪は取れたけど」
 まるで風呂上がりの時のように郁が、クローン製造機から歩み出て来た。
「今のあたしって、何人目かなあ」
「知りません!」
 涙ぐみながら、玲奈は怒鳴った。
「説明して郁さん! 一体、何がどうなってるの!?」
「いや、まあ……話せば長いんだけどね」
 
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東京怪談
2014年03月05日

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