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『Especially for you 』
小野友真ja6901




 スーパーマーケットはエントランスから、赤やピンクのハートが舞い踊っていた。
「そっかー、バレンタインやもんな」
 小野友真は呟きながら、店内に足を踏み入れる。
 そこには山積みのチョコレート。その周りには赤、白、ピンクのリボンや風船が華やかに飾られている。
「すごいなー、これ、売れ残ったらどうすんのかな……て、あれ?」
 大変大きなお世話な心配をしつつふと顔を上げると、生鮮食品のコーナーに見知った姿があった。

 果物売り場でオレンジを手に取り、雨宮 祈羅が吠える。
「違うッ!」
 目立つ場所に盛り上げられた特価のオレンジは、祈羅の目的に合わないのだ。
「うー、これじゃないんだよなあ……あっ、あっちだ!」
 カートを勢いよく転がし、祈羅はややお高い品が並ぶコーナーへ。
「うん、これこれ♪ よかった〜なかったらどうしようかと思った!」
 無農薬のオレンジをゴロゴロとカートに入れたところで、聞き慣れた声がかかった。

「やっほー、祈羅さん。お買い物〜?」
「友真ちゃんも? こんな所で会うなんて珍しいねっ!」
 きゃっきゃとハイタッチする祈羅と友真。仲の良い姉弟のようである。
「バレンタインで配るチョコレートのお菓子作るんだ♪」
「えっ」
 友真はかごの中身を思わず見た。
「……もしかしてオランジェットですか」
「うん♪ 鋭いね、友真ちゃん」
 実は友真もオランジェットは狙っていたのだ。祈羅が作るのならば……。
「あとね、ブラウニー作るつもり」
「ブラウニー……! 祈羅さん、俺も是非ご相伴に預かって宜しいですか。あ、何でしたら荷物持ちしますし!」
 真顔で友真がカートに手をかけると、祈羅が楽しそうに笑う。
「いいよ! じゃ、うちにおいで。一緒につくろ!」
「え?」
 友真が思わず訊き返す。
 一応料理はできる。だがプレゼントする物となるとどうだろうか。
(まあいっか。祈羅さんに教えてもらえるんやし……)
「そんじゃ折角やから作ってみよかな! て、思います!」
 祈羅が一層顔をほころばせる。
「うん、ぶっちゃけ試作してる暇ないからぶっつけ本番だけど! 大丈夫!」
「やったー、先生、宜しくお願いしますー!」
 弾むように友真がカートを押し始めると、背後から声がかかった。
「あら、祈羅姉さん、小野さん。珍しい組み合わせのお二人ですね?」
 振り向くと大八木 梨香が笑っていた。




 祈羅がドアを開き、友真と梨香を招き入れる。
「さ、入って入って!」
「「お邪魔しまーす」」
 大荷物を抱えた友真の後を、梨香がついていく。
「すみません小野さん、結局ほとんど持たせてしまって……」
「これ位ぜんっぜんへーき! なんやったら梨香ちゃん、もっと俺にいっぱい頼ってくれてええんやで?」
 キメ顔で振り向いた友真だが、梨香はこちらに背中を向けて玄関先で靴を揃えていた。
(梨香ちゃん……それわざとやないよな?)
 友真の顔が強張っていた。

「こっちこっち。ありがと、友真ちゃん♪」
「ふっふっふ。俺両手に花でチョコ作り会ですね!」
 作業台の上に荷物を広げると、祈羅が使う順に広げて行く。
「すみません、洗面所お借りします」
「どうぞどうぞ。あ、そうだ!」
 祈羅が悪戯っ子の様な笑顔を浮かべ、別室に走って行く。
 直ぐに戻ってくると、髪をまとめ、手を洗って戻ってきた梨香に、満面の笑みでエプロンを押しつけた。
「梨香ちゃん、これ! 貸してあげるよ! 絶対似合うっ」
「ええっ、こんな綺麗なエプロン……汚したら大変ですから!!」
「いいのいいの。ほら、つけてつけて♪」
 フリルがふんだんに盛られたお洒落なエプロンの腰のリボンをふんわり形作り、祈羅は満足そうに眺める。
「ふっふっふーさすがわが妹!」
「ええと……すみません、ではお借りします……」
 少しぎくしゃくしながら、梨香はキッチンに入る。
「わー、梨香ちゃん似合うな! そういうのも偶にはええと思う!」
 だがそこで友真の笑顔が、そのまま固まる。祈羅がにこにこ笑いながら押しつけてきた物に気付いたからだ。
「えと、俺も、ですか、祈羅さん……」
「すっごくかわいい、かわいい♪」
「……お似合いですよ、小野さん」
 お揃いのフリルエプロンで並ぶ友真と梨香であった。

「オランジェットって、家で作れるんですね」
 祈羅に言われる通りに作業をすすめながら、梨香が感心したように言った。
「でも流石に1日じゃ無理だからね。今日は煮込みでオレンジコンフィとか作るところまで!」
「はい次、こっち煮えたでー!」
 鍋担当の友真が重い鍋を持ちあげ、中身を水に晒す。
「ありがとー。じゃあこれもスライスしちゃおう」
 次はそれをシロップでコトコト煮て。
「よし、じゃあこっち広げて!」
 祈羅が金網にクッキングペーパーを敷いた上に、注意深くオレンジを並べて行く。
 部屋には爽やかなオレンジの香りとグラニュー糖の甘い匂い。明るいオレンジの水玉模様がいっぱいに広がる。
「よし、じゃあ続きは3日後! いよいよチョコレートつけちゃうよ!」
「「はーい」」
 次の約束を決めて、一度解散となる。




 そして3日後。
 再び集まった3人は、宝石のようにきらめくオレンジコンフィを前に溜息をつく。
「すごいですね……! こんな綺麗になるんですか」
 梨香は一枚を取り上げ、感動の面持ちで透かした。
「思ったより上手にできたと思う! じゃあ次はチョコ溶かそうか」
 湯せんにかけたチョコレートを注意深くテンパリングしながら、祈羅も満足そうだ。
「そろそろいいかな? こうやってつけて……と」
 輪切りのオレンジの半分ほどをチョコレートに浸して取り出すと、程良く溶けたチョコレートは見る見る固まって行く。
「すごいなー! ほんまにオランジェットや!」
 友真が思わず声を上げた。そしてオランジェットを前に嬉しそうな、大事な相手の顔を思い浮かべる。
 今年もというリクエストはあったが、自作って言ったらどんな顔をするだろう?

「祈羅姉さん、これはやっぱり?」
 珍しく梨香が何やら含み笑いを浮かべ、祈羅をつついた。
「えっ違うよ!! これは、義理! 友達に配る分っ!」
「あらそうなんですか? せっかくこんなにきれいにできたのに……残念」
 梨香が次々とオレンジにチョコを浸しては並べて行く。結構この作業が楽しいらしい。
「た、誕生日プレゼントといっしょだし! 別枠でちゃんと作るの!」
「ふふ。じゃあ頑張ってくださいね!」
 頬を赤くしている祈羅は年上のお姉さんには見えない可愛さだ。
「そか、祈羅さんの恋人さんは誕生日も兼ねてるんやな! いいねぇラブいですね! 仲良う過ごしてな……て言わんでも過ごしてくれるわな!」
「もうっ友真ちゃんまで!!」
 祈羅の拳を掌で受け止め、友真が笑う。
「そや、梨香ちゃんは誰にあげるん?」
「えっ」
 ……訊いてはならない事を訊いたな? 梨香の目がそう言っていた。
「え、あの、友達とか? 先生とか……ないですよね、はい、すいません」
 思わず目を逸らす友真。
 祈羅が小麦粉の袋をドンとテーブルに置く。
「よし、じゃあ次はブラウニー作るよ!」
「ブラウニーも美味しそうですね。自分用でも全然いいですよね」
「だからごめんて……梨香ちゃん……」
 目が笑っていない梨香に、友真は自分の顔を両手で覆う。




 やがてブラウニーの焼ける香ばしい香りが漂い始める。
 焼き上がった確認の竹串もOK。
「すごい! 綺麗に焼き上がってますね」
 鉄板を取り出した梨香が歓声を上げる。
「少し冷ましてから切るからね! 先にオランジェットのラッピングしちゃおう!」
 作業の段取りがしっかりしているので無駄な時間がない。
「ラッピングて別に俺は適当に、ビニール袋d……」
 じろり。
 祈羅と梨香が同時に友真を見た。
「あ、ハイ。女性陣にお任せします」
「一緒に包むんだよ! ほら友真ちゃんも!」
 輪切りを2枚ずつ、そしてスティックを数本。それぞれ小分けの袋に入れて、ワイヤー入りのリボンで飾って。リボンには『いつもありがとう』のメッセージカードがついている。相手が気負わない程度にシンプルで、でも気持ちはいっぱいに詰め込んで。
「可愛いですね、このリボン。二本束にしても素敵です」
「おおっそれいい! 端っこくるんとしてね!!」
 キャッキャとはしゃぎながら、祈羅と梨香は次々と袋を作って行く。
「なんかあれこれ試行錯誤しながらって楽しいよな」
 友真もオランジェットを敷き紙からはがしては、並べてお手伝い。

 もちろん、全てのオランジェットが完全形な訳ではない。中にはプレゼントには不向きな出来の物もある。それはつまり。
「これ、ちょっとつまみ食いしてもいいんやろ?」
「うんいいよー。味見味見♪ あ、ちょっと休憩しよっか。ココア飲む?」
 梨香が顔をほころばせる。
「お願いしてもいいですか? 姉さんに入れて貰うココア、美味しいので」
「もっちろん♪ 任せて!」
 見栄えの悪い物を選び、早速口に入れる友真。
「わーいオレンジーv すっごいおいしい!」
 これなら改めて自分でも作れるかもしれない。
(後でもう一度、レシピ教えてもらお……)
 噛みしめるように味わいながら、友真は密かに作業を振り返る。
 適当に作って大惨事になることはあるが、レシピがあればちゃんとやれる子なのだ。
「ほんと……こんなに上手にできるんですね。一人でできるかは判らないですけど」
 梨香も口に運び、目を見張る。そして暖かなココアを飲むと、体の芯まで優しくほぐれていくようだ。
 もしかしたら一人ででもお菓子は作れるのかもしれない。
 そうして誰かの為だけを想って、心を籠めて作るお菓子も素敵だ。
 でも作る過程を楽しみながら、仲良しの人と一緒に作るお菓子には、きっと楽しい気持ちも詰まっている。
 お友達にプレゼントするチョコは、こんな感じも素敵だと思うのだ。


 そこで祈羅が腰を上げる。
「よし、んじゃちょっとお腹もすいて来ただろうし。シチュー作ってあるんだ。食べる?」
 友真が目を輝かせた。
「すっげ、シチュー……! ありがたく頂きまっす!」
「勿論いただきます! あ、じゃあこの辺りの使い終わった物、洗っていきますね」
 梨香も声を弾ませた。
「ちょっと俺、家に連絡だけ入れてきます」
「うん、遅くなったら心配するしね!」
 祈羅が片目をつぶって見せると、友真が少し照れたように笑う。
 心配させないように連絡だけ入れれば、あとは心おきなくのんびりと。

 手作りシチューに舌鼓を打ち、賑やかにおしゃべりをひとしきり。
 そっと席を立った祈羅が戻ってくると、後ろ手に持った包みを友真と梨香に差し出した。
「ふふー、そろそろいいかな。これ、ちょっと早めの友チョコ!」
 驚く2人の顔に、満足そうな笑みを浮かべる祈羅。
 そっと包みを開くと、中にはしっとりチョコカステラ。祈羅が先に作っておいた物だった。
「わ、これ、もしかして祈羅さん手作り!?」
「おいしそう!」
「ふふふー、ちょっとしたサプライズだよん♪」
 特別な人の為の特別なお菓子。恋人とは違うけれど、やっぱり大事な相手のために。
「いつも仲良くしてくれてありがと! そんで、改めてよろしくね♪」
「えへへー、こちらこそです!」
「……有難うございます。こちらこそ、宜しくお願いします」
 きゅうっと祈羅に抱き寄せられて、友真と梨香は改めてびっくり。でもそのぬくもりは心地よくて、思わず顔がほころぶ。
 そうしてそっと窺うと、抱き寄せる祈羅の笑顔は、やっぱりちょっとお姉さんっぽいのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6901 / 小野友真 / 男 / 18 / レシピがあれば完璧!】
【ja7600 / 雨宮 祈羅 / 女 / 23 / 素敵なびっくり箱】

同行NPC
【jz0061 / 大八木 梨香 / 女 / 18 / 来年こそは……?】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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プレバレンタインの2日間のお菓子作り、お疲れ様でした!
楽しい作業にNPCもお誘いいただきまして、どうも有難うございます。
オランジェット、ブラウニー、チョコカステラ。バレンタインの手作りお菓子はどれもなんだか素朴で優しいイメージです。
尚、今回は内容の都合上、同時にご依頼いただいた方と同一になっております。ご了承くださいませ。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
不思議なノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月06日

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