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『雅に咲く街並みで。 』
来生 十四郎(ea5386)&オルテンシア・ロペス(ea0729)&沙渡 深結(eb2849)

 とある晴れた日の朝、京都の御所近くにある月道に姿を見せたのは、来生 十四郎(ea5386)だった。人待ち顔できょろきょろと辺りを見回し、中から人が出てくるたびに、相手の顔を確かめる。
 そんな、一見しなくても不審な行動を十四郎が取っているのには、もちろんちゃんと理由があった。といっても当の十四郎には、それが不審な行動だ、という自覚はまったくなかったのだが。
 それは数日前のことである。今はパリに在住している、古くからの友人であるオルテンシア・ロペス(ea0729)から、十四郎に一通の手紙が届いたのだ。
 内容は極めて簡素な、指定の日の朝に京都の月道に来て欲しい、というもの。同じくパリに在住している友人の沙渡 深結(eb2849)も一緒だという以外には、何の用だとも書いていない。
 十四郎にその日、何か用事があったらどうするのだと思いはしたが、幸いにしてというべきか、取り立てて用事もなかった。だったらまぁ構わないかと、何ら疑問も抱かずに十四郎は指定された通りの日時に、指定された場所へと素直にやって来て。
 月道から出てくる人を見かけては、オルテンシアと深結だろうかと確かめる。そうして待っていた十四郎の前に、オルテンシアと深結が姿を現したのは、指定された時間通りのことだった。
 京とパリ、地理的には非常に遠いのだけれども、月道を使える現在にあってはそれなりに気軽に訪れられる場所だ。とはいえやはり心の距離で、京とパリは遠い。
 だから十四郎たちが、こうして顔を会わせるのは実のところ、久しぶりで。知らず、胸の奥からこみ上げてきた懐かしさに目を細め、ひょいと手を上げて挨拶をしようとした十四郎は、開口一番オルテンシアが告げた言葉に、そのまま動きを止めた。

「十四郎。早速だけど、京の町を案内して頂戴」
「――は?」
「早くしないと、あっという間に夜になりますよ?」

 目を丸くした十四郎に、深結も横からそう付け加える。だからさっさと案内なさい、と言わんばかりの表情で十四郎を見上げてから、オルテンシアと共に月道の外へ歩いていく。
 そんな彼女達を少しの間見送ってから、はた、と気付いて十四郎は慌てて後を追った。そうして「遅い」とでも言いたげに振り返る2人に向かって、ちょっと待て、と声をかける。

「そもそも、おまえ達、何をしに来たんだ?」

 そうして、今更ながらにそう尋ねた十四郎に、尋ねられた2人はひょい、と顔を見合わせた。それから再び十四郎へと眼差しを戻すと、何を言ってるのか、という表情でオルテンシアが髪をかき上げた。
 その唇から紡がれたのは、十四郎にとっては全く初耳で唐突な、だがオルテンシアと深結からすればなぜ彼がその程度も察せないのか本気で理解に苦しむ、理由。

「久しぶりに京都に遊びに行こうと思い立ったけど、1人じゃつまらないから深結を誘ったの」
「ですから、久しぶりに故国に帰って遊ぶのも、悪くないかと思って一緒に来たのですけど?」

 だから京の町をさっさと案内して、と当然の口調で言い切る女性2人の表情は、まったく悪びれてはいなかった。そんな2人をたっぷり10秒は見比べて、十四郎は知らず、自分自身にも呆れともため息ともつかない、はぁ、という声を漏らす。
 何とも突拍子のない、強引な話だった。とはいえオルテンシアには冒険者になりたての頃、生活面で色々と面倒を見てもらったこともある。
 つまりオルテンシアはいわば恩人なのだから、その頼みを叶えないわけにもいかないだろう。それに、確かに突拍子はないのだけれども、オルテンシアと深結は十四郎にとって気の置けない友人でもあるし、この程度のワガママは長い付き合いを思えば可愛いものだ。
 半ばは自分にそう言い聞かせるように、渋々と十四郎は2人に「解った」と頷いて見せた。そうして、彼女達の1日京都観光に付き合う覚悟を決めたのだった。





 京の町、とひとことで言っても、碁盤状に広がる町は気ままに足を運ぶには些か広すぎる。故に3人がまず足を向けたのは、その中でも特に雅やかで、賑やかな界隈だった。
 この辺りはいつでも人通りが多くて、それらを眺めているだけでも十分に楽しめる。何より様々な店が立ち並んでいるから、店先を冷やかして回るにもそうそう困りはしないはずだ。
 ――そう考えていた十四郎は、すぐに己の目論見の甘さを後悔することになった。何しろ、女性2人の行動力は十四郎の想像を超えて逞しく、そうして見事に彼女達の興味はバラバラだったのだから。
 深結はとにかく、色気より食い気優先だった。月道を出た直後から「美味しいものが食べたい」と主張し続けていた通り、この界隈に辿り着くや否や目に付いた料理や甘味の店に次から次へと飛び込んで、あれよあれよという間に制覇してしまう。
 その最中で、あちらこちらの店で買い求めたお土産も、中身はと言えば京菓子や京漬物、その他様々な食べ物が中心で。ちなみに土産と言いつつ、この半分以上は自分のお腹に収まる予定である。
 そんな深結とは対照的に、オルテンシアの興味はもっぱら、ジャパンの着物や装飾品に向けられていた。深結はもちろんの事、各地の冒険者が行き来するパリではジャパンの装束を目にする機会も少なくはないが、どうしたって手に入れることは難しいのだ。
 だからこそ、この機会に思う存分買い集めようと、それらしい店を見つけては片っ端から覗き込む。そうして気に入ったものがあればすぐさま、パリの友人への土産もかねて大量に購入して周り。
 そんな具合で2人がそれぞれに、気の向くままに目に付いたお店を次々と回るものだから、界隈のお店などあっという間に行き尽くしてしまった。そうなれば今度は十四郎に、それらしい店がある場所に案内しろ、と口を揃えて要求する。
 ちょっと待て、と思わず目眩を覚えたところで、十四郎には何の罪もなかっただろう。何しろ、まったく正反対とも言える2人の希望に近い店を、次々と探さなければならないのだ。

「十四郎、まだなの?」
「日頃のチェックが甘いのではありませんか?」
「ああ、もう、ちょっと黙って待っててくれ」
「あら坊や、お姉さんになんて言い草?」
「なってませんね」
「誰が坊やだ」

 実に息の合っているオルテンシアと深結に、十四郎は渋い顔で言い返しながら、そこらの店の売り子や、道行く人々にこれこれこういう店を知らないかと尋ねて回った。そんな十四郎へと向けられる同情の眼差しに、これまた渋い顔を返す。
 地元民なのだから、と言われれば確かにその通りだろうが、そもそも日ごろ自分では行かないような店の場所に興味はない。ついでに言えば十四郎は生憎、こんな事もあろうかと、と事前に調べておくような気が利く男でもない。
 何しろ彼女達の来訪の理由すら、まったく想像もしなかったくらいなのである。そこに振って湧いたこの事態なのだから、ついつい、ぼやきが口をついて出てしまうのも無理のないことだった。

「おまえ達、ちょっとは互いに合わせたらどうなんだ」
「何を合わせるの?」
「十四郎、何を言ってるんです?」

 そんな十四郎の言葉に、オルテンシアと深結は本気で、きょとん、と首を傾げた。彼女達は十分に、共に京の町で楽しむ、という目的でこれ以上なく合意している。
 そう告げると、十四郎は苦いものを飲み込んだような表情になって平行し、やれやれ、とまた歩き出した。そんな男の姿にちらりと2人で目を合わせ、くすりと笑い合ってから、オルテンシアと深結もそのあとに、軽やかな足取りで続く。
 彼女達が買い込んだ荷物は、全て前を行く十四郎の手の中にあった。といってもこれは、決して彼女達が押し付けたのではなく、十四郎が自ら率先して、買い物が終わるたびに持ってくれているのだ。
 その他にも、道案内の他にもさりげなく人混みの中では先を立って、彼女達が歩きやすいように道を作ってくれたりとか。或いは甘味処で席待ちになってしまった時に、深結達が疲れてしまわないように気を配ってくれたりだとか。
 そんな細かな配慮には、もちろん深結だってちゃんと気付いていた。けれども彼女は、だから素直にお礼を言おう、というような性格ではなかったし、オルテンシアは尚更で。
 だから心の中では感謝しつつ、当たり前に荷物を抱えた十四郎を引き連れるようにして――案内こそ頼んで大人しく後をついて行ってはいるものの、いざ辿り着いてしまえば主導権を握るのは当然、彼女達のほうだ――1日かけて、オルテンシアと深結は京の町での買い物や料理を、心行くまで楽しんだ。どの場所にもそれぞれに顔があり、華やかさがあり、雅やかさがあって、幾ら見て回っても飽きると言うことがない。
 そうこう過ごしているうちに、気付けばそろそろ日も傾き始めていた。回れるとすればあと1軒か2軒といったところかと、空を見上げた十四郎の呟きに、オルテンシアと深結も残念な気持ちで同意する。
 ならば次はどこに行きたいか、せっかくだから京にしかない珍しい菓子の店をと、深結が十四郎と話し始めた隙を見計らい、オルテンシアは気付かれないよう、そっとその場を離れた。悟られないように気配を忍ばせながら素早く、目星をつけておいた近くの酒屋に飛び込む。
 その酒屋は十四郎に町を案内させながらさりげなくチェックしておいた中でも、そこそこ品揃えも良く、構えも立派な店だった。何より昼間に深結とちらりと覗いた折に、お届けものも承ってますよ、と言っていたのが良い。
 故に再び訪れたオルテンシアの事を、店員も覚えていたようだった。おや、と目を軽く見開いた後、愛想の良い笑顔を浮かべた店員に、オルテンシアは艶やかに微笑んで見せる。

「この店で一番良い酒を1樽、知人に届けて貰えるかしら?」
「1樽ですね。今ならちょうど、酒蔵から良い新酒が入ったところですよ。御代は――」
「これで足りるかしら」
「十分ですとも、奥様。どちらまでお届けしましょう?」

 気前の良い注文と、手渡した御代にますます愛想が良くなった店員に、届け先を言付けるオルテンシアの姿を、十四郎と話をしながらちらりと深結は確かめた。十四郎からは死角になっているから、オルテンシアが居なくなった事には、彼はまだ気付いていない。
 見ている深結に気がついた、オルテンシアが微笑んで小さく頷いた。それに瞬きを1つ返して、了解です、と合図する――どうやら首尾は上々のようだ。
 ――オルテンシアが今、届ける手配をしている酒は、実のところ、十四郎への報酬だった。言わずと知れた、今日の案内への、である。
 深結にとってジャパンは故国ではあるが、江戸出身の彼女は京の町にはとんと疎い。ならば京在住である十四郎に案内を頼んで、その報酬に酒を渡してはどうかと、提案した深結にオルテンシアは、面白そうだと大喜びで乗ってきた。
 だから。首尾を確かめる深結に、当然ながらそれとは露ほども知らない十四郎が、ひょいと首を傾げる。

「どうしたんだ?」
「――何でも。それより十四郎、あのお店はどうですか?」
「あの店か? そうだな、確かに菓子は扱っているようだが――」

 そのまま辺りをきょろきょろと見回して、深結の視線の先を探そうとした十四郎の気を逸らす為に、深結は酒屋とは反対側にある、目に付いたお菓子屋さんを指差した。否、半ばは色とりどりの金平糖を扱っているのに、純粋に興味を惹かれたからなのだが。
 深結の言葉に十四郎は、目論見通りそちらのお菓子屋さんへと眼差しを向けてくれた。そうしてああでもない、こうでもない、と話し合っているうちに、手配を終えたオルテンシアが再び、ひっそりと2人の傍に戻ってくる。
 そうして当たり前の顔をして、彼女はひょい、と肩を竦めた。

「――ここで話してても埒があかないわ。行ってみましょ? 違ったらまた別のお店を探せば良いじゃない」
「その店を探すのはまた、俺なんだろうが。‥‥と、そういえばオルテンシア、何だか大人しかったが腹具合でも悪かったのか?」
「‥‥十四郎?」

 そんなオルテンシアに何気なく軽口を叩いた十四郎は、にっこりと凄みのある良い笑顔で重々しく名前を呼ばれ、黙って回れ右をした。馬鹿、と深結が小さく呟いたのに、口をへの字にして肩を竦める。
 とはいえオルテンシアが本気で怒っていない事は、十四郎にだって、深結にだって判っていた。だからそのまま3人は、深結の見つけた店へと真っ直ぐ足を向け、賑やかに冷やかし始めたのだった。





 オルテンシアと深結が、両手に一杯のお土産という名の戦利品を抱えて月道の向こうに戻っていったのは、夕方遅くになってからだった。2人の姿がすっかり消えてしまうまで見送ると、途端にどっと疲れが沸き起こってくる。
 十四郎はぐったり疲れた身体を引きずるようにして、何とか自宅へと辿り着いた。だが気力が続いたのはそこまでだ。
 何しろ思い返せば朝からこの時間まで、1日中2人の買い物に付き合って、あちらこちらと歩き回っていたわけで。冒険者として依頼に赴く際の体力とは、根本的に違う何かをすっかり消耗しきった気が、する。

(もう付き合ってやるものか)

 そう固く決意をしながら、十四郎はふらふらと布団まで辿り付くと、そのままばたんと倒れ伏した。そうして絡みつくような披露に引きずられ、夢も見ないほどの深い眠りに滑り込んでしまう。
 そんな十四郎が目を覚ましたのは、翌日の、もうすっかり日も高く上った頃になってからだった。ドンドンドン、と扉を叩く来訪者が、彼の眠りを妨げたのである。

「来生さ〜ん! お届けものですよ〜!」
「‥‥届けものォ?」

 耳に入ってきた言葉を、不審に呟きながら寝ぼけ眼で何とか布団から這い出して、ずるずる入り口へと向かう。そうして、ドンドンドン、と叩かれ続ける扉に顔を顰めながらガラリと開けると、そこには酒樽を担いだ男が立っていた。
 それに、ぎょッ、と目を見開く。そんな十四郎には一向に構わず、男は「お届けものです」と繰り返してどすんと酒樽を置くと、手紙のようなものを押し付けて帰っていった。
 文字通り、嵐のような出来事。しばし呆然と立ち尽くしたあとで、はた、と気付いて男の押し付けていった手紙をぱらりと開いてみる。
 何かこの事態を説明する事でも書いてあるだろうかと、眺めてみた十四郎の目に、オルテンシアと深結の名が飛び込んできた。記された文面は、彼を月道に呼びつけたときと同じく、とても単純で短いもの。

『報酬は気に入ってもらえたかしら?』
「‥‥報酬?」

 何のことだと首をひねりかけて、目の前のこの酒樽が昨日の案内の報酬なのだと、遅れて気がついた。そうと判った瞬間、十四郎の顔に隠しようもない、嬉しそうな笑みが浮かぶ。
 いそいそと酒樽を家の中に運び込んだ。樽に焼き鏝で捺された銘柄は、十四郎も知って居る上等の酒で、それと判ったらますます笑みが深くなる。

「次に遊びに来た時のために、また店を探しておくか」

 酒樽を嬉しそうに見つめながら、十四郎は呟いた。オルテンシアと深結。2人が喜びそうな店をちゃんと探しておいて、今度はもっとスムーズに買い物や食事を楽しめるようにしておこう。
 そう、上機嫌で考える十四郎はもはやすっかりと、前日の苦労も、二度と付き合ってやるものか、という固い決意も忘れ去っていたのだった。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /     PC名    / 性別 / 年齢 /  職業  】
 ea5386  /   来生 十四郎   / 男  / 38  /  浪人
 ea0729  / オルテンシア・ロペス / 女  / 33  / ジプシー
 eb2849  /   沙渡 深結    / 女  / 27  /  忍者

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
すっかりご無沙汰をしてしまいまして、本当に申し訳ございません(土下座

仲良しの皆様での京の町を行く物語、如何でしたでしょうか。
どなた様も素敵なお子様たちばかりで、とっても楽しく書かせて頂いてしまいましたが、イメージとか言葉遣いとかは大丈夫でしたでしょうか・・・!(どきどき
ちなみに蓮華は京都のお寺巡りをするのが大好きです(聞いてない

何か違和感のあるところがございましたら、いつでもお気軽にがしがしリテイク下さいませ(土下座
皆様のイメージ通りの、気の置けない友人同士で気兼ねなく何気ない時間を過ごす、楽しく賑やかなノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
WTアナザーストーリーノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2014年03月10日

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