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『踊らされた捜査 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&鍵屋・智子(NPCA031)

 この日の天気は最悪だった。
 打ち付ける雨と風は容赦がなく、海は時化て激しく打ち寄せる荒波が飛沫を撒き散らしている。
 こんな日に、船を出すものなどまずいないと思われていたが、立った一隻、海上にいた船があった。
 ――……不法移民船。
 荒波に船体が持ちこたえられず、もう少しで港に着くと言ったところで空しくも沈没してしまったのだった。


 ――ロサンゼルス。
 翌日、打ち上げられた多数の水死体が港に打ち上げられている。まだ瀕死状態にある者もおり、その人間達を造船所で介抱する医師の姿があった。
 息のある者は皆が皆揃いも揃って呻き声を上げ、まるで地獄絵図のような情景が広がっている。
 医師はこの中にたった一人だけだ。
 一人一人を診て周っている間に、大半の人間が触手を吐きそのまま死んでしまった。
 医師は誰も彼もが吐き出した触手を見つめながら、どこか満足そうな表情を浮かべている。
「……なかなかの上物だ」
 医師は不敵にほくそえむ。
 彼は人命よりも、水死体や瀕死の人間達の口から生えた謎の触手の方が大事なようだ。
「……こいつは、高く売れるに違いない」
 一人小さく呟き、こみ上げてくる笑いを懸命に噛み殺しながら医師は介抱の手を進めている。その中、やはり同じく救助に当たっていた郁は、手の施しようもなく次々に無くなる人々を前に肩を落としていた。
「どうにもならないの……」
 救えない事に、旨は複雑な気持ちで一杯だ。
 唯一、郁が真っ先に助け出した婦人以外は皆、悔やんでいる彼女の目の前で死んでいったのだった。
 不思議な事は、婦人は何事もないと言うのに他の人間達は皆触手を吐いている事が気がかりで仕方がない。
 郁は遺体の一つを旗艦に持ち帰り、鍵屋に解剖を願い出る事にした。


 郁の持ち帰った遺体を旗艦の医務室で解剖した鍵屋の眉間に深い皺が刻まれる。
「何これ……」
 開いた腹部を覗き込み、怪訝な表情を浮かべる。
「主な死因は急性胃拡張と栄養失調ね……。それに胃壁と小腸に無数の裂傷……」
「……」
 郁は分析をする鍵屋をじっと見つめていると、やがて鍵屋は顔を上げた。
「綾鷹。あなたが助けた婦人は、検査で異常は出なかったわよね?」
「え? あ、そうね。別に何もなかったわ」
 婦人のレントゲンには不可解な物は何も写っていない。当然ながら、常人で健康であればそれが普通なのだが、ならばなぜ亡くなった人間達にはこのような現象が起きたのか。
 鍵屋は腕を組み低く唸る。
「腹に寄生虫でも飼ってた……?」
 その呟きに、郁も眉根を寄せる。
「確か、亡くなった人たちは皆口から謎の触手を吐いていたわ」
「……なるほど。寄生虫であることは間違いなさそうね」
 鍵屋は納得したように頷く。


 翌日、あやこはロスの中華街にやってきていた。
 この場所に寄生虫療法を施す漢方医がいると聞きつけたからだ。
「ここね……」
 あやこは店を見上げ、その門をくぐると中には一人の男が座り、入ってきたあやこに視線を向ける。
「いらっしゃいませ」
「あの、こちらに寄生虫療法を行っている漢方医がいると聞いてきたんですけれど……」
「あぁ、それなら私です。何かありましたか?」
 にこやかに迎え入れてくれた漢方医に、あやこは持ってきた触手の入ったホルマリン漬けを懐から取り出し、彼の前に置いた。
「実はこの寄生虫について……」
 あやこが訊ねようとしたその瞬間、漢方医はホルマリンに入った触手を見るなり立ち上がり、青ざめた顔で首を横に振った。
「す、すまないが、帰ってくれないか」
「は……?」
 きょとんとしながら顔を上げたあやこをそっちのけに、漢方医はその場から逃げるように去ってしまった。
 その場に残されたあやこは、ぐっと眉間に深い皺を刻み怪訝な表情を浮かべる。
「なんなのよ……」
 肝心の情報もなにも聞き出せなかった事に腹立たしさを覚えた。
 その頃香港では、沈没した船主の事務所をTCが捜索していた。蛇頭のダミー会社である。
 やがて事務所を見つけたTCは情報を鍵屋と郁の元に届けた。
「蛇頭が資金を募ってた。送金元は……」
 鍵屋がTCから入手した情報を郁とまとめていると、郁は浅くため息を吐く。
「麻薬絡み?」
「そうかもしれないわね」
 鍵屋と郁は互いに顔を見合わせて深く頷いた。

 香港の事務所から割り出した出資者が、ロスの郊外に棲んでいる事を掴んだ郁とあやこはすぐに彼女の自宅を訪ねた。
 恐る恐る顔を覗かせた女性は、郁達を見るなり怪訝な表情を浮かべる。
「何ですか……」
「あなたに聞きたいことがあってきたんです。お話伺っても構いませんか?」
 そう訊ねながらあやこはさりげなく中を覗き込む。
 玄関から僅かに覗き見える台所には抗菌剤が山のように積み上げられ、空気清浄機に直結した換気扇がある。
 見る限り彼女はかなりの潔癖症のようだ。
「蛇頭の事をご存知ですよね」
 郁がそう切り出すと、女性はサッと顔色を変え首を横に振った。
「わ、私は何も知りません! うちは母子家庭なんです。それに私は投資家に騙されただけです! 安全な投資だからって……」
 必死になり容疑を否定する女性に、あやこは怪訝な表情を浮かべる。
 女性はガクガクと打ち震えながらその場にしゃがみこみ、「自分は違う。関係ない」と独り言のように呟いている。その間、郁は台所の様子に意識が向いていた。
 話が出来るような状況ではなくなったあやこ達は、一度彼女の家を離れる事にした。その帰り道、郁はあやこに訊ねる。
「病人がいるの?」
「え?」
 あやこが聞き返すと、訝しんでいた郁は低く唸る。
「麻薬で鎮痛するほど末期の患者がいたりとか……」
「まさか……」
 あやこが頭を振ると、郁も「そうよね」と深いため息を吐く。
「ひとまず、旗艦へ戻りましょう」



 旗艦へ戻った二人は、唯一生存した婦人に事情聴取を取る。
 ここまでの事件の経緯を聞いた婦人は顔色を変え、身を乗り出して二人に懇願し始めた。
「お願いします! 別便で来る家族を助けて! 別便で密航するはずの夫と娘がいるんです!」
「別便?」
 取調室の入り口で腕を組んで聞いていた鍵屋は何かをひらめいて顔を上げる。
「そうか。香港からロスまで寄生虫をはぐくむには十分な距離ね。後は寄生の手口か……何れにせよ時間が無いわ!」 
 颯爽と踵を返し、鍵屋はその場を後にした。
 その頃、母子家庭の母親の元を郁が再訪すると、中からは苛立った様子の母親が顔を出す。
「何なんですか……」
「娘さんの事でちょっと。もしかして娘さん、具合悪かったりしませんか」
「娘は至って元気ですし、何か?」
 確かに娘は庭で元気にバスケットをしている姿がある。すると郁は一つ何かをひらめいたように口を開いた。
「娘さんとバスケしてきてもいいですか?」
「……どうぞ」
 怪訝な表情を見せながらも承諾した母親を尻目に、郁は娘とバスケ遊びをし始める。だが、ボールのパスが回って来るなり遊びを装って台所の窓を割った。すると母親は血相を変えて狼狽し始める。
「娘の病気が……っ!」
 思わずそう叫び、パニック状態に陥っていた。


「酔い止め?」
 婦人を前に話を聞きながら、鍵屋は目を丸くする。
「えぇ。幸い私は不要でして……」
「……なるほど」
 研究室にいた鍵屋は、数日前に採取した婦人の血液と死体の血液を比較して結論を得た。
 婦人を帰し、その後すぐにでもあやこに知らせようと席を立ち上がると同時に、背後の窓が割れ蛇頭が侵入してきた。
「!」
 鍵屋は咄嗟にサンプルを護ろうとするが、蛇頭はそんな鍵屋のことなど物ともせずに殴りつけ、サンプルを強奪して立ち去っていく。
 異変に気付いたあやこがすぐに駆けつけたが一歩で遅れ、室内では血だるまになった鍵屋がその場にへたり込んで号泣していた。
「仇は討つわ!」
 激怒したあやこは蛇頭をすぐに追撃し、奪い去られたサンプルを回収する。だが、蛇頭はヘラリと不気味にほくそえんだ。
「おかげで良いデータが採れた。君たち愚か者の行動心理がね……」
「!」
 体を揺らしながら笑う蛇頭の顔が崩れていく。そして姿を現したのはアシッド族だった。
 アシッド族はこの場をあっさりと退散していき、あやこは今回の事を全て理解するとギリッと奥歯をかみ鳴らす。
「陳腐な一連の騒動は観察の一環だったと言うの……!?」
 苛立ちにあやこは地団駄を踏んだ。
 
 
 怪我の治療が済んだ鍵屋から、酔い止めのことを聞いた郁は鍵屋と共にすぐに婦人の家族が乗っていると言う密航船に駆けつけた。
「お父さん……薬、頂戴……」
 娘は船に酔い、父に酔い止めの薬を要求している。そこへ郁は駆け込み、娘が手にしている薬を叩き落す。
「飲んじゃ駄目! それを飲んだら寄生虫に体内を侵されて死んでしまうわ!」
 間一髪で娘の感染は防ぐ事が出来た。
 青ざめた父には、鍵屋がある薬を手渡す。
「これを飲んで。あなたの中から寄生虫を排除する薬よ」
 父は震える手で急いでそれを飲み干し、何とか除くことに成功した。
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東京怪談
2014年03月10日

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