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『今、共にある日々に 』
レヴィン・グリーン(eb0939)&所所楽 石榴(eb1098)

 貸し着ぐるみ屋「茶々丸」は江戸の冒険者街に居を構えている。レヴィン・グリーン(eb0939)と所所楽石榴(eb1098)の夫婦が、冒険者稼業と兼業で営んでいるからだ。兼業のため店は不定休。更にこの夫婦、仲良く揃って同じ依頼を受けることがあり、店の営業が数日に続いてないことも少なくない。だが夫婦が趣味と実益を兼ねて集めた着ぐるみは種類も数も多く、開店当時から客足は減らずに続いている。
 今日はそんな彼らの一日を、少しだけ覗いてみることにしよう。

「いらっしゃいませっ♪」
 声をかけつつ、瑞香は今日のおすすめを思い出そうと首を傾げた。確か今日は『まるごときたきつね』だったなと思い出し、客に笑顔でアピールしておく。
「うん正解っ、みーも上手になってきたね?」
 様子を見ていた石榴が、娘の頭をぽふりと撫でた。父親譲りの銀の髪は今は猫かぶりの下に隠れている。目の色や顔立ち、そして口調もよく似た母娘の差と言えば、その体格の違いくらいだ。可愛い女将さんが増えたのねなんて客に言われて照れつつも、接客の続きを石榴が引き受ける。五歳の瑞香ができる手伝いは、こうしたはじめの挨拶までだ。
(暇になっちゃった)
 ぼんやりと、店の前を通る冒険者達を眺める。猫かぶりを着ている瑞香は、そこに居るだけでも十分客寄せの役割を果たしているが本人に自覚はない。物心ついたときから当たり前に、普段着同然に着ていた――両親の趣味で姉弟揃って、赤子の頃から着せられている――せいか、自分が特別な格好をしているという認識がないのである。そのため今でも時々着ぐるみのまま、外に遊びに行くことだってあった。
(遊びに行こうかなっ)
 うん、と一つ頷いた瑞香は歩きだした。
(あれって、おねーちゃん‥‥?)
 縁側で椿の毛づくろいをしてやっていた純晶は、その碧の瞳に見覚えのある猫かぶり姿を移していた。純晶の周囲で猫かぶりを日常的に着用するのは母か姉しか居ないので、小柄な方なら間違いなく姉だろう。そして、店番の手伝いをしているはずの姉が、垣根の向こう側に居ると言う事は。そのまま一人で出歩いた場合、姉が必ず迷子になるということも理解している純晶である。
「つばきさん、ごめんね」
 また後でやってあげるから。白黒ぶちの子猫を膝からそっとおろすと、純晶は庭の犬小屋に視線を向けた。その視線に気づいた流紋が身を起こし、同意するようにわふっと一声。
「おねーちゃんを、おいかけましょーっ」
 すぐに出て追いつけば、迷子になる前に連れ戻せるかもしれない。純晶と流紋は垣根の隙間から外に出て、瑞香を追いかけていった。
 ‥‥なーぅ‥‥
 一部始終を見ていた椿は溜息のようにも思える声で、一声鳴いた。

 ‥‥ガラッ!
 気配なく突然開くふすま戸に、書物を読んでいたレヴィンが顔をあげ振り返る。
「おや? 石榴さん、もう交代の時間でしたか?」
 気付かないでいてすみません、すぐに店に出ますね‥‥と落ち着いた様子のレヴィンが言おうとすれば、石榴が身振りで遮る。忍者の心得がある石榴はこれくらいで呼吸を乱すことはないのだが、どこか焦ったような顔にレヴィンも居住まいを正した。
「レヴィンさんどうしよう、みーだけじゃなくてすーも居ないよっ!?」
 瑞香だけであればいつもの迷子で済む――レヴィン譲りで方向音痴、石榴譲りで好奇心旺盛の瑞香は、冒険者街で迷子になるのが毎日の日課と呼べるくらい当たり前になっていた――のだが、今回は弟の純晶の方も居ないという事らしい。石榴は着ていた猫かぶりを脱いで普段着へと着替えているが、慌てているせいかその手つきももどかしい。その間にレヴィンもスクロールを一つ手に取り開いた。したためられているのはテレパシーの魔法、そしてレヴィンのすぐ横にはぶちの子猫が一匹、椿である。
(「ご存知でしたら‥‥いえ、そうではなくてもお手伝いして頂けますか、椿さん」)
 にゃーぅ。
(「ありがとうございます、よろしくお願いしますね」)
 レヴィンの愛猫、椿は実質この家で暮らす動物達――特に猫が非常に多い――の中で頂点に君臨している。それが関係しているのか真実はわからないが、椿は近隣の動物達にもいくらか顔が利くらしかった。レヴィンはそれを頼りに椿へ情報収集を依頼したのだ。
 椿が肯定ととれる声をあげたところで、石榴の着替えが終わったらしい。
「とにかく探してこないとっ! だからレヴィンさん、僕行ってくるから店番よろしくねっ?」
 来た時と同じように出ていこうとする石榴の腕を、レヴィンの手が捕らえた。本来であれば避けるのが得意な石榴である。武術の心得のないレヴィンには難しいはずだが、動揺していた石榴は簡単に腕をとられ、少しばかりバランスを崩した。それもいつもと違って予想外の出来事で、さらに石榴は混乱する。
「えっ?」
「少しだけ、待ってくださいませんか」
 混乱しているその隙を利用して、レヴィンが石榴を自身の腕の中へといざなった。互いに相愛の相手どうしだ、レヴィンの落ち着いた様子に我に返ると、石榴も大人しく身を寄せた。
「大丈夫です石榴さん。みーさんもすーさんもきっとご無事ですよ」
 両腕を回し、妻の髪を梳くように撫ではじめる。耳元でゆっくりと紡がれるレヴィンの声に、石榴も落ち着きを取り戻していく。そのまま自身も夫の背に腕をまわしたところで、小さくあ、と声をこぼした。
「そういえば、庭も見てきたんだっ」
 いつもなら庭に居るはずの愛犬が見当たらなかった事を思い出す。姉弟の生まれる前から石榴のお供をしている流紋は、子供達の成長も共に見守ってきており、その遊び相手も慣れたものだ。最近では瑞香が迷子になると、見つけ出すのは決まって流紋という、なにやら専属になっているという現状でもある。その流紋が居ないという事は。
「流紋が居なかったし、もしかしたらついてってるのかも?」
 知らぬうちに居なくなった瑞香を、誘導して連れて帰ってきたことも一度や二度ではない。純晶も居ないことは気になるが、瑞香と違って方向音痴は受け継がなかった。まだ二歳とはいえ、知っている場所ならば自分で戻って来られるくらいにしっかりとした子に育っている。
「椿さんにもお願いしましたから‥‥今は少し落ち着いて、それから二人でお迎えにいきましょう」
 石榴が落ち着いた思考ができるようになったのを見計らい、レヴィンは抱きしめていた腕を緩めた。

「おねーちゃん、まってくださーい!」
 冒険者街は似たような家が並んでいるが、家ごとに家主の特徴があり――主にペットの存在に寄るところが大きい――見て回るだけでも楽しい。気の向くままに歩きまわった瑞香が、そろそろ家に戻ることを考え始めたところで、弟が自分を呼ぶ声に気がついた。
「あれ、すー君どうしたの? すーくんも迷子?」
 散歩に出る度に迷子になっている自覚のある瑞香である。
「ちがいますっ。おねーちゃんをおいかけてきたんです」
 迷子になる前に呼び止めようと思って来たのだと言えば、姉はここがどこだかわからないと答えた。
「今、もう迷子だよね?」
 姉の言葉に弟も少しの間、首を傾げる。確かに自分もここがどこだかわからない。
「ほんとうです、なんでこんなことに」
 二歳と五歳では歩幅が随分と違う。弟の足で姉にすぐに追いつくのは難しく、時間をかけているうちに知らないところまで来てしまったのだ。
「いつもなら、流紋が見つけて連れて帰ってくれるから、大丈夫なんだけどねー?」
 今でも道に迷う父を見ているためか、瑞香は自分の方向音痴を治せると思っていない。ある意味潔い考えを持っていた。
 ぐいぐい、わふっ。
 流紋が瑞香の服を引いた。
「「あっ」」
「流紋と、いっしょにきたんでした」
 知らない場所に子供だけで居る、という事実に動揺して流紋をすっかり忘れていた純晶の目に、希望の光が灯った。
「この感じだと、流紋が私のにおいを辿ってきたってことじゃないのかな?」
「かえりもそうすれば」
「帰れるよねっ?」
 わふっ。
 任せろ、という様に流紋が頷いた。

 にゃー。にゃぁーん。にゃっ。
 なーぅ。
(「そうですか、ありがとうございます」)
 通りすがりの猫に話を聞く椿とレヴィン。聞きこみ役はあくまでも椿なので、レヴィンはテレパシーで椿に話を聞くという体制を忠実に守っている。
「椿ちゃん、なんて?」
「二足歩行の大きな猫が通り過ぎたのは見た、という情報を頼りに道案内をして下さるそうです」
 普通の猫と同じ体格ならば、ケット・シーという可能性もあるのだが。
「みーだね、それは」
「みーさんですね」
 猫かぶり姿で歩くのは十中八九瑞香と石榴であるという認識は、この近辺の冒険者には当たり前になっている。そして家で多くの猫を飼っていることもあって猫のにおいは少なくないはずである。通りすがったくらいであれば猫と思われることだってあるのかもしれない。
「すーの事は?」
 なーぅ。
(「そうでしたか」)
「その猫を追っているらしき大型犬と、黒髪の子供を見かけた猫さんがいるそうです。ですから、多分」
 流紋と純晶の可能性は高い。
「じゃあ、いっしょに居るかな?」
「おそらくは。流紋さんや閃緑さんならば、迷子探しはお得意ですから」
 私も日ごろお世話になっていますから。椿を背に乗せた状態でレヴィンの隣を歩く閃緑は、名を呼ばれた事に気づいてわうっと答えた。

「みーさん、すーさん」
「二人とも、怪我とかしてないかなっ?」
 両親の声に二人がきょろきょろと見回せば、すぐに石榴の腕でぎゅうっと抱きしめられる。
「「おとーさんっ、おかーさんっ」」
 抱きつき返せば、追いついてきたレヴィンも二人の頭をよしよしと撫でた。
「ぼく、しらないばしょ、こわくてっ」
「すー君がどーしても怖がっちゃってっ」
 わあわあと溢れた気持ちをはきだす子供達を、もう一度ぎゅうっと抱きしめてから、石榴は腕を離した。子供達の手を、自分の両手でしっかり握る。
「とにかく、一度おうちに帰ろうかっ?」
 たくさんの動物達が暮らす我が家は、必ず誰かが居てくれる場所。いつもの居場所に戻ってきた安心感か、子供たちにも笑顔が戻る。でも、レヴィンと石榴は真剣な顔で、二人を座らせ少しばかり真面目なお話をする姿勢。
「今日は怪我も事件もありませんでしたが、今後そうなる可能性もあります。では、どうして今日は大丈夫だったのか、わかりますか?」
 こくり。子供達が頷いたのを見計らって、石榴がいい子だね、と二人を褒める。
「じゃあまずは椿ちゃんと、流紋と閃緑と‥‥お手伝いしてくれたみんなに、ありがとうって言おうね?」
 探してくれて、ありがとう。おうちに連れていってくれて、ありがとう。子供達と一緒に、レヴィンと石榴もお礼を伝える。
「私達は今日のように動物さん達に支えられて日々を生きています。みーさん、すーさん、今日感じた『ありがとう』という気持ち、大切にして下さいね」
 その日の夜は家族みんなで、人も動物も一緒に集まって眠りについた。レヴィンはとても幸せな――夢を叶えたその先の――夢を見たそうである。
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2014年03月10日

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