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『真剣勝負の実戦訓練 』
セレシュ・ウィーラー8538)&(登場しない)

「今日の休暇は実戦訓練や」
 にこやかに微笑みながらセレシュは驚いくような事を言い出した。
 居間で日本茶を飲んで寛いでいた悪魔は突然の申し出に目を瞬き、ポカンとした表情でセレシュを見上げている。
「何……急に?」
「急やあらへん。前から考えとったんや」
 そう言いながら二人分の腕輪を取り出し、ずいっと悪魔の前に差し出した。
 それを見つめながら、悪魔は眉根を寄せて訝しい表情を浮かべる。
 胸には嫌な予感しかない。
「えっと……どうして訓練しようと思ったの?」
「これな、ダメージを受けた部分を石に変えて守る魔具なんや」
「――……つまり?」
「つまり、そう言うことや」
 得意げに笑うセレシュに、悪魔は頭痛を覚える。
 こめかみに手を当て、落ち着くように言い聞かせてからもう一度努めて冷静に口を開く。
「なんでそんな変な物を作ったの?」
「安くつくやろ。それにせっかく作ったんや。実戦で使ってみんと効果の程は分からへんし」
 ケロッと言ってのけるセレシュに悪魔は深い嘆息を吐いた。
 確かに、石化と防護の魔法の組み合わせなのでセレシュなら得意分野でもあるが故、破格のコストパフォーマンスで作れることだろう。
「石化は負傷の代替や」
 悪魔はガックリと肩を落とし、言葉もなくうな垂れた。


 人里離れた山中にやってきた二人は、少し開けた広場にやってくる。
 セレシュはすぐさま人が来ないよう人払いの結界を張り、くるりと悪魔を振り返った。
「よし、これで問題ないな。さて、訓練を始める前にいくつか決め事を定めとこうか」
「決め事?」
「まず、武器はあんたは大鎌、うちは剣。魔法や特殊能力の使用は禁止や。降参か完全石化で負け。お互いダメんなったら引き分けや」
「完全接近戦てことね」
「そうや。あ、あと完全石化で負けた時は落書きしてもええことにしよ」
 セレシュは実に楽しそうだった。それに対し、悪魔はゲンナリとした様子でうな垂れている。
「で……。何本勝負にするの? 実戦訓練なんだから、何か賭けるんでしょ」
「負けた方が今日の家事当番!」
「えぇ〜っ!!」
 眉間の皺を更に深く刻み、悪魔は心底嫌がる声を上げる。だが、セレシュはまるで動じた様子もなく、問答無用と言わんばかりに剣を取り出した。
「勝負は一本。命がかかったほんまもんの戦いやと思て真剣にかかって来るんやでっ!」
「……分かった」
 剣を構えるセレシュに、大鎌を取り出した悪魔はじっと互いを見据える。
 先ほどまでの和やかな雰囲気は一変、二人の間には張り詰めた緊張感のある空気になった。
 息を吸う呼吸音さえも聞こえてきそうなほど辺りは静寂に包まれる。その時ふいに近くの木から一匹の鳥が舞い上がった。
「はぁっ!」
 それを合図に先制攻撃を仕掛けたのはセレシュだ。
 地面を蹴り、素早く悪魔との間合いを詰めてくるが、機敏性で言えば悪魔の方が勝っている。横薙ぎに剣を振り、その切っ先が届く前に悪魔は上空へと舞い上がった。
 サッと悪魔の軌跡を追って顔を上げたセレシュに、悪魔は大きく鎌を振り上げて上空から思い切り振り下ろしてくる。
「くっ……!」
 セレシュは剣を横に構え、寸でのところで悪魔の鎌を防御するが力でもやはり悪魔の方が勝っている。
 攻撃を何とか受け止めたものの、大鎌の威力は絶大。振り下ろした瞬間に生まれた空気はカマイタチのような鋭さを持ち、セレシュの頬に傷を負わせる。
 鮮血が飛び散るも、負傷した箇所は魔具の影響によりすぐに固く石化し始める。
 グイグイと押されるセレシュの剣はカタカタと小刻みに鳴き始めていた。
「……さすが、力と機敏さはあんたの方が上やな」
 ジャッ! と刃先が擦れる音を響かせ、何とか大鎌を振り払ったセレシュは間合いを取る。
 さて、どう勝負を仕掛けるか……。
 セレシュは悪魔を見据えながら頭の中で考えていると、今度は悪魔の方が攻撃を仕掛けてきた。
「やぁああぁっ!」
 大きく振り上げた大鎌を横薙ぎに払ってくる。セレシュはそれをひょいと後方へ飛び退くことで何とか交わし、着地した瞬間に地面を蹴って間を詰めた。
 手にした剣を振り上げ、上から大きく悪魔に切りかかる。だが、悪魔は見越していたかのように横へ避けようとするとセレシュはニヤリと笑う。
「騙されたらアカンで」
「!」
 振り上げたはずの剣を素早く一旦引き、セレシュは足を踏み込んで横薙ぎに払い直す。
 不意打ちを受けた悪魔はわき腹に深手を負い、たまらずその場に膝を着いた。
「降参?」
 セレシュがふっと笑うと、悪魔はわき腹を押さえて顔を歪め顔を上げる。
「まだ……よ!」
 悪魔は僅かにも油断しているセレシュに向かい素早く大鎌を握り直し、下から上に振り上げた。
「!」
 シュッと言う音がしたかと思うと、セレシュの脇を掠めた大鎌は痛みを感じる間もなく片腕が吹き飛んだ。
 セレシュは手にしていた剣を地面に落とし、一瞬にして石化した傷口を押さえて浅く息を吐いた。
「……降参。うちの負けや」
 苦笑いを浮かべるセレシュに、悪魔は深いため息を吐いた。

                  ****

「はい。ご要望通り、特大ハンバーグチーズのせ!」
 ドンッと悪魔の目の前に出されたお一人様用の鉄板に、色よく焼けた大きなハンバーグがででんと乗っている。
 バーベキューソースの焦げる良い香りが部屋中に漂い、空腹の腹を刺激した。
「やったぁ〜! いっただきま〜すっ!」
 ホクホクと嬉しそうに微笑みながら、大きなハンバーグに舌鼓を打つ。
 その隣でセレシュは自分にも作ったハンバーグを置きながら、小さな苦笑いを浮かべた。
「今回は負けたけど、次は絶対負けへんからな」
「……っ!? まだやる気なの!?」
「当然! うちの研究は無限に続くんやでっ!」
 フォークを突き刺しながら、にんまり笑うセレシュに悪魔の血の気が引いたのは言うまでもなかった……。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
りむそん クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年03月10日

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