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『ふしぎな小人たち 〜トイレのシュウヤッティ 』
月居 愁也ja6837


●小人たちの『借り』

 いつも通りの朝が来ました。
 玄関で大きくて重い扉がバタンと閉まると、大きなテディベアのうしろから、ひょこりと茶色い頭が覗きました。彼の名前はキヨセッティです。
 だんだん遠くなっていく人間の靴音に、手を振ってこっそりお見送り。
「いってら〜」
 偶に『しまった!』などと言いながら物凄い勢いで戻ってくることがあるので、暫くは油断ができません。
 遠くでエレベーターの音が鳴ったら、たぶん大丈夫。
 いつもキヨセッティの後をくっついている赤くて長い髪の女の子、カヨエッチィ、じゃねえ、カヨッティもぬいぐるみの下からおそるおそる顔を出しました。
「もう大丈夫だよね……?」
 キヨセッティがこくりと頷きます。
「だいじょぶ。たぶん夜まで帰って来ない」
 ふたりはぬいぐるみの座る椅子から降りて、カーペットの上をキッチンへ向かって走って行きます。
 人間が十歩ぐらいで辿りつく距離も、彼らにとってはかなりの距離。
 そう、かれらは小人族なのです。

 棚の上から声がかかりました。
「あっ美味しいもん確保すんの? 俺も混ぜてー!」
 ふわふわでちょっと甘い匂いのするティッシュペーパーの箱から、明るいオレンジ色の頭を出すのはユウマッティ。鼻の下がばしばしにならない高級品のティッシュの箱は、彼の別荘なのです。
 ユウマッティはカーペットの端から失敬した丈夫な糸の先に、棚の後ろに(なぜか)落ちていたピアスをくくりつけたものをぶんぶんと振り回し、えいや! と投げます。
 すると、糸は椅子の背に上手く絡みました。
「さすが俺! いくで〜!」
 ユウマッティは自分で自分をほめながら、グイッと糸を引っ張りました。大丈夫なようです。
 それからしっかり糸を握って、ジャンプ! ……までは良かったのですが、勢いがつき過ぎて、ユウマッティは背もたれにぶつかってしまいました。
 そのままずるずると床に落ちるユウマッティ。
「なにやってんの……」
 キヨセッティは呆れながらも、起き上がるのを助けてあげます。

「け、計算通りなんやで! ちゃんとここに降りるつもりやったんやで!」
 力説するユウマッティに容赦ない追撃が刺さります。
「みちゃった☆」
 ニヤニヤ笑うシュウヤッティにユウマッティがぶつかって行きました。
「ちゃうもん! ほんまに計算通りやし!!」
「お、やるか?」
 ふたりはごろごろ転がりながら、取っ組み合いを始めます。シュウヤッティは必死になってかかってくるユウマッティが面白くてたまりません。
 あんまり夢中になっていたので、ごろごろ転がって、ゴツンと配線用のタップにぶつかってしまいました。
「いって〜!」
 頭を押さえて起きあがろうとするシュウヤッティ。
「シュウヤ、そこは危ないといつも言ってるだろう! 黒コゲになったらどうする!」
「あ、ハル……ごめん!」
 こわい顔でハルヒッティがじっと見つめます。
「人間に見つからずに暮らすのが決まりだ。気をつけろ」
「は〜い……」
 何故か正座でお説教を受けるシュウヤッティとユウマッティでした。

 小人達は人間から色々なものを少しずつ分けて貰って生活しています。
 でも人間に見つかったら、追い出されるか、下手をしたらプチっと潰されてしまうかもしれません。
 なので平和に暮らす為には、絶対に人間には見つかってはいけない。それが小人達の決まり事でした。

「人間には見つかっちゃダメー……だけど、見つかんなきゃいいんだよね?」
 キヨセッティはもう、戸棚によじ登っています。
「て訳で〜人間の居ない間に美味しいもの確保ー!」
 棚の真ん中辺りにある広い場所に、お目当ての大きな丸い缶がありました。
 キヨセッティの後をすごい勢いでついてきたカヨッティも加わって、ふたりで重い蓋を持ち上げます。
「うわー、キヨ君、すごいよお!」
 中には美味しそうなクッキーが詰まっていました。
「手つかずの所は取ったことが分かってしまう。『借り』なんだから、減っている所のしか取っちゃだめだからな!」
 ハルヒッティがそう言いながら、タオルの糸を撚って作ったロープを取っ手に引っ掛け、物入れを開けます。ここには甘い物以外の食べ物が入っているのです。
「ほたてー!」
 ユウマッティは扉の開くのも待ち切れずに突進。ジッパーの袋を開けて、中からおつまみのソフト貝柱を取り出しました。
 人間にとっては小粒貝柱等と言われるサイズですが、ちっちゃなユウマッティにとっては巨大貝柱。しがみついてよいしょと裂いては、長い欠片の端っこからモリモリかじります。
「ほたて、うま! あ、でも後でクッキーも食べたい、です!」

 その間にもハルヒッティとシュウヤッティは、戸棚をチェックして回ります。
 シュウヤッティは元気いっぱいの赤い髪。ハルヒッティはお月さまの様な銀の髪。見た目も性格も正反対のようですが、ふたりはとても仲良しです。ちょっときまりごとに厳しいハルヒッティも、シュウヤッティが『ハル』と呼ぶのを認めています。
 ハルヒッティは引き出しの中のお箸やスプーンの影に、珍しい物を見つけました。プラスチック製のかっこいいピックです。ちゃんと握りには滑り止めも付いています。
「……シュウヤ、お前はこっちを」
 ハルヒッティは赤いピックをシュウヤッティに渡し、自分は同じ形の白いピックを腰のベルトにさしました。
「『借り』のあとが分からないように気をつけるんだ」
 鋭い目で痕跡を残していないかチェックすると、ハルヒッティはロープを伝って床に飛びおりました。
「もち。わかってるってー」
 キヨセッティは自信満々です。でももたれているクッキーの箱の蓋は空きっぱなし。これではすぐに湿気ってしまいますね。


●小人達の楽しみ

 食べ物を確保した後は、日が暮れるまで遊びます。
「とうっ! ……ぽちっとな! って、あれ? きゃーーー!!」
 カヨッティがテレビのリモコンにジャンプ。自称得意技なのですが、着地が乱れました。ずるっと滑って、ぶわんとテレビの音が大きくなります。
「ふわ〜、びっくりした!」
 もう一度ぱちん。テレビは静かになりました。次にテレビをつけた人間がすごくびっくりするかもしれませんが、カヨッティの知った事ではありません。


 ユウマッティは廊下を走っていきます。ジャンプで取っ手に勢いよくつかまると、ドアが少しだけ開きました。
「しゅーやさん、あそびにきたでー」
「おー、はいれよ」
 シュウヤッティがトイレットペーパーの芯の中から顔をのぞかせました。シュウヤッティはここの棚の上に住んでいるのです。
 ユウマッティはスリッパから蓋、ペーパーホルダーへと飛び移り、ホルダーの蓋を押し上げながら、足でぐるぐるペーパーを前に後ろに回します。
「ちょ、やめ、目が回るって!!」
 中のシュウヤッティがじたばたするのが面白くて、ユウマッティはますます早く足を動かします。
「うははは〜さっきのお返しやでえ……って、うああああ!?」
 ユウマッティは突然後ろに向かって引っ張られ、慌ててペーパーにしがみつきます。

 カラカラカラ……長く伸びるペーパーの先にぶら下がって落ちて行くのはキヨセッティでした。
「おにーさん、なにしてんの……」
「落ちそうになった」
 真面目な顔でキヨセッティが床にとぐろを巻いたペーパーに埋もれています。
「キヨ君、大丈夫?」
 入口でハラハラしながらカヨッティが覗きこんでいます。
 ぐるぐるに回されて、芯の中でふらふらしていたシュウヤッティがようやく起き上がりました。
「ったく、これ戻すの大変なんだぞー!」
 ですがさすがはトイレの番人、長く伸びたペーパーもくるくると綺麗に巻き取って元通りになりました。
「あれ、カヨッティもこっちおいでよ」
 シュウヤッティが呼びかけますが、カヨッティは入ろうとしません。泳げないカヨッティは、物凄い勢いで水が流れるトイレがこわいのです。


 続いて皆はお風呂場へ向かいました。そこはハルヒッティのエリアです。
「ハルー! シャボン玉やりたいー!」
 シュウヤッティが声をかけると、タオル棚の隙間から用心深そうな顔が覗きました。
「あんまり床をべとべとにするんじゃないぞ」
 そう言いながらも、ぴょんと棚からとび下り、バスルームに入っていきます。
 戻って来た時には、分かりにくいように薄く削り取った石鹸のかけらと、溜めた水滴が入ったペットボトルの蓋を持っていました。
 石鹸を水に溶かした所に、枕の中に入っていたパイプをつけて。
 息を吹き込むと、虹色のシャボン玉がぷわんと膨らみます。
「きれーい!」
 やっぱり水がこわいので、自分ではシャボン玉が飛ばせないカヨッティがぱちぱち手を叩きました。
 皆が飛ばしたシャボン玉がふわふわ飛んで、とても綺麗です。
「人間もこれ見たら喜ぶんとちゃうかなー……って、すんません」
 じろりとシュウヤッティに睨まれ、ユウマッティは思わず目を逸らすのでした。


●いぶかしむ住人

 自宅の玄関でジュリアン・白川は誰もいない暗い室内に向かって声をかける。
「ただいま、っと」
 誰も居ないのは分かっているのだが、何となく癖で声に出してしまうのだ。
 オンとオフを切り替える、無意識のうちの儀式なのかもしれない。
「……?」
 誰もいないはずなのに、妙な気配を感じる。このところずっとそうだ。
「疲れてるのかもしれないな」
 軽く目の間を指で揉み、手を洗う為に洗面所に入る。そこでハンドソープを手に取ろうとして、数回プッシュ。どうやら中身が無くなっているようだ。
(まだストックはあったはずだな……)
 詰め替えのストックを入れた棚を開き、そこでもやはり違和感を感じた。
 数日前シャンプーが切れたとき、一番前にあったのは洗剤のパックだったはずだ。
「……??」
 首をかしげつつ、一番前に出ているハンドソープのパックを取り出す。

 風呂に湯を張る間に、買って来た食品などを片付ける為にキッチンへ移動する。
 そして今度はキッチンの隣の書斎に違和感を覚えた。
「なんで電源が入ってるんだ?」
 暗い部屋でパソコンの画面が煌々と光っていたのだ。
 ――ひょっとしたら昨夜、うっかり再起動にしたのかもしれない。
 そう思いながら電源を落とす。

 再び洗面所に入り、服を脱ぎかけて、またそこで妙な感覚に襲われる。
 誰かの視線だ。
「いかんな……今日は早く寝るか」
 白川は溜息をつき、バスルームの扉を開けた。


●大変な出来事

 すっかり電気の消えた部屋。
 人間はよく眠っているらしく、安らかな寝息が聞こえてきます。
「誰が見つかりそうな事をしたんだ」
 ハルヒッティが腕組みして見回すと、キヨセッティが誤魔化し笑いでカヨッティの後ろに隠れました。
 昼間パソコンの周りを歩いていたら、うっかりキーボードに躓いて、電源が入ってしまったのです。
 もちろん消し方は判りません。なので、そのままにして逃げました。最悪です。
「でもさー、ハルもストック入れ替えるのやめたら? 変に思ってたみたいじゃん」
 シュウヤッティが言っているのは、洗面所の事です。
 ハルヒッティは一宿一飯の恩を忘れません。借り物のお礼にと、こっそり必要そうなストックを整理して、前の方に出しておいてあげるのです。これはばれますね。
「でもさー、アイツあんまり怖そうじゃないよ? なんだったら俺、今からでも行ってみるしー」
 止める間もなく、キヨセッティは人間の寝室へ走って行ってしまいました。
「待て、キヨセッティ」
 みんな慌てて後を追いかけます。

 人間はやっぱりよく眠っていました。
 キヨセッティはベッドサイドのチェストによじ登り、そこからいきなり人間の枕にダイブ。
 皆が息を飲む中で、柔らかな枕の上をころころ転がります。
「ほらー、こんなのも平気だし!」
「ちょ、おにーさん、ずるい!」
 ユウマッティも後に続きます。実はユウマッティはこの家に最初にすみついた小人なのです。
 最初は夜の内に読みかけていた本を片付けてあげたり(※開いていたページが分からなくなって、人間は困りました)、本棚の後ろに落ちていたピアスを見える所に置いてあげたり(※後で何故か人間は、直ぐにゴミ箱に捨ててしまいました。なので、貰ってあるのです)、色々お手伝いをしてあげていました。
 もっとも最近は、いつの間にか増えていた仲間と遊んだり悪戯したりする方が、ずっと楽しくなっていたのですが。
「なー、俺お手伝いしてるんやでー! 褒めろー! 寝言でええからー」
 ユウマッティは大胆にも、人間の頬をつつきはじめました。

 その瞬間。

 人間がぱちりと目を覚ましたではありませんか!
「…………」
 ユウマッティとキヨセッティは互いの手を握りしめ、青ざめて硬直しています。
「あの、馬鹿……!!」
 シュウヤッティが飛び出しました。人間の手が動くのが見えたからです。


 白川は眠りが浅くなった一瞬、何か小さな虫が頬を這ったような気がして、ふと目を開けた。
 闇の中、寝ぼけ眼に映ったモノに、最初は自分が夢を見ているのかと思う。
 はっきりしない頭で夢なのかどうか確かめようと、ふるふる震える小さな人間のような二体の生き物を、深く考えずに纏めて掴んだのだ。
「しゃーっ! 何すんねんtね…って嘘です、殺さんとってください! おにーさん助けてえええ!!!」
「お願い離して……?」
 ベッド脇の照明をつけると、手の中で暴れるオレンジ色の髪の小人。もう一体の少し大きな方は、目に涙を溜めて媚びるようにこちらを見上げている。
 白川はベッドの上に起き上がって胡坐をかき、手の中に思わず掴んでしまったモノをどうするべきか分からないでいた。
 突然、足の小指の爪先に鋭い痛みが走る。
「……痛っ!?」
 布団をはぐと、スーツの予備ボタンを楯と構え、果物ピックの剣で自分の爪先を攻撃している赤毛の小人がいるではないか。
「ここ痛いんだろ! ユウマッティとキヨセッティをはなせー!」
 何か喚きながら必死でつついている。掴んだ手の中でも、二体が大暴れし始めた。
「はなせえええええ!!!!」

 白川はどうしていいのか途方に暮れていた。余りに非現実的な出来事に遭遇すると、逆に驚きを忘れるものらしい。
 突然、身体を支えていた手に軽い痛み。ピックの剣を逆さまに、自重をかけてダイブしてきた銀髪の小人がいたのだ。
 が、所詮果物ピック。多少は痛いが、手に当たって継ぎ目がぽきりと折れてしまい、銀髪の小人は反動で投げ出されベッドの上を転がっていく。
「ハルーーー!」
 赤毛の小人が叫んでいた。
 銀髪の小人はすぐに跳ね起き、体勢を立て直した。が、剣が折れてしまったのを見ると、明らかな落胆の色を浮かべる。
「……ぷっ」
 白川は思わず吹き出してしまった。
 一体、なんなんだこいつらは。
「さてはここのところの妙な出来事は、君達の仕業か。まあ原因が分かってすっきりした。後は明日にしてくれたまえ」
 白川は手を開き、ベッドから全員を下ろすと、すぐにまた布団を被って寝てしまったのだった。


●新しい住みか

 結局、人間はあっさりと小人達の存在を受け入れた。
 シュウヤッティはリビングの窓際に小さな籠を置いてもらい、中にふかふかのタオルを敷きこんだ。
 新しいベッドは快適で、窓の外も良く見える。
 トイレもドキドキワクワクで楽しかったけれど、人間はシュウヤッティがそこで暮らすのを嫌がったのだ。人間がいない時は遊んでもいいと言われたので、シュウヤッティはそれで手を打つことにした。
 何よりもこの窓際には、大事な仕事があった。
 うっかり人間――シュウヤッティはじゅりーと呼ぶ事にした――が窓を閉め忘れると、時々小さな虫が入って来ようとするのだ。
 シュウヤッティは新たな使命に燃える。
「人間って虫が嫌いだっていうしな!」
 親友のハルと一緒に磨き上げたピックの剣なら、固い団子虫だって退治できてしまうのだ。
 激しい戦いの結果、この家の平和は保たれている。
「ここは俺らが恩返しするべきだよな!」
 シュウヤッティは戦果に満足して、ピックをまた丁寧に磨くのだ。


●夜のお茶会

 そして今日も自宅の玄関で、ジュリアン・白川は室内に向かって声をかける。
「ただいま、っと」
「おかえり、じゅりー」
 チョコレートを抱えてかじりながら、シュウヤッティが出迎えた。
「珍しいな、ひとりか。……こぼすなよ」
 差し出した掌にちょこんと腰かけ、シュウヤッティはこくんと頷く。
「なんかみんな、ぐちゃっとなってる。いつものことだけど。ところでさ、今日は何でこんなにいっぱいチョコレートあんの?」
「そういう日なんだよ」
「ふーん?」

 だがリビングまで来ると、シュウヤッティの顔色が変わる。
「えっ、ちょっと、何でハルが!?」
 ぴょいと掌から飛び降り、走りだした。
 落ちたチョコレートを慌てて拾い、白川も続いてキッチンに入る。
「……何をやってるんだ、何を」
「たすけて〜〜〜〜」
 角砂糖を入れた陶器の壜に、下から順にキヨセッティ、カヨッティ、ユウマッティが詰まっていた。そして転がった瓶の下敷きになっているハルヒッティ。シュウヤッティは真っ赤になりながら、壜を動かそうと踏ん張っている。

「大丈夫かね?」
 壜を持ちあげてハルヒッティの様子をまず確認。無事な様子に安堵し、白川は横にした瓶の入口に掌を差し出して3人が出て来るのを待つ。
 ハルヒッティは無言で立ちあがり、服をパンパンと払うと、じっと白川を見上げた。
「……有難う」
 ぺこりと頭を下げるハルヒッティ。
 白川は笑いを堪え、澄まし顔で答える。
「どういたしまして」
 キヨセッティは角砂糖を抱えたまま、白川の指にすがってぴいぴい泣いていた。
「帰ってきた時のために美味しいの出しといてやろうと思ったの!!!!」
「キヨ君が落ちちゃったから助けようと思ったの!!」
 カヨッティがキヨセッティにくっついてべそをかく。ユウマッティ、何故か掌の上で正座。
「ふたりを助けようと思ったんやけど……」
「御苦労さま。疲れただろう、クッキーでも食べるか」
 白川は笑いながら、クッキーの缶を開いた。

 今はそれぞれが好みのクッキーを選ばせてもらえるのだ。
 まだハルヒッティだけは腑に落ちない様子だが、それでも皆と一緒に席に着く。
 テーブルに広げた綺麗な模様のペーパーナプキンの上に座って、小さく切ったティッシュペーパーを膝に置いて。
 シュウヤッティはナッツ入り、ユウマッティはチョコチップ、キヨセッティはカヨッティとレモンクリームを挟んだのを分けて食べる。ハルヒッティは渋くプレーンを抱え、漂ってくる香りに目を細めた。
 白川がコーヒー豆の袋を開けたのだ。
「ちょっとうるさいぞ」
 全員がさっと耳を塞ぐのを確認して、白川がコーヒーミルのスイッチを入れる。
 そして袋の口を縛る手元を見つめるハルヒッティの視線に気付いた。
「……欲しいのか?」
 プイと横を向くハルヒッティに、白川はコーヒー豆を数個取り出し、小皿に置いた。欲しければここから持って行くだろう。
 芳しいコーヒーの香りが部屋に漂う。
 白川は通販で取り寄せたドールハウス用のコーヒーポットに、小鳥の餌用のスポイトで用心深くコーヒーを入れてやる。
 後は角砂糖をひとつと、ミルク一滴をお皿の上に。こうしておけば彼らは勝手に自分達でコーヒーを楽しむのである。
(……我ながら何やってるんだか)
 息を詰めた細かい作業を終え、ようやく白川は自分のカップを手に大きく息を吐く。
(まあいいか)
 賑やかにクッキーをかじる小人達を頬杖をついたまま飽きることなく眺めて、夜は更けて行くのだった。


●目が覚めて

 眩しい光にがカーテンの隙間から差し込み、愁也はうっすらと目を開いて枕元の時計を見た。
「うー……朝かよ……なんか身体がだりぃな……」
 充分眠ったはずなのに、妙な疲れが残っている。変な夢でも見てうなされたのだろうか。
 もぞもぞと起き上がり、愁也は出かかった欠伸を飲みこんだ。
「なんだこりゃ……」
 ベッドの上にはチョコレートの箱があり、中身のない包み紙が幾つか転がっていたのだ。
 包み紙を取り上げると、甘い香りが口の中に広がるような気がする。
「……寝ぼけながら食ったのかな???」
 首を傾げる愁也は、自分が左の腰の辺りに、何かを確かめるように手をやっているのに気づくことはなかった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / 寝室のキヨセッティ】
【ja6837 / 月居 愁也 / 男 / 23 / トイレのシュウヤッティ】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27 / 風呂場のハルヒッティ】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 18 / なにわのユウマッティ】
【jb3571 / 奥戸 通 / 女 / 21 / マジラブカヨッティ】

同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28 / にんげん】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度のご依頼、誠に有難うございました。
小人たちの行動は書いていてとても楽しかったです。
なんだかいつになく(?)白川の家も平和に見えましたね。
尚、『新しい住みか』と『目が覚めて』の章が個別になります。ご一緒にご依頼いただいた分も併せてお楽しみいただければ幸いです!
不思議なノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月14日

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