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『チョコデート 』
百々 清世ja3082

『あ、ごーだちゃん暇ー? 俺暇ー、お買い物いこー』
 百々 清世からのは電話があったのは、丁度郷田 英雄が朝食を取り終えた頃だった。
「あァ、暇だな。何処に行くんだ」
『デパート。仲良しの女の子が皆揃ってチョコの話しばっかりするから、俺も食べたくなっちゃった。って、ことで』
「構わないが……」
『よし、じゃーごーだちゃんデート確定ね。11時にデパート前の時計台で集合ね! ついでに、ごーだちゃんちで宅飲みしたいんだけど、今日行っていいー?』
 清世の人選は安心安定の適当です。そんな彼の軽いノリに英雄は了承する。
「呑むのはいいが、弟が寝てる時間だろうから静かにな」
『ありがとー。んじゃ、楽しみにしてるー』
「……ん、デート?」
 英雄が気付き、微かに首を傾げた頃には通話は切れていた。




 大きな駅構内にある赤色の時計柱。
 突き抜けるように高い時計柱は有数の待ち合わせスポットになっており、休日の昼間ともなれば待ち合わせする人々でごった返す。
 余りにも多すぎて待ち合わせ場所へ到着してから相手の姿を探すのにも骨が折れると言われるほど。
(人、多いな……だが、まだ来ていないようだ)
 英雄が時計に目をやると約束の時間の10分前。少し余裕を持ち家を出たら運良く1本早い電車に乗れた。手持ち無沙汰に周囲を眺める。
 談笑しながら歩く女子高生。スマートフォンで通話しながら進む忙しそうなビジネスマン。何やら派手な格好をしている若者達。
 祖父母に玩具を買って貰ったと思われる少年は、満面の笑みを浮かべていて微笑ましかった。
「ごーだちゃん、おまたせー」
 その声に英雄は振り向く。待ち人は約10分遅れてやってきた。清世は相変わらず軽いノリでよっと手を挙げて近寄ってきた。
「……行くか」
 英雄は清世に軽く挨拶を返して店内に入り、エスカレーターに乗る。
 駅に直結しているデパート。地域でも有数の規模を誇るこの店が混んでいるのはいつものことだ。
 だけれど。
「にしても、女の子多いねー」
「……バレンタインだからだろうか」
 周囲を見渡す清世の呟きに、表向き平然と英雄は帰す。
(女の子ばっかりだし、声を掛ければ一人や二人……とは、思ったが)
 英雄は挙げた手を静かに下ろした。いや、ナンパにしろチョコをねだるのにしろ、まずいだろう。
 それに、今日に限っては女性の瞳が異様に本気。その雰囲気は産後のライオンと思わせる程に何処か殺気立っている気がして、正直躊躇われる。
(そうだ。今日はデートだしな……)
 英雄が内心で結論付け、改めて口を開こうとした――その時。
「やあ、暇ー? 俺達とお茶でもどうー?」
「あ、あの……私達、未だ買い物があって……」
「じゃあ、おにーさんが付き合おう。荷物持ちするよー?」
「……おい」
 少し目を離したら、清世は早速ナンパ行為に勤しんでいた。
 エスカレーターの前方に居た高校生くらいの少女二人組。清世に声を掛けられたいかにも大人しそうな少女達は戸惑うような表情を浮かべている。
「……行くぞ」
 英雄は軽く諫めながら、少女達に軽く謝る。ちょっと拗ねがちな清世を連れてバレンタイン特設コーナーへ向かった。
「おお、すごい人だかりだねー。流石に女の子ばっかみたいだけど……ま、いっか」
 辿り着いた先は女性達の楽園。赤色とピンクのハートが乱舞するチョコレートの理想郷。
「匂いはないはずだが、とても甘ったるい気がする」
「何にしようかなー?」
 眉を顰める英雄を置いて早速とばかりに、清世は人だかりの中へと飛び込んでいった。
 その背中を見送り英雄は人混みを避けて歩く。そのうちに辿り着いたのはジョークチョコレートが沢山並べられた一角。
(甘いものは好きでも無いし、嫌いでも無いが……)
 内心呟きつつ英雄が手にとったのは、風邪用錠剤の瓶に粒状のチョコレートが詰め込まれたチョコレート。
(……折角だし、買ってくか)
 そのまま手に持ち、その場を後にしようとした英雄の手を掴んだのは、人混みへと潜行していったはずの清世。
 来て欲しいと言われ、素直に付いていく。
「ごーだちゃんごーだちゃん、これかわいいよねー」
「ああ、確かに……」
 清世が指を差したのはクマとウサギの形をした立体チョコレート。絵本のようなパッケージに入っているのもまた可愛らしい。
「よーっし、じゃあ買ってこー」
 そのクマとウサギのチョコレートの他にも犬や猫などのものもカゴへと入れて、その場を後にしようとするものだから、思わず英雄は問う。
「いくつも買って、何を……」
「え、色々かなー?」
 対した清世は悪戯っぽく笑った。そして、ふたりは蛇のように長く伸びる列に並び、根気よく会計の時を待った。

 買い物を終えた。
 忘れずコンビニによって幾つか酒を見繕った後、ファーストフード店へと入り少し遅めの昼食をとった。
 いつもより心なしか多く詰め込まれたフライドポテトの塩味が少し濃かった。
 適当に談笑し、銭湯の暖簾を潜った頃には空はすっかりと藍色に染まっていた。


 銭湯で背中の掛け流しあいをした。
 結局ふたりが英雄の家へとやってきたのは、子どもが寝静まるような夜遅く。
 すっかりと温くなってしまった酒を冷蔵庫で冷やし取り出した頃には住宅街の灯りも疎らになっていた。
「メンズ飲みだし、ちょっとくらい酔っちゃってもいいよねー」
「だが、あんまり酔うと、帰る時きついぞ」
「へーきへーき。なんとかなるってー」
 ぷしゅり。爽やかな音を立てて開けられたレモンチューハイを清世は一気に呷る。
 弟が寝ているから起こさないようにとの心掛けも酔いとともに次第に薄れて行く。
「ごーだちゃんってクマっぽいけど、ねこっぽくもあるよね」
「……いきなりなんだ?」
 ビールの缶を片手にそちらへと視線を向けると清世は満面の笑みで猫のチョコレートを手に、こちらを見ていた。
「頭からがぶっと行っちゃうといいよー? ほら、あーん」
 突き出された猫を一口で食べる。英雄の口いっぱいに広がるのはミルクチョコレートの甘み。
「次はごーだちゃんのちょこちょーだい。ぎぶみーちょこれーと」
「……ったく、お前は何処を治すべきだ?」
 英雄は包み紙を破り、チョコレートを出した。露わになった瓶入り風邪薬のジョークチョコレートが余程面白かったのか、酔っ払い清世は思い切り笑う。その口へと英雄は粒状チョコレートを投げ入れた。
「ごーだちゃんのチョコの半分は優しさで出来てるから、うまー」
「これは頭痛薬ではなく、風邪薬のパロディっぽいが……」
 しかも市販品だし。チョコレートの瓶を振って。
「じゃー、貴方の心に狙いを決めてーとか? あっははー」
 酔いに任せて清世の気分も声も大きくなる。
「静かにしろ。弟が起きるだろ」
「ごめん……」
 英雄に叱られて肩を落とす清世。そして、置き時計に目が行く。
「あ、やべ……気付いたら終電終わってる時間だわ……ごーだちゃん、泊めてくんない?」
 言わんこっちゃない。こうなってしまうことは予測済み。だから。
「いいが、来客用の布団はないから俺のを使え」
「ごーだちゃんは?」
 自分が使ってしまったら英雄の布団が無くなってしまう。そんな、当たり前の
「俺はリビングで適当に寝る」
「えー、布団ねぇなら一緒に寝ればいいじゃん?」
「構わない」
「でも、リビングは寒いべ?」
 押し問答の末、ひかない清世に折れた形で同じ布団へと入る。
「おやちゅー」
 酔っ払っていることを言い訳に迫ってくる清世。英雄は無言で枕を押し当てた。そして、枕を退けると既に彼は眠りの中。
 無防備なその寝顔に、英雄の顔も緩む。
(……不思議だな)
 どうしても流されてしまう、そしてその爛漫な行為を許してしまう。それは、きっと彼が亡くなった親友に似た雰囲気を持つからか。
 だけれど、亡くなった親友に似ているなんて言うと失礼。あくまでも見ているだけだけれど。
(寝るか……)
 そして、英雄も瞳を閉じる。
 こうして、少し騒がしいバレンタインの夜は明けていった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0378 / 郷田 英雄 / 男 / 阿修羅】
【ja3082 / 百々 清世 / 男 / インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変お待たせしてしまい、申し訳御座いません!
 可愛らしいチョコレートが並ぶバレンタインのイベントコーナー。残念ながら贈り贈られる相手が居なくとも見て回るのは楽しいものです。
 その中でも異彩を放つのがジョークチョコレート。毎年完成度が高くて、思わず感心してしまいます。
 この度はご発注有難う御座いました!
不思議なノベル -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月17日

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