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『生チョコペインター 』
ジャミール・ライル(ic0451)

●ジャミール・ライル
 大量の本に囲まれ、ジャミール・ライル(ic0451)はぼんやりとそれを眺めていた。
 友人であるティー・ハート(ic1019)が図書館に行くと聞き、どのような場所か分からずについて来たのだが、字の読めない自分には、あまり得意な場所とは言えないようだ。
 手にする本はどれも文字ばかり羅列されていて、とても楽しめそうにない。
 読める本がないか、フラフラと探し回っている内に、ティーとも離れてしまったしで、彼が手持ち無沙汰になるのに、そう時間はかからなかった。
(文字が読めない系おにーさんは寝るしかない……)
 暇を潰すことを早々に諦め、手近な席につき、テーブルにつっぷす。
 フードを深めに被り光を遮ると、空調がよく整えられた静かな図書館は、昼寝をする場所としては彼を充分に楽しませた。
 すやぁ……と、気持ち良い眠りにつきながら、ジャミールは共に来た友人に起こされるまでの時間を昼寝で過ごすのだった。

「ライル!ライル!」

 体を揺すられ、ジャミールは薄っすらを目を開く。目の前にはなんだか楽しげな友人の姿。チョコレートの表紙の冊子を手に、何か騒いでいるような……。
「って事でライル!作るぞチョコ!」
「んむ、なん……何?……ちょこ?」
 覚醒までにはまだ時間がかかるらしいジャミール。ぼんやりしている間に、ティーにしっかりと襟首を掴まれる。
「そう!チョコ!あっ、無理とかめんどくさいとか無しだから」
 半分以上聞いていないだろうジャミールを引きずりながら、歩き始めてしまうティー。
 ずるずると引きずる音をBGMに、ジャミールはまた眠りに落ちそうになっていた。

●食べ物で遊んではいけません
 多種多様のチョコレートを机に並べ、エプロンをつけたティーは、よし!……と、満足気に頷いた。
 必要そうに思うものを揃え、長いうさぎ耳も調理の邪魔にならないよう頭の天辺で結ぶ。準備はバッチリ!やる気もいっぱいだ。
「おー……ティーちん、がんばれー」
「ライルも作るんだって!」
「えー……」
 ティーに反して、やる気のなさそうなジェミールは、一応エプロンだけはつけているものの、キッチンにあった椅子に座り込み早速見学を決め込んでいる。
「ほら!一緒に作ろうって」
 腕をひっぱるティーに、いやいやと首を振るジャミール。
「やだよ……めんどそうだもん……。あ、でも、食べるのは好きー。美味しくできたらちょーだい。応援するー」
 上機嫌に微笑むジャミールに溜息をつきつつ、まあ仕方なし、と、ティーは冊子を開く。上手くできたら自慢してやれば良い。
 冊子には、まずチョコを溶かすところから書かれていた。
 細かい注意事項や、段取りが書かれたそのページを、しかしティーは飛ばし読み。掲載されている写真だけを参考に、チョコを火にかけ混ぜ始める。
「うんうん。やっぱり俺には料理の神が降臨してる!すっごい料理っぽい!」
 楽しそうにチョコを混ぜるティーだったが、次第に表情が曇ってきた。
 混ぜても混ぜても上手く溶けきらない。写真のようにトロリとしたチョコにならず、鍋にべったりチョコが張り付く……。
「……あーもう!全然溶けねぇ!」
 ティーは我慢ができなかったようで、チョコの入った鍋に直接お湯を入れてしまう。どばっと。
 そう、どばっと。
「おっ!溶けた」
 鍋の中には、溶けたチョコというより『お湯に浮いたチョコ』で満たされている。幸か不幸か、最初に入れていたチョコが多かったため、冊子の溶けたチョコの写真に似ていない事もない。
「俺流・生チョコ……完成!」
 とろり……というより、さらりとしたチョコを満足気にヘラで掬ってみる。
 当然のように生チョコというには弾力が足りない。というか、圧倒的にチョコとお湯との割合が酷い。
「ん?なんかゆるゆる……?」
 何度掬ってみてもヘラからぽたぽたと落ちるチョコに違和感を感じつつも、甘いチョコの香りに、気のせいだろ。と結果付け、楽しそうにヘラを回す。
 次第に、鍋の中でゆらゆら揺れるチョコ(もはや液体)に、ティーはふと思い出すものがあった。
「……絵の具みたい、だな?」
 なんとはなく指で掬ってみると、それはまさしく絵の具のように、ぽたりぽたりと雫が落ちる。
 ふと気づけば、友人のうたた寝姿が目に入る。
 応援すると言いながら、またも睡眠。せめてちゃんと見てろよ!……と思うのと同時、小さな悪戯心が芽生える。
「起きろよラーイル!俺特製の生チョコ完成だぜ!」
 言いながらジャミールのほっぺたに、自称生チョコをたっぷりつけた指で触れる。ぐるーっと動かして渦巻き模様。生チョコらくがき。思わず笑みが溢れる。
「……ん?」
 ちょっとした悪戯で機嫌を直したティーの耳に、ジャミールの寝ぼけ声。まだぼんやりとしているが、一応は目を覚ましたようだ。
「応援してくれるんじゃなかったのかよー?」
 笑いながら尋ねると、ジャミールは今の状況を思い出したようで、ぼんやりした眼差しのままあくびを噛み殺す。
「だって……チョコ溶かすとか言って、部屋まで暖かいんだもん」
 そりゃ眠くなるよー……と、まだ少しむにゃむにゃとした口調で言いながら、ジャミールは頬になにか温かい感触を覚える。
 不思議に思い、手を当ててみると、チョコレート色のなにか……液体?
 試しに手についたそれを舐めると……甘いような、甘くないような、不思議なお味。
「なにこれ?」
 反射的に不可解です。という色をめいいっぱいに聞いてみるが、おそらく作った本人は自慢気に「生チョコ!」と胸を張った。
 ええー……?
 ジャミールは、自分の思い出せる限りのチョコレートを頭に浮かべる。可愛らしい女の子から贈られるチョコ。そのどれもが、綺麗に包装され、デコレーションされていた。少なくとも、こんな液体だった事はない……はず。
「これがチョコになんの?」
 眠気も覚めたらしく、きょとんとしたジャミールの声に、ティーはだからー!と声を大きくして「生チョコ!完成!」と続ける。
 ジャミールは少し遠い目で、俺の知ってるチョコと違う……と呟いた。

●生チョコ=液体
「甘味が足りない」
 そのジャミールの一言で、砂糖を追加で入れてみる事となる。
 砂糖はどこだー?と棚を物色するティー。上の戸棚を調べようと腕を動かしているとき、悲劇が起こった。
 ぱらり。と、音が出そうなほど気持ちよく、ティーが頭上でひとまとめにしていたうさみみが解ける。
 たらりと長いうさみみは、再加熱を始めている、熱々チョコの中へ……ぽちゃん。
「あっ、ち……!」
 驚いて顔を振るティー。少し慌てた様子で、大丈夫?と声をかけたジャミール……に、ティーが振り向けば当然。
 べちゃん!……そんな音を立てて、うさみみは彼の顔に張り付いた。
「……」
「……」
 チョコでべったべたの顔を見合わせ、二人は一緒に吹き出した。

 その後は散々で、砂糖を追加した生チョコ(液体)で、お互い顔にらくがきを追加したり、甘すぎる溶けチョコにお湯を追加して分離させてしまったり、服なんてエプロンの範囲外までしっかり汚れた。
 途中「ライルの小麦肌にチョコってなんかエロいな」と、真顔で言ったティーに、ジャミールが「女の子から言われたい」と返してしまい、男二人でチョコ騒ぎ……と、少し現実に戻りそうになったりしてしまった。
 それでも、二人で作ったチョコレートは確かに甘く、図書館でバラバラで居眠りをするよりは健康的だと笑い合う。

「で……結局コレ、チョコだったの?俺の知ってるチョコじゃないんだけど」
「生チョコはコレなんだって!」

 生チョコへの誤解は解けないままだったようだ。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ic0451/ジャミール・ライル/男/24/ジプシー】
【ic1019/ティー・ハート  /男/20/吟遊詩人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご発注頂き、誠にありがとうございます。
お二人の思い出の1ページを飾れれば幸いです。
またのご縁を、心よりお待ちしております。

>お名前修正させて頂きました。お手数をおかけして申し訳ありません。
不思議なノベル -
榊 ひよこ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2014年03月18日

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