▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『一夜の夢は永遠に 』
シルヴィア・エインズワースja4157
 この世界は不思議にあふれている。
 勿論ここにも不思議はある。

 2月の澄んだ空気の中、月夜の晩だけ現れる洋菓子店。半信半疑で扉を押せば、そこは甘い香りに包まれていた。奥から10歳くらいだろうか、黒いワンピースの少女が現れた。
「こんばんは。いらっしゃいませ。ここにあるのは魔法のかかった不思議なお菓子ばかり。あなた方の探し物はあるかしら」
 鈴のなるような声で少女は言う。
「そうね。ケーキとそれにあったリキュールをもらえるかしら?」
店内を見回して、シルヴィアはそう言った。
「わかったわ。あなた方の為に最高の席を用意するわね。まずは……」
 黒い少女が指をパチンと鳴らすと白いワンピースの少女が現れた。
「彼女をフィッテイングルームへ」
 白い少女は頷くとシルヴィアに近づき
「こちらへ」
 と、恭しく頭を下げ店の奥の方を手で示した。一瞬、残される悠里のことを想い、そちらを見るシルヴィアだったが、それを察したのか白い少女が言葉を続ける。
「お二人共お召し換えをしていただくだけでございます。ご心配なく」
 目のあった悠里とシルヴィアは小さく頷きあった後、シルヴィアは白い少女に案内され奥へと進んでいった。

 そこはフィッティングルームというにふさわしいたくさんのドレスとメイク道具が置かれた部屋だった。自分が来ることが分かっていたかのように青を基調としたドレスばかり揃えてあるのが気になってシルヴィアはドレスを見ながら白い少女に尋ねた。
「ここには青いドレスしかないのですか?」
「いいえほかの色があるときもございます」
「それも、この店の魔法かしら?」
「はい。ドレスはそちらでよろしいでしょうか?」
 気がつくと手にはスレンダーラインのドレスを取っていた。色は宵闇を思わせる群青から黒へのグラデーション。
「いつの間に……」
「ドレスが呼んだのでございましょう。さあ、こちらへ」
 ドレスを纏い、髪をアップにし、メイクをそれ用に直してもらうと、パーティに出かけるお姫様のようだった。
「よくお似合いです」
「ええ。私もビックリしているくらいだわ」
白い少女は静かに微笑み
「ではこちらへ。特別席を用意させていただきました」
「特別席?」
 こくりと頷き白い少女は歩き出す。

 それについていくと、どこにこんな庭があったのかというようなバラの咲き乱れる庭へと案内された。一本道を歩いていくと、真ん中には大きな鳥かごのようなガゼボがあり、中には白いテーブルと椅子が月光に照らされていた。その装いはまるで秘密の花園のようであった。
「悠里は?」
白い少女は、無言で前から移動し道をあけた。
すると、向こうから黒い少女に手を取られおぼつかない足取りで歩いてくる青空のような淡い水色のプレインセスラインのドレスを着た姫が一人。誰かはすぐにわかった。そして、胸のたかなりを抑えることができなかった。愛おしい人のドレス姿がこんなにも胸を鷲掴みにするものかと、自分でも驚く程にシルヴィアの胸は高鳴っていた。
「席へどうぞ」
「えっ、ええ」
 席に着こうとした時、悠里が少し戸惑っているのがわかった。ドレスを気なれない彼女には、こういうシチュエーションも初めてなのだろう。
 すっと、手を差し伸べ、
「大丈夫?」
 そう言ってエスコートすると、嬉しそうに微笑む彼女が月光に映えて、シルヴィアの鼓動を早めるのだった。 
 余裕そうにエスコートしたものの、席に着いた時には鼓動が相手に聞こえないかとドキドキしていた。お互いに口も開けずに、視線すら合わせられずにいると黒い少女がミルクココアのような液体が入った足の長いグラスをそれぞれの前に置いた。
「チョコレートカクテルでございます」
そして白い少女が白い皿にシンプルなチョコレートケーキの生クリーム添えを置く。
「月が沈むまでごゆっくり」
 少女たちはそう言うとすっと闇に消えるようにいなくなった。
「せっかくですもの。楽しみましょう?」
 なんとかそれだけ言って、カクテルを一口。
 チョコレートだけの甘味ではないと思ったが、甘い美味しいカクテルだった。
「美味しいですね。お姉ちゃん」
 頬を少し赤くして悠里がそう微笑む。
「ええ」
 そう微笑みながら、チョコレートケーキにフォークを差し込む。ほどよく柔らかくふわふわの生クリームも申し分ない。口に入れるとチョコレートの苦味が生クリームでまろやかになっている様なちょうどこのカクテルのために作られたようなケーキだった。
「ケーキも美味しいです」
 ドレスのせいで動きはぎこちないが喜んでくれている悠里の表情に笑みがこぼれる。

 しばらくして、お酒が回ってきたのか、蜜事のように話す二人の距離が近づいていた。シルヴィアは勇気を出して悠里に話しかける。
「ねえ、ユウリ?今夜だけでいいの。私のことを名前で呼んでくれないかしら?さん付けでも、お姉ちゃんでもなく『シルヴィア』と」
「えっ、いいんですか?」
 少し驚いたような表情の悠里に真っ赤な顔のシルヴィア。
「わかりました……シ……シルヴィア。じゃあ私のお願いもいいですか?」
「どうしたの?」
「このお庭一緒にお散歩しませんか?」
「構わないわよ。行きましょう」
 そんなことかと、立ち上がると、一緒に立ち上がった悠里の方が少しふらついていた。慣れないドレスのせいか、お酒のせいかわからないが、これでは散策はともかくガボゼから出るのは難しそうだった。
「ちょっとごめんなさいね」
 シルヴィアは悠里を難なくお姫様だっこし、ガゼボを出た。
「びっくりさせてしまってごめんなさい」
 そう言って下ろそうとすると、悠里が首にしっかりと手を回し、首を横に振った。
「お姉……ううん。シルヴィア……この……ままがいい……です」
「わかったわ」
 表情は、見えなかったが触れている皮膚から、顔が真っ赤になっていることは想像できた。
 そのまま、バラの園を散策する。赤や白、青いバラもあった。どれも月夜に儚げに咲いていた。
 もうすぐ散策も終わると言う所で、シルヴィアはそっと悠里を下ろした。
 悠里は、もっとして欲しそうな顔をしたが、そんな彼女の髪を崩さないように撫で、シルヴィアは口を開く。
「今は無理かもしれないけれど、いつか、私だけの姫になってくれないかしら?」
「えっ?」
「愛しているわ。ユウリ」
 そう言うと、そっと悠里の腰を引き寄せそのまま口づけた。一瞬驚いたような表情をした悠里だったが、そっと瞳を閉じ、キスに応じる。先ほど飲んだカクテルのチョコレートの残り香がキスを余計に甘いものにしていた。

 一周してガゼボに戻ると食べ終えてあった皿とグラスは下げられ、小さな手のひらサイズの箱と一枚のメッセージカードが置かれていた。
『その箱は来店記念。喜んでもらえるといいのだけれど』
 二人は首をかしげながら箱を開ける。するとシルバーのリングが二つ入っていた。お互いに指輪を取ると不思議なことに裏側に何やら文字が彫られ始めた。悠里の持った指輪には『YtoS』シルヴィアの指輪には『StoY』。
 照れくさそうに微笑んで二人はお互いの持っている指輪を掘られた名前の通り、相手の左手の薬指にはめた。驚くべきことに大きさは測ったかのようにぴったりでただただ驚くしかなかった。

 夜明けがやって来る。店も、庭もすべてが光の粒となって消えていく。
「気に入ってもらえたみたいで良かったわ。お幸せに」
 後ろで黒い少女の声が聞こえた気がして振り返るが、そこには朝日が見えていた。
 二人の前途を明るく照らすように。
 どちらからともなく、昨夜を惜しむように、二人の今後を誓うように唇を重ねる。その、ぎゅっと握りあった二人の少女たちの左手の薬指には銀色の指輪が光っていた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23歳 / インフェルトレイター】

【ja0115 / 天谷悠里 / 女性 / 18歳 / アストラルヴァンガード】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ドレスと着たところから、近いの口づけまでメインに書かせていただきましたが、ご希望の仕上がりになったでしょうか。お二人の前途に光がありますように。
今回はご依頼ありがとうございました。
不思議なノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.