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『一夜の夢は永遠に 』
天谷悠里ja0115
 この世界は不思議にあふれている。
 勿論ここにも不思議はある。

 2月の澄んだ空気の中、月夜の晩だけ現れる洋菓子店。半信半疑で扉を押せば、そこは甘い香りに包まれていた。奥から10歳くらいだろうか、黒いワンピースの少女が現れた。
「こんばんは。いらっしゃいませ。ここにあるのは魔法のかかった不思議なお菓子ばかり。あなた方の探し物はあるかしら」
 鈴のなるような声で少女は言う。
「ここが、月夜にしか現れないっていう御菓子屋さん?」
「ええ、そうよ」
 悠里は胸を高鳴らせた。探していたお店が本当にあったなんて。やっぱり、先輩と探したから見つかったんだ。とちらりとシルヴィアの方を見る。
 シルヴィアは店内を見回し、注文をしていた。
「そうね。ケーキとそれにあったリキュールをもらえるかしら?」
「わかったわ。あなた方の為に最高の席を用意するわね。まずは……」
 黒い少女が指をパチンと鳴らすと白いワンピースの少女が現れた。
「彼女をフィッテイングルームへ」
 白い少女は頷くとシルヴィアに近づき
「こちらへ」
 と、恭しく頭を下げ店の奥の方を手で示した。えっ?となる悠里。ケーキとお酒を頼んだだけなのに……それは表情にも現れていたらしく、白い少女が口を開く。
「お二人共お召し換えをしていただくだけでございます。ご心配なく」
 その言葉に、シルヴィアの方を見ると、目のあった。小さく頷きあった後、シルヴィアは白い少女に案内され奥へと進んでいった。
「さて、あなたはこっち」
 黒い少女は、反対側の奥へと悠里を案内した。

 そこは、まるで結婚式場のフィッティングルームのようだった。たくさんのドレスが飾られ、着替えるスペースとメイクルームまで完備されていた。
「好きなドレスを選んで」
 そう言われてもこんなにあっては目移りしてしまう……と思った時だった。1着のドレスに目を奪われた。青空のような淡い水色のお姫様が着るようなふんわりしたプリンセスタイプのドレス。
「これ、似合うかな?」
「ええ。ここにはあなたに似合わないドレスは置いてないわ」
 ドレスを纏い、髪とメイクをドレスに合わせ、鏡の前にいたのは自分ではなく、どこかのお姫様だった。言葉ものなく立ち尽くしていると
「行きましょう。本番はこれからよ」
 クスクスっと少女は微笑み、手を差し出した。

 ゆっくりとした歩みでどこにあったのかと思うようなバラ園の中を歩く。月明かりに照らされたバラはどこか青みを帯びて、神秘的な色合いになっていた。しばらく行くと、園の中央だろうか。大きな鳥かごのようなガゼボがあり、中には白いテーブルと椅子が月光に照らされていた。
「悠里は?」
 向こうからシルヴィアの声が聞こえる。黒い少女が歩数を勧め、お互いが見えるところまでやってくると悠里は息を飲んだ。
 体のラインの出るドレスを身にまとったシルヴィアはそれはそれは妖艶で、綺麗で。言葉など必要ないようにすら感じられた。
「席へどうぞ」
「えっ……と……」
 そう言われたものの座り方がわからない。戸惑っているとシルヴィアがそっと手を差し伸べてくれた。
「大丈夫?」
 慣れているから手伝ってくれた。それだけのことかもしれない。それでも、悠里にはとても嬉しくて、笑顔がこぼれた。
 エスコートしてもらい、なんとか席に着いたもののドキドキが止まらず、視線すら上げられない。お互いに口も開けずに、視線すら合わせられずにいると黒い少女がミルクココアのような液体が入った足の長いグラスをそれぞれの前に置いた。
「チョコレートカクテルでございます」
そして白い少女が白い皿にシンプルなチョコレートケーキの生クリーム添えを置く。
「月が沈むまでごゆっくり」
 少女たちはそう言うとすっと闇に消えるようにいなくなった。
「せっかくですもの。楽しみましょう?」
 なんとかそれだけ言って、慣れた手つきでカクテルを飲むシルヴィアに習って飲んでみると、甘くてほんのりお酒の味もしてすごく美味しいカクテルだと思った。
「美味しいですね。お姉ちゃん」
 頬を少し赤くしてそう微笑む。違うカクテルを飲んでいたら交換したいくらいだったが、この格好でそこまではしゃいでは行けないと思ったし、同じカクテルだったので、やめた。
「ええ」
 そう微笑みながら、チョコレートケーキにフォークを差し込むシルヴィアの手つきは本当に惚れ惚れするものだった。それはもう、見とれるほどに。見ているのがバレてはいけないと。チョコレートケーキに手をつける。
「ケーキも美味しいです」
 程よい苦味が甘いカクテルにあっていると思った。ドレスのせいで動きは若干ぎこちないように見えるかもしれないが、悠里はこの状況を最大限楽しんでいた。

 しばらくして、お酒が回ってきたのか、蜜事のように話す二人の距離が近づいていた。そう、もう少し近づいたら口付けてしまいそうなくらいに。そのことにも、悠里はドキドキしていた。そんな時、シルヴィアが口を開いた。
「ねえ、ユウリ?今夜だけでいいの。私のことを名前で呼んでくれないかしら?さん付けでも、お姉ちゃんでもなく『シルヴィア』と」
「えっ、いいんですか?」
 少し驚いたような表情の悠里に真っ赤な顔のシルヴィア。
「わかりました……シ……シルヴィア。じゃあ、私のお願いもいいですか?」
「どうしたの?」
「このお庭一緒にお散歩しませんか?」
「構わないわよ。行きましょう」
 本当はもっとくっつきたかった。でもそれはさすがに言えなかった。シルヴィアはそんなことかと思ったらしかった。
 立ち上がると、予想以上によっていたのか、なれない靴のせいか、両方か、少しふらついてた。なんとか立ち上がることはできたが、階段のあるガゼボを出るのは難しそうに感じた。
 やっぱり、ここでお話を……と言おうとした時、
「ちょっとごめんなさいね」
 シルヴィアは悠里を難なくお姫様だっこし、ガゼボを出た。
「びっくりさせてしまってごめんなさい」
 そう言って下ろそうとするシルヴィアの首にしっかりと手を回し、悠里は首を横に振った。
「お姉……ううん。シルヴィア……この……ままがいい……です」
 触れたかった絹のように柔らかい肌。それが一瞬で離れてしまうなんて持ったない気がした。わがままだとは分かっていたが、こういう触れ方でも相手に触れていたかった。
「わかったわ」
 表情は見えないが、嫌なため息一つつかずにシルヴィアはそのまま、バラの園を散策する。赤や白、青いバラもあった。どれも月夜に儚げに咲いていた。
 もうすぐ散策も終わると言う所で、シルヴィアはそっと悠里を下ろした。
 えっ、と思って、悠里は口を開こうとするが、そんな彼女の髪を崩さないように撫で、シルヴィアは口を開く。
「今は無理かもしれないけれど、いつか、私だけの姫になってくれないかしら?」
「えっ?」
「愛しているわ。ユウリ」
 そう言うと、そっと悠里の腰を引き寄せそのまま口づけた。一瞬驚いたような表情をした悠里だったが、そっと瞳を閉じ、キスに応じる。先ほど飲んだカクテルのチョコレートの残り香がキスを余計に甘いものにしていた。

 一周してガゼボに戻ると食べ終えてあった皿とグラスは下げられ、小さな手のひらサイズの箱と一枚のメッセージカードが置かれていた。
『その箱は来店記念。喜んでもらえるといいのだけれど』
 二人は首をかしげながら箱を開ける。するとシルバーのリングが二つ入っていた。お互いに指輪を取ると不思議なことに裏側に何やら文字が彫られ始めた。悠里の持った指輪には『YtoS』シルヴィアの指輪には『StoY』。
 照れくさそうに微笑んで二人はお互いの持っている指輪を掘られた名前の通り、相手の左手の薬指にはめた。驚くべきことに大きさは測ったかのようにぴったりでただただ驚くしかなかった。

 夜明けがやって来る。店も、庭もすべてが光の粒となって消えていく。
「気に入ってもらえたみたいで良かったわ。お幸せに」
 後ろで黒い少女の声が聞こえた気がして振り返るが、そこには朝日が見えていた。
 二人の前途を明るく照らすように。
 どちらからともなく、昨夜を惜しむように二人の今後を誓うように唇を重ねる。その、ぎゅっと握りあった二人の少女たちの左手の薬指には銀色の指輪が光っていた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0115 / 天谷悠里 / 女性 / 18歳 / アストラルヴァンガード】

【ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23歳 / インフェルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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甘甘ということで、バレンタインのチョコのような甘い仕上がりになっていれば幸いです。お二人の前途に光がありますように。
今回はご依頼ありがとうございました。
不思議なノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月19日

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