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『『キャメロットの奇縁』 』
フレイア・ヴォルフ(ea6557)&マナウス・ドラッケン(ea0021)&尾花 満(ea5322)&シルヴィア・クロスロード(eb3671)&クリステル・シャルダン(eb3862)&レア・クラウス(eb8226)

●strange turn of fate

「strange turn of fate」

 イギリス キャメロットの片隅に、そんな名前の酒場がある。

 訳すなら驚くべき運命、縁。奇縁とでも言うところだろうか。
 いつもの馴染みの酒場。
 そこはどれだけ時が経とうと変わらず存在する。
 多少古びたとしても。
 そこに集まってくるのは古馴染、変わらぬ絆。
 お互い歳をとったな、そんな話をしつつ旨い酒と旨いつまみを飲んで食べる。
 場末ながらも料理と酒に拘った居心地のいい酒場には、時に料理を目当てとする女性や親子連れ。
 時に貴族社会では飲めない「良い酒」を求めてやってくる騎士もいて、いつも賑わっている。
 そんな酒場のこれはある夜。
 当たり前にあるいつもの光景。
 でも本来なら決してありえない夢の一夜である。


「ははは。傑作だね」
 今日も酒場の一角に華やかな笑い声がする。
 本来であるなら酒場と言う場所にはあまり似つかわしくない中年女性の声。
 でも、この酒場にはそんな声も許容し、当たり前のものと見せる力があるようだ。
 そして声の方もまたしっくりとこの酒場になじむ。
 それは親から子へ、受け継がれた銀細工のマント止めが騎士の胸元で明星のような光を放つように。
 彼女の名はフレイア・ヴォルフ(ea6557)。
 厨房に近いテーブルの一つを確保し、その椅子に座って何やら手紙を読んでいるようだ。
「どうした? フレイア。随分と楽しそうだが」
 竃で炎が躍るように鮮やかで楽しげな声で笑う妻に、厨房から顔を出した尾花 満(ea5322)が声をかける。
 両手には山のように料理が盛られた皿。チキンのから揚げ、タラとポテトのフライ。ローストビーフにミートパイ。スコーンも山盛りだ。
「おお! 美味そうだね。流石満」
「久しぶりに皆が集まるのだろう? 酒の肴ばかりだが量は用意してある」
「大丈夫。満の料理に拙いものなんかないから♪ 皆も喜んでくれるって」
「そうか?」
 素直な賛辞に少し照れた顔を向ける満はテーブルの上に料理を並べ終えるとフレイアの隣の椅子に腰を下ろした。
 美味しそうな料理の香りと、楽しげな会話は賑やかな酒場の中でも一際目を引く。
 男性の方の髪は白髪交じりで今まで生きてきた年輪を感じさせる。しかし、背筋はピンと伸び肌にも手にもハリがある。
 歳が読みにくい人物だ。
 燃える様な赤い髪の女性の方はさらに年齢が解らない。
 外見から感じる印象は五十代後半というところだろうか。
 様々な体験をした人物だからこその落ち着きと頼りがいと、若々しさが同居しているが、彼女の本当の年齢を知ったら酒場中が腰を抜かすかもしれない。
 …まあ、命が惜しいから誰も聞きもしないし、語りもしないいが。
「それで、何を見ていたんだ?」
「ああ、あの子から手紙が来たんだよ。ほら、満似の男孫だよ」
「ほお」
 妻の指し出した手紙を満は捲った。
 なるほど、フレイアが楽しそうだった理由が解る。
 思わず笑顔が零れた。
「あら、楽しそうね♪」
「お久しぶりです」
 そんな二人に明るい声と優しい、落ち着いた声がかけられた。
 それぞれに顔を上げる二人の前には二つの昔から馴染んだ顔がある。
「やあ、レア、クリステル。いらっしゃい。まあ、とりあえずかけなよ」
「…フレイア。いらっしゃいってここは我が家では無いのだぞ」
 苦笑する満の言葉を気にする様子も無いフレイアの促しに従ってレア・クラウス(eb8226)とクリステル・シャルダン(eb3862)は腰を下ろした。
「マナウスは一緒じゃないのかい?」
「さあ〜。私はマナウスの愛人だから、あいつが本宅で何してるかなんて解らないわ」
「…もう、レアさんたら」
 ワザと肩を竦めて見せるレアにクリステルは彼女には珍しい苦笑いを浮かべる。
「そんなこと言って。なんだかんだ言ってもマナウスはあんた一筋じゃないか?」
 フレイアも苦笑しながら長年の友であるマナウス・ドラッケン(ea0021)の援護を一応、した。
「だってあいつは気が多いんですもの。城でも社交の場でも女性の影と噂がいっつも絶えないんだから」
 ぷうと頬を丸く膨らませて見せるレア。でも、その目には信頼と…どこか余裕が見て取れる。
「…でも、まあ優しいし、今のところは私だけみたいだし、私といる時には他の女の話はしないからいいんだけどね」
 結局惚気である。お手上げと言う様に両手を上げて見せてから
「はいはい。それでマナウスは?」
 フレイアは話題を変えた。
「仕事が終わってから寄るそうですわ。多分シルヴィアさんと一緒にいらっしゃるかと…」
「ま、二人とも城勤めだからね。あたし達程時間の融通が利かないのは仕方ないか。…クリステルの方はどうなんだい?
 孤児院の方、今日は大丈夫?」
「はい。手伝って下さる方もいますし、夕ご飯の支度はしてきましたので。
 私も皆様に久しぶりにお会いして、お見せしたいものがあったんです。
 よろしければご一緒させて下さい」
「勿論」
 ニッコリ笑うクリステルとフレイアの会話に
「何よ? マナウスに何か話でもあるの?」
 ちょっぴり蚊帳の外に置かれた気分になったのだろう。レアが詰め寄るとフレイアは
「いや、ちょっと面白い話があってね。あいつをちょっとからかってやりたいな、と思ったのさ」
 にっこり片目を閉じる。
「面白い話? 何々?」
 そうして酒場の一角は席に付く人数を倍に増やし、さらに賑やかに楽しげな笑い声を振りまくのだった。

●受け継ぎし子ら
 テーブルいっぱいの料理と美味しい酒、下戸用にお茶や果汁も用意されてその場はまるでパーティのようだ。
「へえ〜、うちの子が結婚? しかも相手はフレイアの女孫? これは確かに楽しい話ね」
 そんな中、一番の肴になっているのはフレイアが差し出した孫からの手紙だった。
 当たり前のように見えて、実は奇跡の果てに届いた手紙であることを誰もが知っているが、口にはしない。
「フレイアの女孫って言えばあの子でしょ? フレイアそっくりの」
「まあね。弓の腕は継がなかったんだけどね…。どっちかというと剣の腕を満から継いだのかもね」
「だが、性格と意志の強さは紛れもなく受け継いでいる。我らの愛し子だ」
 片目を閉じてフレイアを見る満に今度はレアがごちそうさま、というように手を上げた。
 そしてもう一度手紙に目をやり、今度は遠い自分達の孫の顔を思い浮かべる。
 いつの間にか広がった血脈の末。龍の名を持つあの子。
 自分達のどちらの色も受け継がなかったけれども、その姿と魂は間違いなく彼を受け継ぐ者…。
「まあ、女性にマメな性格も受け継いでるっぽいから嫁は大変かもしれないけどね〜」
 ちょっと同情めいた思いで呟くレアにフレイアはくすくすと笑う。
「あれなら大丈夫だよ。もう…養子だけど可愛い子供もいるっぽいし、そんな事でやっきになるような子でもないからね」
「まあ、そうならいいけどね…」
 小さく肩を竦めてレアは手紙をさらに読み進める。
 手紙には他にも色々と近況が書いてあった。
 ある学舎に入り、最近、無事卒業した事。
 辺境で、一般の人達を守る為の仕事をしながら開拓者、こちらでいう冒険者をしていると。
「ふうん、でも、なんだかんだで元気で充実した毎日を過ごしてるってか。良かったわね。…安心したでしょ。フレイア」
「まあね。何かあったら直ぐに飛んで行ってやれる距離と場所じゃないから心配じゃなかったって言えば嘘になるけど」
「でも、信頼している。そうですよね。フレイアさん」
「シルヴィア! いつ来たんだい?」
「ついさっきです。楽しそうな話についつい嬉しく聞き入ってしまって。立ち聞きのような真似をしてすみません。
 パーシ様は用事があるから、時間があれば顔を出すとおっしゃっていました」
「まあまあ、こっちに座ったら? この手紙、他にも面白い事書いてあったのよ」
 フレイアとレア。二人に促され座ったのはシルヴィア・クロスロード(eb3671)。
 クリステルと並んで見ればシルヴィアにも確かな老いが見て取れるが、それは決して醜いモノでは無かった。
 むしろ若木が確かな土壌を得て健やかに育ち、周囲を支える大樹となったように見ている者に穏やかな安心感を与える。
「少し遅かったな。まだ仕事が多くて忙しいのかい?」
 果汁をシルヴィアの杯に注ぎながらフレイアは聞く。
「円卓の騎士としては楽をさせてもらっている方だと思います。パーシ様は相変わらず実務に、訓練にとお忙しいですし、マナウスさん程実務を預けられている訳ではありませんから。
 年度末でマナウスさんは今、国で一番忙しい方です。それに比べれば私など子供達と遊んでいるようなものですね」
「でも、その子供って若い騎士達でしょう? マナウスが言ってたわよ。騎士団のはみ出し者や身分の無い者とか、傭兵隊とか癖のある子達の教導をシルヴィアが受け持ってるって」
「シルヴィアは若手騎士育成の名手だからな。彼女の元で育つと毒蛇も龍になると評判だ。
 若手の育成は国の柱だから俺も気を付けているが…なかなか、な」
「あら、マナウス。いたの? 本宅での用事が忙しいんじゃなかったの?」
「いたのって…解っていて言ってるだろう?」
「勿論」
「………」
 ツンと顔を逸らすレアの隣に肩を竦めながら座ったマナウスは、黙ってレアと自分の杯に飲み物を注いでカチンと軽く鳴らした。
「毒蛇とはいい表現ではありませんが、少しはみ出た者であろうと、その個性を生かし、伸ばし適所に使えば十二分の能力を発揮してくれるものです。
 私はパーシ様の教えを守って、彼らを導いているだけですから」
「…シルヴィア。もう結婚してうん十年。子供どころか孫やひ孫が出来ようって歳なのにまだ『パーシ様』。なのかい?」
「はい? それが何か?」
 きょとんとした顔で自分を見るシルヴィアはあいも変わらず初々しい反応にフレイアはもう何も言わない。言えない。
 自分と満も夫婦としてラブラブの自覚はあるが、こちらは自覚も無いだけに始末が悪い。
「いや、いい。悪かった。あ、そうだ…シルヴィア。お前の女孫、結婚したと言う話は聞いたかい?」
「ローの娘ですね。はい。話は聞いています。昨年の事だったでしょうか?」
「どうやら子供を作るつもりらしい。ってさ。うちの孫がそんな手紙をよこした。ほら」
「あら? そうですか?」
 シルヴィアは差し出された手紙を嬉しそうに開く。
「結婚式の時、剣で誓いを立てたってさ。あんたらの孫らしいよね」
「あの子は一番パーシ様の気風を受け継いだ子ですからね」
 文章を追いながら、くすっと心から幸せそうに笑っている。
「なかなか、会う事も叶いませんが、元気にやっているようなら何よりです」
 二男二女の母親であるシルヴィア。
 子供の教育には多分、厳しい方であったと自分では思っている。
 夫の名に恥じないように。円卓の騎士の両親と言う名に子供達が負けないように。と愛情をこめて、だが強く生きられるように育てたからだ。
 結果、子供達は健やかに育ち、それぞれに国を支えてくれているが、しかし、息子に決闘を申し込んでまでも自由を求め飛び立った孫娘の事は、素直に心から幸せを願う事ができた。
「騎士というのはただの称号ではありません。
 弱い者を守り、大切な者の為に戦う意思を持つ者が己に賭ける自身への誓いだと思っています。
 あの子も、あの子の夫もその志はちゃんと持っている。…何も心配はしていませんから」
 そう言って零れた笑顔は正しく、磨き上げた銀のようで、何十年を経ても変わらない。
 むしろ味わいと渋みを加えて美しく輝いている。
「そうだね」
 頷くフレイアは彼女をどこか眩しいものを見る様な眼差しで見つめていた。

●見送る者達
 親しい者同士の楽しげな会話。
 それを穏やかな笑みでクリステルは見つめていた。
「どうした?」
 そんな彼女にマナウスはふと声をかける。
 別に彼女が話の輪に入れていなかった訳では無い。
「…娘が共に歩む人を見つけた様なんです。そして相手は…」
 美しい字で細々と近況を綴った手紙を見せて嬉しそうに微笑む。
「えっ? うちの男孫? そんなことこっちの手紙には…あ、書いてあった。最後の方に小さく」
「ええ、新しい土地で診療所の見習いをしているとか。優しい子であったのに戦う事を選んだあの子でしたから…嬉しいです」
「まったく、変な所で照れてるのかねえ〜」
 けれど会話を共に楽しみながら、けれど、微かに切ないような笑みを浮かべているのをマナウスは見落とさなかったのだ。
「いえ……ただ、変わって行くのに、変わらないなあと、思っただけです」
「…そうだな」
 吐息のように静かなクリステルの言葉にマナウスは頷いた。
 ここにいる者達の付き合いはもう半世紀に近づく。
 古馴染みという言葉では表せない程に大切な友であり、仲間である。
 だが、人より長い寿命を持ち、外見の変化が少ないエルフと違い人間はゆっくりと、しかし確実に歳を重ねていく。
 重ねた年月は人をただ衰えさせるだけではないが、緩やかに終わりへと近づいて行くのもまた確かな事。
 孤児院を営むクリステルはなおの事、目の前を鮮やかに咲いて散って行く人の宿命を見続けて来ただろう。
「けれど、彼らは美しい。老いてなおその輝きを失ってはいない」
「はい…。いえ、むしろより輝きを増してくようです」
(短い命だからこそ、全力で咲き誇る命の花。その輝かしさを…だから守りたいと思う)
 国の執事、儀典官として王宮に努め王よりも長い命で国を見つめるマナウスは己自身の心に誓う様に告げる。
「私は…皆さんと出会えた事、そしてこうして友情と歳を積み重ねて来れた事を心から嬉しく、そして誇りに思います。
 そしてこの縁と幸福に感謝します。いつか…終わる時が来たとしてもこの年月と思い出は、私達をきっと照らし続けてくれるでしょうから…」
「ああ、そう思う」
 話を聞きつけたのか、いつの間にか寄り添っていたレアの肩をそっとマナウスは抱いて、大切な友を見つめていた。
 彼らの輝きをその目に、心に、焼き付けるかのように。

●終わらぬ物語
 馴染んだ場所に酒と、料理と友がいえれば会話と笑顔は尽きることがない。
 日常の事、冒険の事、仕事の事…いくらでも沸いて出る。
「そういえばマナウスさん。次年度の検討は終わられたんですか?」
「ああ、一応目途はついた。後は細かい所を現場の声を聴きながら修正していくくらいだな」
「次年度の検討って、予算配分とか行事対策とか…かい? お疲れ様だね」
 シルヴィアとフレイアの問いに手元の杯を空けてマナウスは笑う。
 ここ暫くは本当に忙しく、ようやく方針が定まったのは昨日の事だ。
 そうでなければ、今日もここには来られなかったかもしれない。
「あっさり言われますが、それが一番大変でしょう。どこも予算は多く欲しいし、かといって経費は無尽蔵にあるわけでは無い。
 私も国に属して解りました。騎士や兵士が前線で迷いなく戦えるのはそれを支えてくれる人がいるからだということを」
「まあ、それが解って貰えるなら後ろを守るかいもあると言うものだ。こういう役割は嫌われることも多いが」
「いいえ、パーシ様も後にはあの方とも和解されましたし。本当の意味で国を守っているのは皆さんだと思います」
「シルヴィア。あんまりほめ過ぎないで。つけあがるから。それに私、放っておかれるから」
「…レア」
 微かに眉根を上げるマナウスの顔に、面白がるレアの瞳に、また笑顔が生まれ、弾ける。
「でも…さあ」
 ごくりと、杯を干したフレイアははあ、と息を吐き出しながら
「本当、いつか会いに行ってみたいものだねえ〜。あの子達に」
 ぽつんと呟いた。
 突然凪いだように場の空気が静まる。
「ええ…本当に…叶うなら顔を見に行きたいものですが」
 噛みしめる様な言葉は重く、深く彼らの心に落ちて行く。
「幸せになって欲しいよね…。あの子達には…」
 自らの血肉と魂を受け継ぎし、愛しき者達。
 彼らのいる場所は近いようで果てしなく遠い。
 お互いが、決して交わることの無い世界同士の住人である。
 このように彼らの事を語り、思う時間も実は奇跡のような夢であると彼らは知っている。
 けれど…
「そんな顔をするな。フレイア!」
「わっ!」
「あいつらはあいつらの世界で幸せにやっている。辛いこともあるだろうが、一人では無いのだ。
 我らの魂を受け継ぐ者達。不幸になどなろう筈がない! そんなこと解りきっているだろう?」
 フレイアを抱き寄せた満は手に持った盃を乾杯のように掲げ、自信満々の顔で笑う。
 友の顔を見回す。彼らの存在が、幸せな笑顔が満の言葉と、自信の根拠である。
「何だったら一度こちらから顔でも見に行くか? もしかしたら着く頃には曾孫の顔が見れるかも知れぬぞ」
 包み込むような暖かさを肩に、身体に感じながら
「まったく、簡単に言ってくれるよ…でも、そうできたらいいよね。皆で。その時は…大いにからかおうか」
 フレイアは鮮やかに笑う。
 まるで太陽のような笑顔に場の空気も一瞬で光を取り戻す。
「いいですね。以前パーシ様はお一人で行かれた事もあるそうですから…今度…」
 考え込むように言ったシルヴィアの背後から彼女を大きな手が包み込む。
「俺がどうかしたか?」
「! パーシ様? ご用事は終わられたのですか?」
「ああ。少し手間取ったがな。それで、何だ? 次元の扉の事か?」
「ええ、手紙だけではなく…いつか」
「パーシ。相変わらずラブラブだねえ。ごちそうさま」
「お前達には負けるさ」
 一人増えてさらに賑やかになった酒場で、
「…! 何?」
 ふとレアは自分の手に感じるぬくもりに顔を向ける。
「…どこにも、飛んでいくなよ」
「えっ?」
「俺はこの国を守る。全ては後の世の子らの為に…。それを見ていて欲しいからな。お前にも…皆にも…」
 顔をこちらに向けないまま告げるマナウスにレアはくすっと小さく笑んだ。
「行かないわよ。今の所は。不満もあんまりないしね」
「あんまり?」
 こちらに向いた顔があまりにも彼らしく
(…本当。器用なようで不器用なんだから。…そう言えばあの子もそうだったっけ)
 ふとレアはもう一人の孫を思い出しながら重ねられた手に祈る様な願う様な、思いを乗せる。
(私達の子供や孫も今の私達と同じ様に仲良く幸せに過ごしてくれますように…)
 と…。

「さて、一つ乾杯と行くか」
 宴はまだたけなわ。終わるには早いけれど
 満は自分の盃に酒を満たし、フレイアにも同じことをした。
 そして、妻の肩を抱いたまま盃を高く掲げる。
 仲間達もそれに続いた。
「これからを担う世代に……乾杯!」
「乾杯!」
 イギリスからの声はきっと遠すぎて彼らには届かないだろう。
 けれど
「…どうか、幸せでありますように…」
 心からの祈りはきっと届くと、彼らは信じていた。


 そう遠くない未来。
 友との永遠の別れが来るであろうことをマナウスは感じていた。
 時は移ろい、変わり、終わる。
 それは生命の摂理だ。
 けれど太陽のように鮮やかで鮮烈に生きた彼らは、それぞれに未来に繋がる種を残した。
「生まれ、生きて、生み残す。
 それが我々の力。生命という名の奇跡の力。…それを守って行く。
 この命、尽きるまで」
 終わりは、けれど終わりでは無い。
 未来に繋がる始まりでもあるのだ。
「ほら、マナウス! ぼんやりしてないでおいでよ!」
「ああ、今行く」
 キャメロットの奇縁。
 奇跡との出会いに感謝しながら彼らは生きていく。

 この『世界』で…終わらない物語を…。



登場人物一覧
フレイア・ヴォルフ(ea6557)
マナウス・ドラッケン(ea0021)
尾花 満(ea5322)
シルヴィア・クロスロード(eb3671)
クリステル・シャルダン(eb3862)
レア・クラウス(eb8226)
WTアナザーストーリーノベル -
夢村まどか クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2014年03月19日

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