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『いつも頑張りすぎておる君へ 』
木花咲耶jb6270

 この世界は不思議にあふれておる。
 勿論ここにも不思議はあるのぢゃ。

 二月のある日、璃世がある提案を咲耶にしてくれた。
バレンタインのサプライズプレゼントのことを。そして、月夜の晩だけ現れるお菓子屋があること、そこで売られている菓子や、その店で作った菓子には素敵な魔法がかかることを。 寒いが、澄んだ空気の中、月明かりの下でしか、その店は見えないんぢゃという噂を頼りに、街灯のない月夜の道を咲耶はお友達二人と三人で手を繋ぎ歩いておった。お友達というのは素敵な提案をしてくれた璃世と、その璃世を通じてのお友達のフェイリュア。一人より、二人。二人より三人。想いは何倍にもなって、君を勇気づけてくれるぢゃろう。
「そろそろ帰ろうか?」
 お月様がちょうど頭の上に来た頃、璃世がそう言った。
「嫌ぢゃ。せっかく璃世が提案してくれたんぢゃし、今日しか、チャンスはないんぢゃ。咲耶は大丈夫ぢゃ」
「フェイも大丈夫だよ」
 璃世はきっと、咲耶たちの身を案じたのぢゃろう。璃世は優しい上に気配り上手ぢゃからな。ぢゃが、咲耶は首を横に振った。共通した仲良しのお友達が落ち込んでいるのを知って一緒にチョコを作って励まそうと提案してくれたのを無駄にしたくなかった。それに、三人でこんなに遅くまで外出できるのは、チョコを渡そうと計画している日までぢゃと今日が最後ぢゃなと、カレンダーで出かける前に確認して、見つけるまで咲耶は帰らんと心に決めておったから。
 しかし、璃世の気持ちも無下にはできん。早く見つけんといかんのぅと思いながらみんなでうろうろ探していると、見慣れぬ可愛らしいお店をみつけたのぢゃ。
「のぅ。あんなところにお店あったぢゃろうか?」
 二人が咲耶の指の先に視線をやる。暗くてお店の名前は見えないがお月様が『SWEETS』の文字だけは照らしておったからお菓子屋なのはわかった。こんな時間までやってるならもしかしてと思うと胸が高鳴った。
 扉を開けるとそこは甘い香りに包まれておって、色とりどりのお菓子があったのぢゃ。
 外見よりも可愛いお店ぢゃったが、ここがそのお店ぢゃろうかと辺りを見回していると、奥からとしの頃は十といったところぢゃろうか、黒いワンピースの女の子が奥から出てきたのぢゃ。
「こんばんは。いらっしゃいませ。ここにあるのは魔法のかかった不思議なお菓子ばかり。あなた方の探し物はあるかしら」
「ここが、月夜にしか現れないっていう洋菓子屋さん?」
「ええ、そうよ」
 女の子の挨拶に璃世が訊いたら女の子はそう答えたのぢゃ。嬉しそうにやっぱりあったんぢゃとフェイリュアとそう言った。
 ちらりと璃世の方を見たら、すごく安心したような顔しておった。元々、雲を掴むような話ぢゃったし、璃世が一番不安ぢゃったのだろう。
「貴方達はチョコを作りに来たみたいね。こっちへどうぞ。あっ、手作りだからって普通のお菓子になるってわけじゃないから安心して」
 女の子は、咲耶たちが何をしに来たのかまるで知っておった様に、クスッと笑うとそう言って奥にある厨房に案内してくれたのぢゃ。ピカピカの厨房にはお店のオリジナルぢゃろうか。可愛いエプロンをした黒いワンピースの女の子と瓜二つの容姿をした白いワンピースを着た女の子が待っておった。
「いらっしゃいませ。ようこそいらっしゃいました」
 女の子は丁寧にお辞儀をして、私達にこれまた丁寧にたたまれたエプロンを渡してくれたのぢゃ。咲耶のは桜色。フェイのは空色。璃世のは薄い黄色。
 早速着てみると、サイズも色もあつらえた様に合っておった。まるで咲耶たちが来るのが分かっておったようぢゃ。
 何故って咲耶のエプロンの裾に桜の刺繍が入っておったから。色やサイズだけならわからんこともないが咲耶の好きな刺繍までしてあるなんて偶然ぢゃなかろう?
「ここは魔法の洋菓子店ですから」
 咲耶の疑問を察知したのか、白いワンピースの女の子がそう言ったが聞こえて顔を上げると、黒いワンピースの女の子も白いワンピースの女の子も優しく微笑んでおる。嫌な感じは全くせんかった。何から何まで不思議なお店ぢゃのう。
「お店に来た時、チョコの作り方、教えてもらいに来たのって言ってないのに、ここに案内してくれて、フェイたちのエプロンも、みんなぴったり。なぜ?」
 フェイリュアが首をかしげながら女の子達に訊ねておった。
「どうしてだと思う?」
 どんな回答が返ってくるのかと思って、やりとりを見ておると、まるで母親が子に、そうするように優しい声で黒いワンピースの女の子がフェイリュアに聞き返した。フェイリュアは一瞬びっくりしたようだったが、臆することなく口を開いておった。
「フェイは璃世に月明かりの下でしか見えないお店って聞いて、本とかに出てくる魔法使いのお店みたいだなって思ってたの。でも、魔法使いは良い魔法使いと悪い魔法使いがいるの。二人は良い魔法使いなの?悪い魔法使いなの?」
 女の子達の返事より先に聞こえたのは、璃世の声ぢゃった。
「悪い魔法使いは、こんなあったかいお店できないよ、ね?」
 咲耶は璃世らしい答えぢゃなと思いながら言葉を継ぐ。
「そうぢゃ。それに、噂通りぢゃったら、このお店の魔法は悪い魔法使いには使えん魔法ぢゃろ?」
 フェイは咲耶たちの顔を見てから、女の子たちの顔を見た。咲耶も視線をそっちやると、女の子たちはびっくりしたような顔をしていた。
「そっか。じゃあ良い魔法使いなんだ。よろしくね。良い魔法使いさん」
 納得したのかフェイリュアはそう言った。
「こちらこそよろしくお願いするわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 フェイリュアの言葉が嬉しかったんぢゃろう。それは頭を下げた二人の女の子の笑顔から感じ取れた。
「こちらを好きな形に切り取ってご自由にデコレーションなさってください。他にも使いたいものがございましたら仰って頂ければお出ししますので」
 そう言って、差し出されたのはいろいろな色の板状のチョコと、チョコペン。普通のお店にあるようなデコボコのある板チョコぢゃなく、綺麗に平らな本当に板状のチョコぢゃった。
 これが、出来上がったら魔法をかけてくれるらしい。みんなの望み通り、幸せな気持ちになるぢゃろう。
 さっそくみんなで作業開始ぢゃ。咲耶は初めてぢゃから、みんなのを見よう見まねで。時々二人の様子を覗いて、ついつい笑顔になる。作っておる方も幸せな気持ちになるんぢゃの。まるで、この厨房にも魔法がかかっておるようぢゃ。
「チョコは板状のものしかないのかの?」
 白い女の子にそう訊ねて、頭の中のイメージを伝えると、いい案ですね。とその女の子は微笑んで作り方を丁寧に教えてくれた。
 咲耶は桃色のチョコにしようかの。教わった通りにコロコロ丸めたビターチョコをピンクの可愛いイチゴチョコで包んで、手の上で転がして、一緒にみんなの笑顔も混ぜ込んで。ひとつだけに、チョコペンでネコの肉球のように描いておこう。
 全部出来たら、みんなの気持ちがいっぱい届きますようにってお願いしながら、リボンや箱を選んでラッピングぢゃな。
 三人で作ったんぢゃから三人のを一つの箱に入れてもらって、ラッピングしてもらうのぢゃ。 ラッピングは女の子達に任せたが、フェイリュアが選んで結んだ空色のリボンが映えるのう。
「じゃあ、魔法をかけるわね。今日は特別よ。お客さんの前でかけるのは初めてなんだから」
 黒いワンピースの女の子は口元に人差し指を持って行って、
「誰にも内緒にしてね」
 そう微笑んだ。
 そして、二人の女の子は手をつないで、ラッピングされた箱の前で、歌い始めた。二人の声は部屋中に反響して何人もで歌っているように聞こえた。
 歌詞の全部は変わらなかったんぢゃが、幸せを願う歌ぢゃということはわかった。ぢゃから咲耶も君が笑顔になりますようにと願いを込めた。
「お待たせ致しました」
「どうぞ」
 歌が終わり、目の前でチョコを紙袋に入れて女の子達がフェイリュアに渡しておった。
「出来たね」
 にっこり微笑んで帰ろうとした時、黒い女の子が小さな紙袋を三つもってきた。
「来店記念よ。気に入ってくれるといいんだけれど」
 紙袋の中を覗くと、今日使ったエプロンと同じエプロンが入っておった。開けていないから確証はないが、同じ色の布、そして、見覚えのある桜の刺繍。やはり、咲耶たちの為にあつらえたものぢゃったんぢゃな。
「いいの?」
「えぇ。大切な人の為に使って」
 そう言う璃世に穏やかな微笑みを浮かべる黒いワンピースの女の子。
「本日はお越しくださりありがとうございました」
 最初と同じように丁寧に頭を下げて、見送ってくれる白いワンピースの女の子。
 本当に最後まで不思議なお店ぢゃ。

 そしてチョコを渡す日。
 三人で作ったから、三人で渡そう。作った日の帰り道でそう約束して、時間も決めて、いつもの場所で待ち合わせたんぢゃが、時間通りに行ったら、二人共おって咲耶は最後になってしもうた。 早速行くのかのと思っておったら、フェイリュアがあの日ラッピングしてもらった箱を差し出して言ったんぢゃ。しかも、咲耶と璃世にそれぞれ。
「これ、二人にあげる」
「でも、これ……」
 璃世も驚いたような顔をしておった。それもそのはずぢゃった。あの日の箱は一つのはず。なんで同じ箱が二つもあるんぢゃ?しかも、あげるのは咲耶たちぢゃないはずぢゃ。璃世が咲耶の言葉を代弁して言ってくれた。にっこり笑顔でフェイリュアは教えてくれたんぢゃ。
「大丈夫だよ。これはあの日にこっそり二人の為につくったの」
「開けていい?」
 璃世の言葉に、フェイリュアが頷いたのを見て、咲耶も空色のリボンを解いて箱を開ける。そこには綺麗で可愛いチョコで出来た桜の花があったんぢゃ。心の奥の方から喜びと幸せな気持ちがこみ上げてきて、自然と満面の笑顔になった。
「すごく嬉しいよ……ありがと。綺麗で食べるのがもったいないな」
 璃世の方を見ると咲耶と同じ満面の幸せいっぱいな笑顔で璃世とフェイリュアが抱き合っておった。二人の方へ行こうとしたら、璃世が咲耶を呼んで、三人でぎゅっ。
「フェイちゃん、咲耶ちゃん大好き!」
 咲耶も、璃世とフェイリュアが大好きぢゃ。

 さあ、幸せな気持ちをいっぱい胸に抱えてみんなで手を繋いでチョコを届けに行こう。君が笑顔になりますようにと願いながら。でも、きっと大丈夫ぢゃ。空色のリボンを解いたら魔法で閉じ込めた願いも弾けて広がるからの。さっきの咲耶たちみたいに君もきっと幸せいっぱいの笑顔になるぢゃろう。
 璃世、誘ってくれてありがとうぢゃ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb6270 / 木花咲耶 / 女性 / 6歳 / 陰陽師】

【jb6126 / フェイリュア / 女性 / 14歳 / アカシックレコーダー:タイプB】

【ja8279 / 春名 璃世 / 女性 / 18歳 / ディバインナイト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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今回はご依頼ありがとうございました。
まず、お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

お友達の男の子を気遣う気持ちが伺えましたので、その男の子が笑顔になれるようにとの思いを込めて書かせていただきました。
少しでもご希望に沿った出来上がりになっていれば幸いです。
末永く、皆さんが仲良くいられますように。
不思議なノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月24日

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