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『いつも頑張っているきみへ 』
春名 璃世ja8279

 この世界は不思議にあふれてる。
 勿論ここにも不思議はある。

 2月の澄んだ空気の中、月夜の晩だけ現れる洋菓子店がある。その洋菓子店で売られているお菓子には、『相手を想う力が強ければ強いほど、お菓子が相手好みの味になって、相手が喜んでくれる』という魔法がかかっているらしい。そんな噂を聞いて、私は妹のような大親友、フェイちゃん、敬愛している2人目の大親友の咲耶ちゃんを誘って3人で月夜の道を歩いていた。
 噂では、月明かりの下でしかそのお店は見えないって聞いたから、街灯のない道を。
 夜も遅かったし、少し怖かったけれど大親友の2人と手をつないでいたから、独りじゃないって思えて、怖さも半分になった。
「そろそろ帰ろうか?」
 月がちょうど真上に来た頃、私がそう2人に聞いた。私はまだしも、2人をあんまり遅い時間まで連れ回すのは良くないって思ったから。
「嫌じゃ。せっかく璃世が提案してくれたんぢゃし、今日しか、チャンスはないんじゃ。咲耶は大丈夫ぢゃ」
「フェイも大丈夫だよ」
 私なんかより2人のほうが、しっかりしてた。そうだよね。親友のために3人で探そうって決めただもんね。
「のぅ。あんなところにお店あったぢゃろうか?」
咲耶ちゃんが指さした先には、『SWEETS』の文字。お店の名前も知らないけど、こんな時間にやってるならもしかしてって、半信半疑で扉を押した。
 そこは甘い香りに包まれていて、色とりどりのお菓子があって、確かにここがお菓子屋さんだって私達に教えてくれた。
 辺りを見回していると、奥から10歳くらいかな、黒いワンピースの女の子が出てきた。
「こんばんは。いらっしゃいませ。ここにあるのは魔法のかかった不思議なお菓子ばかり。あなた方の探し物はあるかしら」
 鈴のなるような声で女の子は言う。
「ここが、月夜にしか現れないっていう洋菓子屋さん?」
「ええ、そうよ」
 私の質問に女の子のそう返事をした。2人が喜びの声を上げる。私も内心ホッとしてた。本当に噂だけでなかったらどうしようって、ずっと思っていたから。
「貴方達はチョコを作りに来たみたいね。こっちへどうぞ。あっ、手作りだからって普通のお菓子になるってわけじゃないから安心して」
 女の子は、私たちが何をしに来たのかまるで知っていたみたいに、クスッと微笑みながらそう言って奥にある厨房に案内してくれた。ピカピカの厨房にはお店のオリジナルかな。可愛いエプロンをした黒いワンピースの女の子と同じ容姿の白いワンピースを着た女の子が待っていたの。
「いらっしゃいませ。ようこそいらっしゃいました」
 女の子は恭しく頭を下げてから、私達に丁寧にたたまれたエプロンを渡してくれた。私には薄い黄色。咲耶ちゃんには桜色。フェイちゃんには空色のエプロン。
 まるで私たちのために作ってあったみたいにサイズもぴったりで、私のエプロンの裾にはマーガレットの刺繍までしてあった。
 びっくりして女の子たちを見ると、
「ここは魔法の洋菓子店ですから」
 白いワンピースの女の子は私の心を見透かしたみたいにそう言って微笑んだ。黒いワンピースの女の子もニコニコと微笑んでいる。
 ここまで、何もかもお見通しだと逆に疑って警戒しちゃいそうだけど、何故か私は、目の前にいる二人の女の子の笑顔を信じることができた。咲耶ちゃんも、フェイちゃんも、きょとんとしてはいたけど、警戒しているようには見えなかった。
「お店に来た時、チョコの作り方、教えてもらいに来たのって言ってないのに、ここに案内してくれて、フェイたちのエプロンも、みんなぴったり。なぜ?」
 不思議そうにフェイちゃんが首をかしげて、みんなの思っている疑問を口にした。
「どうしてだと思う?」
 子供の『なぜ?』に一緒に答えを見つけようとするお母さんのように、黒いワンピースの女の子はそう聞き返した。
「フェイは璃世に月明かりの下でしか見えないお店って聞いて、本とかに出てくる魔法使いのお店みたいだなって思ってたの。でも、魔法使いは良い魔法使いと悪い魔法使いがいるの。2人は良い魔法使いなの?悪い魔法使いなの?」
 確かに、私も最初から『不思議なお店』に行くんだ。って思ってた。でも、フェイちゃんみたいな発想はしてなかった。だって……
 女の子達の口が開きそうになるのと、私が口を開いたのは同時くらいだった。
「悪い魔法使いは、こんなあったかいお店できないよ、ね?」
 私の言葉に女の子達が開きかけた口をそのままに、驚いたような顔していた。
 こんな甘い香りと、心があったかくなるような雰囲気のお店に悪い魔法使いがいるわけがない。
「そうじゃ。それに、噂通りぢゃったら、このお店の魔法は悪い魔法使いには使えん魔法じゃろ?」
「そっか。じゃあ良い魔法使いなんだ。よろしくね。良い魔法使いさん」
 フェイちゃんが、納得したようにそう言った。
「こちらこそよろしくお願いするわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 嬉しそうに、2人の女の子は笑って、頭を下げた。
「こちらを好きな形に切り取ってご自由にデコレーションなさってください。他にも使いたいものがございましたら仰って頂ければお出ししますので」
 そう言って、差し出されたのはいろいろな色のチョコレートの板と、チョコペン。板って言っても、板チョコじゃなくて、ちゃんと一度溶かしてから固めたもの。
 それぞれチョコペンと板を選んで、思い思いの形にするところからスタート。
 一生懸命白いワンピースの女の子に教わっている2人に自然と笑顔が零れた。こういうのっていいなぁって思って。なんだかすごく幸せなの。大切な人のことを大切な人達と一緒に思いながらなにかするのって、すごく温かくて幸せだなぁって思う。この気持ちもきっと素敵なエッセンスになるね。
 私も、2人に混ざって、白いワンピースの女の子に教わりながら、目の前のホワイトチョコに抹茶のチョコペンでニコニコ笑顔を書いた。メガネもかけて……ふふっ、そっくり。
 全部出来たら、この気持ちがいっぱい届きますようにってお願いしながら、リボンや箱を選んでラッピング。
 せっかくだからってみんなのを一つの箱に入れてもらって、代表でフェイちゃんが空色のリボンを結んで。
「じゃあ、魔法をかけるわね。今日は特別よ。お客さんの前でかけるのは初めてなんだから」
 黒いワンピースの女の子は口元に人差し指を持って行って、
「誰にも内緒にしてね」
 そう微笑む。
 そして、2人の女の子は手をつないで、ラッピングされたみんなの思いが詰まったチョコレートの箱を前に、歌い始めた。2人の声は部屋中に反響して何人もで歌っているように聞こえた。
 歌詞はわからなかったけど、歌の間ほんのりとチョコが温かい光で包まれていたのは、気のせいじゃないよね。歌が終わった時には光は消えていたけど。
「お待たせ致しました」
「どうぞ」
目の前でチョコを紙袋に入れて女の子達がフェイちゃんに渡してくれた。
「出来たね」
 にっこり微笑んで帰ろうとした時、黒い女の子が小さな紙袋を3つもってきた。
「来店記念よ。気に入ってくれるといいんだけれど」
 紙袋の中を覗くと、今日使ったエプロンと同じエプロンが入ってた。開けていないから確証はないけど、同じ色の布、そして、見覚えのあるマーガレットの刺繍。
「いいの?」
「えぇ。大切な人の為に使って」
 そう言って、微笑む黒いワンピースの女の子。
「本日はお越しくださりありがとうございました」
 最初と同じように恭しく頭を下げて、見送ってくれる白いワンピースの女の子。
 本当に何から何まで不思議なお店。そう思いながら、私達は温かい気持ちで歩いて帰った。夜明けまではまだ時間があったけど、もう、お店を見つけるまでの怖さは微塵もなくて、なんだか幸せな時間の余韻みたいなものが胸の中にいっぱいだった。

 そしてチョコを渡す日。
 3人で作ったから、3人で渡そう。そう言っていつもの場所で待っているとフェイちゃんがやってきた。少し遅れて咲耶ちゃんも。
 じゃあ行こうかって、口を開くより先にフェイちゃんが、
「これ、2人にあげる」
 そう言って私と、咲耶ちゃんに空色のリボンの箱を差し出した。そういえば、フェイちゃんはあのお店で、空色のリボンを選んでたね。
「でも、これ……」
「大丈夫だよ。これはあの日にこっそり二人の為につくったの」
「開けていい?」
 頷くフェイちゃんの前で、箱を開けると出てきたのはホワイトチョコで作ったマーガレットだった。感激と驚きで思わず声が出るくらい嬉しかった。
 フェイちゃんを抱きしめて、
「すごく嬉しいよ……ありがと。綺麗で食べるのがもったいないな」
 って笑ったらフェイちゃんも同じ顔になった。箱を開けてフェイちゃんと同じように幸せそうに笑っている咲耶ちゃんも呼んで3人でぎゅっ。こうするのは仲良しの証だから。咲耶ちゃんも……ね?
「フェイちゃん、咲耶ちゃん大好き!」

 さぁ。幸せな気持ちをいっぱい胸に抱えて3人で手を繋いでチョコを届けに行こう。彼がどんな顔をするかなってお喋りしながら。きっと照れくさそうな、でも嬉しさと幸せがいっぱいの今の私達みたいな笑顔……だね。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8279 / 春名 璃世 / 女性 / 18歳 / ディバインナイト】

【jb6126 / フェイリュア / 女性 / 14歳 / アカシックレコーダー:タイプB】

【jb6270 / 木花咲耶 / 女性 / 6歳 / 陰陽師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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今回はご依頼ありがとうございました。
まず、お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

皆様の仲の良さと幸せな雰囲気が伝わってきましたので、それが表現できていれば幸いです。
親友の男の子も、幸せな笑顔を見せてくれるといいですね。
末永く、皆さんが仲良くいられますように。
不思議なノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月24日

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