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『Sweet date 〜カルマ=B=ノア(バーリグ)編〜 』
カルマ=B=ノア(ic0001)

☆バレンタインデート
「師匠!」
「おっ、クレアちゃん。来てくれたんだ」
「一体どうしたんですか? いきなり『バレンタインデーにデートをしよう』なんて……。どこかで頭を打ったか、高熱でもあるのではないですか?」
 本気で心配しながら、クレアはバーリグの額に手を当てる。
 するとバーリグの笑みが固まった。
「……あのさ、俺だってたまには可愛い弟子を甘やかしたいわけよ。だから今日は師匠じゃなくて、一人の男としてのお誘いなんだ。ホラ、クレアちゃんも久し振りに俺と二人でどこかへ出掛けたいって言ってたでしょ? だから俺は普段あまり着ないスーツを着て、待ち合わせ場所に先に来てたんだから」
 そう言ってバーリグは胸を張り、スーツ姿を改めて見せる。
 しかしバーリグの全身を上から下まで見たクレアは、ますます不安そうな表情を浮かべた。
「師匠、こう言っては何ですが……まるで夜にお店で、女性を相手に接客をする男性にしか見えません」
「それってホストに見えるってことぉ!? 違うよ! スーツといえば、デートの正装でしょう?」
 アタフタと取り乱す姿は、本気でデート用のスーツを着てきたつもりであることを表す。
 ようやくバーリグの本気が伝わったのか、クレアは緊張を解いた。
「はあ……、分かりました。でも本来ならバレンタインデーは、女性から男性にチョコレートをあげる日なんですよね? 私、慌てて来たのでチョコレートを持ってこなかったんですけど……」
「一説はそうみたいだけどね。でも他の国では男性から女性に花束を贈る日らしいし、とにかく『男女が一緒に過ごす日』だってことでいいんじゃない?」
 真面目なクレアに対し、バーリグはあくまでも明るい。元々の目的が今日、クレアとデートをすることだったので、あまりバレンタインデーということにこだわっていないらしい。
 服装は変わっても中身は変わらないバーリグを見て、クレアはため息をつき、肩を竦める。
「相変わらず軽い考えですね。まあせっかく誘ってくださったことですし、今日は師匠に付き合います」
「ありがと。ところでクレアちゃん、俺がせっかくオシャレしてきたんだから、クレアちゃんも洋服に着替えなよ。その和服姿もステキだけどさ、洋服も似合うと思うよ?」
「でも洋服なんて、持ってきていませんよ?」
「じゃあ早速、洋服店に行こうか。どうせならジルベリア帝国の服にしてみない?」
 戸惑うクレアの肩に手を回し、バーリグは女性用の洋服店に向かう。


 ――そして三十分後。クレアは深紅の生地に黒いリボン付きのワンピースとケープを身にまとい、ヘッドドレスを頭につけて外に出た。ヒールの高い黒いブーツは履き慣れていないせいか、少し歩きにくそうだ。
「クレアちゃん、その服にして正解だったね。凄く良く似合っているよ!」
「あっありがとう、ございます……。なっ何かあまりこういう服を着ないせいか、緊張しますね。でも師匠、全額払ってもらってよかったんですか?」
「いーのいーの。今日はクレアちゃんをたっぷり甘やかすつもりで来たから、何でもワガママを言って、俺に甘えてちょうだい」
 クレアの新たな魅力的な姿を見て、すっかりバーリグは上機嫌になっている。
 しかしクレアは冷静に、人差し指を顎に当てて少し考えた。
「甘える……ですか。では今日一日だけ、師匠をバーリグさんって呼んでもいいですか? バレンタインデートなのに、流石に師匠と呼ぶのは味気ないですからね」
「おっ、分かってきたようだね。それじゃあ次は、クレアちゃんの欲しい物を買いに行こうか」
「それなら私、新しい簪が欲しいです。バーリグさん、私に似合うのを選んでくださいますか?」
「いいよん。でも俺から一つだけ、クレアちゃんにお願いしてもいいかな?」
「何ですか?」
 可愛らしく首を傾げるクレアに、バーリグは優しく微笑んで顔を寄せる。
「今日一日だけ、敬語は無しってことで」
「えっ!? でっでも……うん、分かったわ。それじゃあ私からもお願い、仲間のみんなにお土産を買ってくれる?」
「なっ仲間達にも、か……。うっうん、良いよ。それがクレアちゃんのお願いなら」
 少し口元を引きつらせながら、バーリグは腕を曲げてクレアに向けた。
「じゃあ行こうか」
「うん!」
 クレアは満面の笑顔を浮かべて、バーリグの腕に自分の腕を絡ませる。
 そして二人は、バレンタインで盛り上がっている街の中へ歩いて行った。


「うわぁ……! キレイね」
「だろ? この広場からは、夜空がよく見えるんだ。満天の星を見る為に、周囲の灯りもおさえられているしね」
 月と星が闇色の空に浮かぶ頃、バーリグとクレアは広場に来た。
 広場には大勢のカップルが集まっており、誰もが視線を夜空に向けている。冬の空には数え切れないほどの星があり、澄んだ空気のおかげではっきりと目に映っていた。
「秋の月ほどではないけれど、冬の月もキレイね」
「満足かい? おいちゃんだって、やればできるでしょ?」
 得意げな顔をするバーリグ。彼は今日一日、クレアを満足させるデートプランをしっかりと考え、立派に実行できたと思っている。
 だがクレアは複雑な表情で、首を傾げた。遠い目をしており、今までのバーリグの言動を思い返しているようだ。
「……まあ年に数回ぐらいは、素直にカッコいいと思う時があるわね」
「そんなに少ないのっ!?」
「でっでもちゃんと私に似合いそうな椿の花の簪を選んでくれたし、みんなへのお土産も買ってくれたしね。私のワガママをいっぱい聞いてくれて、嬉しかったわよ。それに美味しいスイーツを食べられるカフェにも連れて行ってくれたし……、美味しかったなぁ。あそこのチョコスイーツ」
 クレアは思い出して、うっとりする。
 バーリグがオススメだと言って連れて行ったカフェには、バレンタイン期間限定チョコスイーツがメニューにあり、クレアは喜んで全種類を頼んだ。
「クレアちゃんったら飲み物はホットチョコレートを頼んで、チョコパフェにチョコケーキ、チョコピザとチョコパイ、チョコタルトにチョコまんじゅうを一人でペロッと食べたね」
「だって美味しくて、つい夢中になっちゃったの」
 注文の品を前にしたクレアは青い瞳を輝かせながら、テーブルいっぱいに置かれたスイーツを一人で完食した。
 クレアの向かいに座っていたバーリグはコーヒーを飲みながら、そんな彼女を愛おしそうに見つめていた。
 しかしスイーツを完食した後、クレアは正気に戻ると慌ててバーリグに謝る。本当は頼んだスイーツを分け合って食べる予定だったのだが、結果はクレアが全て平らげてしまったからだ。
 でもバーリグは幸せそうにスイーツを食べるクレアを見ていただけで満足したから、と言って許した。……というのも普段は謝るのはバーリグの方なので、珍しく立場が逆転したことにちょっとだけ良い気分になったのだ。
 しばらく甘い思い出にひたっていたクレアだが、ふと懐かしそうに眼を細める。
「でもバーリグさんを『師匠』と呼んで一緒に過ごすなんて、出会った当初は思ってもいなかったわ」
「クレアちゃんとはじめて出会った時か……。もう何年前になるのかな? 俺もまさかナンパした女の子が、裏組織にいる俺の弟子になるなんて夢にも思わなかったよ」
 バーリグも当時のことを思い出しているのか、遠い目をしながら軽くため息を吐く。
「私もよ。あの頃の私はバーリグさんとはたまに会って、お茶をしながらゆっくりとお話をする――それだけだと思っていたわ。でも裏組織に入ったことを後悔はしていないのよ? だって私に生きる意味をくれたあなたと、ずっと一緒にいられるんだもの」
 迷いのない眩しい笑みを浮かべるクレアから、バーリグはそっと眼をそらす。
「あのさ、クレアちゃん。その……いや、何でもない。そろそろ寒くなってきたし、もう帰ろうか。あんまり遅くなると、風邪ひいちゃうよ」
「そうね。……あっ」
 バーリグは自然な動作で、クレアの手を握ってきた。
「家に帰るまでが、デートだからね」
「それを言うなら、『家に帰るまでが遠足』でしょう? ふふっ。でもバーリグさんの手、とても大きくてあたたかい……」
 クレアは優しく微笑み、バーリグの手に自分の指を絡ませる。
「バーリグさん、今日はありがとう」
「どういたしまして。またこんなふうにデートしてくれるかい?」
「ええ、いつでも」
 師匠と弟子ではなく、男性と女性としてのデートを二人は心ゆくまで楽しんだ。


★バーリグの思い
「ふう……。相手がクレアちゃんとはいえ、久し振りにデートらしいデートをしたせいか緊張したなぁ。……いや、相手がクレアちゃんだから、かな?」
 バーリグは寝る前に酒を飲みながら、今日のことを思い返す。
 財布の中身は二月の気温ほど寒くなったものの、クレアの笑顔は春のようなあたたかさがあった。
 だからこそあの時、言えなかった言葉がある。
「……昔ナンパした可愛い女の子が、今では両親を殺したアヤカシへの復讐を生きがいにして俺の側にいるとはね。……復讐なんて、むなしいもんさ。やり遂げたところで何も残らない。明るい未来なんて続かないんだ。だから俺はあの子には誰かを愛して、共に生きるという新たな目的を見つけてほしいと心から願っているのに……」
 あの時――、一緒に広場で星空を見ていた時にも、ずっと考えていた。
 復讐という暗い感情にとらわれたまま生きるのではなく、誰かを愛して輝く未来に向かって生きてほしい――と、何度も言おうとした口からは、何故か違う言葉ばかり出てきてしまったのだ。
「そりゃまあ今のクレアちゃんに言っても、聞き入れてはくれないだろうけどさ。家族として師匠として、言うべきことだろうに……。俺は何を怖がっているんだ?」
 復讐をやめろと言うのは簡単だ。そしてその後、クレアが泣きながら怒鳴りつける姿や、または嘲笑いながら聞き流す姿を思い浮かべることはできる。
 けれど最も恐ろしいと、バーリグが思っているのは……。
「……俺のもとから彼女が去っていくこと、か」
 険しい顔付きで呟いた途端、口の中に何とも言えない苦さが広がった。結局は何だかんだ言っても、彼女を側に置いておきたいという気持ちに嘘はつけないということ。
「はああ〜。ホント、俺ってばダメなおっさんだぁ。……もう、寝よ」
 最後に酒を飲み干してから、バーリグは布団の中に入る。目を閉じても浮かぶのはクレアの笑顔、しかしそれと同時に胸に痛みが走った。
「……どんな理由があっても、自分の近くにいてほしいだなんて……ワガママが過ぎるな」


【終わり】

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ic0001/カルマ=B=ノア(バーリグ)/男/36/エルフ】
【ic0002/カルマ=C=ノア(クレア)/女/19/人間】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびは依頼していただき、ありがとうございました(ペコリ)。
 『★』から個人ストーリーになっていますので、お二人分を合わせて読んでいただければと思います。
 今回は師匠と弟子ではなく、一組みのカップルとして甘酸っぱく書かせていただきました。
 ラブコメっぽくなりましたが、楽しく読んでくださると幸いです。
不思議なノベル -
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舵天照 -DTS-
2014年03月24日

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